「運ぶを、より安全に。」をテーマに、運輸業界の課題解決や、より安心・安全な社会を、ICTの積極的利用で実現すべく活動している、運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)へのインタビュー記事の後編です。
ワーキンググループで実現したソリューション
大里:「ワーキンググループの具体的な実績についてお教えいただけますか?」
小島:「ワーキンググループの活動は1年サイクルで進めています。キックオフを行い、事業者を中心に課題を発表、整理し、その解決策の仮説を立て、実証実験をして評価し、改善をして、ソリューション化できるものはソリューション化するという流れです。全チームがこの流れで取り組み、1年間の活動成果をTDBC Forum(TDBCフォーラム)で発表します。また、発表資料は全ワーキンググループ分、Webサイトでも公開しております。
過去には、ドライブレコーダーの管理ソフトウェアを開発・提供する企業と、AIを利用したシステムを開発している企業が連携して、既存のドライブレコーダーの映像をAIが分析し、運転時にスマートフォンでの通話や操作するなどの危険運転があったら、他の急ブレーキや急ハンドルなどのインシデントと同様にリストアップするというソリューションが生まれました。すでに製品化もされています。
他にも、2017年度のエコドライブのワーキンググループで、エコドライブ実践ハンドブックを作りました。こちらもウェブサイトで公開しております。そして昨年度は、エコドライブにタクシー事業者がチャレンジしたんですね。タクシーの平均実車率は4割程度と言われており、6割は空気を乗せて走っていることになります。どうしても、お客様を拾って乗せることが最優先となってしまい、道路上でお客様を見つけたら急いで止まる。つまり、一般的なエコドライブとは言い難い運転になってしまうわけです。それを昨年、フジタクシーさんがエコドライブに挑戦し、結果として燃費は10%改善し、交通事故件数は直近4ヶ月間では56%も減少しました。これは大きな成果です。」
大里:「実際に実証実験を行い、トライ&エラーを繰り返しているのは本当に素晴らしいことだと思います。私が参加した前回のフォーラムでも、観光バスに荷物を積めないか(貨客混載)、ワーキングシェアはできないかなど、数々の仮説を立てて実践されていました。中には『規制があって困難を極めた』という事例もありましたが、実際に動いてみないとわからないこともたくさんありますし、動いたからこそ見えてくるものもありますよね。」
鈴木:「実証実験に協力してくださるサポート企業も多いですしね。大塚製薬株式会社さんやミズノ株式会社さん、ソフトバンク株式会社さん、外資系ではありますが日本ハネウェル株式会社さんなど多くの会員企業が毎回実証実験にご協力いただいています。参加者が多いほど、解決への道のりが近くなるのでありがたいですね。」
TDBCのビジョンを実現するために〜変化を受け入れる
大里:「TDBCとして、今後どのような社会を実現したいですか。」
小島:「現在は実証実験を1年間のサイクルで回していますが、1年というのはかなり短く、解決策が出たところで終わってしまうことも少なくありません。
TDBCのビジョンは『運輸業界を安心・安全・エコロジーな社会基盤に変革し、業界・社会 に貢献する』こと。実証実験をもとに開発したソリューションで企業の課題が解決できたとしても、社会という括りで見ると解決に辿り着いたとは言い難い。それに社会全体の課題を解決するには、業界全体を変えていく必要があるのです。ただでさえ人材不足なのに、長時間労働や労働環境など、運輸業界はあまり良いイメージを持たれていません。そして、心身ともに乗務員の健康状態が強く影響し、事故の有無にも関わってきます。だからこそ乗務員の健康管理や労働環境を含め、良い環境を構築していくべきなのです。この問題は業界全体で捉え、健康経営に向かって努力し、長く働けるような環境を作らなくてはなりません。
今年度のワーキンググループの中にMaaSに取り組んでいるグループがありますが、実証実験の前に真っ先にぶつかったのが、日本の法律や規制の壁でした。MaaSは複数の交通手段をシームレスにつなぐものですが、旅行業法に引っかかってしまうのではないかとの心配がありました。そこで、ワーキンググループのメンバー企業と一緒に国土交通省に相談に行き、無事実証実験が問題なく実施できることになりました。国としても、新しい取り組みに対し、規制というよりは積極的に対応していくとのスタンスを感じました。
