ここまで進んでいる!MaaSの海外事例まとめ

ここまで進んでいる!MaaSの海外事例まとめ

国連が2018年5月公表した報告書によると、世界の都市部に暮らす人口割合が2050年までに約7割に到達し、現在33ある人口1,000万人以上の大都市も2030年には43都市へ増加する見込みです。人口集中による交通渋滞の悪化や排ガス規制などの環境問題、さらに地方では交通弱者の増加が懸念される中、数あるモビリティ(移動手段)を1つのサービスとして捉え、ICTを活用することでシームレスにつなぐ新たな概念、「MaaS」への注目度が国内でも高まってきました。

この記事では、海外で進んでいるMaaSの事例をまとめてご紹介します。

Whim(ウィム)・・フィンランド

出典:MaaS Global
  • サービス提供者:MaaS Global
  • サービス展開地域:ヘルシンキ・ウエストミッドランド・アントワープ
  • 運営スタイル:官民連携

MaaS先進国フィンランドの首都・ヘルシンキでの実証実験を経たのちに正式運用が始まったWhimは、公共交通の電車とバス、タクシー、シティバイク(自転車シェアリング)、レンタカーなど、複数のモビリティサービスの予約と決済を一括で行えるスマホアプリです。

現在世界でもっとも発展・普及が進んでいるWhimには、①月額無料の「Whim to Go」②月額49ユーロの「Whim Urban」③月額499ユーロの「Whim Unlimited」という3つのコースがあり、①は各種チケットをアプリ内で購決・決済できるだけですが、②は対象エリア内の公共交通機関が乗り放題。加えて、5kmまでは最大10ユーロでタクシーが、一日49ユーロの固定料金でレンタカーを、一回30分以内なら無料でシティバイクまで利用できます。③に至っては、さらにレンタカーと5kmまでのタクシーの利用が無料になるものの、日本円だと約61,000円とやや高額であるため、ユーザーはまだそれほど多くないようです。

MaaS Globalは運営する中で移動手段として自家用車を選択するWhimユーザーの割合が40%から20%へ減り、公共交通機関を利用する割合が48%から74%に増加したと報告しています。2018年末には、ヘルシンキにおけるアプリ利用ユーザーが7万人を突破しましたが、同都市の総人口60万人の約12%にすぎず、有料登録しているのはアーリーアダプターで、大半が月額料金のないWhim to Go利用者です。

MaaS GlobalのCEO、ヒエタネン氏によると、2019年中に日本の大都市、とくに外国人居住者や観光客の多い横浜で日本版Whimを展開することを視野に入れており、すでにパートナーとの交渉も始めているとのこと。アプリ1つでモビリティサービスの検索やチケット予約、決済などができるうえ、バンドリングとサブスクリプション契約も可能なWhimは、日本にはまだプレイヤーがいないMaaSレベル3のアプリとしても、その動向に目が離せません。しかし、バスやJRなどの公共交通網が整っており、人口比でみると世界最大数のタクシーが走り回っている日本の大都市において、決済ツールとして便利な無料版は広がっても、有料版のWhimは普及していくでしょうか…?

Kyyti(クーティ)・・フィンランド

出典:Kyyti Group
  • サービス提供者:Kyyti Group
  • サービス展開地域:フィンランドのトゥルク地域
  • 運営スタイル:官民連携

Whimと同様、フィンランド発のスタートアップ企業Kyyti Groupがリリースした、MaaSプラットフォーム「Kyyti(クーティ)」。同サービスは、1つのプラットフォームに統合されたルートプランニングと、すべてのモビリティモードの支払いと発券が可能な専用アプリを軸に、

  • デマンドレスポンシブトランスポート(DRT)・・・主に、公共交通機関の利用が困難な障害者・高齢者や、在宅介護サービス従事者を対象として、一般ユーザーの承認制で乗り合いをする公共交通システムのこと。
  • モビリティデータ分析・・・AIとディープラーニングの活用により、モビリティデータで交通システムを最適化する機能を搭載。

