自動運転技術の根幹を支える「LiDAR」とは?

自動運転技術の根幹を支える「LiDAR」とは?

コロナ禍にありつつも、ついに国内では解禁となったレベル3の自動運転。国内各地では自動運転の公道での実証実験が進められ、ますます実用化が迫りつつあることを感じるでしょう。その自動運転車両にかならず搭載されているのが、「LiDAR」というセンサー。このセンサーについて本記事ではわかりやすく解説します。

LiDAR とは

LiDARとはLight Detection and Rangingの頭文字をとったことばで、一般的にはライダーと読みます。直訳すると、光による検知と測距。レーザーを照射することで物体にあたり跳ね返ってくる散乱光を検出し、その反射時間を測り、その物体までの距離や方角を測定します。ライダーはリモートセンシング技術の一つであり、レーザー光には近赤外線波町域の素子が多く利用され、光束密度が高く、レーダーよりもはるかに短い波長の電磁波を用いるため、高精度の位置情報や物体の形状を検出できるという特徴を持っています。

条件つき自動運転のレベル3、ドライバーによる運転を前提としないレベル4以上になると、高速道路や一般道路で安全に自律走行できる機能が必要です。その際にカメラやミリレーダーに加えて、LiDARが採用されます。LiDARは色の識別や悪天候でのセンシングが苦手ではありますが、距離の計測については他のセンサーと比較して非常に高精度です。おもに採用されているのはマイクロバルスLiDARと呼ばれるもので、プロセス回線と合わせてEye SafeのClass1レーザーを使って1Wクラスのマイクロバルス低出力レーザー光を設計しているため、安全性が高いと言われています。

現在販売されている自動車に搭載されている先進運転支援システムなどでは、おもにミリ波レーダーやカメラが採用されており、先行車や車線の検知は可能であるものの、レベル3以上の高度な自動運転技術に必要な正確な形状の把握や位置関係までは検出が困難です。縦横無尽に行き交う人や車、工事や事故、季節や天候など、道路は常に変化するものです。ミリ波レーダーやカメラは、自動車専用道路や高速道路などの限定された道路では活躍しますが、状況の移り変わりが激しい一般道路では、より詳細な情報が検知できるLiDARの技術が有効です。

LiDARで測定可能な距離

LiDARの測定距離は、センサーのモデルによって最大検出距離が異なり、それぞれによって呼び方も変わります。短距離LiDARの場合、最短10センチから測定が可能で、パフォーマンスが高いモデルの場合、220センチの距離で10%、150センチの距離で5%の反射強度ターゲットを検出できます。

短距離LiDAR:およそ10〜50メートル

中距離LiDAR:およそ50〜200メートル

長距離LiDAR:200メートル以上

LiDARの方式

LiDARの技法には、おもに2つの方式が用いられています。

・Solid State(ソリッドステート)式

自動運転車向けに開発が始まった初期のLiDARでは、360°全方位を検出できる機械的回転方式が主流でした。ただしこの場合、設置箇所が限定的であり駆動部にモーターが必要となるうえ、小型化や軽量化が難しく、高額なコストや耐久性も低いなど多くの課題を抱えていました。これらの課題を解決するために、駆動部をなくし、半導体技術や光学技術で特定の方向をスキャンできるようにしたものがソリッドステート式です。

回転式ではなく、レーザーの照射角の範囲のみセンシングが可能なため、検知できる領域は限られますが、複数のセンサーを利用して360°全方位をカバーでき、小型であるため設置場所の自由度が大きいのがメリットです。このような特徴を持つため、車載用として広く採用されています。

・MEMS(メムス)式

ソリッドステート式の一種であるメムス方式。メムスとは、「Micro Electro Mechanical Systems(マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム)」の頭文字をとったもので、日本語では微小電気機械システムと訳します。MEMS方式は電磁式のMEMSミラーでレーザー光を走査し、周囲の環境を検知します。モーターを使用せずに広範囲をスキャンできるのが最大のメリット。

・フェーズアレイ方式

光の位相をコントロールして、ビームを配向する技術です。

MEMS方式以外では、遠距離センシングが可能なラスタースキャン方式、近距離かつ広範囲のセンシングが可能なウォブリングスキャン方式などの開発が進められています。

国内でLiDAR を開発する企業

国内外、大手企業からメーカー、ベンチャー企業まで参入しているLiDARの開発。ここでは国内でLiDARを開発している主要企業とその技術についていくつかご紹介します。

