CASEの「S」〜シェアリング・サービスはコロナ禍の前後でどう変わるのか?

CASEの「S」〜シェアリング・サービスはコロナ禍の前後でどう変わるのか?

多様化する時代と人のニーズとともに、急激に変わりゆく自動車産業。近年では新たな自動車業界のキーワードとしてCASEを軸に新たなサービスが発展を遂げようとしています。すでに何度かご紹介していますが、CASEとは「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Share & Services(シェアリングとサービス)」「Electric(電動化)」の頭文字を取ったもの。中でもShare & Servicesは数年前から一気にサービスが拡大し、今では全国で利用できるサービスとして幅広い世代に認識されています。

今回はこの「Share & Services(シェアリングとサービス)」に焦点を当て、今後、自動車と人との付き合い方がどのように変化するのかを考察しました。

国内のカーシェアリングサービス、誕生は30年以上も前だった

長い歴史で見ると、カーシェアリングの発祥はスイス。1940年代、高額な資産である自動車を個人で保有することが難しく、それを解決する施策として、チューリッヒ市にセファージという協同組合を設立。同じ地域に住む人複数人が1台の自動車を購入し、共同保有する仕組みが構築されました。これがカーシェアリングの起源だと言われています。第二次世界大戦後はヨーロッパでも経済が回復・発展を遂げ、市民がマイカーを所有できる経済力がついたことで、カーシェアリングが少しずつ姿を消していきます。

しかし1997年ごろになると、環境を守り、無駄をなくすというエネルギー対策を目的に、スイスは国を掲げてカーシェアリング事業に参入し、市民へ利用を促します。このような国の全面的な協力で、スイスでは再びカーシェアリングの人気が再燃し、現在においても利用率が高い状態が続いています。また、そのほかのヨーロッパ各国においても1980年代よりカーシェアリングサービスが浸透します。EUが環境プロジェクトの一環として取り組んでいることも後押し、右肩上がりに普及が進んでいきました。

日本で初めてカーシェアリングのサービスを始めたのは株式会社シーズで、1988年のことです。当時は外国車専門のカーシェア事業として話題になりましたが、同社は1990年に他社へ事業を譲渡するとともにサービスも姿を潜めてしまいます。その後、日本国内では普及しないままでしたが、2010年代に入り、短期間で急激なシェアを獲得。クルマ離れ、公共交通機関の発達、購入や維持費による高額なコストなどを理由に、「使いたい時に使いたいだけ利用できる」というコンセプトが若い世代を中心にヒット。インターネット上で簡単な手続きと登録を完了すれば、キャッシュレスで出張時に、旅行先に、買い物に、自動車を利用したい時に安価で利用できる手軽さが普及を加速させました。

カーシェアリングは本当に得するのか

大手コンサルティング会社のデロイトトーマツは、年間の走行距離に応じてどの交通手段が低コストになるのか、試算を出していますが、そこでは年間の移動距離が1,000kmの場合はライドアシェアが、1,000km〜12,000kmであればカーシェアが、年間12,000km以上走行する場合は個人で所有するのが一番経済的であると述べています。日常的に自動車で移動をする人なら所有していた方が低コストになるかもしれませんが、都心部は電車・バス・タクシー、シェアサイクルなど細部に渡り交通網が整備されているので、所有をしなくても普段の移動には事欠かないという人は多いかもしれません。

また、同社が発表している別の予測では、カーシェアリングがさらに普及することで自動車の保有台数が最大53%減少する可能性があると示しています。世界の自動車保有台数はおよそ13億台でそのうち乗用車は75%の10億台です。しかし実際には、個人が所有する自動車の稼働率は世界的に見てもおよそ1割だと言われており、9割は自宅や近辺の駐車場で眠ったままなのです。

カーシェアリングサービスは、コストと手間暇をかけて所有せずとも手軽で安価に移動する一つの手段として利便性の高い移動手段になり得ますし、CO2の排出量が削減できるという大きなメリットも。昨今、政府も率先して推進している温室効果ガスの削減にも寄与するため、国内でもカーシェアの需要が拡大していくかもしれません。

コロナウイルスの感染拡大で“シェア”は遠ざかった?

公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団によると、全国におけるカーシェアリングサービス会員数の総計は、2010年に約1.6万人だったのに対し、2018年3月には132.1万人にまで伸びています。しかしながら、この普及状況には地域の格差が大きく、全国1万1,793カ所あるステーションのうち(2018年)、39.2%が東京、15.6%が大阪、10.2%が神奈川、6.0%が愛知県など、8割近くを都心部が占めています。地方部では自動車が日常的な移動手段になっていることも多く、普及しているとは言い難い状態かもしれません。

たとえば「夜が更けて子どもの体調が悪くなったので、すぐに病院へ連れて行きたい」と思って今すぐにでも自動車を利用したい場合、カーシェアリングだとまず、近くのステーションで利用可能な自動車を探す必要があります。この時、自宅から離れた場所に設置されていれば、サービスを利用することなく、タクシーが選択される可能性が高まります。ステーションの設置場所は、カーシェアリングサービスの中でも最も重要な要素であり、利用率を上げる重大なポイントだと言えるでしょう。

日本国内で急成長したカーシェアリングサービスですが、2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの感染拡大で、外出自粛により移動の機会が大幅に削減されたこと、感染リスクの不安からシェアリングサービスに不安が感じられていることなどにより、一時的に大きな打撃を受けました。しかし、2020年後半から、少しずつ回復しつつあるようです。

レンタカーは対面で受付を済ませる必要がある上、利用時間も2時間から、3時間からなど、ある程度決められていることがあり、旅行先などではニーズが高いものの、短時間で“ちょっと”利用したい時には不向きです。しかし一方で、カーシェアリングは自宅で登録を済ませ、安いものだと15分200円台から非対面で利用可能です。子どものお迎え、通院時に、荷物が多い日の買い物など、人が密集する交通機関を使用することなく、安心して快適に移動ができるという安心感に着目され、再び利用者が増加しているのです。

実際に、コロナ渦ではマイカー通勤を推奨する企業も増え、カーシェアリングサービスを提供する企業でも通勤で利用できるお得なプランが提供されるように。利用者のニーズに迅速かつ柔軟に合わせたプラン提供がコロナ禍を乗り切っています。

カーシェアリングサービスのこれから

近年、国内でも環境意識が高まり、昨年末に政府も2030年代半ばにはガソリン車の販売を禁止する方向へという案を打ち出しました。一般的な自動車を利用すると、一人あたりが1k移動するごとに133gのCO2を排出するのに対し、鉄道は18g、バスは54g。深刻な環境問題への意識は海外のみならず、日本国内でも年々高まりを見せ、今後はカーシェアリングにおいても電動自動車が一般化すると考えられます。

利用者も「環境に優しい」移動手段の一つとして所有ではなくシェアを選ぶようになり、一人ひとりがライフスタイルに合わせた適切な移動方法を選択していく時代に向けて、カーシェアリングサービスもさらに進化を遂げていくことでしょう。

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