“100年に一度”の前に、100年前を振り返る
当たり前ではありますが、100年前と今では同じ車であっても形や性能は異なりますし、そのうえ、都市やコミュニケーションなど生活の部分も違います。
本イベントでご登壇いただくJapanTaxiさんや東急電鉄さんは、100年ほど前に創業された企業です。東急電鉄さんの場合、もともとは田園調布の都市開発からはじまり、まちづくりを中心としたお取り組みから移動をスムーズにする鉄道事業へとつなげていかれました。また、東京と横浜で電話が利用開始できるようになったのも1890年、およそ100年前のことです。当時は携帯電話もiPhoneもないですし、タクシーも気軽に利用するものではない、今とまったく異なる環境の中で人々は生きてきたのです。
今、モビリティ業界は100年に一度の大変革期と言われていますが、私自身はここ100年くらいで起きてきたことが、3、40年というスピード感で同じような変化を生むだろうと考えています。これは単純に車の形態や性能が向上するだけでなく、人々の生活やコミュニケーション、そして生活そのものが大きく変化する時代が訪れることを意味します。2つのキーワードから簡単に説明させていただきます。
移動の進化を考えるうえで私が重視しているテーマは2つです。1つが日常的な移動の効率化、もう1つが新しい出会いと消費を生む、新しい何かを生み出していくことです。
CASEやMaaSなど、移動の効率化やシームレス化の話はよく耳にしますが、効率化された後にどのような日常が生まれるのかという点については触れられることがありません。すでにライドシェアやキャッシュレスなどが普及し、私たちの日常生活は非常に効率化されています。「人間は数千年前から一日2時間移動に使っている」−―これは私が好きな言葉の一つです。紀元前では狩りに、今だと通勤・通学にかかる移動時間が2時間。この移動時間は何千年も前から変わっていないのです。たとえばさまざまな技術が進歩して事故や渋滞がなくなったり、自動運転が普及して自分のプライベート空間が移動したりできるようになると、この2時間がどんどん短くなっていきますし、移動中も単なる移動ではなくなるでしょう。そんな時代が本当に訪れるのではないかと考えているのです。
もう一つ、重要な視点があります。新たな概念が生まれ、技術が進歩すると、どうしても効率化にばかり注目が集まりますが、「効率化して人々が動かなくなってもいいのか」という点についても並行して考えていくべきではないでしょうか。移動は本来人類の根源的な欲求でもありますし、移動した先で新しいものを消費したり、生み出したりして発展してきたのが人類です。ですので、移動を効率化して浮いた時間をどう活用するのか。敢えて効率的じゃないものを生み出して新しい消費や価値を創出してはどうか。効率化とあわせてそこを考えるのも大事なことだと思っています。
スマートドライブの事業と3つのリリース
私はスマートドライブの設立時から、効率化や新しい移動を生み出す世界、移動の未来に使われるようなプラットフォームを作ろうという想いを抱き、邁進してきました。現在では、GPSセンサー、ドライブレコーダー、タイヤの空気圧、温度センサー、さらには事故や整備履歴、リース料金に至るまで、移動にまつわる様々なデータを私たちのデータプラットフォームに蓄積し、サービスを展開しています。法人向けの管理、効率化サービスの「SmartDrive Fleet」、ドライバー向けエンゲージメントサービスの「SmartDrive Cars」、ご高齢のご両親など、ご家族の見守りサービス「SmartDrive Families」。いずれも、これらのデータを活用したサービスです。
スマートドライブのプラットフォームは企業さま向けに公開もしていますので、様々なパートナーが私たちのプラットフォーム上でサービス開発を進めています。ここで現在、他社様と進めている新たな取り組みをいくつかご紹介させていただきます。
ユピテル様「ドライブレコーダー」
昨今のあおり運転や事故を受けて、ドライブレコーダーのニーズが非常に高まっています。そんな中、ドライブレコーダーで名高いユピテル様に私たちのプラットフォームを採用いただき、法人向けのフリートマネジメントにおけるデータの連携・活用を進めさせていただくことになりました。
