鉄道各社の取り組み
JR〜航空、タクシーを始めさまざまな業種との連携でMaaSを推進
JR東日本は2019年3月、技術イノベーション推進本部内に「MaaS事業推進部門」を設置し、オープンイノベーションによってMaaS事業をスピーディに推進すると発表。ANAやみんなのタクシーなど、枠を超えたコラボレーションで続々とプロジェクトを立ち上げています。
2020年1月16日より、SuicaのID番号とクレジットカード情報を登録することでタクシーやシェアサイクルなど複数の交通手段を利用できる、都市型のMaaSアプリ「Ring Pass」の提供を開始しました(iOS向けは1月16日〜、Android版は春頃提供開始予定)。
JR東日本では、タクシーやシェアサイクルなどの各種モビリティサービスの利用手続きを1つのアプリケーションに統合したワンストップサービスの実現を目指し、モニター企業数社の社員を対象とした実証実験を行っていますが、その範囲を一般のユーザーに拡大し、さらなる検証・改善を目的とした実証実験を行うとしています。配信開始時に利用できるサービスは、アプリに表示される地図上で空車タクシーの走行位置が確認できる機能(16日時点では国際自動車のみ)と、タクシー車内のQRコードを利用した決済機能。シェアサイクル、ドコモバイクシェアへの対応は春頃の予定です。
JR西日本は観光MaaSに注力
一方、JR西日本では関西・鉄道7社による「関西MaaS検討会」を組織。瀬戸内エリアへの観光誘客拡大に向けて、出発地から目的地までの新幹線をはじめとする鉄道に加え、現地での船舶、バス、タクシー、レンタカー、レンタサイクル、カーシェアリングなどの交通機関および地域の観光素材をシームレスに検索・予約・決済することができる統合型サービス、観光型MaaSの実証実験を2019年10月から瀬戸内エリアで実施しています。
せとうちエリアにおける観光型MaaSの「setowa」は、登録した立ち寄り地すべてのルート検索を行い、旅行行程を作成できるスケジューラー機能や出発から目的地までの移動をオンラインで予約・決済できる機能を搭載した専用アプリでサービスを提供しています。
参加団体はジョルダン、JapanTaxi、電脳交通、タイムズ24、ぐるなび、日本旅行など誰もが知っている企業ばかりがその名を連ねています。
東急電鉄〜伊豆を舞台に観光MaaSを推進
東急電鉄はJR東日本と協力し、伊豆における日本初の観光型MaaSとして2019年1月より実証実験を開始。観光客が鉄道・バス・AIオンデマンド乗合交通・レンタサイクルなどの交通機関を、スマートフォンで検索・予約・決済、目的地までシームレスに移動できる2次交通統合型サービス「Izuko」を提供しています。
目的地までの半年間に渡って実施したPhase1では23,231ものダウンロードを獲得しましたが、サービスやエリアの限定性など多くの課題が浮き上がりました。そこで、2019年か12月からはPhase2として、運用性や操作性を改善し、JR伊東線(熱海駅~伊東駅)区間をはじめとするサービスエリアやデジタルチケットの商品メニューを拡大。オンデマンド乗合交通など、新規施策を通じた地域課題解決の施策としてオンデマンド乗合交通を配車できる仕組みを導入するなど、利用手段を充実させています。
また、東急電鉄は2018年にハイグレード通勤バス、オンデマンドバス、パーソナルモビリティ、カーシェアの4つのモビリティを組み合わせ、いつでも安心して移動できるモビリティサービスの構築を目指す郊外型MaaSの実証実験も実施しています。地域によって変わる課題とニーズをうまく汲み取り、その土地にフィットしたMaaSが提供されるようになるかも?
小田急電鉄〜行きかたと生きかたを提案するMaaSアプリを提供
中期経営計画において「次世代モビリティを活用したネットワークの構築」を掲げる小田急電鉄。自動運転バスの実用化に向けた取り組みのほか、複数のモビリティや目的地での活動を、一つのサービスとしてシームレスに提供する MaaS の実現に向けた取り組みを推進しています。その中で、同社がヴァル研究所の支援のもと開発しているのが「MaaS Japan」というプラットフォームです。
小田急電鉄は「MaaS Japan」をベースとして活用し、2019年10月末から、ユーザーの日々の行動の利便性をより高め、新しい生活スタイルや観光の 楽しみ方を提案するアプリ「EMot」の提供を開始しています。同アプリは、電車、バス、タクシー、シェアサイクルなど、複合検索ができるシームレスなルート検索、飲食のサブスクや特典チケットの発行、デジタルフリーパスなどの機能を有しています。現在は静岡西部エリア、東京・神奈川エリア(実証実験中)で展開中。
移動だけでなく、飲食や勾配など生活に密着したサービスを合わせて提供することで、移動という経験の価値を高めてくれるサービスです。
京浜急行〜誰もが移動を諦めない世の中を作る。「ユニバーサルMaaS」
京浜急行電鉄はサムライインキュベート、ヒトカラメディアとともに品川駅高輪口に「モビリティ変革」と「MaaS」をテーマとしたMaaS専門のシェアオフィスでありオープンイノベーション拠点「AND ON SHINAGAWA(アンドオン品川)」を開設し、取り組みを進めています。
また、2月7日より、ANAと横須賀市、横浜国立大学と手を組み、産学官共同プロジェクト「ユニバーサル MaaS」の実証実験を開始しています。ユニバーサルMaaSとは、障がい者、高齢者、訪日外国人など、誰もがストレスなく移動を楽むことができるサービス。公共交通機関の運賃、運航・運行状況、バリ アフリー乗り継ぎルートなどの情報を提供しつつ、リアルタイムな位置情報やユーザーが必要とする介助の内容を交通事業者、自治体、大学が共有して連携することでシームレスな移動体験を実現するとのこと。
鉄道会社×鉄道会社、鉄道会社×会社…連携で加速するMaaS
JR東日本と小田急電鉄がMaaSの実証実験に参画!
2019年10月、東京都が公募する「MaaSの社会実装モデル構築に向けた実証実験」に、JR東日本、小田急電鉄、ヴァル研究所などが連携して参画し、「立川駅周辺エリアにおけるMaaSの実証実験」に取り組むと発表しました。
これは、JR東日本の中央線、南武線、小田急グループの立川バスのリアルタイムな運行データを用いた経路案内、多摩モノレールの1日乗車券と沿線施設の利用券がセットになった電子チケットをアプリで提供し、立川エリアの移動、お出かけをサポートするというもの。立川駅周辺エリアにおける公共交通の連携について課題を認識していた各社が連携したMaaSならではの取り組みです。
JR東日本とANAが目指す「空と陸のシームレス化」
2018年11月から観光流動拡大に向けた連携を開始し、地方への誘客推進の共同キャンペーンや訪日観光需要に対応したサービス展開、情報発信の強化などに取り組んできたJR東日本とANA。両社は、国内MaaSの展開と構築、さらに利便性の高い移動体験の提供を目的に連携を強化。モバイル端末などのデジタルテクノロジーを活用しながら、検索・予約・決済などのさまざまな面で連携を行い、旅行計画段階から終了までを包括的にサポートするためのシームレスなサービスを検討するとして、取り組んでいます。訪日観光の需要が増える中で、それに対応する適切なサービスの展開が期待されます。
まとめ
今まで個別にサービスを提供してきた各社がそれぞれの強み、サービスを持ち寄り、協力し合いながら課題を解決して新たな移動の価値を提供する。MaaSを浸透させるには、こうした業界の枠組み、垣根を超えた取り組みがますます必要不可欠となってくるのではないでしょうか。