MaaSは大きく分けると3種類ある
MaaSはサービスを展開する目的、地域によって大きく3つに分類されます。
地方型
課題:地方郊外、過疎地、地方の都市部を含む地方圏では、都心部のようにインフラが隅々まで行きわたっていないため、移動手段は自動車が主体です。一家に数台、一人につき一台所有している家庭も少なくはありません。さらには人口が年々減少していることから交通事業の採算性が低下して撤退、地域交通が衰退しつつあります。また、高齢者が多く、運転手も不足しているため、日常における移動手段の確保に大きな課題を抱えています。
目的:自家用車に依存しすぎないよう、地域内移動を創出すること、高齢者の外出を促進・サポートすること、交通空白地帯での移動手段を確保すること。高齢者の踏み間違えによる悲痛な交通事故があとを絶たず、どんなに必要であっても免許返納を勧められるという風潮も強まっています。高齢者や周りの人々の安全守るには良しとされていますが、移動手段が整っていなければ生活に必要な食品や日用品のお買い物、体調管理をするための通院もままなりません。行きたい時に行きたい場所へ行ける。必要な時に目的地へスムーズに向かえる。それが人々の生活を支える大きなカギとなっているのです。
施策:地方の主要となっている鉄道やバス路線を中心に、移動の柔軟性が高いタクシーやオンデマンドバスを取り入れたり、定額制の交通サービスを提供したり、商業施設や病院などの新たな乗り換え拠点を創出したりすることで誰もがスムーズに移動可能なサービスを受けられるようにMaaSの取り組みが進んでいます。そのほか、地域住民の互助によって交通手段を確保する、商業施設や市民ホールなどの集客施設に送迎サービスと既存の公共交通をつなぎ合わせ、シームレスな予約・決済を可能にするなど、地方のMaaSは移動の活性化に一役買ってくれそうです。
都心型
課題:鉄道を筆頭に、バス・タクシー・シェアサイクルなど交通手段は多様ですが、人口が多く密集しがちに。また、近年は訪日外国人の急増により日常的に渋滞や混雑が起きています。大小イベントや災害時などに起因する突発的な混雑を避けるために、交通手段の多様化や見直しが求められています。
目的:多くの人々が行き交う都心部では、慢性的な交通渋滞、満員電車を解消すべく、移動手段の分散とスムーズな交通に目が向けられています。
施策:業種や分野を超えた複数事業者間の連携により、MaaS関連のサービスやプロジェクトが続々と立ち上げられています。国内外の人々の移動ニーズにスムーズに対応するため、既存の交通サービスほか、相乗りタクシー、シェアサイクル、小型モビリティなどの多様な移動サービスが提供されています。また、これらのサービスは基本的にアプリ一つで予約と支払いが可能。また、多言語化への対応、バリアフリールートの情報提供など、ユニバーサルデザインへの配慮も進められています。
異なるモビリティが乗り入れ、シームレスな乗り換えを可能とする交通結節店の整備や、データを活用した都市内交通のマネジメント向上など、人々の行動にMaaSは欠かせなくなりそうです。
観光型
課題:(現在は減少していますが)訪日外国人による観光客や、卒業旅行や、ハネムーンなど観光には多様なニーズが生まれています。しかし、観光施設は分散されていることが多く、回遊性を上げるには観光に対応した柔軟な交通サービスの提供が急務です。また、観光施設だけでなく、宿泊地と各種交通サービスが連携を図るなどして、分かりやすく移動しやすい方法を提案する必要があります。
目的:柔軟な移動と簡単かつ一括できる決済方法を提供することで、観光客の回遊性を向上し、観光体験を拡大する。
施策:オンデマンドバスやグリーンスローモビリティなど、多様な移動ニーズに柔軟に対応できるサービスの構築、観光施設や目的地近辺のお店、交通サービスが連携し、すべてのサービスを一括して予約・決済できるアプリの提供で、目的地への移動をスムーズかつ自由に行えるようにし、観光体験をより良いものへ変えることができれば、観光業がさらに活性化するのではないでしょうか。また、アプリを活用した移動を行うことで経路の把握ができますので、コロナウイルスの感染が発生した施設やエリアを事前に避けたり、各施設の密情報が今後MaaSアプリに連携されるようになると、安心した移動を提供できるようになる可能性もあります。
多種多様な移動手段と連携でシームレスな移動体験が実現する
日本国内に住んでいても、初めて訪れる観光地についてはインターネットなどで事前にしっかり調べておかないと、いくつもの観光地を巡るにはどの手段が効率的で安全なのか、どの交通サービスで移動すべきなのかわからず、オロオロしてしまうことも。とくに地方の観光地では都心部とは異なり、バスや電車の本数は限られていますので、主要な駅に向かうにも最適な移動手段とルートの検索が欠かせません。また、中には地元の人でもあまり知らないような、知られざる観光スポットを目当てに訪れる観光客もいるでしょう。そうした多様なニーズに応えることを可能にするのが観光MaaSです。各地域では、それぞれの観光資源や交通サービスを生かした観光MaaSの実証実験が始まっています。いくつかピックアップしてその内容をご紹介します。
・伊豆市「Izuko」
3月10日にPhase2の実証実験が完了したIzuko。伊豆では、路線バスやタクシー運転手の高齢化と人手不足により、路線バスの本数やタクシーの台数が少なく、8割がマイカーで訪れるため幹線道路の渋滞が起きていました。この課題を解決するために、東伊豆〜中伊豆における鉄道とバスを一定区間で乗り放題にするデジタルフリーパス、下田海中水族館や遊覧船など観光施設での割引チケット、レンタカーやレンタサイクルの予約・支払いができる機能を搭載したアプリを開発。公共交通を活用し、目的地までのスムーズな移動を後押ししています。
・仙台市「TOHOKU MaaS 仙台 trial」
仙台を中心としたエリアで実施された観光MaaSの実証実験(2月29日に終了)。
JR、地下鉄、バス、仙台空港鉄道、阿武隈急行のフリーエリア内が2日間乗り放題になる豪華なデジタルパスほか、対象店舗で特典が受けられるクーポン、アンケートの応えるとかならずもらえるお土産スクラッチ、仙台に特化した観光情報を丸っと掲載した観光マップ、レンタカーの予約機能に加え、空きロッカー検索やえきねっとなど便利なサービスが盛り込まれています。利用方法はスマホで専用サイトにアクセスするだけ。日本後・英語・中国語(繁体語)の3言語での利用ができるのもポイントです。
・志摩市「ぶらりすと」
出発地と目的地、日時を入力して検索するだけで、希望の時間とルートを表示。好きな時に好きな場所へ移動できるオンデマンド交通が簡単に予約できる機能がポイントのMaaSアプリ。このほか、伊勢〜鳥羽〜志摩の観光地と交通を結ぶデジタルフリーパス、アクティビティの予約など、伊勢志摩の旅をしっかり楽しむことができます。
観光MaaSは地方を活性化させる1つの施策になるかも
それぞれの地域課題を解決しながら、盛り上げていく。コロナウイルスの影響によって観光客は激減していますが、観光体験を向上すれば今後の再訪や口コミによる認知拡大が期待できます。観光におけるMaaSは、単に利便性を高めるだけでなく、安全に安心して移動が促進できる手段として、観光産業と地域を活性化させる糸口になるかもしれません。