静岡市に眠る多くの課題を解決し、住民の立場に立って快適に暮らせるまちづくりを目指して発足した「しずおかMaaS」。そこへ、10月よりモビリティデータを活用してさまざまなサービスを提供しているスマートドライブが参画。
経済産業省・国土交通省が先駆的に新しいモビリティサービスの社会実装に挑戦する地域や企業を支援する「令和2年度スマートモビリティチャレンジ」に選定された静岡市と手を取り、独自開発のIoTデバイスから安全運転のスコアや自動車移動データを収集したり掛け合わせたりするなどして、静岡市の発展に向けて共に歩んでいきます。
後編では、2020年に実施している実証実験、そしてスマートドライブのデータの活用方法、しずおかMaaSが掲げる将来のビジョンについてお話いただきました。キーワードは「わくわく」です。
コロナ禍から移動の最適化を考えた実証実験
---2019年度はAI相乗りタクシーなどの実証実験を通してさまざまな課題が見えてきたと思いますが、2020年はどのような取り組みをされているのでしょうか?
佐々木:本年度はいずれも持続可能な公共交通にするという統一的な視点で幅広く実証実験を行っています。
おもには、オンデマンド交通と客貨混載の事業、新型コロナウイルス情勢下における電車混雑状況の見える化・予測、今後の公共交通網の作成に向けた自家用車のデータ取得の4つです。電車の混雑状況については可視化するだけでは意味がありませんので、混雑しない時間に乗車いただけるように商業系と連動した変動性のクーポン発行、いわば仮想ダイナミックプライシングを実行するなど、人々の行動変容を促す仕組みを作っています。データ取得に関しては、高齢者の方に自分の運転を確認していただくために、スマートドライブの安全運転スコアを導入させていただきました。
本年度においては、コロナを意識しながら、いかに公共交通が持続できるかという点に重きを置いて検証項目をあげています。未だコロナの収束が見えませんから、交通事業者が人を乗せていない時間帯をいかにして活用すべきかという視点を持ちつつ、持続的に行える手段を考えながら取り組んでいます。オンデマンド交通であれば、ただ走らせるだけではなくて、荷物も一緒に運べば効率化できるな、とか。
---本プロジェクトにおいて、スマートドライブではプロジェクトにご賛同いただいた市民に向けて、自家用車に設置いただく独自開発のIoTデバイスをご用意しました。そこから安全運転のスコアや自動車移動データを収集したり、移動データとLuLuCaから取得したデータを掛け合わせて分析できるシステムを構築し、利用状況の把握から交通の効率化、需要に合わせた交通網の整備などに活用いただければと。
LuLuCaから電車やバスのデータは豊富に蓄積されていますが、目的地までの最終手段(徒歩や車)のデータは取得できていませんでした。そこで静岡市と話し合った結果、新しいモビリティの活用や公共交通網を作っていくうえでは必要不可欠なデータですし、それを分析できる環境が必要だということになり、スマートドライブとの提携に至りました。
繰り返しになりますが、持続可能であることと、コロナの情勢を加味したうえで実証実験を行っているところです。
八木:コンソーシアムで決めた、「MaaSへ取り組むためにデータを活用する」ことは今も変わっていません。交通ICのLuLuCaから今まで蓄積してきたデータもありますし、今回の実証実験によってより広範な移動データを取得することができる。全国的に見てもとくに静岡市はデータ重視だという自負がありますし、スマートドライブとの連携によって取得した多様なデータを有効活用して、まちづくりへと活かしていきたいと思っています。
あらゆるデータはスマートシティ構築の基盤となる
---今までは、誰がどういう移動でどこへ向かっているのかという公共交通機関“外”の情報が見えず、ベストな手段を考えるのが難しい状態だったということでしょうか?
八木:交通政策や都市計画を綿密に練っていくためにも、より詳細な移動データは私たちにとって必要不可欠でした。手記によるアナログなアンケート調査も実施しましたが、回答の深度にばらつきがあるため、ここから将来予測や需要予測をするのはなかなか大変でして。ですから、リアルな移動データが取得できるというのは非常に意義深いことなのです。
---昨年、AI相乗りタクシーでデータの可視化を可能にしました。行政としては、この移動データをまちづくりのどのようなシーンで活用できそうでしょうか?
