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レガシーマーケットイノベーションを実現するために必要なこと -前編-

レガシーマーケットイノベーションを実現するために必要なこと -前編-

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大里 紀雄
マーケティング部 部長
株式会社スマートドライブ
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望田 竜太
代表取締役社長
株式会社東集
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永井 俊輔
代表取締役社長 CEO
クレストホールディングス株式会社

「市場を変えろ -既存産業で奇跡を起こす経営戦略-」という書籍をご存知の方でしょうか?
こちらは、“レガシー産業”と呼ばれる既存産業・成熟企業がイノベーションを起こすために必要な戦略や実践、つまり「レガシーマーケットイノベーション(以下、LMI)」について述べられた書籍です。

本日は、この本の著者であるクレストホールディングス株式会社の永井俊輔さまと、LMIを実践されている株式会東集の望田竜太さまにお越しいただきました。前編では、お二人から各社の事業内容とLMIの概念、そして実践の軌跡について講演いただき、後編ではスマートドライブの事業紹介とLMIについてのパネルディスカッションを行いました。

「市場を変えろ」の著者本人がレガシーマーケットイノベーションを解説

永井:みなさまはじめまして、クレストホールディングスの永井です。まずは私の経歴から簡単に紹介させていただきます。本日、一緒に登壇している望田とは同じ高校の仲間で、3年生のときに彼と「日本のレガシー産業に変革を起こす」ことを誓い合ったほどの仲です。私も望田も新卒でバイアウトファンドに在籍し、買収した企業を成長させて売却するM&AやPMIに携わった経験を持っています。

この経験を通して、“古き良き企業が自分たちの力でイノベーションを遂げていく”のは決して簡単なことではないと肌で感じ、その変革の道を自ら辿っていくことを決意しました。そうして誕生したのがクレストホールディングスです。著書でも、レガシー産業が自分たちでイノベーションを遂げるためのプロセス、どのようなことを考えて実行していくべきかについて多く触れています。未読の方はこれを機に、ぜひご一読ください。

次に、クレストホールディングスという企業グループについて紹介させていただきます。

株式会社クレスト

クレストは群馬県に拠点を置く看板工事会社です。材料を仕入れて看板を製造する工場として始まり、二代目社長として会社を継ぐことになったのが、私のレガシーマーケットイノベーションの始まりでした。

私はまず、成長性とシェアの拡大に取り組み、現在では年間約700社、累積で4,000社以上のお客様に恵まれています。街中で見かける看板やショーウィンドウ・ディスプレイなどを年間およそ5万店舗に設営したり、納品したりするなどして、シェアを獲得しています。

さらには、自らイノベーションを生んでいくためにリテール事業を立ち上げました。カメラという新しい技術を取り入れ、店舗の前を通った人数、看板をみた人数などを計測し、顧客の関心度を可視化するテクノロジーを開発しています。

株式会社東集

昨年9月にクレストホールディングに参画した東集は、64年前に設立された木材卸売会社です。詳細については、次のパートで望田から説明させていただきます。

株式会社インナチュラル
株式会社ドラミートウキョウ

インナチュラルはリアル店舗で植物を販売している小売店で、現在は関東近郊に9店舗ほど構えています。ドラミートウキョウは、レガシー産業で既存のビジネスを成長させ、イノベーションをもたらすことを目的としたデザイン会社です。

これら4つの事業会社を100%子会社として持っているのがクレストホールディングスです。レガシー企業が自らイノベーション事業を進めたほうがスピードも早く、合理的ではないか。それが、私たちが考えるLMIの基本概念です。

レガシーマーケットイノベーション(LMI)の基本概念

書籍でも述べましたが、LMIの基本概念の根幹にあるのが、既存事業の生産性を向上させ、高度化産業に発展させることです。世の中にはあらゆるレガシー産業が存在しますが、そのほとんどが斜陽産業と言われています。つまり、3年後、5年後の市場の成長性を見出しにくいのがレガシー産業なのです。

収益面においても競合プレイヤーが多く、完全競争市場であるため、収益性を大幅に上昇させることができない。このような既存産業を、DXによって生産性を向上させ、既存ビジネスにおけるシェアおよび収益性の拡大を進める。その結果として、一人あたりの生産性と利益額を向上させ、既存ビジネスが収益を生む。このサイクルを作ることが、LMIの第一プロセスです。

