MaaSへのチャレンジ −地域交通課題との向き合い方−

MaaSへのチャレンジ −地域交通課題との向き合い方−

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福田 真
広告・法人事業本部 プラットフォーム事業開発室 ビジネスデザインチーム
LINE株式会社

今年の春、LINEと日本マイクロソフトがMicrosoft Azureのパートナーと共に全国の地域の課題を解決するために、MaaSの共同プロジェクトを立ち上げました。そこで8月、両社より、地域交通の課題や地域活性をテーマに、具体的なMaaSの事例を示しながら重要なポイントを解説いただくセミナーを実施。

このレポートでは、LINE株式会社様にLINEを活用したプロジェクトの進め方についてお話いただきました。

LINEのご紹介

私は現在、LINEのAPIを活用した事業開発を担当しております。当社は今年の5月より、日本マイクロソフト様のご支援のもと、MaaSにチャレンジする共同プロジェクトをスタートさせました。本講演ではLINEが考えるMaaS、そしてLINEを活用した事例についてご紹介させていただきます。

まずは簡単に当社の紹介から始めさせてください。当社は、コミュニケーションアプリであるLINEの提供を開始してから、今年で10周年を迎えました。日々、多くの方にご利用いただけていることに、改めて感謝を申し上げます。日本国内の月間アクティブユーザー数は人口の約70%にあたる8,900万人(2021年6月末日時点)で、年齢やエリア、職業を問わず、多くの方にご利用いただいております。日本国内の「生活インフラ」として定着していることから、多くの企業様、自治体様でもご活用いただけるシーンが増えてきました。その中心が、事業者様がユーザーと1 to 1でコミュニケーションを取ることができるLINE公式アカウントです。

LINE公式アカウントは単体でもご利用いただけますが、さらに当社がオープンに公開しているLINEのAPIをご活用いただくことで、事業者様がお持ちの顧客管理システムや予約管理システム等と連携し、ユーザーに対してより最適なコミュニケーションを実現することができます。

直近では、ユーザーが24時間365日、LINEのプラットフォーム上で生活できるという世界観を表した「Life on LINE」をビジョンに掲げ、MaaSへの取り組みも、このビジョンを念頭に置きながら進めているところです。

LINEから見たMaaS

LINEのサービスが誕生したきっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災です。当時はまだ、LINEは存在しておらず、携帯電話でも連絡が取りにくい状況が続き、多くの人々が不安な思いをされました。この経験をきっかけに、身近にいる大切な方との絆を強くするコミュニケーション手段が必要だと、LINEをリリースしたのです。

このような背景があり、企業ミッションに「CLOSING THE DISTANCE」を掲げて、人と人、人とサービス、人と情報との距離を近づける多様なサービスを展開しています。これは現在も変わりません。

一方、世の中は、この10年で大きく様変わりしました。リアルとデジタルの垣根がどんどんなくなってゆき、企業が成長するためにはユーザーとのデジタル接点を増やしていくことが必須条件になってきていると感じます。このような変化の激しい環境下において、当社はDXのリーディングカンパニーになるべく、あらゆる業界でチャレンジを続けています。その中で、MaaSはオフライン領域のDXの要であると捉えています。

私自身もそうですが、みなさまも今回のコロナ禍を通じて、移動の制限をより強く感じたのではないでしょうか。とくに実生活に直結する交通課題や社会課題については、もう目を背けることができなくなっている状況まできていると強く感じます。先日令和3年度のスマートモビリティチャレンジの選定結果が公表されたように、今まさに日本版MaaSの取り組みは進みつつありますし各地で精力的に実証実験が行われています。ただ、ここからは本当の意味で、ユーザーの日々の暮らしを支えるサービスにしていけるかが重要なテーマになっていくでしょう。

MaaSの領域においてLINEが提供できる価値は、ユーザーとMaaSの距離を一気に近づけることです。ここで、一例をご紹介します。当社は、昨夏に「LINEミニアプリ」という新しいサービスをリリースしました。これはLINE上で動作する、ウェブアプリケーションプラットフォームです。ユーザーが新しいアプリのダウンロードや面倒な登録手続きを行うことなく、クイックに事業者様のサービスに辿りつけるため、利用のハードルを大幅に下げるという大きなメリットがあります。会員証やモバイルオーダーなど、オンライン以外のリアルなシーンでも多くの企業様に採用いただくなど、オフラインのDXを進めるために必要なソリューションの基盤となっています。

