カーナビアプリ「Waze(ウェイズ)」とは?
人工衛星で位置情報を把握するGPS式カーナビゲーションシステム(以下、カーナビ)が初めて市販車に搭載されたのは1990年のこと。翌1991年には後付けの市販カーナビが登場、どんな車でもカーナビを搭載する事ができるようになりました。
以後、少なくとも日本においてはカーナビは爆発的に普及。軽自動車にすら標準装備され、現在ではオーディオやセキュリティ、ドライブレコーダー(ドラレコ)、映画鑑賞からバックモニターまで、さまざまな用途を詰め込んだ機種が出回っています。
その一方、日本以外では最低限の地図表示とナビゲーションに特化したPNDと呼ばれる簡易カーナビが普及し、世界的なスタンダードになっていきました。
そのPNDをもっと手軽に利用できる派生版カーナビとして登場したのがスマートフォン用カーナビアプリで、Waze(ウェイズ)はその草分けの1つです。
リアルタイムでユーザー間の交通情報シェアが可能なWazeはGoogleからそのポテンシャルを評価され、2013年には買収されてその傘下に入っています。
日本では知名度の低いWaze
前述の通り日本ではカーナビが世界的スタンダードと全く異なる進化を遂げて高機能化していったため、その当初カーナビアプリは浸透しないと思われていました。
新車には最初から高機能カーナビが搭載されていましたし、社外品としてのカーナビもハイエンド機からPNDまで充実していたからです。
さらにガラケー(携帯電話)が極端に高機能化していたこともあって、スマートフォンの普及すら疑問に思われていた時代もありました。
カーナビ、スマートフォンと二重の「ガラパゴス」(世界のスタンダードと異なる国内独自進化)状態に陥っていた日本では、Wazeのようなスマートフォン用カーナビアプリは普及しない、そのような予想はほんの2~3年前まで普通に論じられていたのです。
そのため、比較的早い時期から日本語にも対応したサービスを行っていたにも関わらずWazeへの注目度は低く、その語GoogleやYahoo!のカーナビアプリを誰もが使うようになった今も、知名度はそう高くありません。
Wazeとはどのようなカーナビアプリか?
しかしさすがはカーナビアプリの草分けと言うべきで、Wazeの機能は日本で知名度の高いアプリと比較しても全く劣るところがありません。むしろ今後開通する道路を、現状ではまだ通行不可能なことをアイコンで明示しつつもしっかり表示するなど、最新の地図情報反映能力については勝っている部分もあります。
Facebookイベントから会場へのナビゲーションを可能にするなど、SNSとの連携能力も充実しており、スマートフォン用アプリとして考えた場合には使い勝手に優れた面も多いのです。
さらに、これもやはり日本ガラパゴス仕様というべきか、Yahoo!カーナビなどが日本国内でのナビゲーションに特化しているのに対し、Wazeは海外でのナビゲーションも可能。世界的にはWazeの方がスタンダードなのですから当然ですが、世界中を飛び回るような人にはWazeは是非ともオススメしたいアプリのひとつと言えるでしょう。
日本でも最近、地図更新頻度やその速さからカーナビやPNDに見切りをつけ、スマートフォンアプリに移行するユーザーもでてきているようですが、海外でもそれは同様でWazeをインストールしたスマートフォンでナビゲーションを行う人も少なくありません。
もっともそれは、カーナビゲーションやPNDなどつけていると盗まれてしまう、という治安の問題もあるのかもしれませんが。
スマートフォンアプリの弱点を克服する、Waze Beacons
次世代カーナビゲーションの座を不動のものにしつつあるスマートフォン用カーナビアプリですが、どうしても高機能カーナビにはできてアプリには真似できない機能があります。
それが「トンネル内での位置情報収集」です。
高機能なカーナビであれば、車の動きを検知する内蔵ジャイロや、車の車速センサーから取り出した情報によって、GPS信号が届かない場所でもかなり高精度の位置情報をリアルタイムで取得できます。
一方カーナビアプリをインストールしたスマートフォンでも、内蔵されているG(加速度)センサーによってある程度は車の動きを把握することが可能です。少なくとも、初期のPNDのように「GPS信号が入らなくなった瞬間、地図上では静止したことになってしまう」ということはありません。
しかし精度は高機能カーナビに劣りますし、携帯電話用の電波が受信できればある程度可能な測位も、電波が入るとは限らないトンネル内ではお手上げという場合も多くあります。
そんな課題点を補うためにWazeが提案しているのが、トンネル内に設置する「Waze Beacons」と呼ばれる無線ビーコンです。
「トンネル内部を見る」だけではなく、交通情報も入手可能
Waze BeaconsはGoogleのオープンビーコン規格「Eddystone」で開発されており、スマートフォンとはBluetoothで通信を行います。
このビーコンのためにWazeはフロリダのセンサービーコンスタートアップと提携。供給可能になったビーコン装置をバッテリー駆動の省エネ型マイクロコントローラーで、トンネルの壁や天井に設置していきます。
こうすることによって、Wazeのユーザーは「トンネル内部を見る」ことができるようになるだけでなく、トンネルの中にいながらリアルタイムの交通情報を入手できるようになります。
既にアメリカのピッツバーグ、イスラエルのハイファ、フランスのパリ、ブラジルのリオデジャネイロでWaze Beaconsは設置されており、設置場所は今後も増える予定です。
各トンネルごとに平均して42個のビーコン設置が必要とはいえ、ビーコンの価格は1台わずか28.5ドル。
何より素晴らしいのは、ユーザー側で必要な作業はスマートフォンのBluetooth機能をONにする以外、何もないということです。
日本でWaze Beaconsは普及するか?
それだけ優秀な交通情報・位置情報が把握なシステムを安価に構築できるWaze Beaconsですが、日本でトンネルを管理している事業者が導入しようという計画はまだ目にしていません。
前述したように現在はGoogle傘下なので、その影響力を日本に及ぼすことも可能なはずですが、Yahoo!カーナビやナビタイムと並び、Googleマップのナビゲーション機能がメインストリームとなっている日本のカーナビアプリ事情では、Wazeを積極的に推す理由がまだ無いのでしょうか。
日本の場合、早くからトンネル事業者が主要トンネル内で通信会社と提携し、携帯電話の利用を可能にしてきました。山がちで複雑な地形ゆえトンネルの多い日本では、世界に先駆けたこのような設備投資が、Waze Beaconsのような存在を不要のものとしていると考えることもできます。
Bluetooth通信ユニットであるWaze Beaconsでは電話回線や4G回線の代替えにはならないので、トンネル事業者も通信会社も、新たにBluetoothユニットを使ったシステム構築には、腰が重いのかもしれません。
Wazeはビーコンからの情報を積極的に開放予定
今後Wazeでは、Waze Beaconsから流される情報をさまざまな事業者に開放する方針だといいます。
現在はまだ日本でそこまで普及していませんが、上述してきたようにWaze Beacons の力は世界でも注目を集め始めています。
いずれは日本でも、さまざまなカーナビアプリそして高機能カーナビやPNDでも、Bluetooth回線で流れてくるWaze Beaconsからの情報を受け取りながら走る日が来るかもしれませんね。