スマートデバイスリンクとは
スマートデバイスリンク(以下SDLと表記)とは、スマホアプリをカーナビなどの車載装備で使えるようにする、オープンソース・プラットフォーム規格のひとつです。言い換えると、車内でもスマホを効果的かつ安全に利用するための規格とも言えるでしょう。
SDLの概念はアップルの「CarPlay」や、グーグルの「Android Auto」に近いものですが、メーカーや車種によって利用可能なシステムが制限されることはありません。通常の車載カーナビに追加機能を求める場合、新機種へ買い替える必要がありますが、SDLカーナビであればスマホに対応アプリをダウンロードするだけで、新たなサービスを利用することが可能になるのです。
先行するトヨタの取り組み
現在の自動車業界では、将来に向けて「完全な自動運転の実現・EV車へのスイッチ・コネクテッドカーの開発」という3つのプロジェクトが進められていますが、国内におけるコネクティドカー普及の根幹に位置し、自動運転の安全性向上にもつなげることができるのがSDLです。
そんなSDL対応車載機の開発とサービス拡大を、業界の先頭を切っていち早く押し進めているのが、未来のモビリティ社会の実現を目指す「トヨタ自動車」です。トヨタは2016年1月、フォードの子会社であるリビオ社のSDLを用いた車載システムの商品化を発表。トヨタ車とレクサスにだけ採用するのではなく、他の自動車メーカーにも広く参画を呼びかけました。
2017年1月、フォードと共同でSDL普及・標準化を進める非営利団体、「SDLコンソーシアム」を設立すると、トヨタとの関係が深いスバル・スズキ・マツダなどの国内メーカー以外にも、フランスのPSAグループ、Elektrobit、Luxoft、Xevoといった、国際的サプライヤーも参加しました。その後同団体には、ホンダを除くほぼすべての国内自動車メーカー、SDLは四輪車だけではなく、二輪自動車も含まれることから、ヤマハ・カワサキといったバイクメーカーも参画し、一丸となってプロジェクトを進めています。
このように、競合する「CarPlay」や「Android Auto」と比較してSDLが優れている点は、商用・非商用に問わず、誰もが関連ソフトウェアを開発でき、利用・修正・配布が可能なオープンソース・プラットフォームであることです。それを体現するように、SDLコンソーシアムは2018年10月から2019年1月末にかけて、応募資格を問わず誰でも参加できる「SDLアプリコンテント」を開催しました。そこでは公開されているSDLコードをもとに個人が開発したアプリも、最終選考10作品に半数近くノミネートされています。
トヨタが筆頭メンバーを務める同団体が、これほどまでにSDLの普及に力を注いでいる理由は近年増加の一途をたどり死亡事故まで発生している、「ながらスマホ」による交通事故撲滅にあります。
警察庁によると、2018年に検挙された携帯電話使用違反件数は、スピード違反・一時不定詞に次いで第3位、1年間の事故発生件数も2,790件で、2008年の1,299件から約2,1倍に増加しています。何より、携帯電話を使用していない事故と比較し、使用中発生した事故の死亡率は約2,2倍に達することから、スマホを操作・注視することなくハンズフリーも可能となるSDLの普及を、トヨタはリーディングカンパニーとして先頭に立ち牽引しているのです。
先頭に立つトヨタが次々と解き放つSDLのプロジェクト
現在ではパナソニックやKDDIなども参画していますが、大きな動きがあったのは2018年12月でした。ついに、トヨタがSDL対応ナビを新型モデルへ搭載開始、同時に第一弾として邦楽・洋楽など4,900万曲以上をそろえる、「LINE MUSIC」との提携・サービス提供を発表。
ただし、現在同社の公式ページで確認できるSDL対応車載デバイスは、ディーラーオプションナビである「NSCD-W66」のみであり、搭載可能な車種も商用車としての利用がメインの「ピクシスバン」の1車種だけ。この対応は、おそらく不特定多数がドライバーとなる商用車、しかもユーザー自身が望んで追加するディーラーオプションに設定したほうが、初期導入後のマーケティングデータが入手しやすいためだと考えられます。
同社は2019年夏ごろから生産ライン装着用SDLカーナビを投入するとしており、マイナーチェンジや一部変更などのタイミングに合わせ、徐々に対応車種を増やしていくとのこと。また、LINEとの提携第2弾として、2019年春から自動車向けAIアシスタント「Clova Auto」に対応したアプリ提供を予定し、実現すればカーナビでLINEメッセージをやり取りや無料のLINE通話も可能になります。
