高速化するイノベーション~「ロジスティクス4,0」で変わる物流ビジネス

高速化するイノベーション~「ロジスティクス4,0」で変わる物流ビジネス

ロジスティクスはもともと戦闘地帯における作戦行動に必要な物資供給・支援や、人員の移動などを意味する軍事用語でしたが、経済活動に転じてからは原材料調達から商品の生産・販売に至るまでの物流プロセス、もしくはサプライチェーン・マネジメントの一部とされています。

米国ではマーケティングの一部として、20世紀の早い段階から大学や企業団体による研究・教育が進められており、日本のロジスティクス研究はそれより10年近く遅れていますが、そこへ追いつくべく高速でイノベーションが生まれています。

今回は、ロジスティクスという概念の誕生から現在までの変遷を振り返り、第四の波とされる物流イノベーション、「ロジスティクス4.0」について解説します。ロジスティクス4.0によって未来の物流ビジネスはどのような予想図を描いているのでしょうか−―?

変化を遂げてきたロジスティクス・イノベーション

ロジスティックスという概念が登場したのは案外古く、農業における生産物の流通コスト削減やマーケティング戦略を論じる書籍の中の“いち経済用語”として登場しました。

そんなロジスティックスに大きな変化が現れたのは、19世紀中盤から始まった輸送のモータリゼーション化から。高速道路の整備とトラックの普及により、これまで船舶に頼っていた大量輸送が高速輸送可能な陸上輸送へ、大幅に転向していったことで一気に物流革命が巻き起こりました。また、鉄道でのコンテナ輸送や航空機による空輸など、輸送の選択肢が増えたこと、そして海上輸送も大型機船・汽船の普及により安定性が向上したことで、ロジスティクス・イノベーションは「大量輸送時代」へと突入。これが「Ver,1,0」、物流イノベーションが起きた瞬間でした。

1960年代から先に進むと荷役の機械化による「Ver,2,0」がやってきます。ここまでは人力でトラックへの荷積みをしていたものが、フォークリフトの普及によって機械による荷積み作業を可能に、そして船舶・鉄道・航空機ではコンテナによる一括荷役が可能となりました。さらに、物資を保管管理する倉庫においても、自動仕分け・自動ピッキングをする物流機器が一部実用化されるなど、ロジスティクスが大幅にアップグレードします。

ロジスティックにおける機械化の流れは1980年代に入るとさらに加速し、次のようなITシステムの導入によってさらに効率的な「Ver,3」へと変貌を遂げます。

  • WMS・・・倉庫に入荷した物資が出荷されるまでを管理するシステムで、在庫管理・貨物ロケーション管理・各種帳票作成などの機能を有している。
  • TMS・・・輸配送管理システムのことで、効率的な配車・運送計画の作成やGPSによる車両位置把握、その他荷主ごとの運賃データ出力や、運行日報の自動作成・荷室内の温度管理を可能にする機能を持つシステムも登場している。
  • NACCS・・・入出港する船舶・航空機および輸出入貨物について、税関での手続きや関連する民間業務をオンラインで処理するシステムのこと。2010年2月にこれまで別々に稼働していた、空・海のシステムが統合され利便性が向上。

そして今、私たちの時代は、ロジスティックは進化するIoT、AI、ロボットテクノロジーを駆使して、人の力を必要としない完全な機械化・自動化を実現させた物流イノベーション、「Ver,4,0」の世界へ突き進んでいる真っ最中です。

ロジスティクス4,0は物流の何をどのように変えるのか

ロジスティクス3,0までは、機械化・システム化・インフラ整備などを取り入れることで、物流における各作業の効率アップを図ることが最たる目的でした。そして遅ればせながら、日本も先行する欧米各国に追随して普及が急進していきます。

一方、ロジスティクス4,0は物流プロセスを省人化しつつも、生産性は向上させるという考えが軸にあります。日本の倉庫・運輸業における労働生産性は米国と比較して非常に低く、経済産業省が毎年発表する「通商白書」によると、1990年時点で約92%だった米国との格差は、2009年には約62%にまで拡大しているということです(いずれも同年米国労働生産性を100%しています)。

Amazonや楽天をはじめとするECサイトの普及拡大に伴い物量が増加している半面、慢性的な人出不足が続くことで人件費が上昇し、否応なく生産性を引き下げているのです。そのため、高度な倉庫ロボットや自動運転の導入によって生産性の向上が実現すれば、国内物流業界が抱える「3K(キツイ・汚い・くさい)」や「人出不足」といった課題の大幅な解消が期待できるということです。

そうした背景から、「省人化」を目指すロジスティクス4,0への移行が急務とされていますが、国内の物流業界にはそれを阻む2つの大きな障壁が存在します。

1つ目は、100人以上の業者が22%以上を占める米国に対し、日本の倉庫・運輸業者はわずか4%程度であること。国内の業者の約半数が10名以下で運営されているため、ヤマト運輸や日通などの大手はともかく、大規模なシステムやITロボットを導入したくてもコスト面で困難です。ロジスティクス4,0において、先行している国際物流大手のDHLやFedExは、M&Aによる事業規模拡大とロジスティック・プラットフォーム標準化に成功し、グローバルかつ互換性に優れたサプライチェーンを構築しました。

日本郵便も日通と共同出資で、両社の宅配便事業を統合する受け皿会社、「JPエキスプレス」を2010年に設立したり、豪国のロジスティクス企業トール・ホールディングスを買収したりするなど、業界再編を目指しましたが思うような結果を出せず、前者に至っては設立翌年に倒産しています。

