温対法とは
温対法は1998年10月9日に制定された法律で、正式名称を「地球温暖化対策の推進に関する法律」と言います。先進国の温室効果ガス排出削減について法的拘束力のある数値目標などを定めた「京都議定書」の締結・発効・更新と合わせて改正が重ねられています。この法の最たる目的は地球温暖化対策の推進であり、その実現に向けて国・地方公共団体・事業者・国民が、一体となって対策に取り組むためのフレームワークを定めているのです。
具体的には、地球温暖化の原因である温室効果ガスを排出しているものに対し、次のような責務を明示するほか、排出量に対する報告義務や排出量抑制対策の実施を促しています。
- 国の責務(第3条)・・・総合的かつ計画的な地球温暖化対策を策定・実施、施策及び活動に関する普及啓発、資金確保・技術的な助言等の支援など。
- 地方公共団体の責務(第4条)・・・管轄区域の排出量削減に向けた施策の推進、施策に関する情報の提供など。
- 事業者の責務(第5条)・・・温室効果ガスの排出量削減のための措置、国・地方公共団体が実施する排出量削減施策への協力など。
- 国民の責務(第6条)・・・日常生活に関する温室効果ガスの排出量削減等のための措置、国・地方公共団体が実施する排出量削減施策への協力など。
出典:e-GOV法令検索「平成十年法律第百十七号 地球温暖化対策の推進に関する法律」
また、公共事業を含むすべての事業所において、エネルギー使用量合計が1,500kl/年以上となる事業者のことを「特定事業所排出者」、条件を満たす輸送事業者を「特定輸送排出者」と位置づけ、自らの温室効果ガスの排出量を算定し国に報告することを義務付けました。さらに、国は温対法に関する責務を遂行するため、報告された情報を集計し、公表するとし述べています。
温対法で報告の義務が生じる温室効果ガス
温室効果ガスとしてその排出量を算定し、報告の義務があるとして温対法で定められているのは、下表で示している7つの物質です。いずれも、太陽や地球から注がれる熱を封じ込める特徴を持っています。
対象となる温室効果ガス | 種別 | おもな用途 | GWP |
二酸化炭素(CO²) | 代替フロンガス以外 | エネルギー起源CO²・・・燃料の使用、他社から提供された熱・電力の使用非エネルギー起源CO²・・・炭素系化学物質の製造・使用、ドライアイスの使用、萩行廃棄物等の燃焼など | 1 |
メタン(CH₄) | 代替フロンガス以外 | 原油又は天然ガスの試掘・生産原油の精製都市ガスの製造カーボンブラック等化学製品の製造家畜の飼養家畜の排せつ物の管理稲作農業廃棄物の焼却廃棄物の埋立処分工場廃水の処理下水、し尿等の処理 | 25 |
一酸化二窒素(N₂O) | 代替フロンガス以外 | アジピン酸等化学製品の製造麻酔剤の使用家畜の排せつ物の管理耕地における肥料の使用耕地における農作物の残さの肥料としての使用農業廃棄物の焼却工場廃水の処理下水、し尿等の処理 | 298 |
ハイドロフルオロカーボン類(HFC) | 代替フロンガス | 家庭用電気冷蔵庫等 HFC 封入製品の製造におけるHFCの封入業務用冷凍空気調和機器の使用開始におけるHFCの封入業務用冷凍空気調和機器の整備におけるHFCの回収及び封入家庭用電気冷蔵庫等 HFC 封入製品の廃棄におけるHFCの回収プラスチック製造における発泡剤としてのHFCの使用噴霧器及び消火剤の製造におけるHFCの封入噴霧器の使用半導体素子等の加工工程でのドライエッチング等におけるHFCの使用溶剤等の用途へのHFCの使用 | 1,430 |
パーフルオロカーボン類(PFC) | 代替フロンガス | アルミニウムの製造PFCの製造半導体素子等の加工工程でのドライエッチング等におけるPFCの使用溶剤等の用途へのPFCの使用 | 7,390 |
六ふっ化硫黄(SF₆) | 代替フロンガス | マグネシウム合金の鋳造SF₆の製造変圧器等電気機械器具の製造及び使用の開始におけるSF₆の封入変圧器等電気機械器具の使用変圧器等電気機械器具の点検におけるSF₆の回収変圧器等電気機械器具の廃棄におけるSF₆の回収半導体素子等の加工工程でのドライエッチング等におけるSF₆の使用 | 22,800 |
三ふっ化窒素(NF₃) | 代替フロンガス | 三ふっ化窒素(NF₃)の製造半導体素子等の加工工程でのドライエッチング等におけるNF₃の使用 | 17,200 |
表中にある「GWP」とは地球温暖化係数と呼ばれるもので、CO²を基準として他の物体がどれだけ温暖化を進める影響力が強いかを示しています。つまり、マグネシウム合金の鋳造などに用いられる六ふっ化硫黄(SF₆)は、同じ容量のCO²の約22,800倍も、地球温暖化を進める力を持っているということがわかるでしょう。
省エネ法と温対法の違い
どちらにも温室効果ガス排出量の報告義務があることから、よく混同されてしまう法律として、1979年に制定された「省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)」があります。省エネ法と温対法との大きな違いは、排出量の報告義務を課している対象の範囲と、法令違反を犯したとき、つまり報告を怠ったり虚偽報告をしたりした際の罰則規定が大きく異なる点です。