第二プロセスは、市場の成長性が低い状況下にいる既存産業が、自分たちの足で成長性が高い産業へと押し上げること。この2つのプロセスを経て、既存産業は花形産業に変革できると私たちは考えています。

右図を見てください。古き良き産業は、グレーの直線が示すように時間の経過と自己資本利益率(ROE)とが比例するモデルがほとんどでした。たとえば、リアル店舗を10店舗出せば売上高が10億に、100店舗出せば100億になるような。一方で、投資家による投資を受けたスタートアップ企業は、最初に大きく下降し、その後、指数関数的な成長曲線を描いています。

私はこれを否定している訳ではありませんし、このモデルがスピーディにイノベーションを創出するのに必要な要素であると十分に理解しています。しかしながら、ふたを開けると失敗する企業も多く、ベンチャーキャピタルの世界では「千三つ(せんみつ)」とも言われている。そこで私は、レガシー企業が自分たちでエクスポネンシャルするようなカーブを描けないだろうかと考えました。それが左図に記したLMIの軸です。

日本って、実は創業200年以上の企業数で世界第1位なんです。世界には創業200年以上の企業が5,586社ありますが、そのうち56.3%が日本の企業です。つまり、日本企業は古き良き企業を大事に守ってきたのです。それは非常に素晴らしいことですが、今後、多くのベンチャー企業によってディスラプションされていくとも言われています。古き良き企業をこれからも守り続けるために、レガシー企業がLMIという考え方を持ち、自分たちの力でイノベーションを遂げていくこと、そうしたプロセスを歩むことは非常に重要であると考えています。

国内にも、ユニコーンを目指している優秀なスタートアップ企業が多く存在します。とくに、ここ5〜10年はスタートアップ投資の大ブームで、ユニコーン企業を作ることが素晴らしいと見なされ、古き良き産業を少し否定するような風潮がありました。

ユニコーンを目指している企業は、「レガシー産業のビジネス構造は非常に効率が悪い。私たちがそれを変えていく」というメッセージを前面に出し、資金調達をして、市場の変革を目指します。しかし、結果はどうでしょうか? たとえば、ウーバライゼーション。ウーバーはライドシェアという新たなイノベーションを生み出しましたが、同時に世界中のタクシー業者を倒産危機へと追いやりました。とある市場を、新規参入者がごっそり奪ってしまう。そこに対して私は批判的ではありませんが……。世界中で、それがクールだと言われている。それが現実であり、事実です。

私たちは、HORSE=中小企業のストレートな成長と、ユニコーンの良さを掛け合せた、ZEBRAカンパニーを目指しています。既存産業のプレイヤーが、効率のいい合理的なマーケット、合理的なビジネス環境を作り上げる手段を考え、ビジネスを前へ進めていく。私たちの考えに共感いただける企業様がいらっしゃれば、共にこのプロセスを歩んでいきませんか。

最後に、既存産業がイノベーションを遂げるために必要なことをまとめました。「レガシーアセット」「他の事例から類推すること」「テクノロジー・デジタルのアイデアを投入していくこと」この3つが基本的なフレームです。

・レガシーアセット

看板業界では、長らく現実世界の看板やショーウィンドウ・ディスプレイについて効果測定をされることがありませんでした。しかし、私自身はここに疑問を抱いていたのです。「効果を測れないものに意味はあるのか」と。このように浮かんだ疑問や課題はマイナスに捉えず、これこそが変革を遂げるべきアセットだと、考えを逆転させることが大事です。

・他の事例から類推する

たとえば、Webの世界。Googleアナリティクスなどの計測ツールによって、ほとんどのサイトでアクセス数やクリック数が計測できますよね。これをリアルの世界で実行するには?を考えることが、次のテクノロジー・デジタルのアイデアの投入につながります。