八木:何かを決断する際に役立っています。交通計画を立てる時も、判断材料として何かしらのエビデンスが必要になりますし。また、将来にわたって公共交通を最適化する際に重要な材料となります。人口減少によって公共交通の利用者は今後減少し、供給側でも運転手が不足することが考えられる。そのような未来が訪れても移動を止めることなく最適化していくためには、まず、人々がどのような動きをしているのかを知ることが非常に重要なのです。
将来的にも交通関係の政策は必要不可欠ですし、広い目で見れば移動データの活用は都市計画にもつながっていく。裾野市のWoven Cityのように。最近は、移動データと異なるデータを連結することでスーパーシティやスマートシティの実現に向けた政策面でも大いに活用できると感じていますね。
---LuLuCaの移動データだけではなく、購買データを含む「生活のデータ化」ですね。
八木:そうです。商業と連携してデータを取得することで、私たちも人々の生活がどのように変わっていくかをもっと理解できるようになります。そして、このデータを活用することは、単純に移動だけではなく、商業活動をも発展させ、データドリブンな都市の構築を実現可能にするのではないでしょうか。静岡市としては、まだそこまで掲げていませんが(笑)。
水野: LuLuCaはリリースから14年ほど経ちますから、それまでに多くのデータを蓄積してきたことが一つの強みです。Woven Cityのようにゼロから街を作るのはそれはそれですごいことですが、街が出来上がった後のデータしか獲得することができませんよね。そういう点では、より適正なまちづくりができるというか。
他所との連携は始まったばかりですが、私たちには十数年分の蓄積されたデータがありますので、今回、採択された実証実験の効果を前後比較できますし、その点も国に評価されているという手ごたえがあります。日本全国を見てもこのような事例はないでしょうし、私たちが持っている強みを最大限に活用しながら、データの先にある未来を予測する。私たちはそこで見えた解決策や答えを国へお返しすることも大事な務めであると考えています。
スマートドライブのデバイスを活用することで、交通事業者では取れるはずもなかったデータを取得することができるようになりました。公共交通以外の“空白のデータ”を取ることができますので、それを分析したり、掛け合わせたりして解決策へとすばやく導く移動手段を考えることができます。また、交通事業者の弱みとも言える沿線やダイヤ以外の情報が補完されますので、偏った使われ方をしているのか、それとも賢く使い分けられているのかなど、今まで不透明だった移動に関する情報が具体的に見えてくることが楽しみですね。
地元に根ざし、チャレンジングでわくわくするMaaSを提供していく
---公共交通以外の見えていなかった移動データの取得という点で、今回スマートドライブがご協力させていただくことになりましたが、そのほかに期待していることはございますか?
水野:公共交通以外の移動データは今後もますます必要になってきます。データを取得できるアプリもありますが、そこでネックになるのが、デジタルディバイドと言いますか、デジタルを使いこなせない方たちの壁をどう乗り越えるかです。アプリだと設定を忘れたらログが取れなかったり、そもそもスマホを持っていなかったりすることもありますが、スマートドライブのデバイスはシガーソケットに挿すだけの分かりやすいインターフェースで、それがデジタルにつながるのが面白いなって。
あと、スマホじゃなければライフログが取れないという考えを良い意味で壊してくれました。人は分かり易いものを好む習性がありますが、自分の行動記録をレポートとして客観的に示してくれるので、素直に受け入れることができるんですよね。それを好意的に受け取ってくださる方もいれば、テストの採点みたいだと歓迎しない方もいるでしょう。しかし、事故を起こしやすい人ほど自分の運転を過信する傾向があると言われていますし、こうした客観的なフィードバックは意識を変える一つの要素になります。そこで「面白いな」と思ってもらえれば、他の人にも勧めたり、続けて使ってみたり、自然と広がりながら、より多くのデータが蓄積されていく。そしてもっと安全な街になる。
このデバイスを、自分の暮らしを面白くするツールとして受け止める人が増えれば、もっと面白い展開ができそうですし、私たちが集めてきたデータとの掛け合わせでより大きな価値を生むのではないかと考えています。
---最後に、今年度、来年度以降、しずおかMaaSと静岡市全体が公共交通やまちづくりで目指す姿について教えてください。
八木:しずおかMaaSのポリシーは「市民型MaaS」。旅行者や何かの目的のためにMaaSを推進するのではなく、市民一人ひとりが普段使いできるMaaSをベースに考えています。人の移動を下支えし、普段の生活での利便性が上がるようにしたい。人々のLifeに関するサービスへと発展させていきたいですね。
---MaaSというと少し堅苦しい印象がありますが、少しもっとカジュアルに、生活に根付いたサービスとして浸透させたいということですね。
佐々木:私たちは将来ビジョンの中に「わくわく」を掲げています。人口減少を抑制するには、静岡市に住む人、ひいては若い人が東京や名古屋に出ていかない住みやすい街づくりをしていかなくてはなりません。そういう意味でわくわくすること、挑戦的なことに取り組んで行きたいですし、わくわくが醸成される街になりたいと思っています。
八木:リモートワークやワーケーションなど、働き方が多様化していく中で、地方でも東京と同じ水準で仕事をしながら生活できる日が訪れるようになります。その考えが浸透するにはもう少し時間がかかるかもしれませんが、その際に静岡に住みたいと思ってくれた人に「住みやすくて快適な街だな」と思ってもらえるように街をつくって行きたいですね。
水野:メディアで取り上げられるMaaSは観光分野がほとんど。静岡県でも伊豆方面で実施していますが、そうするとMaaSは旅行者が使うものだというイメージが形成されやすくなってしまいます。日常の中ではほとんど縁がないものと思われないように、もっと暮らしに根差したものへと変えていきたい。
イメージを限定してしまうので、MaaSという言葉を使用するべきじゃないのかなとも考えてしまいますが、身近にあって、生活に不可欠なもので、チャレンジングでワクワクするのが「しずおかMaaS」。ぜひ、みなさんに体験していただきたいですね。