さらに、第3弾にはLINEの音声認識技術によるカーナビ操作対応機能の提供まで予定されています。最近話題になっているスマートスピーカーを想像していただけば、非常にわかりやすいでしょう。話しかけるだけで目的地設定ができれば、目をそらしたり、ハンドルから手を離したりせず運転に集中したまま目的地に行けるようになります。そうすればより安全に、そして快適なドライブを実現し、当初の目的であった事故の原因を潰すことができるのではないでしょうか。
他社が取り組むSDLの取り組み
ブライソン&ゼンリンデータコム
車載システムおよび、組み込みソフトを受注開発しているブライソンは、ゼンリンの連結子会社であるゼンリンデータコムと提携し2018年10月、SDL対応車載機とスマホ用アプリを開発したと発表しました。これはゼンリンデータコム側が、すでにリリースしている「いつでもナビ」をSDL対応仕様にし、コアと呼ばれるブライソン製の車載機に、映像・音声データをUSBやWi-Fiで送信するというもの。アクションは車載器タッチパネルで行える仕組みになっています。現時点ではデモ機による試験段階ですが、市販されれば国内初の「社外SDLナビ」になる可能性もあります。
損保ジャパン日本興亜&ナビタイム
2019年2月、損保ジャパン日本興亜とナビタイムは安全運転支援を目的としたスマホ用ナビアプリ、「ポータブルスマイリングロード(PSR)」の利便性を向上するために、SDL対応の車載機向けPSRを開発し、実証を重ねたうえで同年中にはサービス提供すると発表しました。
PSRには、ナビタイムの技術を用いたカーナビ機能に加え、運転診断機能も搭載されています。「運転診断の結果に応じて保険料が最大20%割引になる」といった、安全運転によるメリットを享受できるサービスが好評で、短期間で約30万件以上ダウンロードされています。そんなPSRが本格的にカーナビと連動し、さらに利便性や安全運転支援につながるとなれば、大ヒットも十二分に期待できます。
ハンズフリー以上!オンキョー
SDLコンソーシアムの理想は、便利で快適なドライブが楽しめることです。日本最大級の音響機器メーカーであるオンキョーは、2018 年2月に開催されたMWC(Mobile World Congress)2018 において、独自開発の「Onkyo AI」を搭載し車で使えるスマートスピーカー「AIスマートオートモーティブ」の展示をトヨタのSDLブースで展示しました。
会話や音楽などノイズが多い車内でも高い音声認識率、聞き取りやすいAIアシスタント音声を実現、バッテリーも搭載しているため、ドライブ中はもちろん停車・駐車中やアウトドアでの使用も可能です。
2019年中の販売開始が予定されていますが、画面を見ずにアプリが操作でき、さまざまな情報を得られるとなれば、ハンズフリーを超える「アイズフリー」さえ一般的になっていくかもしれませんね。
SDLはカーシェア・レンタカーサービスにうってつけ?
SDLの特徴は、自分が所有しているスマホのアプリを車載デバイスと連携できることです。そのため、シェアカー・レンタカーでもSDL対応デバイスが付いていれば、利用者が変わったとしてもそれぞれが普段から利用しているナビアプリなどを使えるようになります。しかも、SDLでは自宅で事前に調べた目的地を車載ナビで共有することも可能なため、余計な時間を費やすことありません。オーディオの場合も、LINE MUSICでストリーミングしている音楽をいちいち設定することなくいつも通り楽しむことができるので、コスト面の折り合いがつけば導入する企業は増えていくかもしれません。
まとめ
SDLはハンズフリーやアイズフリーで快適なドライブを実現させるためのものですが、将来的には道路や運転状況の膨大なデータを取得・分析し、自動運転の安全性向上に役立つことも期待されています。しかし、ハンズフリー・アイズフリー化することによって、頭の中では運転以外のことにとらわれることになるため、反応速度は低下し脳の働きが鈍るという全米自動車協会の調査結果も発表されています。
安全運転支援技術やSDLによって、いかに自動車が近未来的な乗り物に進化をしても、乗るのも操作するのもやはり人間です。どんなに技術革新が進んでも、運転中は車が自分や他人の命を奪いかねない凶器になることを忘れず、日頃から安全運転意識を持ち続けることを心がけたいものです。