EV普及のカギを握る「エネルギーマネジメント」のすすめ

EV普及のカギを握る「エネルギーマネジメント」のすすめ

事業を継続しかつ成長させていくためには、必ず省エネ対策が必要であり、マクロな視点で考えると、地球環境を守り資源を保護するうえでも、省エネは企業の義務だと言えるでしょう。

しかし、本来ならば手段でしかないはずの省エネ対策が、達成すべき目的になってしまい、なぜ省エネに取り組むのか、どの程度の効果が出ているのか把握していないというケースも少なくはないようです。

そこで今回は、EV普及などを始めとする省エネ対策を進める上で、欠かすことができない「エネルギーマネジメント」とは何か、その進め方や重要性について成果が上がってきている実例を交えながら、じっくり解説します。

エネルギーマネジメントとは

エネルギーマネジメントとは、仕事をする能力を管理することです。そのため、労働力そのものである従業員を常に管理している経営者や人事担当者からすると、非常に身近なものだと言えるかもしれません。

通常、担当者は人員管理を行う上で、「労働力=人員」が「いつ・どこで・どのように・どのような用途で」稼働しているのかを把握し、過不足が発生していれば人員配置の見直しやシフト調整、増員によって、効率化や最適化を図ります。

この「人員」をそのまま熱・光・風・水などのエネルギーに置き換えるとどうでしょうか。エネルギーは労働力の過不足状況を改善事案として声に出し訴えてくれる人間と異なり、ただ黙々と消費され続けます。つまり、物言わぬエネルギーの消費状況を、数値やグラフなどの目に見えるデータとして把握することが、エネルギーマネジメントの基本となるのです。

エネルギーマネジメントの流れ

エネルギーマネジメントの具体的な進め方は、おおよそ次の通りです。

ステップ1 「見える化」

エネルギーを数値やグラフなどのデータとして見える化しないことには、エネルギーマネジメントは一歩も前に進みません。まずは毎月の請求状況をパソコンソフトで処理することで、データ化をしていきましょう。

ただし、後々データを精査・分析するために、誰がいつみてもわかるように、部署・用途別に分類しておく必要があります。

ステップ2 「データの分析」

次が、集積したデータを精査・分析する段階です。

コストつまり請求状況の増減だけでエネルギーの過不足を判断していては、かえって業務効率や生産性を損なってしまう可能性もあります。分かりやすい例を挙げると、真夏の職場で電気代がかさむからといってエアコンの利用を大幅にカットしてしまうと、労働意欲が削がれたり、作業効率が落ちたりしてしまうことも。

ですから、エネルギーの消費量に見合うだけの「費用対効果」が出ているかどうかを加味したうえで、改善や節約の余地が無いかを吟味することが大切です。

ステップ3 「改善策の立案」

データを精査・分析した結果、明らかな費用対効果がみられない過剰なエネルギー消費が発見された場合は、直ちに省エネにつながる具体的な改善案を立案しましょう。

また、反対に何らかの事情でエネルギーが行き渡っておらず、そのせいで生産性や作業効率などが下がっているか部署もあり得るため、その場合はエネルギー不足を改善する対策を練らなければなりません。

ステップ4 「実践・実行」

改善案を立案したらそれを対象の部署で周知し、現場の理解と協力を得たうえで迅速かつ正確に実践・実施しましょう。

また、実施した改善案による結果も可視化をして集積し、それを再精査・再分析して去らない改善案を立案するという、循環性を持たせることも大切です。

エネルギーマネジメントの重要性が高まっている理由

エネルギーマネジメントという概念自体はずいぶん前から存在していましたが、経営戦略のひとつとして注目が集まり、メディアなどで扱われ始めたのは近年になってからです。

この項では、今なぜエネルギーマネジメントの重要性が高まってきているのか、その理由について整理しておきましょう。

エネルギーコストの上昇

2011年3月11日に発生した東日本大震災により、東北地方を中心とした国内の電力インフラは甚大な被害を被り、2010年度時点では1kwhあたり13,7円だった産業向け電気料金が、2014年度には18,9円と約38%上昇しました。

出典:資源エネルギー庁「日本のエネルギー2019」

その後、復興に向けた努力の甲斐もあって、電気料金は一時低下傾向を見せましたが、原油CIF価格(輸入額・輸送料・保険料などを加えた原油取引の価格)高騰などの影響で、再び上昇に転じています。また、原油CIF価格の高騰は重油・ガソリン・軽油などといった燃料油の高騰にも直結しているため、国内の企業はオフィスや工場の操業はもとより、物流・運搬・輸送などあらゆる事業においてエネルギーコストが上昇しているのです。

そのうえ、2017年時点で国内における一次エネルギー自給率は、わずか9,6%と先進国の中でも極端に低く、エネルギー源である化石燃料のほとんどを、海外からの輸入に頼っています。このように、結果として、国内の企業はエネルギーマネジメントによる省エネ体質を確立することが、成長を維持する前提条件となりつつあるわけです。

環境保全・資源保護意識の高まり

日本が輸入に頼っている化石燃料は、資源として無尽蔵に存在するものではありませんし、エネルギーとして利用される際はCO²を大量に排出します。現在、世界が一体となってSDGsや、カーボンニュートラルに向けた取り組みを推し進めていますが、その中核である環境保全・資源保護を成し遂げる手段としても注目されているのです。

