ドライブレコーダーを活用した自動車保険の可能性

ドライブレコーダーを活用した自動車保険の可能性

自動車保険に付随する特約の歴史は、自動車の安全性に関わる歴史でもあります。

過去にもゴールド免許所有者やエアバック搭載車への割引、現在では自動ブレーキ搭載車への割引もそうでしょうか。それらは安全に気を遣うユーザーへのサービスでしたが、最近ではさらに、ユーザーに「いざという時の安心と安全を提案する特約」まで登場しています。


そんな中でも今注目を集めているのが、ドライブレコーダーと自動車保険の連動です。今回は2016年11月に東京海上日動が発表したドライブレコーダーを活用した特約を中心に、自動車保険のトレンドを紹介していきます。

クルマの安全と自動車保険の関係

Photo credit: cygnus921

自動車保険は「等級」と「年齢」で値段が決まってきます。

最初は経験が少なく、事故率も高い若いドライバーが低い等級から始まり、保険料はかなり高め。特にスポーツカーなど事故率の高いクルマの保険料は高くなります。

そこから年齢を重ねれば経験を積んだドライバーとみなされ、無事故であれば等級も上がっていくので保険料は下がりますが、事故を起こせば等級は下がり、保険料も上がっていくことに。実はこれもまた「若者のクルマ離れ」や「無保険車(自賠責保険しか入っていない)」を生み出す原因の1つではないかと言われていますが、保険会社の立場からすれば仕方がありません。

いわばドライバー自身の安全性が上がれば保険料が下がる仕組みですが、他にも保険料が下がる要素はあります。

例えばドライバー自身による安全性の延長で、無事故無違反を続けてゴールド免許を取得すること。もしくは安全性の高いクルマに乗ることで、昔はエアバッグ装着での割引くらいでしたが現在ではABSや自動ブレーキなども割引の対象になっています。

最近では自動車のITが進み、走行データを測定・見える化できるようになったため、テレマティクス保険という新しい自動車保険の仕組みも生まれています。

*テレマティクス保険については、こちらの記事で詳しく解説しています。
デジタル時代の自動車保険 テレマティクス保険とは

このように、クルマやその装備とともに自動車保険も移り変わってきたわけですね。そしてついに、保険会社の方から「この後付けパーツで安全性や安心感を向上させませんか」と提案する日がやってまいりました。

それが、ドライブレコーダー(以下、ドラレコ)活用型サービスです。

背景にはドライブレコーダーの急速な普及が

Photo credit: brizzle born and bred

登場初期にはカメラの解像度や記憶媒体の容量不足もあってそれほど注目されなかったドラレコですが、撮影した映像がYouTubeなど動画サイトに投稿されるようになると、評価が一変します。そこは実際の事故の映像は元より、警察による不当な取締りを証明する映像、違法な走行を行う車の映像など、国内外から集まるさまざまな情報の宝庫だったのです。

事故が無くてもドライブ映像の収集にも使えますよ、というメーカーの宣伝も功を呈し、さまざまなクルマの試乗やテストに使われた映像も続々とでてきました。

かつてはお金と労力をかけてスタンドなどに車載カメラを搭載していたものが、レーダー探知機などと同じ感覚でシガーライター電源などを使って手軽に装着できるように。ドラレコとセットになって連動するカーナビまで登場したことで、ドライブレコーダーにさまざまな付加価値が見出されます。

そして自動車のIT化が進み、車載カメラなどの記録から安全運転を指導するようなシステムが登場するようになると、ドラレコにその機能を持たせた方が早いのではないか、そのような考え方が広がっていきます。

東京海上日動の「ドライブエージェント パーソナル」

ドラレコを活用した保険サービス、ドライブエージェントパーソナルを開発したのは東京海上日動。何とパイオニアとの共同開発でオリジナルのドラレコまで作っています。国内初の個人向けのドラレコ活用型自動車保険特約として2016年11月25日に発表され、2017年4月1日から提供を開始することとなりました。