さて、突然ですが、右の空欄に入る言葉はなんだと思いますか?そうです、「ユーザー・エクスペリエンス、つまり顧客体験です。

一方で、MaaSの領域に関しては、各事業者様がそれぞれに独自のUIを構築しているため、いわゆるユニーク・エクスペリエンスになっているのではないかと感じています。旅先に行って、その土地で利用するために新しいアプリをインストールしたけど、いつもと使い勝手が違うので戸惑った、そんな経験はありませんか。利用開始までに時間や手間がかかってしまうと、「せっかくダウンロードしたけど、登録とか面倒だし使うのをやめようかな」とサービスから離脱する可能性が高くなる恐れもあります。

私たちLINEが考えるUXとは、「ユニバーサル・エクスペリエンス」、つまり、誰にとってもわかりやすい体験であることです。MaaSはオフラインの領域になりますので、ユーザーがリアルな空間でサービスに触れ合うといった機会が増えますが、その際に、摩擦が起きない状態でなおかつ、使い方を学ぶ必要がない体験を提供していくことが利用継続のカギになると考えています。そういった面でも、私たちがご支援できることはまだまだ多くあるのではないかと思うのです。

これらを踏まえて、私たちがMaaSへチャレンジするにあたり、次のスローガンを掲げました。それが「身近で簡単」。MaaSはまだ、ユーザーから特別なものだと認識されています。それを日々の暮らしを支える身近で簡単なサービス、オーダーメイドな移動体験へと変えていきたい。それに加え、私たちはユーザー視点に立ち、自社および皆様の取り組みをワクワクする体験へと変えていく、Beyond MaaSとしての取り組みを増やしていきたいと考えています。

こうした思いを形にするために、今年の5月にMaaSの共同プロジェクトを開始しました。私たちの考え方にご賛同くださったMicrosoft Azureの開発パートナー4社様に参画いただき、各地域の企業様、自治体様の取り組みを支援していくプロジェクトです。

重要なのは、私たちはあくまで黒子として後方支援を行っていく立場であり、主体は各地域の企業様、自治体様だということです。本プロジェクトの始動からおよそ3カ月、すでに多くの事業者様と取り組みを進めています。

LINEを活用した様々な移動サービス

ここからは実際にLINEを活用したMaaSの事例をご紹介させていただきます。

MaaSの共同プロジェクトから生まれた先行事例については日本マイクロソフト様よりご紹介いただきますので、こちらもお楽しみください。私からは、プロジェクト開始前からお取組みが進んでいる事例も交えてお話できればと思います。

東急様の事例〜LINEを活用したDX~

まずは、東急様のDX事例です。東急様はご存知の通り、渋谷を中心とした沿線のまちづくりを行っている企業です。多様な事業を展開されている東急様においても、新型コロナウイルス感染症拡大の影響は大きく、次の時代に向けたサービスのデジタル化をスピーディに進められています。現在、多くのサービスでLINEをご活用いただいていますが、本日はMaaSのお取組みに絞ってご紹介させていただきます。

DENTOは、東急田園都市線を利用するビジネスパーソン向けのサービスです。今年の1月半ばからゴールデンウイーク前までの約3ヵ月半、実証実験が行われました。定期券を保有するユーザーに対して、プラスαの付加価値を提供していくというもので、三密回避の通勤シャトルバス、近隣施設をワーキングスペースの利用、沿線の商業施設のクーポン配信など様々なサービスが提供されました。

また、今回のお取組みでは、東急様が独自に開発するネイティブアプリではなく、BOT形式で情報配信したり(左図)、各コンテンツを少しリッチに表示したり(右図)するなど、ユーザーがすべての機能をLINE上で利用できるように実装いただきました。

2回目の緊急事態宣言と重なる厳しい状況下での実証実験となりましたが、結果としては友だち数が約1万8,000人と、多くのユーザーから支持を得ることになりました。当社から見ても、ユーザーが利用するハードルをグッと下げ、身近に感じてもらえたことが成功へとつながったのではないかと考えております。

これらの実績は東急様のサイトでも細かく公表をされており、ユーザーの行動変容も一定確認できたと伺っております。改善点やチャレンジポイントはまだ多くあられるとは思いますが、間違いなく言えるのは、LINEを通じて、ユーザーの生の声が、着実に東急様のノウハウとして蓄積されているということです。

