ダイナミックマップとは
ダイナミックマップとは、高精度3次元地図に渋滞情報や事故による通行規制など、位置情報を組み合わせたデジタルマップのことで、人間が見るのではなく車が自動運転を行うために使用されます。
ダイナミックマップの3次元地図には、
- 車道の中心線
- 道路と道路の連結
- 横断歩道・停止線
- 交通標識・看板
など、さまざまな情報が静的データとして格納されており、これらと動的データを紐付けることで、車載センサーでは判別できない遠くの道路状況を先読みできるようになります。
また、車載センサーが認識すべきデータをあらかじめ車自身が、「データベース」として保持することで認識・処理の負荷を低減できるほか、悪天候の際のセンシング能力安定化にもつながるとされています。
この高精度3次元地図を整備しているのは、ゼンリン・パスコなどの地図・測量会社や各自動車メーカー、さらに三菱電機などの電機メーカーが出資して設立した、「ダイナミックマップ基盤株式会社(以下DMP)」。DMPは、動的データ付加する上でのベースとなる静的な地図データを、関係各社の「共通領域」として一元管理、現在は2020年の高速道路・自動車専用道路の自動運転化に向け、日本全国の高精度な3次元地図を整備中です。
ダイナミックマップは何を実現するのか
DMPが整備を急いでいるダイナミックマップは、一度完成すれば永遠に使えるものではなく、変化する静的・動的データを常に収集・分析し、リアルタイムに近い状態でマップ更新を手掛ける中央センターのような組織が必要となってきます。
そして、ロボット掃除機のような軽微な自動運転と異なり、縦横無尽に張り巡らされた道路を、歩行者や他車とニアミスしながら高速走行する自動車の場合、高精度3次元地図をベースに、
- 路面・車両・建築物情報など・・・1ヶ月ごと更新(静的データ)
- 交通規制・道路状況・広域気象情報など・・・1時間ごと更新(準静的データ)
- 事故・渋滞・狭域気象情報など・・・1分ごと更新(準動的データ)
- 歩行者・周辺車両・信号情報など・・・1秒ごと更新(動的データ)
といった、時間軸に併せた的確でスピーディなマップ更新システムの構築が不可欠です。そのため、DMPは自動図化技術の開発を進めつつ道路管理者や物流会社と連携し、工事計画書や定期運行車両から道路変化情報を入手するなど、マップ更新の効率化を図る仕組み旁に取り掛かっています。
技術と情報の性質をから、1・2・3に関してはデータ更新の自動化も比較的容易と言えますが、信号情報はともかくすべての歩行者・車へGPSを付け、位置情報を把握するわけにはいかないため、当面4はアナログ更新に頼るしかないと考えています。
しかし、車載センサ&AIがデータ収集・分析まで担い、それがセンター機能と高度に融合して自動更新システムが完成した場合、クルマは単なる移動手段から、人や物を安全・確実に届ける「MaaS」へと進化を遂げるでしょう。
ダイナミックマップはここまで進んでいる!
