スマートフォンアプリを使った安全運転診断サービス
今回あいおいニッセイ同和損保が試験的なモニター制度を開始するのは、スマートフォン専用アプリ「Visual Drive」を使った安全運転診断等のサービスです。
同アプリを開発したのがCMT社。日本向けにカスタマイズされた同アプリを使うことで、モニター参加者はさまざまなサービスを受けられます。
参加条件は同アプリをインストール可能なスマートフォン(iPhoneあるいはAndroidスマートフォン)を所有する、あいおいニッセイ同和損保の自動車保険契約者。対象台数は10,000台程度を予定しており、実施期間は2017年1月から2018年9月末までですが、あいおいニッセイ同和損保の代理店向けに、2016年10月より先行実施予定とのことです。
このモニター制度は今後予定されるテレマティクス連動型保険商品の実証実験ということになりますが、これには少子高齢化の中で貴重となる若年者、増加する一方の高齢者に安全運転を促進する目的があります。
具体的なサービスの内容は?
サービスの具体的な内容ですが、まずスマートフォンアプリと連携するタグを自動車に装着します。乗り込むと同時にアプリが起動してタグからスマートフォンへデータを収集。運転が終わると、スマートフォンからデータがサービスを統括するセンターへ送信されます。
スマートフォンからの送信は基本的にWi-Fi環境のみで行われ、利用者に通信データ容量の面で負担をかけないことになっていますが、現実のインターネット環境は必ずしもWi-Fiを利用する人ばかりとは限らないため、この点は今後改善されるかもしれません。
実際に提供されるサービスは以下のとおりです。
まずユーザー1人1人の走行データを分析し、安全運転診断や、運転特性に応じた安全運転のヒントを、スマートフォンアプリを通じて提供します。これには、現状ではスマートフォンに内蔵されたGPSや加速度センサーを利用するとのこと。
そして安全運転に役立つ情報提供や、免許更新時期・車検満了時期をアプリに入力しておけばそれも通知してくれます。便利なことは便利ですが、このあたりはオマケ機能と言ってよいかもしれません。
さらにオプションとして「家族による見守り」があり、本人に提出されるのと同じ運転診断レポートが、家族にも配信されます。
この場合、配信したレポートを読める家族が必要ではありますが、家族が無茶な運転をしていないか、身近な者からのアドバイスがもっとも効果的という視点もあるのでしょう。
いずれにせよ、急発進・急ブレーキ・速度超過などが多いドライバーには、安全運転を促すレポートが配信されることは間違い無さそうです。
あいおいニッセイ同和損保のこれまでの取り組み
実は、あいおいニッセイ同和損保がこの種のサービスを提供するのはこれが初めてではなく、業界の中ではテレマティクスに積極的な企業として、既に販売している商品もあります。
それが2015年4月より販売開始した「つながる自動車保険」で、スマートフォンを通して車両運行情報を分析した「安全運転アドバイス」を提供するほか、アプリからワンタッチで「つながる自動車保険専用事故受付デスク」につながるので、迅速な事故処理が可能。
さらにはスマートフォンを通して得られた実走行距離から「走った分だけの保険料」を算定されるので、走行距離の少ないユーザーにはかなりオトクな保険商品となっています。
法人向けには「ささえるNAVI」という商品も販売しており、これは高精度クラウド対応通信型業務用ドライブレコーダーを活用。
レコーダーを通して得られたデータも含め、安全運転支援サービスと安全運転コンサルティングサービスを提供するもので、これも運転診断を行うことで、事故リスクを低減していこうというものです。
ほかにもトヨタと共同でトヨタレンタリースなど向けの同種サービス、それを採用することによる自動車保険割引サービスを提供しており、事故リスクが低減される見込みに応じてリアルタイムに保険料を算出する時代に入ったと言えます。
テレマティクスを活用した今後の自動車保険
「つながる自動車保険」と違い、今回のCMT社のアプリを使ったモニター制度ではスマートフォンアプリと一対になるタグの存在が重要です。
簡単なタグ1枚で保険に加入している車両へと情報をしぼり込めるので、保険会社としては情報を集めやすくなります。
これが法人向けサービスであれば、リース会社との提携で1台1台にドライブレコーダーなどの車載機を搭載したリース車両を業務で利用してもらえば済みますが、個人の場合車載機の購入は大きな負担です。
いわば「低価格で可能な限り高精度のデータ収集が可能な保険商品」の実現に向けた一歩と言えるのではないでしょうか?
その一方で、法人向け同等の車載機までセットになった高額保険商品もいずれ開発されるかもしれません。その場合、比較的最近の車であれば車載コンピューターと接続することでより詳細な車輌情報を入手できますから、より高精度な走行データ、車の故障リスクなどまで把握可能です。
そこまでリスクマネジメントのできている車に対してであれば、より高精度の保険料金算出が可能になることは言うまでもありません。
今後、自動車保険は保険会社がドライバーや自動車の事故リスクを把握できているものほど割引が適用され、そうでないものに対しては保険会社にとってハイリスクな対象として、保険料金が高額になることが予想されます。
つまり普段の運転の仕方などドライバー個々人の情報によって、従来よりも保険料金が最適化されていくということです。
同種のテレマティクス協業サービスも既に登場
法人向け自動車リースを行うオリックスレンタカーなどは、テレマティクス導入で利用企業への安全運転診断や位置情報提供サービスをすでに提供しています。
現在は業務効率化やコンプライアンス強化、安全対策などを目的としていますが、いずれ事故リスクのデータ収集が行われれば、リスクによりリース料に影響が出てくるでしょう。
またレンタカーにもテレマティクスが導入された場合、個人・法人を問わず、契約者のデータが蓄積されれば、レンタル料金が安くなるなどの特典が出てくるかもしれません。その場合、複数のレンタカー事業者による集積されたデータがあれば、どこのレンタカーを利用しても同種のサービスを受けられますから、そうした提携が進む可能性もあるのではないでしょうか。
さらに今後の交通体系見直しの一環としてカーシェアリングが広まっていますが、そこでもテレマティクス技術により、リスクの高い、低いドライバーという格付けが為されていくでしょう。
最終的には、それら事業者のジャンルを問わず、1人のドライバーの情報があらゆるところから蓄積され、多数のドライバーから収集されたビックデータを分析し、初めて乗る車でも事故リスクの詳細が提供されるような、そんな時代が来るのかもしれません。
最終的には、全ての人や企業にとっての利益に
テレマティクス技術の活用によるビッグデータの収集、そしてその活用は、最終的には自動車に関わる全ての人、企業、社会に利益を還元していきます。
ドライバーにとっては安全運転に繋がる情報を得ることができますし、効果的な運転をすることで燃費や自動車保険といった自動車にかかるコストを削減することもできるでしょう。
企業にとっては自動車保険はもとより、損害を補填するための支出を減らすことができるため、導入した際の効果は大きいです。
社会全体にとってもドライバーが無理な運転をしたり、企業が理不尽な長時間運転をさせたりすることがなくなれば事故や渋滞の抑制、燃費や排ガス低減など交通全体に良い影響を及ぼすことも予測できます。
これまでバラバラに「個」の存在として動いていた自動車を、テレマティクス技術・サービスの普及によって「群」としての秩序を保ち、安全性や効率性を総体的に高めていくことになれば、世界中の交通事情の改善に明るい兆しが見えてくるのではないでしょうか。