2つ目は、国内物流業界が元来持ち合わせている特有の古い体質にあります。言い換えてしまうと、業界再編とロジスティクス・プラットフォームの標準化が遅れている原因はここに隠されている可能性もあるということです。

日本の物流オペレーションは、荷主ごとの個別ニーズに合わせ、高品質のサービスを提供する「オートクチュール型」で、契約範囲や価格などに統一性がなく問題が発生した時の業務改善法も個々に違います。それどころか、中小業者の乱立に伴って価格競争の激化し、むちゃな値引き交渉に応じたり過剰なサービスを提供したりと、労働生産性が低下する要素は数え切れないぐらいあるのです。

一方、欧米の物流オペレーションは物流業者側から荷主に対して、ロジスティクスの高度な知識や指標に基づく提案と価格提示を行い、荷主に理解を得たうえで契約と作業を進める「プレタポルテ型」というスタイルを取っています。

世界銀行が160ヵ国を対象にアンケート調査した、「Logistics Performance Index 2016」によると、日本の物流パフォーマンスに対する評価は第12位という結果でした。決して悪い順位とは言えないものの、欧米諸国はもちろん、欧米型物流オペレーションを早くから導入しているシンガポールや香港に劣っている点を考慮すると、ロジスティクス4,0時代に備え、国内の物流業界は欧米型への転換時期に差し掛かっていると言えるでしょう。

すでに動き始めているロジスティクス4,0

多岐にわたる物流プロセスにおいて、IoTテクノロジーの活用による省人化、もっともロジスティクス4,0へのアップグレードが進んでいるのは倉庫管理の分野です。

世界的EC大手のAmazonでは、1日当たり20km以上倉庫内を歩き回らなければならなかったピッキング作業員の労働環境を改善するため、2012年にロボットメーカー「Kiva・Systems」を買収しました。そして、自社製の倉庫ロボットを開発・導入し自動化を進めた結果、今では作業員は一切歩行する必要がなくなり、大幅に生産性が向上しました。また、日立製作所もAmazonのロボットとほぼ同じ機能を持つ、小型・低床式無人搬送車「Racrew(ラックル)」を開発し、「モノタロウ」の物流拠点などに納入されすでに活躍しています。

物流のキープロセスとなる運搬・輸送分野に関しては、省人化が進んでいるとは言い難いところですが、こちらも先行しているのはやはり欧米諸国の方です。

世界最大のトラックメーカーのダイムラーは、高速道路を80km/hで自動走行できるトラックを開発、ドイツやアメリカ、中国でなどで公道走行試験を繰り返しており、2025年をめどに実用化を目指しています。さらにロールス・ロイス社は、陸上の集中制御室で複数の船舶を操舵するケースを想定し、最終的には乗組員不在で運用することができる、ドローン船の開発・実用化へと取り組んでいるのです。

無人ドローン船が日の目を見る日が来た場合、乗組員の居住スペースが不要になり、燃費効率の向上や積載スペースの拡大も期待できるため、自動運転トラック以上の経済効果を物流業界にもたらすと言われています。

しかし、自動運転トラックにしろドローン船にしろ、国内外のメーカーはまだ実験を重ねている段階でしかなく、安全かつスムーズな実用化へはもう少し時間がかかりそうです。どちらもの物流業界に導入するには法律や保険制度の整備が不可欠であるため、運搬・輸送の「完全無人化」実現はまだまだ先の話だと言えるでしょう。

とはいえ、運搬・輸送の省人化を「人的労力の省略」と捉えれば、労働時間の短縮や作業の簡略化を図ることができますし、パワードスーツの採用や部分的な自動運転の実現により、「3K」というレッテルから解放されれば人材が確保できる道も見えてくるはずです。

正確には自動運転と定義されないレベル2以下、現在国内法で公道を走行できる「運転支援技術」が搭載されたトラックを導入するだけでも、ドライバーの疲労軽減や事故予防につなげることができ、生産性が向上します。

物流のラストワンマイルについてはAmazonやDHLがドローンの実用化を急ピッチで進めていますが、国内大手プラント会社の千代田化工建設は、資材管理にドローンを活用し、大幅な業務効率化に成功しています。日本経済新聞の報道によると、同社はプラント建設現場に数十万点ある資材へICタグを付け、上空から無線通信で物資の所在を確認できるシステムを構築。

これにより紛失・盗難への警戒など、管理に必要な人手を最大3分の1にまで減らせたとのことです。この事例で採用されたドローンの価格は約75万円、ICタグは1つ50円未満で高度なシステムの構築も不要であるため、国内の中小物流業者でも、導入コストをかけることなく取り入れることができるのです。

ロジスティクス4,0が描く物流の未来図

物流業界の次世代ビジョン、ロジスティクス4,0が完全に昇華されれば、倉庫では作業員の姿が消え、自動運転トラックとドローン船が休みなく陸・海を走り回り、エンドユーザーへ空中輸送するためのドローンが飛び交う、そんな物流の新時代がやってきます。

そこに到達するにはまだ時間を要しますが、ロジスティクス4,0によって省人化が現在より少しでも進めば、人的要素で物流パフォーマンスが変動することはなくなりますし、プラットフォームが標準化すればノウハウによる企業間格差も縮小していくでしょう。裏を返せば、ロジスティクス4,0に乗り遅れてしまうと、これまでに3度到来した変革期以上に過酷な自然淘汰の波にさらされることも考えられます。

普及スピードはともかく、ロジスティクス4,0という概念が今後、物流ビジネスに共通するベクトルとなっていくのは明らかです。物流業者はもちろん、今後は荷主側のメーカーも物流を効率的に利用するシステムを構築すべきなのかもしれません。

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