また、東急様は事業ごとにLINEを活用せず、グループを横断したデータベースの連携を構想されています。これは、非常に重要な考え方で、LINEをうまく活用しながら長年の課題であった横軸の連携を実現していくことで、東急様独自の経済圏を作り上げることが可能になります。

事業様が取り組まれているMaaSが今後、横に広がり、広く普及されていく中で、一人ひとりのユーザーをと捉えるという観点でも参考になる事例ですので、一つ目にご紹介させていただきました。

mobby様の事例〜電動キックボード〜

mobby様は、福岡市を中心に安心・安全な電動キックボードの普及拡大に取り組まれている企業です。

LINEの公式アカウントで友だちになり、利用登録をいただければ、電動キックボード「mobby」を簡単に借りたり、返したりできます。利用方法は、車体にあるQRコードを読み取り、施錠を解除するだけ。普段から利用しているLINEで簡単に使える点をユーザーに高く評価いただき、mobbyのサービスUX向上に大きくお役立ていただけたのではないかと思っております。

mobby様はサービスの提供だけでなく、小型モビリティのシェアリング業界でもリーダーシップを発揮し、法改正の議論も含めて、小型モビリティが広がるきっかけ作りに尽力されています。たとえば、ユーザーがエリア内を適切に走行できているかどうか、エリアをオーバーした際はリアルタイムでLINEに通知を送るなど、安心・安全なUXの実現にも注力されているのです。私たちもこのような新しいサービスを世の中に普及させていく手段としてLINEをうまくご活用いただければと思っております。

BODLY様の事例〜自動運転バス〜

最後に、BOLDLY様の自動運転バスについてご紹介させてください。ソフトバンクグループのBOLDLY様は、地域に自動運転バスを走らせることで、ドライバー不足、廃止路線の増加、バス会社の赤字、買い物弱者の増加など、地域課題の解決に取り組まれています。

現在、茨城県境町様とBOLDLY様が、公道で自動運転バスを走らせるという実証実験を行っています。開始からおよそ8ヵ月間の安定運行が確認できたため、今後、走る経路を拡大される予定です。そこに併せて、オンデマンド運行の予約を開始されるのですが、そのUIにLINEをご活用いただくことになりました。

「日本初!! LINEで自動運転バスが呼べる町が誕生」という、非常にキャッチなフレーズで、「自動運転はまだまだ先の話しでしょう」とお考えのユーザーとの距離がLINEを通じて近づくような、そんなお取り組みになればと考えております。

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ここまで具体的な事例をいくつかご紹介させていただきましたが、「私たちのまちで具体的な検討をするにはどのように進めれば良いのか」と頭を悩ませている方も少なくはないはずです。そこで最後に解決策として、当社のLINE API Use Caseについてご紹介させていただきます。

LINE API Use Caseとは

LINE API Use Caseのサイトでは、私たちがオープンに公開しているLINEのAPIを具体的にどのように活用いただけるのか、実際のUSE CASEを豊富に紹介しつつ、わかりやすく説明しています。MaaSについては現在、二つのデモを公開しており、お手元のスマホから体験いただけるようになっていますので、ぜひ参照ください。

上図は、「駅すぱあと」などを展開されているヴァル研究所様と共同で開発させていただいた「イベント×MaaS」のデモです。花火大会のチケット予約と、最寄り駅から会場までのオンデマンドバスの予約をLINEを活用して一気通貫で実施できるというもので、今後はこのようなBeyond MaaSのケースもあり得るだろうと作成しました。

デモだけではなく、開発にあたってどのようなシステム構成が必要か、どのようにすればこのようなサービスが実現できるかなど、具体的な打ち手を示すために事業者様とともにオープンに情報を公開していきますので、是非ご活用いただけますと幸いです。

今後の展開

LINEにとって、MaaSはチャレンジです。ですから、まずはみなさまと一緒に具体的な取り組み事例をどんどん作り、ステークホルダーの方々とつながり、みんなで足並みをそろえて身近なMaaSの社会実装に取り組みたいです。並行して、LINEが考えるBeyond MaaSの事例も発信を続け、みなさまの叩き台となる環境を示していければと。

ユーザーに日々の暮らしを支える移動体験を届ける手段としてLINEをご活用いただけるのは大変光栄なことですし、みなさまと並走してMaaSを前進させることを願っています。ぜひ、今後ともLINEのチャレンジにご期待ください。ありがとうございました。

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