事故が発生した際にどのようにぶつかったのか、ドライバーは車内でどんな行動をとっていたのか、車外の状況がどうだったのか、車内外のあらゆる情報を集めることで分析の幅が広がり、事故を未然に防ぐための有効な対策を考えることができます。社会的にも意義があるものですし、今後、個人向けサービスにも横展開していけるのではないかということで採用いただいた例です。
ホンダ様「EVバイクのフリートマネジメント」
フリートマネジメントという文脈で、ホンダ様の二輪向けのデータ活用に私たちのプラットフォームを採用いただきました。バイクがどこを走っていて、どのような時に使われているのか、どうしたら効率がよく業務が行えるか、来年の春にEVバイクの最新車に搭載し、それからガソリンバイクへと展開いただく予定です。
三井不動産様「スマートシティ実現に向けた取り組み」
2019年12月より、千葉県の柏の葉エリアにおいて、最適な移動を実現するための実証実験を開始します。スマートドライブのデータプラットフォームを活用し、エリア内に住む方たちの自家用車データを分析。普段どのように移動しているのか、どれほど車が利用されているのかをデータで捉え、効率的な移動をするには何が必要か、スマートシティ実現への取り組みとしてもご期待いただいております。
スマートドライブとしては、プラットフォームをより全国区に広げていこうと年末までに愛知と大阪にオフィスをオープンします。また、福岡も重要なマーケットと考えておりますので、来年にオフィスを開設する予定です。
また、創業期より出ていた海外展開をいよいよ本格的に始動させました。昨年から東南アジアを中心に10カ国以上巡り、市場調査を行ったうえで、11月からバンコクとクアラルンプールにオフィスを開設しました。現存の製品を海外展開するだけでなく、オープンプラットフォームという特性を活かし、現地の日系企業様や政府とコラボレーションして、プラットフォームの普及を図っていきます。
モビリティ革命を加速するために大切な2つのこと
モビリティ革命を加速させていくためには、具体的に何が必要か。最後に、カンファレンスを企画したきっかけでもある今の私たちに“必要なこと”を、2点ほどお話させてください。
1.企業が事例を共有し合うこと
自動車メーカーをはじめ、通信業界、保険業界、不動産・都市設計、住データ、新しいモビリティサービス、多様な企業様が参入していますが、移動の進化は一社のみで完結するような話ではありません。非常に壮大かつ複雑だからです。今までは各企業の視点やビジョン、事例が業界の垣根を超えて会話されることがほとんどありませんでした。事例を通じてそれぞれの業界・業種の方々のビジョンや考えを共有する場がまだまだ足りないと考えておりますので、今後もこのようなカンファレンスなどで企業同士の接点を増やしていきたいと思っています。
2. 企業のコラボレーションで新たな価値を生み出すこと
私の個人的な思いでもありますが、競争だけではなく、協業へ結びつけること。ビジネスをしていると、誰もが競合他社の動向やカニバリを気にするでしょう。しかし、マーケットが広がっていくフェーズで、その点ばかりに気を取られてしまうと、成長が一気に鈍化してしまいます。A社は自社にない強みを持っている、協業することでシナジーが生まれるかもしれない。そうやって視点を変えれば、新たな広がりが出てくると思うのです。一緒に競っていくこと、そして垣根を超えたコラボレーションが今後重要なキーワードです。ライドシェアを展開する企業をはじめ、世界ではすでにグローバルのマーケットでプラットフォームになる企業が次々と出てきています。グローバルのマーケットで勝ち抜くためにも協同が必要です。
多種多様な業種の方々にご来場いただきましたし、私が個人的に勉強させていただきたい業界のトップランナーをお招きしましたので、本日はクオリティが高く濃密なセッションの場を実現することができました。数年後振り返った時に、このカンファレンスがきっかけでこういうムーブメントができたと思えるような、そんなイベントになれば幸いです。ご静聴ありがとうございました。