などによって、公共交通機関はじめライドシェア&レンタカーはもちろん、フェリーやレンタサイクルなどといった移動手段だけではなく、ユーザーごとの状況に最適かつ便利なトラベルスケジューリングの構築と、チケット予約・決済ができるのが特徴。スイスの大手公共交通企業である「Post Auto」や、米国の「Demand Trans」などと提携し、MaaSおよび需要に応じたトランジットソリューションを開発/実装している真っ最中です。

moovel(ムーベル)・・ドイツ

出典:ダイムラー
  • サービス提供者:ダイムラー
  • サービス展開地域:欧州・北米・豪州
  • 運営スタイル:官民連携

自動車大国・ドイツを代表する大手自動車メーカーであり、トラックに関しては世界一のシェア誇るダイムラー傘下のモビリティテクノロジー企業、「moovel Group GmbH」が提供しているのが「moovel」です。2015年からサービス提供されているmoovelモビリティアプリでは、移動手段の検索・予約・決済はもちろん、Apple PayやGoogle Payといった支払いオプション設定や、NFC・Bluetooth・QRコード・バーコードなど、ほぼすべての非接触技術に対応しています。

また同アプリは、リアルタイムでの交通状況を把握する機能を有しているため、ユーザーは渋滞や遅延などに巻き込まれない時間やコスト的に最適なルートを事前リサーチすることもできるのです。

Qixxit(キクシット)・・ドイツ

出典:Qixxit
  • サービス提供者:QT Mobilitätsservice
  • サービス展開地域:ドイツ国内と近隣諸国一部限定
  • 運営スタイル:民間独自

1994年旧東西国鉄が統合・民営化したドイツ鉄道(以下DB)は、MaaS事業の参入に力を入れている鉄道事業者であり、2009年に「DB Navigator」というMaaSアプリをリリースしています。同アプリは、リリースから機能や対象エリアが段階的に追加され、DBの長距離・近距離路線はもちろん、DBグループのカーシェアリングやレンタサイクル、他社の公共交通機関の予約・決済が可能です。しかし、ドイツが属する欧州では、いくつも国をまたいで移動するユーザーや陸路だけではなく航空機を利用する方も多いことから、DBは2013年、都市間・国際間輸送に対応する新MaaSアプリ「Qixxit(キクシット)」を開発、追加リリースしました。

Qixxit はDBが提供している輸送モードを網羅した、全世界対応の経路検索・予約・決済サービスとして開発されましたが、2016 年末以降は同社から完全に独立したスタートアップ企業が運営しています。欧州でDB と競合しているFlixMobility社とも提携しているほか、都市内輸送に関しては一切対象から外して都市間・国際間輸送に特化するなど、DBの思惑とはかなり異なるサービスに変貌しているようです。

滴滴出行(ディディチューシン)・・中国

出典:ディディモビリティジャパン
  • サービス提供者:滴滴出行
  • サービス展開地域:中国
  • 運営スタイル:民間独自

米国ではUber、中国版では滴滴出行(以下、ディディ)と言うように、中国国内のライドシェアを推し進めているのが滴滴出行(以下ディディ)。ディディと提携各社のタクシーをはじめ、サラリーマンなどが副業としてドライバーを務める「合法白タク」の予約・配車・決済も可能です。配車可能な車両ランクは以下の5つで、ランクが上がるほど車種のグレードがアップします。

  • 1.順風車・・・ライドシェア(乗り合い)車で一般ユーザーが運転する最安ランク。
  • 2.出租車・・・ディディアプリ経由で他社のタクシーを呼ぶランクで、料金は各社のメータ次第。
  • 3.快車・・・ディディ専属のタクシーが配車され通常快車と優良快車があり、後者は料金的に出租車より割高です。
  • 4.礼燈専車・・・ディディ専属の高級タクシーで6人乗りなども存在し、料金は通常快車の1.5倍程度です。
  • 5.豪華車・・・ディディ専属の超高級タクシーでベンツなどの高級セダンが配車されるが、料金も最も高く通常快車の9~10倍もします。

