ライドシェアサービスの日本参入・普及を阻害している障壁とは?

ライドシェアサービスの日本参入・普及を阻害している障壁とは?

電子マネー決済や仮想通貨などが良い例ですが、どんな商品やサービスも、いずれかの地域で爆発的に流行すると世界的なトレンドとしてその波が日本にも押し寄せてきます。しかし、Uberに代表される配車サービスに限っては、日本に参入しているものの本格的に普及するところまで至らず、類似する国内外のするライドシェアサービスも、例外なく苦戦を強いられているようです。この記事では、そうしたライドシェアサービスはなぜ日本での成長が難しいのか、普及を妨げている障壁を整理したうえで、現在の動向や今後の展望について考察します。

ライドシェアサービスは海外では普及しているのになぜ日本では広がらないのか

配車サービスとは、電話やアプリを通じてタクシー・ハイヤー・運転代行の手配をいつ・どこででも簡単に行えるサービス全体を指します。一方、世界で急速に普及が進んでいるライドシェアサービスは、タクシー会社や運転代行業者に所属しているプロドライバーではなく、国内で言えば2種免許を取得していない一般ドライバーが運転する車で目的地まで移動するサービスです。

前者はご存知の通り、国内でも利用者が大勢いる既存サービスですが、後者に関しては海外と比較して一向に普及が進んでいません。Uberは2014年から、Uber TAXI、UberTAXILUX、Uber BLACKなど、東京を皮切りに複数の都市でサービス提供してきましたが、いずれも一般的なタクシー・ハイヤーの予約・配車にしかすぎません。スマホのGPS機能を利用した最適な合流場所への経路案内、電子マネーによるスピーディーで安全な決済など、非常に利便性に優れる同アプリですが、一般ドライバーと乗客をマッチングするサービスは、現時点では国内で展開されていないのです。

本格的なライドシェアが普及すれば、車保有に伴うさまざまなコストを削減できるだけではなく、排気ガス問題の解決や交通渋滞の緩和、スマートシティ構想などの都市計画の推進につながるため、日本にとって得られるメリットは多岐にわたります。しかし、UBERや同国で激しいシェア争いを繰り広げている「Lift」、さらに現在4億人を超えるユーザーが利用している、中国の「滴滴出行」クラスまでライドシェアサービスが普及するには、越えなければならない3つの大きな壁があるようです。

ライドシェアが直面している障壁その1「有償ライドシェアに対する法規制問題」

2015年、Uberは営業許可を受けていない自家用車と乗客とのマッチング・アプリ、「みんなのUBER」の実験運用を福岡で試みましたが、国土交通省の行政指導により、わずか1カ月で中止に追い込まれました。なぜ、国交省はみんなのUBERに中止を言い渡したのでしょうか。それは、同サービスが許可を持つ事業者の車両以外での有償乗客輸送を禁ずる、「道路運送法」に抵触すると判断したからです。

この判断に対してUberおよび、タッグを組んで実験を進めていた産学連携機構九州は、「みんなのUBERに属するドライバーは、乗客から対価を得るのではなく運営から報酬を得るので、法律違反に当たらない」と主張しています。また、無許可車で乗客を有償運送することを、ナンバーの色から「白タク行為」と呼ばれていますが、Uber側も「白タク=法律違反」と理解しており、ドライバーが運営から得る報酬は「運送」ではなく、乗客データおよび走行ログ入手への対価とも説明していました。

つまり、Uberとしては白タクではないから法的規制をかけるのはおかしい、と訴えているわけですが、限りなく黒に近いグレーな主張でもあるため、ドライバーとUber側との雇用関係や、後述する安全確保を考慮した場合、国交省がすんなりとGOサインを出すのは難しいことかもしれません。

