超小型EVとは?2022年以降のトレンドを予測する

超小型EVとは?2022年以降のトレンドを予測する

EV――自動車の電動化は「世界をカーボンニュートラルに導く最新技術だ!」と思われている方も多いと思いますが、実は内燃機関で走行する自動車よりEVの方が歴史は古い、という事実をご存知でしょうか。

1880年代に入り、ガソリン車の本格製造が始まる半世紀近く前にEVの原型が作られ、当初内燃機関より有望視されていましたが、航続距離の短さが決定打となり長い間市場から姿を消していました。そんなEVも戦後のガソリン不足を起因とした第1次ブーム、そして、1990年代に入ってからの公害問題解決手段としてもてはやされた第2次ブームを経て、現在は「脱CO²」をきっかけとした第3次ブームを迎えています。

本記事では、近年注目が集まっている「超小型EV」にフォーカスし、その定義や規格を解説したのち、近年リリースされた超小型EVの実例を紹介します。

小型化はセオリー?EVも他の家電と同じ進化の過程をたどるのか

1963年、世界で初めて作られた電気卓上計算機(電卓)は、大きさ376×450×255mm、重さ約14kgという非常に大柄なもので、販売価格はそれこそ当時の車1台分に相当するほど高額だったと言います。そんな電卓も、LSI(大規模集積回路)や薄型液晶ディスプレイの採用、ボタン型電池やソーラー電池など小型電源の発達で一気に小型化し、1980年代にはお財布にすっぽり入るカード型電卓まで登場しました。

多くの方が現在、利用しているノートパソコンやスマホも然り、稼働用の電源を内蔵する電化製品は、それがまるで既定路線であるかのように、進化の過程で小型化あるいは薄型化が試みられます。そして、EVも今まさに超小型化している真っ最中ですが、その共通点は「人間と共に移動する」こと。小型化・薄型化することで、格段と利便性が増すと考えられているためです。とくに、日本のような狭い道路が多い一部の国や地域では、超小型EVのニーズが高まっています。

超小型EV、その定義と規格について

自動車には、用途によっていろいろな車種やタイプが存在します。サイズと出力に応じて普通自動車、軽自動車、超小型モビリティ、ミニカーの4つに分類され、そのうち超小型モビリティとミニカーに属する電気自動車を、超小型EV と呼んでいます。さらに、定型出力が0.6kW以下と最も小さく、車検が必要ないなど法律的に原動機自転車と同等の扱いとされるのがミニカーで、中国・JIAYUAN社製で中古車販売・買取会社のアップルが販売している「e-Apple」や、タケオカ自動車「ミリューR」がこれに該当します。

次に、超小型モビリティには、陸運支局等への持ち込み検査を省略することができる「型式指定車」と、陸運支局等への持ち込み検査が必要な「認定車」があり、ガソリン車を含め現在国内で販売されている量産車は、ほとんど型式指定車です。

種類超小型モビリティ(型式指定車)超小型モビリティ(認定車)ミニカー
サイズ長さ・2.5m以下幅・1.3m以下高さ・2,0m以下長さ・3.4m以下幅・1.48m以下高さ・2,0m以下長さ・2.5m以下幅・1.3m以下高さ・2,0m以下
定型出力0,6kW超0.6kW〜8.0kW0.6kW以下
車検ありありなし
最高速度構造上60km/h個別に制限法律上60km/h

なお、最もサイズ感が小さく小回りが利くのはやはりミニカー規格の超小型EVです。乗車定員は1名ながら、雨風をしっかり防げるため、宅配ビジネスにおけるラストワンマイルや普段の買い物に使う足替わりとしての活躍が見込まれています。

一方、超小型モビリティのサイズ感は、軽自動車より一回り小さい程度で乗車人数は2~4名、法律的には軽自動車と同じ扱いで車検を受ける必要がありますし、軽自動車と同じ黄色のナンバープレートが付与されます。ちなみに、ミニカーは規格(道路運送法)上では原付扱いですが、道路交通法上は「普通自動車扱い」となるため、2段階右折やヘルメット着用の義務はないものの、運転するには普通免許証以上が必要です。

近年リリースされた注目の超小型EV3種

ここからは、現在リリースもしくはメディア発表されている各メーカーの超小型EVをいくつかピックアップしてご紹介しましょう。

出光タジマEV 新規格に即した4人乗り超小型EVを開発

出光タジマEVは、大手石油元売り企業の出光興産と、EVの企画・設計・製造などを行っているタジマモーターコーポレーションの共同出資により、2021年4月設立された新会社です。同社は、出光興産が持つ素材開発技術と、タジマのEV車両設計技術を結集し、2020年9月に国土交通省が発表した新規格に準拠した、4人乗り超小型EVの開発を発表しました。

公表された車両のサイズは、全長2495×全幅1295×全高1765mmで最高出力は15kWとのことですから、馬力に直すと約20㎰・最高速度60km以下、ガソリン車に比べると少し馬力が弱く感じるかもしれません。しかし、とっさの判断ミス・操作ミスを起因とした高齢者による自動車事故が増加している今、時速60㎞以下という低速走行は、運転に不安を感じている方や、運転に不慣れな方でも、安心して運転できるのではないかと期待されているのです。

