自己紹介とスマートドライブの事業
私はアドビシステムズやマルケト、セールフォース・ドットコムなどで、DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現やデジタルマーケティング、CRMに関する業務を推進してきました。そして2019年スマートドライブにCROとして参画。転職のきっかけは、デジタルマーケティングで起きた変化が、これから5年のうちにモビリティの領域でも起きるだろうと感じたためです。
このセッションでは、私からモビリティデータの解説から活用方法までをお話しさせていただきます。
スマートドライブは「移動の進化を後押しする」をビジョンの掲げ、収集した移動データの価値を最大化することに注力している企業です。ビジネスモデルはデータのインプット、アウトプット、プラットフォームと3つの領域で展開しています。
データのインプット:私たちが提供しているシガーソケット型のデバイスや温度センサ、その他の移動体からデータを収集しています。
プラットフォーム:インプットによって各所から集まったデータを蓄積し、価値へと変換します。
価値に変える方法は大きく2つ。1つが「他の業界の他のデータとかけ合わせて価値を生み出す」こと。もう1つが「私たちのプラットフォームと他のシステムを掛け合わせて価値を高める」こと。CRMのシステムや営業のワークログを残す仕組みと連携させる、タレントマネジメントや人事評価システムと連動させて配送員の評価に反映するなどです。
データのアウトプット:そういった中で私たち自身が収益性が高いと見込んだものは自社でサービス化をしています。現在は、BtoBの車両管理SaaS「SmartDrive Feet」、BtoCの見守りサービス「SmartDrive Families」BtoBtoCのドライバーエンゲージメントサービス「SmartDrive Cars」、そして移動データを収集するMobility Data Platformの4つを提供しています。
「モビリティデータ」とは何か
さて、ここから本題に入りましょう。
私たちが扱うモビリティデータは、2つのデータで構成されています。1つが車両の動態データ。これは移動中の重力や加速度、速度、位置情報のことで、スマートドライブでは0.1秒単位でデータを収集し、G-Forceという機能でそれを可視化しています。2つ目が、走行開始から終了地点の緯度経度、走行距離、走行時間、アイドリングしている時間、急操作の回数などを含む車両の走行データです。
モビリティデータは、次のような特徴を持っています。
- 誰にでも分かるシンプルなデータである
こちらは、私たちが収集しているモビリティデータをアウトプットした画面です。
走行開始から終了までの位置情報をベースに、どこでアイドリングや急加速が発生したのかといった情報が地図上から一目でわかるようになっています。特段、知識や経験がなくても、誰もが視覚的に「この人は〇〇道で危険運転をしていて、アイドリングは全走行のうちだいたい〇分くらいしていた」と理解できるのが特徴です。また、右上には走行距離や走行時間を表示しています。
- 視点を変えることで多くのことが分かるデータ
視点を変えるために重要な要素はいくつもあります。
これは、モビリティデータをどのように利活用できるかを洗い出してまとめたものです。まずは大きく「売上の増加」「コストの削減」「CSRの推進」の3つに分け、そこからさらに細分化した要素を記しました。
売上を増やすためには受注件数と案件単価が、コスト削減ではヒトとモノ、両方の観点から削減可能な項目を考えねばなりません。CSRの場合は、働き方改革、安全運転、エコドライブなど。これらはそれぞれ、モビリティデータを元に改善できます。
モビリティデータを「売上増加」から分析する
「売上増加」を目指す場合、モビリティデータをどのように見ればより上質なインサイトを得られるでしょうか。
まずは、営業生産性の捉え方について整理したいと思います。これにはさまざまな考え方がありますが、モビリティデータを基軸にする場合、営業効率と営業稼働率に着目します。客先に向かっている移動時間は本来の業務とは異なりますので、営業活動時間から除外しましょう。コロナ禍においてオンラインでの営業が急増していますが、これは営業活動時間を最大化させるうえでも重要な変化です。
営業効率とは営業活動1時間あたりの売り上げを、営業稼働率は総労働時間のうち営業活動に費やしている時間を表します。
営業効率:まず、新規顧客の獲得と既存顧客の取引拡大と2つの観点で考えます。モビリティデータに売上データをかけ合わせることで、新規顧客と既存顧客の売上比率、同程度の売上を獲得するための工数、顧客ランクごとの売上比率や構成率などが把握できるようになります。
営業稼働率:営業活動時間、つまり商談時間を最大化させるために、移動時間や活動報告時間、資料作成時間をどれくらい最小化できるかがポイントです。