パイオニア

今までに培ってきた光技術とナビ技術を総結集し、現在、勢力的にLiDARシステムの開発を進めているのがパイオニア。

同社が開発を進めている3D-LiDARは、一般道でのレベル3以上の自動運転を想定し、モーター駆動部をなくし耐久性を高めるMEMSミラー方式。大量生産を前提とした新規部品の開発や柔軟なシステム構成で低価格化を視野に入れています。独自のデジタル波形信号処理技術により、ノイズの除去精度を上げることで、遠方の物体や黒い物体の検出、除雪時などの悪天候時の距離計測を可能にしました。

遠距離のセンシングが可能なラスタースキャン方式で望遠・標準・準広角タイプの三種を、近距離かつ広範なセンシングが可能なヘリカルスキャン方式で広角タイプなど、ニーズに合わせたLiDARを開発しています。2019年には3D-LiDARの共同開発を行うとしてキヤノンと提携、同年10月に自動運転関連事業を行うパイオニアスマートセンシングイノベーションズを設立し、ますます開発に力を注いでいます。

東芝

2020年7月、東芝はソリッドステート式LiDAR向けに、長距離測定と高解像度を実現する受光技術を開発したと発表しました。同社が開発した受光技術では、高解像度を実現しながら渋滞の4倍となる200メートルの長距離性能を実現。本技術は、一台の車両に対して複数のLiDAR搭載が必須となるレベル4以上の高度自動運転の実現に大きく貢献するといいます。さらなる測定距離の延伸と高解像化、小型化を進め、2022年までに実用化を目指しています。

京セラ

京セラでは、カメラとLiDARを一体化したカメラ-LiDARフュージョンセンサを独自で開発しています。カメラとLiDARを1つのレンズにワンユニットとしてまとめることでそれぞれのデータを組み合わせ、視差をなくし、極めて高解像度の3D画像を作成できるこの技術。測定および識別能力は世界最高レベルにあたります。

2020年1月に開催されたCES2020でも、AIカメラや5G技術、カメラ-LiDARフュージョンセンサを紹介したり、JR東日本管内のBRTにおけるバス自動運転の技術実証にも参画したり、新たな技術開発に余念がありません。

三菱電機

三菱電機株式会社は2020年3月、水平・垂直の2軸で走査する電磁駆動式MEMSミラー搭載のMEMS式車載LiDARの開発を発表しました。独自のミラー構造採用で、面歪みを抑制し、業界最大級(7ミリ×5ミリ)の軽量ミラーで広い振れ角(水平は±15°、垂直は±3.4°)を実現しました。小型化・低コスト化により普及を進め、安心安全な自動運転車会の実現を目指しています。

コニカミノルタ

独自の光学技術により、1つのレーザーで隙間のない測定を可能にし、検知制度が高く高画角な3D LiDARを開発。3D LiDARでは、投光が測定対象物で反射し、センサーで受光すするまでの光の飛行時間から距離を測定するTOF(Time of flight)方式を採用しています。光が戻るまでに時間差により3次元画像を取得し、毎秒10フレームのリアルタイム測定を可能にしました。

検出可能領域は水平画角最大120°の広角を実現し、垂直方向24ライン分を取得。遠方のスキャンでもライン間の隙間が生じず、データの抜けがない高精度な測定で、50メートル先のヒト、車両であれば100メートル先まで検知可能です。

実用化へのネックは高額なコスト?市場拡大によって小型・軽量・低コスト化が実現する

今後さらに自動運転が進むことが予想されることから、矢野経済研究所の発表では2030年にはLiDARの市場規模が4,959億円にのぼると見込まれています。

自動運転技術の発展とともに、需要が大きく拡大しているLiDAR。しかし高精度かつ実用性の高いLiDARの価格帯は幅広く、安価なものは数万円程度から提供されていますが、より高精度なものは数百万円と非常に高額です。1960年代より正確な地形や気象の観測を行うために開発されてきた技術は、今後自動運転車向けに短期間でさらに性能が向上し、小型・軽量化と低コスト化が進んでいくことでしょう。

最近では自動車メーカーやセンサーメーカー以外にも、ベンチャー企業が自動車向けのLiDARを開発するなど、市場規模が拡大することが予想されます。一般へ普及する際は、より高性能でより安価なLiDARが誕生しているかもしれません。

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