【対談:後編】MaaSをバズワードで終わらせない。都市モデルをベースに考える国内MaaSのあり方

【対談:後編】MaaSをバズワードで終わらせない。都市モデルをベースに考える国内MaaSのあり方

元号が変わり、新たな時代の幕開けとともに加速し始めたMaaSへの取り組み。首都圏や地方など、各地で実証実験が行われたり、新たなサービスが生まれたりと、ユーザーの生活へ浸透する日もそう遠くはないかもしれません。

そこで今回は前編に引き続き、国内で率先してMaaSに取り組まれている、MaaS Tech Japanの日高洋祐(ひだかようすけ)様にインタビュー。都市部と地方でMaaSを推進するために重要な考え方についてお話しいただきました。

可能性は無限大。社会問題も解決へと導くMaaS

北川:「前編とは違う視点でMaaSを考えてみたいと思います。都市とは違い、地方×MaaSはどのような可能性を秘めているでしょうか?」

日高:「生活行動と密接なつながりが生まれるようなMaaSが有効だと考えています。地方では、人口減少に伴い従来型の商店街の閉鎖や免許返納などを理由に高齢者の買い物弱者が増えています。生活の買い回りや医療機関への通院などお出かけの足が課題となります。スーパーがあっても自宅からは離れているため、高齢の方ほど気軽に買い物へ行くことができません。たとえば、Aさんがジャガイモを買い忘れてスーパーへ行こうか迷っていたので、この機能を利用するとしましょう。そこで移動に関する情報とその生活ニーズの情報が紐づいていれば、その家庭の近くを宅配ルートとする何かしらのドライバーがそのまま届けてくれることも可能になります。自動車やドライバーのシェアリングだけでなく、移動目的自体の解消にもシェアリングの考え方は導入できます。そうするとAさんの往復の2トリップが省略されます。高齢者に負担をかけることなく日用品など必要なものが買えるよう、デイケアセンターに移動販売車を送っている地域もありますが、その販売車の売り上げは非常に良いと伺っています。こうした事実からもわかるように、移動デマンドと購買デマンドの両方がわかれば、買い物弱者に対する社会問題への解決策が見つかるかもしれません。スーパーはスーパーで売り上げも維持できますしね。誰が何を買うのか、移動スーパーはどこに行けばいいのか。それがデータをもとに最適化できれば、買い物弱者と呼ばれる方達は生活が不便だと思うこともなくなるでしょう。

なので、データは集めたら囲い込まず、データプラットフォームをもとに価値を出した方がいい。事業化のイメージもしやすくなりますしね。」

北川:「欲しいものを買うという観点では、物流で買い物をフォローするという考え方もありますが、各家庭に一軒一軒お届けにあがっていると、運用コストが膨大になってしまう。」

日高:「そうですね、便利な宅配サービスが過剰に拡大したサービスとして普及してしまうと逆に都市としての物流効率が悪くなってしまいます。モノを買う側と売る側のどちらの負担もかけないためには、ある程度移動と物流を集約させることが重要になってきます。集約するには、移動デマンドと購買デマンドを踏まえて施策を打ち、効果検証をしてフィードバックを得るという作業が必要です。人が移動してスーパーで買い物をしている間に、スーパーは移動してモノを売る。少子高齢化が急速に進む今、人口が少ない地域や高齢化した地域すべてに必要な手段となってくるでしょう。

MaaSで交通をより便利に変えていくことも重要なことですが、移動を変えるということはこうした社会問題解決の糸口にもつながっていくのです。」

都市という単位で考えるには

北川:「私たちスマートドライブは、移動の最終形態として『移動を移動でなくしたい』という考えを根底に持っており、移動の進化をデータで後押しています。日高さんは、移動と移動によって周辺の都市は今後どうなっていくと思われますか?」

日高:「私たちも移動社会の基盤を作るという考えを軸に置いています。少し前までは一家に一台、車があったので移動がしやすかったですし、ドライブそのものを楽しんでいました。しかし、今は時代の流れとともに、人々のライフスタイルや車のあり方も変わりつつある変換期にいます。車との付き合い方が変化を遂げる時代の中で、私たちが企業として目標としているのは、移動の(MaaS)レベルを一段階でも引き上げることです。

これまで、一つの場所に人口が集まり、そこから鉄道のレールが轢かれ、駅が設置され、商業施設が整い、街が活性化してきました。反対に今、人口が減っていくからといって施設を縮小しよう、移動販売を増やそうとダウンサイジングをするのではなく、“ダウンサイジングをできる状態”へ持っていくにはどうすれば良いかを考えなくてはなりません。眼の前で人口が減っているという事実があっても、もしかしたら数年後には急激に人口が増えるかもしれない。目指しているのは、どのような人口の変動にも早急かつ柔軟に対応できる状態を作ることです。