ここでいくつか事例を紹介させていただきます。下図は、縦軸に前四半期の売上を、横軸に前四半期の訪問回数をプロットしたものです。右に位置するお客様は、何度も訪問しているのに売上が小さい。左上を見ると、少ない訪問回数で大きな売り上げを獲得したお客様がいるとわかります。大きな売上の背景には、ビックディールと呼ばれるような大規模案件を獲得できたのかもしれませんし、営業担当者の交渉術が長けていたのかもしれません。これらの情報に、活動情報がわかるワークログをかけ合わせると、より立体的な分析ができるようになります。
次に紹介するのが下図のマップです。左に掲載しているのはエリア偏重のヒートマップです。営業拠点が多い企業ですと、A支店とB支店の営業担当者が稼働するエリアが実は重複していたというケースも少なくありません。そこで、各営業担当者の移動データを収集してマップの上で表しました。このマップを見ると、A支店の営業担当者とB支店の営業担当者が同じようなエリアを訪問していることがはっきりとわかりますね。拠点地をベースに考えれば、お客様Cに近いB支店が訪問すべきですが、A支店の営業担当者がCを保有している。移動データではそうした情報を可視化できますし、効率化に向けた具体的な改善箇所を浮き彫りにできます。
図の右側は「エリアの最適化レポート」です。こちらでは拠点対拠点ではなくて、人対人で比較しました。売上の低い営業担当者が他の担当者と比べて移動時間や距離が多いことがわかると、原因が移動距離にあるのではないかと分析できるようになります。いずれもモビリティデータを基軸にしているからこそ、把握できる情報です。
最後に、こちらは営業担当者からすると快くないデータでしょうが…移動時間の中でアイドリングにかかっている時間・割合を可視化したものです。グレーが営業担当者の労働時間、青は労働時間中の〔移動時間+アイドリング時間〕を表しています。
これを見ると、一日の労働時間の中で、ある日は移動・アイドリングの割合が全体の20%、また別の日は50%以上を占めているとわかります。そうすれば、割合が高い担当者からオンライン中心の営業スタイルへ移行していくなど、営業のあり方を変えていくこともできるでしょう。
モビリティデータを「コスト削減」の観点で考える
ヒト視点で考えるコスト削減
みなさん、ハインリッヒの法則をご存知でしょうか。1件の重大事故の背景には、29件の軽微な事故が隠れていて、さらにその裏には急操作、ヒヤリハットなどの300件の異常が隠れているというものです。つまり、ヒヤリハットの件数を減らすことが重大な事故の減少にもつながるということ。それにはまずヒヤリハットが発生した場所を明確にして、次に一定期間で安全運転の割合(定義は各社によります)が改善に向かっているかを確認しなくてはなりません。そして一定期間で比較したら、月ごとに結果を振り返ります。
曜日ごと、日ごとに分けたデータで見ると、金曜日は安全運転をするドライバーが減ること、土日祝日は仕事がお休みのペーパードライバーが運転するケースが増えるので安全運転の割合が低くなることなど、安全運転の傾向を可視化できるようになります。
もう一つ、安全運転には、危険な場所を避けることも重要です。事故の原因を追求していくと、「細道だとわかっていたが行けるだろうと思って侵入してしまった」「見通しは悪いが、近道なので利用してしまう」というケースも多くありました。危険回避のは安全運転と同じくらい重要なこと。特定の危険箇所を把握して、そこを通らないように注意を促すことができれば、未然に事故の芽をつむことができるのです。
スマートドライブでは、個々のドライバーの運転傾向を知るために、加速・減速・ハンドリング、3要素からなる安全運転スコアを提供しています。これによって、各ドライバーの運転傾向を組織単位で把握できますし、さらにドリルダウンをして個人単位でどこをどのように改善すべきかを客観的に伝えることもできます。そうすることが有効な安全運転管理と考えていますし、結果として事故を防ぎ、コストの削減へとつなげることができるのです。
モノ視点で考えるコストの削減
「モノのコスト削減」については、クルマを例にあげて説明させていただきます。
とある車両を20台ほど所有している企業のモビリティデータを収集したところ、ほとんど稼働していない車両が2台あることがわかったとしましょう。ここで、「この2台を用途に応じてレンタカーやカーシェアなどに変えれば、大幅なコスト削減につながるかもしれない」と仮説を立てます。
その仮説が正しいのか、どれくらいの削減ポテンシャルがあるのか、まずは1ヵ月間の稼働率を日付と時間帯で可視化します。
左の図では、時間ごとの稼働率を示しており、濃い青は高い、薄い青は低い、白はまったく動いていないことを意味します。これにより、午前中に稼働が集中している、昼間は未稼働が多いなど、傾向が見えてきます。さらに、濃い青をクリックすると、車両を利用していたドライバーの一覧表が表示されますので、そこから、「Aさんはこの時間に車を利用する必要はなかったかもしれない」「Bさんは車を利用する必要がなかったのでは」とさまざまな情報がわかり、削減のポテンシャルが本当に2台なのか、実は1台なのかということが判断できるのです。
モビリティデータを「CSR推進」の観点で考える
ここでは「エコドライブ」をベースに考えてみましょう。
