次々とイノベーションを生むハイテク国家イスラエル

次々とイノベーションを生むハイテク国家イスラエル

1948年の独立からおよそ70年で産業を大きく成長させ、近年ではITやテクノロジー、医薬品の分野で目覚ましい発展を遂げている国、イスラエル。

最近ではインテルやマイクロソフト、グーグルなど、誰もが知っている大企業が支社や研究室を置き、日々新たな技術が研究されています。メディアによって耳に入る政治や国際情勢の情報からは少しネガティブなイメージを持つ方も多いかもしれませんが、成長著しいハイテク国家として躍進しているのです。

イスラエルってどんな国?

中東のパレスチナに位置する国家、イスラエル。地中海に面しているこの国は、聖書の舞台となっているエルサレムが首都です。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、様々な宗教が混在し、面積は2.2万㎢と日本でいうと四国ぐらいの広さ。人口は約868万人(2017年5月)と小国ながら、一人当たりのスタートアップ設立数は世界一に輝くほど急速な発展を遂げているのです。

国内では起業家やベンチャー企業を支援・育成する制度が充実しており、海外からのイスラエルの優良企業に対する直接投資や買収も多く、世界各国から投資される国として注目されています。

2000年9月に発生した第2次インティファーダや米国経済の減速の影響により経済は停滞していましたが、2003年以降は自国通貨の対ドル・レート低位安定等を背景とした競争力の向上やイラク戦争終結によるビジネス環境の改善などにより、ハイテク・IT分野を中心に輸出が好調を見せます。そこで2007年には建国以来初の4年連続5%超の成長を記録。米国の金融不安等に端を発する世界経済減速の影響等により経済成長率が一時的に落ち込んだものの、2009年下半期にはいち早く成長路線に復帰しました。以降、10年5.0%、11年4.6%、12年3.4%、13年3.3%、14年2.6%、15年2.5%、16年4.0%と、毎年プラスを見せています。

高度な技術力を背景としたハイテク・IT分野、ダイヤモンド産業を中心に著しい経済成長を続けるイスラエル。ダイヤモンドの輸出は非常に多く、宝飾品として世界で使用されている80%がイスラエル製であると言われています。これまでは死海周辺で産出される臭素等を除きエネルギー・鉱物資源には恵まれていませんでしたが、近年は排他的経済水域内において大規模な天然ガス田の開発が進められ、2013年には一部で生産が開始されています。

日本とは違い、雨が少なく水資源が限られていますが、その中でも独自のバイオテクノロジーやコンピューター制御によるイリゲーションシステム(灌漑設備)を開発してきました。そのため砂漠の中にも酪農場や豊かな農場があり、なんと農作物自給率は93%にも上ります。

農業からテクノロジーまで、短い期間でここまで大きな発展を遂げていたということ、初めて知った方も多いのではないでしょうか。

独自の技術で発展したイスラエル

テクノロジーやITの成長以前に、イスラエルの景気を拡大させた要因としてまずあげられるのが灌漑施設における技術革新でしょう。

イスラエルの水理技術者シムハ・ブラスが点滴潅水の原理を偶然発見したことをきっかけに、ネゲヴ砂漠の小さな農業集団であるキブツ・ハツェリの高い製造技術と農業知識に支えられ、その分野では世界でも初めての生産施設が開設されました。そこからオリジナルモデルの改良を重ね、点滴潅水技術が急速に世界中に広まります。その結果として、低コストでの海水の淡水化に成功し、2012年には世界最大規模の淡水化施設が開設され、現在では国内全水消費量の約4割が淡水化された水によって賄われていると言われています。

このネタフィムの点滴灌漑からイスラエルは独自の農業技術の発展を遂げ、年間降水量が700ミリ以下であっても、高い食料自給率が得られているのです。

自国の自然環境要因と隣国との緊張関係に挟まれる中、自給率を保持しなくてはならないイスラエル。国の発展とハイテクな農業を実現するために大きな源となっているのが数々のスタートアップ企業です。2015年は農業テクノロジー(以下、アグリテック)への総投資額は46億とされていますが、イスラエルは5億5,000ドルもの投資を獲得しました。

決して天候や土地の条件が良いとは言えないイスラエルですが、クラウドベースの農業システムやアプリなど、ITの力によって無理無駄なく“効率の良い”農業を行なっています。