ライドシェアが直面している障壁その2「タクシー業界の強い抵抗」

2013年12月、米国・サンフランシスコでUberの契約ドライバーが交通事故を起こし、わずか6歳の少女が命を失うという痛ましい事件が発生しました。

亡くなった少女はタクシーに乗車していたのではなく、横断歩道を歩行中にはねられてしまったのですが、事故発生時に当該ドライバーが警察の取り調べに対し、「Uberにログインし客待ちをしていた」と証言したため、被害者側はUberの管理責任を追及しました。しかし、Uber側は悲劇的事件として哀悼の意を示しつつも、「車やプロバイダーがUberシステムで移動すること(有償運転)をこの事故では伴わなかった」と主張し、本質的な責任を否定したのです。

この事件を受けて世論は紛糾、とくに地元タクシー業界はUberタクシーに対して強い反発を示し、ロスの大手タクシー会社GMのBill Rouse氏は、「Uberの車に乗ることは、通常のタクシーに比べて危険。ドライバーが犯罪者である可能性もある」と強い口調で発言。

教習所の専門教習や社内研修などを受けるプロのタクシードライバーと異なり、Uberタクシーのドライバーは基本的には素人ドライバーです。そのため、運転技術の未熟さによる交通事故発生を危惧する、同氏の発言は頷けますが「犯罪者」とは、少々過激な言葉にも聞こえます。

ただ、過去にさかのぼると米国やインドなどで、Uberの乗客が犯罪被害に遭遇したり、契約ドライバーが多数の犠牲者を出す銃乱射事件を起こした事例も。これらはショッキングな事件として大々的に報道されたため、不安視する声が各国で高まっているのは事実です。

日本のタクシー業界も2019年6月、ライドシェアに力を注いでいるソフトバンク株式総会会場の前で、タクシー運転手らで構成される労働組合がライドシェア解禁に、『反対』を表明するビラを配布するなど反発する姿勢を強めています。

同団体はシュプレヒコール(デモなどで参加者が一斉にスローガンを唱えること)の中で、2018年に発生した滴滴出行の契約ドライバーによる「女性客刺殺事件」を挙げ、「(ライドシェアは)タクシーで義務付けられている労働時間管理や飲酒チェックもなく、運転手の身元もわからない」と危険性の高さを主張しました。加えて、ライドシェアドライバーは会社員ではなく個人事業主となるため、劣悪な労働環境を生み出すとも指摘しましたが、同時に既存ドライバーの雇用機会減少や、ユーザーの奪い合いと価格破壊による賃金低下も、反発が強まる背景として横たわっているのです。

ライドシェアが直面している障壁その3「日本ならではの“内なる壁”」

タクシー業界による、「ライドシェア解禁反対」は全世界共通の動きになっていますが、ライドシェアが国内で一向に普及しない原因の一つとして、国民性に由来する障壁の存在を忘れてはいけません。

ライドシェアは文字通り「相乗りする」ことですが、相乗り文化が古くから浸透している海外と異なり、日本では事業者や地方自治体が運営する公共交通機関を除けば、一台の車に見ず知らずの他人と一緒に乗るという根本的な行為自体に、強い抵抗感を持っています。治安的に見れば、ライドシェア先進国である米国や中国より、よっぽど犯罪に遭遇するリスクは低いと考えられますが、それは既存のタクシーや運転代行サービスにも言えること。

そして日本人は、低コストで利用できるライドシェアサービスではなく、多少高いお金を払ってでも「既存サービスを利用したい」と考える傾向が強く、政府の調査によると20代の若いユーザーですら、ライドシェアの利用意向が約40%程度にとどまっているのだとか。ライドシェア市場でシェア9割を占める、大手4社すべてと資本提携しているソフトバンクの孫正義氏は、「(ライドシェアを受け入れない)馬鹿な国がいまだにあることが信じられない」と怒りをあらわにしたそうですが、国民性に合わせたサービスにしなければ、今後も普及は難しいかもしれません。