どのような方向性で対応すべきかを考えるのはその都市の交通事業者や地域の首長さんたちですが、そもそも今はベースとなるソリューションがありません。そこで私たちがまず目指すのが、都市が大きくなったり小さくなったりして人の生活スタイルが変わっても、移動サービス提供者が適応できる状態にすることです。ソリューション部分をカバーできれば、次の領域に進むことができるからです。ユーザーと複数の交通事業者と、その周辺にいる関係者がつながりやすい状態を作るには、システムの構築も事業の作り方のスキームも、どちらも大事な要素です。

これは、饗庭伸さんの著書、『都市をたたむ 人口減少時代をデザインする都市計画の考え方』にも書かれていて非常に共感した考え方なのですが、都市って、人口によって規模が大きくなったり小さくなったりするじゃないですか。ただ、それを大きい・小さいの議論ではなく、たたむか広げるかという視点で考えていくことが大事だなと。ここで言う”広げる”は、エリアを広げるという意味ではなく、需給ニーズに合わせて拡大したり縮小したりするということです。

目の前に、一枚の風呂敷があると想像してください。人口が増え、拡大している時は風呂敷を広げる、縮小している時は小さく折りたたむのです。単純に不要な部分を切り取って捨てるのではありません、たためばいいだけです。そうすれば、再び人口が増えたときも風呂敷をサッと広げて拡大できる。こういう概念をベースに、自動車はどのように組み込んで行けばいいかを考えるのです。つまり、現人口に合わせた最適な車両台数にするのではなく、人口減少によって発生した余剰車両は別の輸送手段に活用するなど、別の方法で利用していつでも広げられるよう待機しておく。そうやって、たたむ・広げるがコストをかけずにできるようになると、来年開催されるオリンピックやパラリンピックなどの大規模イベントがあっても問題なく対応できることでしょう。その抽象的な概念をどうテクノロジーとステークホルダー間のアライアンスで実現するかということだと思います。

公共交通と事業用車両を問わず、利用方法や台数を固定せずに状態や状況によってたたんだり、広げたりが臨機応変にできれば、今後、インバウンドの増減があってもすぐに対策できます。少子高齢化による人口減少やインバウンド対策など、課題は多方面に広がっていますが、トータルで見て都市モデルのあり方を決めていくべきではないでしょうか。いわゆるSaaSモデルのようなイメージで都市のインフラ機能に増減を当てはめて考えられると、スマートシティの土台となってくるかもしれません。将来に向けてそのような絵図を描きながら、その中で移動をどう定義するかを考えていきたいですね。」

つながりの連鎖でMaaSを推進する

北川:「さまざまなものをつなげてデータ化したり、可視化したりする部分は私たちスマートドライブが得意なことですし、対応すべき領域です。そして、それを実現してサービス化していくところをMaaS Tech Japan社とともに考えていければと思います。」

日高:「多少、方向性や扱う領域が異なっていたとしても、抽象的な概念を共有してくれる人、将来的に目指す未来が同じ企業が多ければ多いほど、理想の形へと近づいていきます。私もスマートドライブさんの先進的な取り組みは参考にさせてもらっています。」

北川:「私たちもそう信じています。最後になりますが、スマートドライブへ期待することや希望、要望は何かございますか?」

日高:「スマートドライブ社が非常に価値のあることをやってらっしゃることは業界内では周知されていますが、業界外ではなかなか伝わりにくいのかなと。移動データの活用によって事故を減らし、結果として安全運転が広がり保険料も安くなる。これってヒトにも企業にも環境にも優しいことですよね。

ですので、たとえばスマートドライブ社のソリューションでできることを、他の業界に置き換えたときにこんな可能性があるということをもっとわかりやすく伝えることができれば、より視野の広いモデルで事業展開ができるのではないでしょうか。スタートアップもそうですし、民間企業の新規事業開発にもすごく響くと思うんです。そうして広がっていけばいくほど、サービスやビジョンに共感した人たちやサービス連携したい企業が自然と集まってきます。そういう流れができるとMaaSも急進しますし、海外にも『日本のモビリティ社会はとても魅力的でしょう』と胸を張って伝えることができるはず。ガラパゴスではなく、日本らしさを重視するというか、SaaSモデルを踏まえたうえで人々の生活を作っていければいいですよね。あとは鉄道やバスとの接点を持てるとさらに世界が広がっていくのではないでしょうか。」

北川:「ありがとうございます。業界の枠を超えてつながりが連鎖し、さらなる可能性を広げていければと思います。」

日高:「スマートドライブの“ドライブ”が何を意味するのか−− それは論点でもコア事業でもあるけれど、その先にあるのはドライブの最適化ではありませんよね。コーポレートビジョンにも記載されていますが、『移動の進化を後押しする』ということこそが、スマートドライブの核心部になっている。」

北川:「スマートドライブは直訳だと『かしこい運転』ですが、目指しているのは、『世の中を、かしこくドライブしていこう(=前に進めていこう)』という世界です。じゃあ、どういうドライブをしていくべきなのか、それを今後わかりやすく、しっかりと伝えていきます。ありがとうございました!」

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