これまでは安全・安心感のあるドライバーや車を対象とした割引を特約として提供してきた保険会社が、ユーザーに安全・安心を売り出す新しい時代の到来です。

契約すると通信機能付きドラレコが貸与されるので、これまでドラレコを持っていなかったユーザーにとっては利用する良いキッカケになります。また、既にドラレコを持っているユーザーにとっても、通信機能による事故衝撃時の自動通報や映像の自動送信、通話機能による事故発生時対応サポートが受けられますから、より使いがいのあるドラレコと言えるでしょう。

最近では前方だけではなく、後方にもドラレコをつける人が出てきているので、既にドラレコを持っている人は東京海上日動のドラレコを前向きに、元々のドラレコを後ろ向きに移しても良いでしょう。

ドライブエージェント パーソナル4つの役割

Photo credit: kennejima

同サービスではドラレコに大きく4つの役割を持たせています。

1. 事故受付センターへの自動通報と、映像の自動送信

まず1つが、事故発生時の衝撃で同社提携企業の事故受付センターへの自動通報と、映像の自動送信。同センターからはドラレコを通じた対話が可能なので、必要であれば同センターから消防や警察への連絡も行ってくれます。

その時には搭載されているGPSも役に立つことでしょう。これにより、事故発生時にパニックに陥りがちなユーザーへ、大きな安心感を与えます。

2. 事故相手との示談交渉

2つ目が事故映像を活用することで、事故相手との示談交渉に役立てます。同社では「事故の内容によっては」と但し書きをしていますので、主に加害者となってしまった場合を想定してるのでしょう。

ユーザーが事故状況の説明を行う負担を軽減し、正しい状況の証拠映像として活用することになります。

3.  安全運転診断レポートの作成

3つ目はデータ収集の上で2017年12月以降に提供予定ですが、撮影された映像からユーザーに対して「安全運転診断レポート」を提出すること。

4.  危険地点での注意喚起

そして4つ目が、パイオニアの持つデジタル地図を活用した「事故予測プラットフォーム」で、いわゆる「ヒヤリ・ハット」マップとユーザーの運転状況から予測した危険地点に接近すると、ドラレコから注意喚起を行う音声が流れます。

それだけではなく、映像解析により車線逸脱や極端に車線内で左右に偏った走行を行ったり、急ブレーキ・急発進・急ハンドルといった危険操作に対しても注意喚起を行うといいますから、相当な高機能ドラレコといえるでしょう。

ソフトウェアアップデートで、さらにサービス追加!

通信機能がついているということは、スマートフォンのような携帯デバイスの一種のようなもの。NTTドコモのLTEネットワークへ常時接続しているだけではなく、ソフトウェアアップデートで内蔵アプリケーションを更新したり、機能も追加されます。

2017年10月を目処に提供開始を予定しているのは「前方車両との距離検知と、接近時の注意喚起機能」です。

最近は映像解析により、ステレオカメラではなく単眼カメラでもレベル2(ドライバーがハンドルから手を離さない)の前方車両追従型自動運転が可能になっています。ドラレコの応用で、距離検知くらいはできる時代になったということですね。

これはあくまで一例で、他にも機能追加があるようですから、月々650円(自動車保険料月額払いの場合)でこれだけの高機能ドラレコをリースできると思えば安いものです。

ポイントは保険会社によるドラレコ重視

ここまで同サービスを紹介してきましたが、重要なポイントは「保険会社によるドラレコ重視」です。

事故時の事故状況映像を提出し、示談解決に役立てるコンセプトということは、すでに同社にとってもドラレコの映像が実際にかなり役立っていることを意味しているのではないでしょうか?

仮にドライバーが事故の結果として証言できないような状況になったとしても、保険会社がその証拠映像を持ってさえいれば、本来払わずに済むはずの保険金を払わなくとも済む。そうした示談交渉の矢面に独力で当たらねばならない時に備えるという、保険会社にとっても重要な意味合いがこのドラレコにはあると思います。

そう考えると、同サービスはユーザーと保険会社双方にとって有益で、今後広まっていくのではないでしょうか。

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