統合ECUとは?自動車との深い関係性について

統合ECUとは?自動車との深い関係性について

今まではあらゆる分野で分裂・統合を繰り返しながら発展してきましたが、現在はどちらかと言えば、厳しさを増す社会・経済情勢を乗り越えるため、企業間でも吸収合併と経営統合が盛んになっています。

自動車業界もその例にもれず、巨大メーカーも企業・組織レベルで統合・提携などを繰り返し、変化する市場ニーズに応えてきました。そんな中、近年より統合への流れが激しくなっているのがECUの分野で、各社は企業の枠を超えて開発を進めています。今回は、近い将来自動車のコアテクノロジーになるとさえ言われている統合ECUとは何か、その歴史や概要を詳しく解説します。

統合ECUとは?

身近にある家電やAV機器も同じく、人間が生み出した文明の機器は、ある程度個別に進化すると類似・関係性の深い機能を持った機器が統合・小型化され、より便利かつ入手しやすい価格へ変わっていきます。

その理由は、世の中に存在するあらゆる技術は統合されることにより、商品の企画・開発・設計段階はもちろん、製造過程や販売に至るまであらゆる面で効率的になり、重複する技術やパーツは徹底的な合理化でそぎ落とされるからです。これは商品や技術に限らず、企業・組織においても言えることですが、統合における最大のメリットは効率・合理化によるコスト削減にあります。しかし、現在製造されている自動車のほぼすべてに採用されているECUに関しては、理由が決してそれだけだけではないようです。

自動車におけるECUとその役割

ECUとはElectronic Control Unitの略称で、エンジンの作動制御を電子的に行う車載マイクロコンピューターのこと。エンジンの点火時期や燃料噴射量、吸排気量の監視・調整やセルモーター・イモビライザーの制御などを担っています。スマホ同様に、今や生活必需品となっている自動車ですが、その仕組み特にパワートレインに関しては非常にメカニカル。数十年前までの自動車は、現在小さなECUが担っている制御を、すべてアナログな機械仕掛けで行っていました。

たとえば、冬場の寒い日などエンジンのかかりが悪い時、取り込む空気量を絞り燃料の濃度を濃くすることで着火しやすい状態を作るチョークレバー。若いドライバーには信じられないでしょうが、排ガス規制が厳しく燃費重視である今、燃料濃度の調整をなんと手動で行っていたのです。そして、その作業を吸排気センサーや燃料インジェクターを電子的に制御しているのがECUです。

そのため、ひとたびECUに不具合が発生すると走行が安定しなかったり、エンジンが始動しなかったりする事態に陥ります。そうなってしまうとメーカーでECUを修理・再設定するしか改善の方法はありません。ECUの開発と採用で自動車は飛躍的に利便性が高まり、キーを回せば滞りなくエンジンが作動するようになりました。しかし、不具合が発生した時に対処できなくなったほか、じゃじゃ馬を乗りこなしたかのような楽しさは失われてしまったかもしれません。

今求められている統合ECUとは

現在、ECUの役割はエンジン制御に留まらず、パワステ・CVT・ABS・エアバック・エアコン・スピードメーターなど、自動車の電気的要素を持つあらゆる個所を制御しており、広義ではこの時点で統合ECUだと言えます。エンジン制御一つを取っても、ECUは燃料インジェクター・吸排気センサー・点火プラグなどいくつかのパーツを連動させる必要があります。つまり、統合ECUとはすでにいくつかの部署で提携している会社同士を、さらに経営統合するのと似ているのです。

そのため、指示系統には高い判断力と決断力が必要で、自動車の統合ECUの場合は制御基板に高度な演算能力と処理能力が求められます。その結果、現在の自動車に採用されているレベルはともかく、次世代統合ECUの開発を自動車メーカーが単独で進めるのは困難になっているのです。

現在求められている統合ECUは、コネクティッドカーや自律運転車、電機自動車など現在開発が進んでいるCASEやMasS普及に不可欠なシステムであり、モビリティを開発する技術とノウハウだけでは、専門性でもコスト面でも到底追きません。独・BMWが自動運転車の統合ECUへインテルの半導体を多用しているように、今後の自動車用統合ECU開発競争の舞台は、自動車メーカーをばなれより専門的で高度な技術を有する、彼ら半導体・IT専門業界へ広がっているのです。

世界的自動車メーカーの選択~統合ECUはどこ・何に活用されている?~

次に、統合ECUはどこまで進化し、どのような用途で活用されているのか、現時点での状況を整理してみましょう。

テスラ自動車 自社製作の統合ECUをレベル3自動運転車に搭載

統合ECUというより、電気系・IT系の開発に関しては自動車メーカー全体が軒並み及び腰の中、ソーラーパネルや蓄電池製造を専門にしているテスラ自動車は、他社に先駆け統合ECUの開発を推進しています。

例を挙げると、自社EV「モデル3」などに、自動運転に対応した新しい統合ECU「FSD(Full Self-Driving)コンピューター」を搭載。最大の特徴は、自前の半導体チップを使い、AIの処理性能を飛躍的に高めたことです。ここで明らかになったのが、NNAと呼ばれるAI処理性能を高める心臓ともいえる回路の設計が、ハンガリーの自律移動運転技術会社AImotiveにして、「半導体メーカーならありえない」と言わしめるほど単純だったこと。

そもそも、モビリティ業界にとって最新鋭である自動運転ですが、カメラ・レーダー・センサーの認識と演算などは、他のIT機器に比べると簡易です。最新ノートパソコンに搭載しているレベルのECUは必要ないかもしれません。つまりテスラは、必ずしも最新(複雑)ではない技術を組み合わせて開発期間を短縮することによって、統合ECUの開発期間退縮を図っているのです。