知らない人と相乗り、しかも素人が運転するライドシェアは怖いという、日本人の心に根強く居座る「内なる壁」こそ、同サービスが日本で一向に発達しない最大の要因とも言えるでしょう。仮に政府が法改正を行い、海外ライドシェアが大っぴらに普及を進めても、大成功を収めるのはなかなか簡単なことではありません。

そんなライドシェアが日本で成功するためのカギを握っているのが自動運転です。日本人は警戒心や遠慮によって、「他人と狭い空間にいる」ことを嫌悪する傾向にありますが、それがIT世界という仮想空間であれば、世界中の誰とでも関係性を持つことができます。FacebookやTwitterなどがわかりやすい例で、近年ではシルバー層も積極的に利用しています。そのため、AIによる自律運転と高次元で融合したライドシェアを生み出すことができれば、ユーザーは他人の存在を意識することなく、安心して利用することができるでしょう。

ところで、海外での法整備はどうなっているの?

海外におけるライドシェアの法整備状況については、日本を含むG7に中国・韓国・オーストラリアを加えた主要10カ国のうち、国内普通免許および自家用車での参入をどちらも法的に認めているのは米国とカナダの2カ国だけです。

一方、イギリス・中国・オーストラリアは、自家用車での参入は認めているものの、ドライバーにはシェアリング専用の免許取得を求めており、残る5ヵ国については現在法整備を議論中もしくは、一切議論が進んでいない状況です。ドイツ・韓国・フランスに至っては法整備どころか、Uberが法令違反に当たるとして罰金命令や営業停止命令を発令するなど、ライドシェアビジネスの普及に批判的な立場を示しています。

あくまで大局的な動向ですが、広大な国土を有し、山間部や荒野地帯などを中心に公共交通が隅々まで行き届いていない国が比較的ライドシェビジネスに理解を見せ、道路交通網や移動インフラが整っている国ほど難色を示す傾向にあるようです。

ライドシェアサービスの国内動向と今後の展望

ライドシェアを巡る国内動向に目を移すと、政府や経済界は揃って同サービスを経済成長を促す1つの柱と位置付けており、海外からの渡航客増加が見込まれる2020年のオリンピック開催を視野に、規制緩和とサービス解禁に向けた動きを見せ始めています。

しかし法整備が一向に進まず、タクシー・ハイヤー業界が徹底抗戦の構えを見せている現在、Uber のようにドライバーへ報酬を支払う「TNCサービス型」がここ数年で日本において大幅に飛躍するとは考えにくいでしょう。

一方、ヨーロッパで普及が進んでいる「Bla Bla Car」のように、ドライバーとユーザーの目的地をマッチングし、ガソリン代などの実費をシェアするカープール型については、報酬が発生せず現行法に抵触しないため、長距離ライドシェアサービス「notteco(のってこ!)」などが展開されています。

ただしカープール型ライドシェアは、どこも仲介料無料でサービス提供しているため、収益性が低くビジネスモデルとしては不完全です。日本人がライドシェアに慣れる役目を果たしてはくれるでしょうが、爆発的に広がるのはやや難しいかもしれません。そうなるとやはり、「AIによる自律運転ライドシェア」というビジネスモデルが理想形であり、技術革新に沿った関連法の整備を進める一方で、メリットだけではなくデメリットや注意点の周知と啓もう活動を、政府や関係機関は推進していく必要があるのではないでしょうか。

まとめ

もし自律運転が実現する前の段階で、TNCサービス型カーシェアの合法化を進めるのであれば、専用免許の所有を義務付けるとともに、安全運転支援装備を備えた車限定で参入を許可するなど、国民の不安を和らげる配慮が必要となるでしょう。

ユーザーや歩行者などの安全を確実に確保し、今回解説したすべての障壁に共通する課題さえクリアすれば、ライドシェアビジネスはMaaSの大黒柱として、車を単なる「移動手段」から利便性と汎用性に優れる「サービス」へ、引き上げてくれる存在になるでしょう。

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