エネルギーマネジメントシステム(EMS)とは

エネルギーマネジメントを手段とするなら、エネルギーマネジメントシステム(EMS)は、それを効率よくしかも最大効果が発揮できるようにする仕組み、もしくはそのための制度や設備のことを指します。

EMSは管理する対象によって大きく次の5つに分けられ、自社で独自に仕組みを一から作り上げることもできますが、ITを用いたEMSサービスを導入すればすぐにでも運用を開始することも可能です。

  • BEMS・・・商店やオフィスが入っているビル全体のエネルギー管理を行うシステムのこと。国内マーケティング会社大手・富士経済グループの調査によれば、2015年における有望4業種施設のBEMS普及率は12%で、2020年度には18.7%に達すると見込まれている。
  • HEMS・・・住宅のエネルギーを管理するEMSで、ITを駆使し家電製品をEMSに組み込むことにより、渋滞内で使用されるエネルギーの見える化と分析を容易にしている。
  • FEMS・・・工場における使用エネルギーを管理するシステム。工場は稼働時のエネルギー消費量がオフィスや住宅より大きいため、省エネや生産性の向上などといった導入時の効果も高いと言われている。
  • MEMS・・・マンションやアパートなど、集合住宅で使用されるエネルギーを管理するシステム。一戸建てと違い、入居者が一括で電力会社と契約するなどの協力体制が必要だが、その分導入時の効果を大きい。
  • CEMS・・・工業団地や商業地帯、または住宅密集地など地域・地帯を包括してエネルギー管理を行うシステム。ここまで挙げた各種EMSの最終進化系であり、効果は絶大で広範囲に及ぶが、膨大な費用と旺盛な実行力が必要なため、大企業者自治体の力が不可欠。

エネルギーマネジメントになぜEMSが必要なのか

たとえEMSがなくとも、時間と労力をかければエネルギーマネジメントを進めることは可能です。しかし、それでは省エネのために行う施策という、エネルギーマネジメント本来の意義が薄れてしまいます。

とくに、エネルギーマネジメントの導入部であるデータ化・可視化に関しては、全てを手作業で行なっていては、誤差やズレなどが生じ、正確な分析ができない可能性もあります。IT技術を活用したEMSを導入すれば、エネルギー使用状況をリアルタイムで把握することができるため、状況把握や改善策の立案・実施に至る一連の流れをスムーズに、スピード感を持って行うこともできます。

EMS導入事例とその成果

ここでは、自治体や複数の企業がタッグを組んでEMSを導入することにより、一定の成果を上げている具体例をいくつか紹介しましょう。

日産&小田原市 EVを用いた地域エネルギーマネジメント推進のために提携

東日本大震災に起因する計画停電などにより、市民生活や地域経済に大きな打撃を受けた神奈川県小田原市は、その経験を教訓に再生可能エネルギーの積極的な導入で、エネルギー源の分散化・効率化を進めるなど、持続可能なまちづくりを取り組んでいます。

2020年7月30日には、神奈川県内に本社を置く日産自動車並びに、県内の関連販売会社3社(神奈川日産・日産サティオ湘南・日産プリンス神奈川販売)と、小田原市が掲げるSDGs達成に向けたEV活用について、連携することを発表しました。

小田原市はすでに、2019年10月より株式会社REXEV・湘南電力株式会社と共に「EVを活用した地域エネルギーマネジメントモデル事業」を開始しており、その中で日産・リーフを含む約100台のEVカーシェアを活用した脱炭素型の地域交通モデル構築を目指しています。

今回の提携は、EV普及を通じた社会の変革に取り組んでいる日産と、SDGs達成に向けた小田原市の姿勢・方針が一致したことで実現しましたが、この提携によりEVの供給と需要のラインが確立したことで、同市のエネルギーマネジメントはより効果的に進んでいくとみられています。

関西電力&ダイヘン 次世代モビリティサービスの実証実験を開始

溶接機や作業ロボットなど産業用電気機器の分野で、国内トップシェアを誇る株式会社ダイヘン。同社は2020年2月13日より、大阪府吹田市にある万博記念公園において、電動カートを用いた次世代モビリティサービスの実証実験を関西電力と共同で行いました。

この実証実験で採用されたのは、使用済みHVの部品を再利用して作られた「リサイクル電動カート」。これをTIS株式会社が提供するオンデマンド配車予約システム上で運用し、来園者の利便性や満足度向上に繋がるかを検証しました。

エネルギーマネジメントの面で注目されたのが、電動カートに動力を供給する充電インフラで、同実証ではダイヘンと関西電力が共同で開発を進めている、太陽光発電搭載のワイヤレス充電システムを活用。

1970年、当時の再戦他院技術が世界に向けて大々的に発信された万博記念公園内で、新型コロナ感染拡大対策にもなり得る「非接触型」の充電インフラを持つ、次世代型モビリティサービスを体感できたと、来場者からの評判は上々だったようです。

まとめ

人員や資産と異なりエネルギーは無駄に消費し、失い続けていることをついつい見過ごしてしまうもの、今回の解説を参考に、自社のエネルギーマネジメント体制が整っているかを見直し、必要な施策を検討してみては。