1998年に創業した農業ベンチャーのPhytechは、作物への給水量や給水時期といった水の管理を最適化する「意思決定支援ツール」を開発。これはアプリでは機器を介して作物のストレスレベルを確認でき、収穫量の最大化を狙うもの。サービスのフルパッケージには、作物に取り付けるセンサーから分析用クラウドシステムまでのすべてが含まれており、同社は環境を物ともせずに独自のIoP(インターネット・オブ・プラント)を構築しているのです。

イスラエルには1912年に設立されたイスラエル最古の国立技術大学、テクニオン・イスラエル工科大学があります。マサチューセッツ工科大学にも引けを取らない世界最高峰の大学で、世界の名だたるIT企業が人材を囲い込むほど、優秀な学生が集まっています。ここでは少なくとも1度は起業を経験する卒業生が約68%もいるそう。また、イスラエルでは市民の多数が大学進学前に軍隊に参加しますが、軍隊においてテクノロジーの教育を受けることも多いといいます。

また、小学校の段階から全ての国民にプログラミング教育を義務付けているようで、特に優秀な理工系の学生が国から選抜されて入隊する8200部隊と呼ばれる軍の研究開発部門に配属され、最先端の軍事技術の中核を担っています。軍事技術の民間転用を促進していることから、8200部隊出身者を始めとして多くの若者が起業し、スタートアップ大国の隆盛を担っているのです。

このように、起業家精神とテクノロジーの教育を受ける環境が整っているため、高い技術力を持つ優秀な人材やスタートアップ企業を続々と輩出できるのでしょう。

Startup Genomeが発表した世界トップクラスのスタートアップ・エコシステムに関する報告書の前半部において、スタートアップ・エコシステムを生み出した世界のトップ20の都市をランキングしたところ、1位のシリコンバレーに次いでイスラエルのテルアビブが2位にランクイン。

テルアビブをグローバルなスタートアップ都市にすることを目的とした団体Tel Aviv Globalは、ベルリンやロンドン、パリ、ニューヨークなどの都市との起業家同士の交流を積極的に行い、グローバルなコラボレーションが生まれる機会を促進しています。また、2015年10月に「イノベーションビザ」というプログラムがスタートし、選出されたスタートアップ企業を対象に外国人の従業員に2年間のビザを与えることとしました。

シリコンバレーに負けない、優秀なスタートアップが揃う国

ニューヨーク市をシリコンバレー級のIT集積地にするプロジェクトが進められ、市が世界中の名門大学のIT研究施設を誘致するなか、テクニオン・イスラエル工科大学と米東部名門のコーネル大学の共同提案が採用されるなど、国を超えたイノベーションを生み出そうとしているイスラエル。そして、世界の大企業が優秀なスタートアップ企業に注目し、買収する。そしてまた新たなスタートアップが立ち上がる。イスラエルは独自のサイクルを繰り返しながら着実に成長する土台を築いてきました。

グーグルのサジェスト機能など、世界で知られている先端技術の中にはイスラエル発のものが数多くあります。Intel社は1974年からR&D拠点をイスラエルに設置し、同社がこれまでこの世に送り出してきた最先端技術の数々にはイスラエル人科学者及びエンジニアの存在が不可欠であったと言われていますし、Microsoftも2006年に、Appleも2013年の最初にR&D拠点を設置しており、ここで活躍することになる約150名の従業員の大半は、数週間以前にレイオフされたTexas Instrument社(米国大手の半導体開発・製作企業)イスラエル支部の元技術者たちでした。

さらに力を入れているのがサイバーセキュリティの分野です。
イスラエルは世界有数のサイバーセキュリティの先進国で、サイバーセキュリティ産業は同国にとっても重要な輸出産業になっています。2017年5月、日本の世耕経済産業大臣がイスラエルを訪問してコーヘン経済相と政策対話を行いました。そこでサイバー攻撃対策をはじめとする産業分野のサイバーセキュリティ強化や技術革新分野で日本とイスラエルの協力を推進していくことを合意。