また、出光タジマEVは出光興産が持つ全国約6,000か所以上の系列SSネットワークを活用し、シェアリング・サブスクサービスの開発や充電インフラの提供。車両・バッテリーのリサイクルシステム創出なども、同時に進めていく方針です。

現代(ヒュンダイ)モービス EVベースの超小型モビリティをCES2022へ出品

2022年を迎えて間もない1月3日、世界最大のハイテク技術見本市と称される「CES2022」が、米国ラスベガスで開催されました。テレビやゲーム機、PCなど家電市場の最新モデルが集結し、テクノロジーの未来を映し出す窓のような役割を担っているCES。今回は、400社以上のモビリティ関連企業が駆動系のEV化や自動運転など自慢の技術を出展しました。

BMWが発表した、ボタンを押すだけでボディカラーを切り替えられる電動SUV「BMW iX」や、航続距離約644km・664馬力をたたき出すGMの「シボレー シルバラードEV」などが注目を集める中、ひときわ異彩を放っていたのが現代モービスの超小型EVです。

現代モービスはこのCESに、EVベース超小型モビリティ「エムビジョンポップ」と、都心型水素モビリティの「エムビジョン2GO」の2種を出展しましたが、どちらも既存の自動車の常識を覆す動きに注目が集まりました。同社はこの2車種に、動力伝達・方向転換・衝撃吸収・制動という、本来数種のパーツが分担して請け負う駆動の4原理を、1つの車輪に全て詰め込んだ「e-コーナーモジュール」という昨年10月に開発を完了した新技術を採用。

通常、自動車の駆動系統はいくつかのパーツが連動して機能するため、構造上その操舵角(タイヤの切れ幅)には限界がありますが、この「e-コーナーモジュール」は車輪に内蔵されたモーターが独立して駆動します。そのため、車体を左右へカニのように移動させる「クラブ走行」や、その場で360°回転する「ゼロターン」が可能となり、都心の狭い道路環境での走行敏捷性や、駐車時の安全性が増すと言われているのです。

また、ドライバーと歩行者がコミュニケーションを取れる機能や、スマホのカーナビと車載ディスプレイを連動する機能、さらにドライバーが付かれた時ハンドルを助手席に移動させ、運転をそこに座っている同乗者に移管できる機能なども採用、次世代の車として熱い視線を集めているのです。

トヨタ 1人乗りの「コムス」、2人乗りの「C+pod」を展開

トヨタグループの一員として、主にミニバンやSUVの製造に携わっているトヨタ車体がリリースしている超小型EV「コムス」には、通勤・通学・買い物などの普段使いを想定した「P-COM」と、営業や宅配事業などビジネス利用を想定した「B-COM」がラインナップ。いずれも規格的には、原付バイクと同じミニカーで最高速度は60km、家庭のAC100V電源から約6時間でフル充電でき、一度のフル充電で約50km走行可能、現在はコンビニ大手・セブンイレブンの宅配サービスなど、ラストワンマイルとして活躍しています。

一方、トヨタ自動車本体が販売している「C+pod」は、軽自動車より一回り小さい超小型モビリティ(型式指定車)規格の2人乗りEVで、フル充電時の航続可能距離はWLTCモードで約150kmありますから、普段使いには十分です。また、狭い道路や駐車場でも扱いやすいコンパクトなサイズ感ながら、場所を取るリチウムイオンバッテリーを足元の床下に搭載することで、段差の少ないフラットで広々としたなフロアとラゲッジスペースを確保。

さらに、超小型モビリティ用に新設された安全基準にも対応しており、エアバックを完備しているほか、衝突時衝撃吸収・歩行者傷害軽減ボディを採用するなど、安全面にも配慮されています。

まとめ~カーボンニュートラル達成のカギは超小型モビリティが握るのか~

カーボンニュートラルを達成するために、ガソリン・ディーゼル車からEVへの転換は避けて通れないことは確かですが、全てのクルマがEVに移行したとしても、それだけでは不十分です。

なぜなら、地球環境に害をなす排気ガスを排出しないEVですが、内装のプラスチックやタイヤのゴムなどの「石油化学製品」が多用されていますし、本体の製造・廃棄の過程で、大量のCO²が排出されているからです。また、動力源である電気にしても、発電と輸送の過程で少なからず有害な排気ガスが排出されますし、特に日本では発電の大部分が原油を用いる火力発電に依存しています。

つまり、EVの復旧促進に併せて、車体の小型化・軽量化による石油化学製品の減量と、エネルギー効率向上を同時に行わなければ、「CO²排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」ことは困難だと言えるでしょう。

そんな中、モバイル家電の進化過程を見てもわかる通り、国内の家電メーカーは伝統的に小型化に関して定評がありますし、軽自動車という世界にはない、独自の小型モビリティ製造ノウハウを持ち合わせています。このアドバンテージを活かせば、世界のEV市場で日本のメーカーが覇権を握ることも十分可能ですし、ひいては人類共通の目標である、ニュートラル達成への道筋も見えてくるのではないでしょうか。