・テクノロジー・デジタルのアイデアの投入

クレスト社では、店舗前の交通量や視認量を計測するためにカメラの技術を活用しようと決めました。東集の場合は、スマートドライブ社との連携です。

私たちはこの3つの組み合わせによって新しいビジネスを生み出し、変革を遂げました。具体的な事例については望田より説明させていただきます。

材木卸が取り組むレガシーマーケットイノベーションの事例紹介

望田:みなさん、初めまして。株式会社東集で代表を務める望田です。東集はクレストホールディングスグループの一員であり、木材卸業という非常にレガシーな産業です。私からは、東集がどのようなデジタル変革を行ったのか、そしてスマートドライブを活用してどのようにイノベーションを創出したのかについてお話しさせていただきます。

まずは私の自己紹介から。私はクレストホールディングスの取締役と東集の代表取締役社長を兼任しています。新卒でPEファンドに所属して企業の投資やバイアウトに携わった後、コンサルティングファームで業務改革や新規事業創出などを経験しました。出自を述べると、父親が木材建築の大工、祖父も木材建築の大工と、代々大工の家系です。

次に東集について。東集は創業64年の歴史ある企業です。事業は木材卸で、家を立てる際に使用する木材や建具など、木材関連の商品を卸しています。「レガシーマーケットイノベーション」はグループ全体のスローガンですので、私たちはこれを各社に落とし、実現していかなければいけません。東集は、古き良き産業として、木材の本質的な価値を消費者に伝えつつ、時代に合わせて最適な提案をしていきたいと考えています。この業界は発信が苦手な人が多いせいか、大工や匠の技術が失われかけつつあります。しかし私は、今までこの業界が築き上げてきた精密精巧な技術を、ここで途絶えさせたくないのです。

LMIを実現するには、長大な流通経路の確保が欠かせません。これは本質的な価値を消費者に提供するための最適な流通形態であり、最適な価値を提供していくことでもあります。そのためには、デジタルによる情報連携や物流効率化が必須です。リアルなモノを動かす業界ですので、物流の効率化は切っても切れない課題なのです。

紙とハンコ中心の文化を半年でDXするという決意

昨年の9月、クレストホールディングスグループに参画しましたが、当初は、紙と電話とハンコという完全なるアナログ文化だったため、手元にデータがありませんでした。これがまず、目下最大の課題でした。データがない————つまり、目標値やKPI設計ができない。KPIがなければ、PDCAを回すことができません。少し話がズレてしまいますが、以前のアナログ文化では、細々とした事務的な対応に時間を取られてしまい、本来の業務である営業ができない、社内の横連携ができないという悲惨な状況が慢性化していました。また、このレガシーな環境が起因して若手が採用できず、平均年齢も40歳後半…。

そこでまず、東集が目標に掲げたのが、半年でクレストグループのDXレベルに押し上げることでした。クレストグループはスピーディにDXを進めており、ほとんどの作業をデジタルで完結させています。半年で追いつくと言うことは、それ相応の反発が予想されました。しかし、いくら反発があっても、決して後戻りはしないと決意し、永井と一緒に進めていきました。

まずは、デスクトップPCをすべてノートPCに、そしてガラケーからすべてスマートフォンに変えるところからスタート。紙は基本的に禁止、連絡や報告はFacebookのビジネス版ワークプレイス。デジタルな環境を整えるために光回線を設置。このように、インフラを1日でガラリと変え、そこからわずか4ヵ月で基幹システムの刷新を進めました。CRM、MA、SFAなどの営業領域はSalesforceを基盤に構築し、在庫管理システムは富士通の製品を新たに導入しました。

反発も少なくありませんでしたが、毎日小さな変化を起こしながら、変化に慣れてもらうことをモットーに進めました。9月に導入を開始し、本決算の2月を迎えたあと、3月から新システムで本格稼働、そのタイミングでコロナ。しかし、着実な準備のおかげで、私たちのようなレガシー産業も4月からスムーズにリモートワークを開始できました。

リモートワークの万全な環境整備によって、オンラインでも活発なコミュニケーションがはかれるようになり、ビジネスモデルにもイノベーションが起きました。そして、それまでは全く無関心だったマーケティング機能の追加で、デジタルな数値管理を加えた営業管理ができるようになり、今ではリアルタイムで業績を追いながら、定量的な議論を進め、業績の向上に向けた適切な施策をタイムリーに実行できる体制が出来上がっています。