さらに、健康面でもう一つ。近年、夏になると熱中症に関する報道が世間の注目を集めますが、乗務員の熱中症も少なくはありません。原因はさまざまありますが、その1つが乗務員が水分補給をするために飲料水などを飲んでいると、一般の方からツイートされてしまうのではとの心配や、乗務員自身も水分を取ることでトイレに行きたくなり、迷惑をかけてしまうのではないかとの配慮から積極的に水分補給をしないということもよく耳にします。健康管理のためにも、水分補給は非常に重要です。我慢をすることで逆に体を悪くしてしまうことにもなりますから。しかし、炎天下にも関わらず、ネットやトラブルを恐れて乗務員が水分を取らなくなってしまうのです。この問題は、社会の理解も必要ですし、至急、相互に意識を変えなければならない問題です。
再配達問題の場合は社会問題化したため、受け取りをスムーズにする意識が強まり、受け取り方法が多様化しましたよね。社会を変えるためには、まず、課題に対して正しく理解をしてもらわなくてはなりませんので、業界・国・社会を巻き込んで実現していきたいですね。
標準化、規格化は各種協会、団体との連携を進め、推進や普及においては国や自治体との連携など、ワーキンググループを超えて具体的なアクションを進めて行きたいと思っています。」
鈴木:「これらを実現するためにはまだまだ多くの仲間が必要です。TDBCの活動に共鳴し、参加いただける仲間は日本全国で常に募集していますし。とくに多くの課題を抱えている運輸関係の事業者さんは積極的に参加していただきたいです。」
小島:「TDBCは、オープンイノベーションを目的にスタートしたわけではありませんが、課題を持つ人と、解決策を持つ人がより多く集まることで課題解決への実現スピードが早まると実感しています。今までの取り組みで非常に大きな成果を得ることができましたので、TDBCだけではなく、日本国内にある問題を解決する方法の一つとして推進していくべきだと思っています。1対N、N対1はあっても、N対Nはこれまでにほとんどないモデル。N対Nの連携で、社会課題や業界課題の解決を目的とした「オープンイノベーション2.0」を進めていければ。そのためにはまず、TDBCがオープンイノベーション2.0の事例団体として周知されることですね。
また、SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みに関して、日本は遅れていると感じますので、協議会としてもSDGsを推進していきたいと思っています。ビジネスをしながら社会に貢献することは企業として必要なことですので。」
みんなが集まり、自らが社会を変えていく
大里:「運輸業界の参加者が増えれば、業界全体を変えていく力が大きくなりそうですね。」
鈴木:「山積みの課題に追われてしまい、ついつい後ろ向きな考えになり、参加いただけない方も多くいらっしゃいます。しかし、そういう方たちにこそ動いていただき、業界全体を根こそぎ変えていきたいのです。ぜひ、活動の片鱗だけでも見ていただきたいと思います。」
小島:「業界を変えたいという想いをお持ちの方にはぜひとも参加いただきたいですね。運輸業界を数字で見ると、バス事業者は69.4%が、トラック運送事業者は直近の調査で50%が赤字で、しかも営業利益率が平均0.2%と言われています。だからこそ、共通プラットフォームをできるだけ早く構築して、そしてこれをうまく活用してもらうことで、業務効率と利益率を上げて、次のビジネスを考える余力を作り出していただきたいのです。私たち自身も、そこまでをサポートしなければと思って運営しています。
具体的に効果が出せるものを提供して、その結果、業界をもっと良くしたいとTDBCに参加してもらえる。そんな循環ができればいいなと。」
鈴木:「そのために、公益性、中立性も大事にしていきたいと思っています。」
大里:「TDBCとして、スマートドライブに期待することはございますか。」
小島:「先述したDXレポートではありませんが、共通プラットフォーム化を実現して、どのサービスも横断的に利活用できる世界を作っていくべきだと思っています。用途や要望に見合ったサービスを選ぶのはユーザーの権利ですが、スマートドライブのサービスを利用していても、他のサービスも受けることができるようにしたいですし、どのサービスを利用していても、データ活用は横断的にできるようにしたい。
TDBCのオープンな共通プラットフォーム構想に積極的に参加いただくことで、実現が近くなると考えていますので、賛同いただいたうえで技術面のフォロー、そしてAPIをオープンにしていただき、みんなが利用できるよう、ご協力いただけるとうれしいです。
大里:「ありがとうございました。ぜひとも運輸業界の課題を解決していきましょう!」