イスラエルではセキュリティの専門家や技術者がサイバー犯罪、オンライン不正行為の防止と検知、スパイ行為の阻止、ダークネット対策、教育プログラム(サイバーレンジ)、重要インフラ施設の保護までを網羅し、解決しています。先述したように、軍での実践的なサイバー防衛の経験による技術力、国家や大学の支援による人材育成、スタートアップの支援などがサイバーセキュリティ技術向上を押し上げているようです。イスラエルはこの分野においても数千万ドルという巨額の資金調達に成功し、サイバーセキュリティ市場での活気を見せています。

イスラエルの注目交通関連サービス

イスラエルのインターネット普及率は年々伸び続け2015年ではおよそ79%、スマホの普及率は2013年の時点で世界12位の56.6%。日本はこの時点では41位で24%弱でした。

注目すべきイスラエルのスタートアップ企業をいくつかご紹介しましょう。

La‘zoozはイスラエルで2013年に設立した仮想通貨を利用した「分散型交通プラットフォーム」。
同社はブロックチェーンを利用した仮想通貨を用いて、乗用車の空席を売買するライドシェアリングプラットフォームを用意し、分散型で仲介者が入らずともP2Pで取引が成立できるようなシェアリングエコノミーの基盤の構築を目指しています。

La’zoozはすでに走っている車の空席を埋め、稼働する車の台数を減らすことで車や道路への投資を減らし、交通問題を緩和するという大きな目標を掲げているため、ドライバーとして「稼ぐ」ことを推奨しているUberとはこの点が少し違うといえるでしょう。乗車記録、評判、支払い記録などをブロックチェーンに記録し、到着確認や評判の投稿などある条件でスマートコントラクトによる自動的に支払いが行われるため、現在利用されているライドシェアサービスと比べて仲介料をぐっと押さえられると考えられます。

イスラエルのテルアビブに本拠を置くGett(以下、ゲット社)は、もともとGetTaxi社を名乗りサービスを展開していましたが、現在は配車アプリサービスとして急成長し、配車アプリサービス最大手のUBERに引けを取らないぐらい拡大を続けています。

ゲットはイスラエル、英国、ロシアを中心とした100都市以上で事業を展開中。2016年5月にはフォルクスワーゲングループから3億ドル(およそ330億円)の出資を受け話題を呼びました。フォルクスワーゲングループはゲット社と協力し、欧州におけるオンデマンドのモビリティサービスを提供していく方針だと話しています。

また、ゲット社は2017年5月にメッセージアプリバイバーの元CEOが運営していた同サービスのJuno(ジュノー)を2億で買収。この買収によって米国のライドシェア市場を強化し、UBERやリフトなどと競合を目指すと発表しています。

V2X(Vehicle to Everything:車間・路車間通信)の通信チップセット開発の先駆けAutotalks(オートトークス)は、自動車同士の高速通信技術を開発し、最先端のV2Xソリューションを顧客に提供している企業。製品スペック上、1秒間に2,000台以上の車とセキュアな迅速な通信が可能。つまり、急ブレーキをかけるクルマや赤信号を無視しそうなクルマなど、危険な存在を検出して衝突事故の減少に貢献するというもの。

2017年6月にはコネクテッドカーと自動運転車のための通信ソリューション開発強化を目的に、未来創生ファンドが同社への出資を発表しました。同社の先端技術は2019年から大量生産される予定です。

この機能を最大に活かすには、すべての車両に同様の機能を持つ技術が備わっていなければ情報を読み取ることができません。米国では長期的なメリットを見込んだ米国家道路交通安全局(NHTSA)がすべての新車にV2V通信システムの搭載を義務づける規則の導入を検討しているそう。今後、自動運転車が普及するためにも、また、事故をなくすためにも全世界で広まって行くかもしれませんね。

イノベーションを起こし続ける

世界経済フォーラム(WEF)の国際競争力ランキン グで「イノベーション」部門では5位の日本よりも上位の4位であったイスラエル。

「国土が狭い」「人口が少ない」「国内市場の規模が小さい」

このような逆境をものともせず、イノベーションを成長の源泉としてハイテク技術に注力した国づくりを積極的に進めています。毎 年 10億ドルを超える水準で推移しているイスラエルのハイテク企業への投資額を見ても、世界的に注目されていることがわかるのではないでしょうか。今後はイスラエル発で日本でも広く使われるようなサービスが出てくるのか、日本のテクノロジー企業とどう影響し合っていくのかなど、日本の成長やイノベーションへのインパクトにも注目したいですね。

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