Uberと同じく、降車後にドライバーの運転を評価するシステムになっているため、事前に評価を確認して利用することができます。そのため、最安ランクの順風車を選んだからといって、危険な運転を繰り返すドライバーに当たる心配はありません。アプリ内で現在地設定をすれば指定したランクのタクシーがどこにいて、どの程度の時間で到着するかがすぐにわかるため、次の移動のためカフェからスマホで予約し、時間が来たら店から出て車に乗ることも可能です。

アプリ内ではランクと移動距離ごとの運賃がしっかりと明記されるため、ぼったくりのような被害に遭うこともありませんし、万が一に備えてワンクリックで警察へ通報するボタンも備えられているので安心です。現時点では、白タクが違法のため日本への参入はありませんが、中国旅行をする際にはアプリをダウンロードし、ディディの利便性を体験してみるのも良いのではないでしょうか。

UBIGO(ユビゴ)・・スウェーデン

出典:Ubigo
  • サービス提供者:UbiGo
  • サービス展開地域:スウェーデン
  • 運営スタイル:民間独自

2013年にスウェーデン・ヨーテボリで成功したMaaSパイロットプロジェクトから生まれたUBIGO。現在では、首都ストックホルムを中心に利用ユーザー数が増えています。ストックホルムではSL社GA公共交通機関の地下鉄・トラム・バス・鉄道・水上バスなどを一括で運営していますが、そのすべてとレンタカー・カーシェアの予約・決済を、アプリ1つでできるのがUBIGOの持ち味です。

また、SLのフルレンジ10日間乗り放題とMove AboutおよびHertzが提供するレンタカー・カーシェアがセットになる、バンドリングやサブスクリプション契約も可能なことから、Whimに匹敵するレベル3のMaaSプラットフォームと言えるでしょう。

GoLA(ゴーエルエー)・・ロサンゼルス

  • サービス提供者:ロサンゼルス市
  • サービス展開地域:ロサンゼルス
  • 運営スタイル:官主導

1980年代、米国のロサンゼルスには基幹公共交通がほとんどなく、トロリーバスや路面電車が都市交通の中核を担うサンフランシスコとは対照的に、お世辞でも交通の便が良いと言える都市ではありませんでした。

しかし今では、地下鉄やライトレールトランジット (LRT)、バス・ラピッド・トランジット(BRT)などが整備され、タクシー配車サービスも数多く普及。さらに、シェアサイクルも街中にあふれ、米国随一のハブ都市へと発展しています。この発展を支えたのは行政で、同市は2016年にゼロックスと共同開発したアプリ、「GoLA(ゴーエルエー)」を行政サービスとして提供を開始しました。

アプリに現在地と目的地を指定すると、時間・費用・エコ順で複数の推奨ルートが表示され、LRTやBRTのほか、同市内に張り巡らされた空港シャトルバス(FlitWays)、配車サービス(Lyft)、カーシェア(Zipcar)など、多様なモビリティインフラの予約と決済がスマホのみで行えます。

まとめ

フィンランドでMaaSビジネスが普及したのは、同国の公共交通機関利用率が約11%と低く、80%以上がマイカーに依存していた結果、過度な交通渋滞と排ガスによる環境への悪影響が社会問題化したことにありました。同様の問題は日本でも発生していますが、フィンランドには国内自動車メーカーが存在しないため街を走り回っているのはほとんどが輸入車です。つまり、自家用車が増えれば増えるほどお金が海外に流出するため、官民一体となってMaaSを推進する必要があったのです。

日本では少子高齢化が急激に進んでいるため、地域密着型の新たな移動のあり方を考えていくことが重要になりそうです。

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