VW 統合ECU向けの半導体にルネサスエレクトロニクスのチップを選択

独・フォルクスワーゲン(以下VW)は、「ビークルOS」と呼ばれる独自の車載ソフトウエア基盤の整備を進めていますが、その中で統合ECU向け半導体にルネサスエレクトロニクスのチップを選択しました。

2020年9月、欧州で納車を開始する新型電気自動車EV「ID.3」に、ルネサスエレクトロニクスの車載SoC「R-Car M3」を心臓部に採用した、「ICAS1」という統合ECUの搭載を決定。これによりVWは、苛烈さを増すECU開発競争にあって一気に統合を進めるのではなく、段階的・持続的に開発を進めていく方針を打ち出しました。

ダイムラー 米NVIDIA(エヌビディア)のチップを選択し対抗

一方のダイムラーは、ゲームやAI用のチップ(GPU)を強みとする世界有数の半導体メーカー、米NVIDIA(エヌビディア)のチップをチョイス。エヌビディアは、半導体というハードに加えソフトも併せて提供、AI分析などに必要な技術を「パッケージ」として売り出す方針で、2020年6月には独・メルセデスベンツとの協業を発表し、2024年に市場投入する車種に同社製チップが搭載されると決まりました。

つまり、あくまで段階的・持続的な展開を目指すVWに対し、ダイムラーは一気に統合を進める米テスラと同じ方針を進むことで、自動車搭載用半導体開発競争において、他社より一歩先んじようと目論んでいるのです。

統合ECU搭載モビリティの弱点

製造・金融そしてモビリティ業界もそうですが、組織や企業が「統合」すれば市場全体がうまく回り出すことを期待できます。しかし、この項で示すような点で弊害が発生する可能性もあるのです。

開発・製造コストの高騰

本来、開発・製造分野が統合されるとあらゆる工程が効率化され、人件費や設備投資費などの効率化で大幅なコストカットを望めます。とはいえ「1+1=2」以上にしないと、場合によって開発・製造コストがかえって高騰してしまうケースも考えられます。

また、モビリティ業界は、各パーツの製造から完成品の販売に至るまで細分化されていたため、それを無理矢理統合しようとすると専門外、つまり畑違いの仕事が発生します。すると、「1+1=2」以下の成果しか上げられない事態に陥ってしまうのです。

正確に走る・曲がる・止まるという、自動車の3大要素をすべてECUで統合するのは簡単ではなく、事実自動車の各パーツは長い間、分担制で製造されてきました。それを、自動運転開発に伴って統合しようというのですから、方針を誤ると余計コストアップして技術開発が滞りかねない。つまり、テスラが進めているECU開発単純化と期間短縮は、その事を視野に入れての方針決定かもしれません。

プライバシー&セキュリティ問題

次に、自動車運転に関わることをすべてECUで統合した場合、それをなんらかの方法でハッキングされるとドライバーの運転傾向や行動パターンを、何者かにつぶさに把握されてしまうリスクがあります。

そうなると個人のプライバシーは筒抜けとなり、業界全体としてもプライバシー保護政策を打ち出したり、法整備を推進したりするなど、対応策への動きを早める必要性がでてきます。

また、自動運転の大きな課題でもありますが、カメラやセンサーなど数多くの関連箇所が1つのECU統合された場合、万が一誤作動を起こすと機能停止、もしくは最悪の場合交通事故発生の要因になりかねません。ですので、車載統合ECUにはパソコン以上に衝撃や振動、温度変化などへ対する強度が求められますし、不具合を起こした際機能する「サブECU」の搭載も必要でしょう。

半導体メーカーに主導権を握られるリスク

独自路線をひた走るテスラ自動車を除き、世界的自動車メーカーのほとんどは自社製造の自動運転車へ搭載予定の統合ECU開発を、半導体専門メーカーに委ねています。既存の自動車と異なり、自動運転車にとって統合ECUはまさしく脳そのもの。つまり、このまま自動車メーカーが、統合ECU開発を半導体メーカーに依存し続けた場合、自動運転車の肝を彼らにガッチリ握られてしまう可能性があります。

我々消費者にとって不利益になるかわかりませんが、自動車メーカーは今後現在まで部品各メーカーと築いてきた関係と同様、主導権を握っていられるよう躍起になるのではないでしょうか。

統合ECUのこれから

もし完璧な統合ECUが開発され、各自動車メーカーの販売する自動運転車に搭載された場合、人間は運転に使っていた時間や手間を他のことに割けるようになります。また、故障や不具合が発生した場合も、統合ECUをメーカーでチェックすると原因が即座に判明し、ECU調整による問題解消はもちろん、関連部品の取り寄せや修理の手配まで簡単に完結できるようになるでしょう。

そうすれば、これまでかかっていた中間マージンが削減され、修理にかかる時間と費用を節約できるかもしれません。さらに、統合ECUによって運行ルートやスケジュール調整を最適化すれば、省エネ・省燃費につながるでしょう。もっと言えば、統合ECUを効率的に運用することで、公共交通機関のダイヤや乗員調整などがスムーズとなり、Maasやスマート都市建設に寄与する可能性も出てきます。

このように、統合ECUは開発と本格搭載にいくつかの課題やデメリットがある半面、うまく自動運転と連携すれば多方面で好影響を与えてくれる可能性を持っています。いずれにせよ、来る自動運転の時代に統合ECUは無くてはならないもの。自動車メーカー・並びに半導体メーカーの動きに今後も注目が集まることは間違いありません。

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