ダイナミックマップの完成こそ、完全なる自動運転の普及に欠かせないもの。前述したように安全かつ確実な運用するためには、動態データの生成&システムへの配信技術向上が必要です。そして、DMPによる静的データの整備が整いつつある一方で、国内の関連各社は持てる技術力を総動員しマップ作成・更新の効率化・自動化や、動的データに関する実証実験を始めるなど、立ちはだかる課題をクリアするための動きを強めています。
三菱電機 高精度3次元地図向け「自動図化・差分抽出ソフト」の販売を開始
高い測位・マッピング技術を有する三菱電機は、AIと三菱モービルマッピングシステム(以下MMS)の技術を活用し、高精度3次元地図を効率的に作成・更新できるソフトを開発、既に国内大手地図メーカーへ販売をスタートしました。MMSのレーザー点群とカメラ画像データから、AIを用いて必要情報のみを抽出し併せて認識精度を向上させ、図化作業を「自動化」したことにより、地図作成時間を10分の1以下まで短縮可能なのだとか。
また、同社は静的データのみならず、準静的・準動的データの生成・更新・配信システム、及び動的情報と配信データとの車載機上における紐付け検証を実施するなど、ダイナミックマップの規格化を推進しています。
パイオニア 蘭・HERE社と提携しグローバル規模のデジタルマップ作成に着手
2018年5月、パイオニアは自動運転車の安全かつ効率的な走行に必要な、高精度地図を提供することを目的として、BMW傘下の地図制作会社・HERE社と子会社であるインクルメントPが提携し、「OneMap Alliance」を結成したと発表。中国のデジタル地図サービス大手NavInfo社や、韓国の通信事業者のSK Telecom社も参加しており、地域の制約を受けることなく各市場で統一された地図情報を、自動運転などで利用できるようにする取り組みに着手しています。
ゼンリン・富士通・KDDI 動的データ生成・配信技術の実証実験をスタート
2018年1月よりゼンリン・富士通・KDDIは3社合同で、走行中に遠方の道路状況をリアルタイムにフィードバックするシステムの構築を目指し、ダイナミックマップの生成に必要なデータ収集・分析・加工・配信技術の実証実験をスタートさせています。ゼンリンは動的情報との連携や逐次・差分更新を可能とする、高精度地図データ・プラットフォーム「ZGM Auto」の検証、富士通は同社の「Mobility IoTプラットフォーム」を活用し、自動運転システムの最適化を目指しています。
また、KDDIは一定間隔で生成される車載カメラやセンサーのデータを、効率的に更新するための通信モジュールとネットワーク検証・評価を行い、通信事業者として4G・5G・DSRCといった、様々な通信技術との融合を進めていく方針です。
~ダイナミックマップが描く未来~
ダイナミックマップは単なる地図作成に留まらず、内閣府をはじめ、官・民が総力を結集して取り組んでいる一大国家プロジェクトです。2019年5月にはDMPが作成した地図データ搭載の量産車も販売開始、どちらかと言えば海外より日本が一歩リードしているのです。
他国に先んじて完成までこぎつければ、日本が自動運転の分野で覇権を握ることも可能なキーテクノロジーですが、その時、私たちの生活はどのようにかわっていくのでしょうか。最後にダイナミックマップが見せてくれるであろう、移動の未来予想図を考察します。
座っているだけで安全かつ正確なナビゲートで目的地へ
完全自立自動運転が実装され、併せてダイナミックマップが完全に機能すれば、これまでの「ドライバー」という概念が一変し、「搭乗者」としてシートに座って読書や動画を楽しんだり、スマホを見たりしているだけで目的地へ到着します。
細やかなセンシング性能と、3Dマップへのリアルタイムな動態データ更新によって、人間の視覚・聴覚では察知できない危険を回避する操作が自動的になされ、痛ましい交通事故が飛躍的に減少することも期待できるでしょう。また、走行規制・渋滞・天候などの準静的・準動的データを、ダイナミックマップを通じ入手したAIが瞬時に走行経路をはじき出し、最短かつ最適なルートで移動できるようにもなるかもしれません。
これらの効果は絶大で、安全面以外にも、燃費向上による車両維持コストの軽減・高齢ドライバーによる免許自主返納の促進・郊外・地方居住者の移動手段確保・物流・運送業界の人材不足解消など、国内経済へ与える恩恵は計り知れません。
ダイナミックマップは自動車以外にも応用可能!
ダイナミックマップは現在、自動運転に特化してシステムの開発・整備が進んでいますが、建築物の構造・位置関係や周辺の交通量、土地の高低差や河川の存在などの静的データを追加すれば、地震・火災・洪水発生時の次世代型ハザードマップとして活用できます。また、超・高齢化社会を見据え歩道・段差・信号の数など、歩行に関するデータを付与すれば高齢者や車いす使用者のために、安全かつスムーズな移動ルートを自動的に案内する、精密なナビゲーションサービスの提供も可能です。
3Dマップという仮想現実だからこそ、ダイナミックマップの可能性とポテンシャルは無限に広がっているため、自動運転の普及・拡大という共通テーマを実現した後は、様々な生活インフラに波及していくのではないでしょうか。