省エネ法が規制する分野は、工場等、輸送、住宅・建築物、機械器具、電気事業者の5分野に分けられていますが、対象範囲は燃料・熱・電気であり、再生可能エネルギーなどの非化石燃料は含まれていません。一方、温対法はエネルギー起源のCO²とそれ以外のガスに大きく分類されていますが、対象範囲は温室効果ガス全般であるため、それが化石燃料由来であろうが再生可能エネルギー由来であろうが、温室効果ガスである以上報告の義務が生じます。
また、温対法では排出量の報告をしない、または虚偽の報告をした場合には「20万円以下の過料」という罰則規定が定められていますが、省エネ法では分類ごとに複数の罰則規定が設けられている上、最大で100万円以下の罰金と温対法よりも厳しいものになっています。
脱炭素社会の実現へ!温対法改正のポイント
時代の変化や地球温暖化の進行状況などに併せて、法改正がなされてきましたが、今回の改正ではどのような点が変わったのでしょうか。
改正のポイント1 「基本理念の新設」
基本理念の新設なんてことを言うと何か小難しく感じるかもしれませんが、簡単の言うと今回の改正によって、今までどこか曖昧だった温対法という法律に、「明確なゴール」が設定されたのです。
その「明確なゴール」と言えるのが、「世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏二度高い水準を十分に下回るものに抑えること及び世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏一・五度高い水準までのものに制限するための努力を継続する。」としているパリ協定と、「我が国における二千五十年までの脱炭素社会(人の活動に伴って発生する温室効果ガスの排出量と吸収作用の保全及び強化により吸収される温室効果ガスの吸収量との間の均衡が保たれた社会をいう。)の実現。」というカーボンニュートラル宣言です。
この2つを基本理念として条文に明記したことで、国・地方公共団体・事業所・国民のベクトルが統一化され、確実性・実効性の高い施策・取り組みが今後立ち上がっていくだろうと、期待を集めています。
改正のポイント2 「再エネ導入の促進による地方創生」
今回の改正により、温対法が目指すゴールがパリ協定とカーボンニュートラル宣言であることははっきりしましたが、それを達成・実現するには再生可能エネルギーの利用に目を向けなければなりません。
しかし、太陽光発電や風力発電に関する設備が、地域住民の住環境に悪影響を及ぼすといったトラブルも発生しており、再エネ導入を進めるには地域との共生が不可欠になってきます。そこで今回の改正では、地域住民との合意形成をスムーズに進め、ひいては地域創生につながっていくようにするため、地域の再エネ活用事業の計画・認定制度を創設、温対法に明文化したのです。
国による地方公共団体への技術的・金銭的支援が必要ですが、再エネ活用事業の計画・認定に基づき、対象となった事業には補助金や助成金などを給付する制度が、今後各地で登場してくるかも知れません。
改正のポイント3 「企業の排出量の見える化」
3つ目の改正ポイントは、企業の温室効果ガス排出量情報のオープンデータ化、つまり見える化です。
先程触れた通り、温対法では「特定事業所排出者」または「特定輸送排出者」に対し、自らの温室効果ガスの排出量を算定し国に報告することを義務付け、さらにそれを国が取りまとめ公表するよう定められています。
この改正の狙いは大きく2つ。1つ目は一部でいまだにアナログで行っていた排出量報告・情報収集作業を完全デジタル化によって、事業者側・管理者側(国・地方自治体)双方の業務効率化を図ることです。もう1つはあくまでも予測の域を出ませんが、環境税・炭素税・排出権取引・クレジットなど、炭素に価格を付けることで排出者の行動を変容させる「カーボンプライシング」の法制化を見越した動きなのではという見方も一部で広がっています。
温対法改正を受け「企業がなすべきこと」とは
カーボンニュートラルの実現に向け、報告の対象となっている事業者はもちろん、その他の企業も今まで以上に脱炭素への動きを強めなくてはなりません。
そのためには、温対法を踏まえたエネルギーマネジメントシステム(EMS)を構築する必要があり、準備段階としてまずは、自社の温室効果ガス排出量を「見える化」し、EMS管理担当者だけではなく、全従業員がそれを把握しましょう。
自社の温室効果ガス排出量のうち、電気・ガス・水道などの消費に伴うものは、排出量そのものを、いち企業単位で減らすのは困難なため、それぞれの月間使用量をもとに、従来通りの省エネ対策を継続していくことになるでしょう。一方、多くの企業が事業に使っている自動車に関しては、工夫次第で温室効果ガス排出量削減の余地がまだまだ残されています。
たとえば、自動車が人間1人を1km運ぶのに排出されるCO²の量は「約147g」で、鉄道が「約19g」、バスが「約51g」、航空が「約109g」であることを考えれば、クルマ移動を公共交通機関に変えただけで、大幅な削減が実現します。
とはいえ、事業に関わる全ての移動と輸送を公共交通機関に変えることは不可能なため、EVやHVへの移行を進めつつ、無駄な移動や効率の悪い輸送を減らすなど、正確な動態管理にもとづく、車両配置や稼働状況の最適化を実施していきましょう。