DXによって得たもっとも大きな変化は粗利率で、7〜8%ほどアップしました。卸売業界は平均粗利率が20%と他業界と比べて低いのに、この数値ですから、大きな効果があったと言えるのではないでしょうか。さらに、20代・30代の若手人材を3名採用できました。これはブランディングの効果もあるでしょう。次のDXのステップは、クレスト社で実現した売上高の成長を進めること。デジタルを活用して実現したいことはまだ、数え切れないほどあります。

東集が挑む、生産性向上と成長産業へのイノベーション

ここまではDXについて述べてきましたが、これからお話しするのはもう一歩踏み込んだ横軸の生産性の向上と縦軸のイノベーション、市場の成長性についてです。

生産性向上に向け、私たちはまず、本社のリノベーションに着手しました。卸の立場からも木材の本質的な価値を消費者へ伝えるため、私たちに何ができ、どのような家が建てられるのか、東集の価値を世の中に発信していかなければなりません。その第一段階として、自社の木材を使用し、東集本社をモデルルームのような事務所へと作り替えました。これから本社へお客様を呼んだり、設計事務所を招いたりして、認知を広げていきたいと考えています。そのほかにも、ブログやSNS、マーケティングオートメーションを活用した情報発信を積極的に行っています。

イノベーションの領域については、今まさに、スマートドライブ社と取り組んでいるところです。まずは東集が保有する木材搬送用のトラックの効率化に向けて、SmartDrive Fleetを導入しました。

私たちはトラックを7台保有していますが、今まで運行管理や稼働率の状況をしっかりと把握していませんでした。ところが、SmartDrive Fleetで実績を見ると、トラック一台の一日の実稼働が3時間程度であることが明確になってきましたので、稼働率を上げて最適な配車計画を立てるなど、効率アップにつながる改善策を考えています。

それだけに留まらず、スマートドライブと協業し、でMOCCI(モッチ)というサービスの提供を開始しました。木材販売業界は、注文から納品まで「いつ届くのかわからない」状況が課題になっていました。お客様からの確認の電話で営業担当者の時間が割かれますし、お客様もいつ来るかわからないものを待っていなくてはならず、非効率な状態が続いていたのです。それを解決するためにこのサービスが誕生しました。

MOCCIは、お客様が注文された商品を積載したトラックの位置情報をデータセンターに集め、納品先近辺のエリアへ近づいたタイミングで自動的にメールでお知らせするサービスです。事前の連絡で受け入れがスムーズになること、問い合わせの際に現在地をすぐに回答できることを目指して開発しました。

しかし、1〜2ヵ月の実証実験の後にお客様の声を伺うと「もっと早く情報が知りたい」という声が。その理由は、お客様自身が搬入後の配送計画を早めに立てたいからというものでした。30分前、1時間前の到着時間が分かっても、配送計画は立てられない。だから、一日前、できれば1週間前に通知がもらえると助かるんだけど。こうした要望をもとに、フェーズ2としてMOCCIのさらなる進化を進めています。

私たちはSalesforce上で、納品計画を持っており配送情報を管理しています。ですので、そのデータをGoogleカレンダーで抽出し、お客様ごとに配送計画を立てられる仕組みを考えています。また、Google mapを活用して最適ルートを導き出せば、より詳細な到着時間がお伝えできるでしょうし、配送データをGoogleカレンダーで共有できれば、前もってお客様に配送情報をお伝えできるかもしれません。ここまでが東集におけるイノベーション領域の進化です。

最後に。これからレガシーな業界でDXを進めようとしている方へ、私からお伝えしたいことがあります。

まず、「変わらなければ終わってしまう」ということ。トップは必ず、DXのリーダーとしてコミットメントしてください。現場の抵抗があっても、スピード感を持って推し進め、泥臭い説得と熱意を伝え続けてください。また、一度やると決めら、多少のお金がかかってもドラスティックにやりきる方が良い。無料だから、安いからという理由でシステムを導入せず、最終的にあるべき姿を思い描いたうえで、そこへと押し上げてくれる、拡張性の高いシステムを取り入れましょう。最後に、DXは社員にもお客様にも使ってもらうことが重要ですので、彼らに寄り添ってUIやシステム設計を行ってください

私からは以上です。ありがとうございました。

>>後編へつづく

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