こちらはあるお客様のサンプルデータです。スマートドライブでは給油データと給電データを共有いただくことで、1台あたりのCO2の年間排出量が算出できるため、どのような運転ならCO2が削減できるかといった具体策を提案することができます。また、最近ではSDGsや環境改善のCSRに取り組まれる企業さまも非常に増えましたので、ガス車、EV車、ハイブリット車におけるCO2の削減シミュレーションを算出した事例も多くございます。ガソリン車とEV車、100kmあたりの費用がどれくらい異なるのか。モビリティデータをより細かく分析することも可能です。
- 他のデータと掛け合わせる事で更なる価値が出る
いよいよモビリティデータの特徴の3つ目についてです。データの掛け合せをするときに重要なのが、どのデータと掛け合せると新しい価値が生まれるのか、仮説を立てて実証することです。
SFA/CRMの営業情報と掛け合せれば、先ほど紹介した営業生産性を分析することもできますし、「生産性向上」が目的であればマーケティングデータ、人事情報、交通関連情報などが思いつくのではないでしょうか。最近では安全運転をより強化させるためにドライバーの生体情報や車両の温度、二酸化炭素濃度といったデータも取得しています。これらによって、運転中に眠気が誘発される原因を突き止め、効果的な眠気防止策を検討できるようにもなります。
また、最近はコロナの影響で減少していますが、インバウンドの観光客がどのような流れでどの場所に移動しているのかもデータから把握できますし、その地域で暮らす住民の動線がバス停が設置されたことでどう変わったのか、この地域にコミュニティバスを走らせればは高齢者がマイカーを運転する必要が無くなるなど、モビリティデータとその他のデータを掛け合せることで、明らかにできます。そうすれば、より良い施策を考えることができ、人々にとってより大きな価値を提供することができるでしょう。
モビリティデータの活用事例
モビリティデータを活用すればどのようなことが実現できるのか。ここで少し、モビリティデータを活用したスマートドライブの事例をご紹介させてください。
スマートドライブ×小田急電鉄の事例
小田急沿線にお住いの高齢者の運転を見守り、交通事故を減らすための取り組みを行っています。家族見守りサービス「SmartDrive Families」で安全運転を啓蒙しながら危険運転が発生したヒヤリハット情報を集め、注意喚起を促したり、今後工事すべき道路マップを作成したりしようと考えています。
スマートドライブ×ロイヤリティマーケティングの事例
次に、ポンタポイントサービスとの連携です。ポンタ会員のるマーケティングデータと移動データを掛け合わせ、○○を訪れているが購入はしていないとか、□□を購入する時はマイカーで訪問しているが、△△を購入する時は電車で移動をしているなど、移動データと購買データで分析しています。
スマートドライブ×HONDAの事例
EVバイク向けのテレマティクスサービスを立ち上げ、EVバイクの走行情報や稼働率のデータを集めて分析しています。
スマートドライブ×住友商事の事例
従業員向けオンデマンドバスの最適化ですね。これは、どうするとこのオンデマンドバスが収益化されるかをテーマに分析しています。
スマートドライブ×出光興産の事例
現在、館山市で超小型EVの実証実験を実施しています。そこに住む方がEV車を利用してどんな場所に行っているのか、どのような運転であればEV車両一台あたりの走行距離を伸ばせるかなど、モビリティデータをサービス改善へと反映させています。
企業がデータを活用するために必要なこと
最後に、データを企業内で活用するために必要なものについてお話させていただきます。
データは収集して、加工して、成形して、そこから分析をして初めてインサイトが取得できるものです。データの収集から成形までは、直接アウトプットにつながらない部分であるため、「データ分析・インサイト取得」へ注力しましょう。
インサイトを取得して新しいビジネスを創出する。それがいわゆるDXと呼ばれる領域ですが、インサイトを取得する際に重要なのは「事業のデジタル化」を前提にデータを捉えることです。データをどれだけ集めても、人の稼働が必須となるビジネスのままでは、そこからスケールすることができません。インサイトが得られたデータやモノをデジタルに変換し、事業自体をデジタル化させていくことでDXは意味をなすのです。
もう一つ重要なことは「ビジネスプロセスのデジタル化」です。収集したデータから新たなビジネスモデルを見出したとしても、先ほど同様、紙やファックスでの運用、電話のオペレーションがデフォルトのままでは、ビジネス自体をスケールさせていくことができない状態になってしまいます。ですから、DXを推進するには、「事業」と「ビジネスプロセス」の両方をデジタル化させましょう。
この2つをデジタル化させるときに、重要なカギとなるDXの“ABCD”を最後に紹介させていただきます。「AI」「Big Data」「Customer Experience」「Design Thinking」。この4つをDXの土台にすることによって、企業のDXが加速されると私たちは考えています。
私からの説明は以上です。ご清聴ありがとうございました。