田んぼを自動運転?クルマ以外の自動運転をまとめてみた

田んぼを自動運転?クルマ以外の自動運転をまとめてみた

自動運転と言えば、トヨタ・セーフティセンスや日産・プロパイロットなど、人やモノを輸送するクルマを思い浮かべる方は多いでしょうが、それ以外の業務用機械やロボットにも、次々と自動運転技術が適用され始めています。
今回は、さまざまな業種・分野への積極的な導入が進んでいるクルマ以外の自動運転の国内運用事例をまとめてご紹介します。

無機質なロボットが有機農業を支える!「アイガモロボット」

大量生産・消費の時代から、少子化などの影響によって安全性を重視する食のトレンドへとシフトしている近年、有機肥料・農薬を使用せず生産されたオーガニック野菜が数多くスーパーに並び、食卓へ上る機会も増えてきました。そんな中、2019年6月山形県朝日町の水田上で、有機農法の1つ「アイガモ農法」が抱える課題を解決へと導く、アイガモロボットが日産のエンジニアらによってお披露目されました。ITテクノロジーを取り入れた新しい稲作の形として注目を集めています。

アイガモ農法とは雑草や害虫をエサとするヒナを春先に数十羽水田へ放つことで、農薬を使用しない米づくりを目指す農法ですが、アイガモは成長すると肝心の稲を食べてしまうため、実りの秋を迎えるころにはお役御免になってしまいます。しかし、成長したアイガモを自然に放すことは法律で禁止されているため、飼育・処分問題はもちろん、弱いヒナたちを外敵から守る電柵や防鳥糸といった設備投資など、アイガモ農法には生き物を利用するからこその課題が存在していました。

そこで誕生したのがアイガモロボット。Wi-FiとGPSで制御されたロボットが、プログラミングに従い水田一杯を自動走行することで水面が濁り、雑草や藻の発生・成長に不可欠な光合成を阻害する仕組みです。ロボットであるため雑草や害虫を食べることはありませんし、アイガモのように成長するわけでも飼育スペースやエサが必要なわけでもないため、減農薬や導入・運用コストの削減はもちろん、動物愛護の精神から見ても有益な取り組みだと言えるでしょう。

アイガモを意識したようなつぶらな瞳が特徴の同ロボットをボランティアで開発した日産エンジニアによると、現時点における一般販売は予定されていないそうですが、製品化したいという企業が現れれば、惜しみなく技術協力する方針とのこと。

日産の最新技術を用いて水田を自走するアイガモロボットは、1台でアイガモ20羽相当の働きを期待できるため、サステナブルかつ経済的実現性が非常に高く、もし製品化されれば減農薬を目指す稲作農家の間で、爆発的に普及する可能性もあると考えられます。

法改正が進めば実用化も!「自動宅配・配送ロボット」

ドライバー不足が加速度的に進む物流・運送業界にとって、IT技術を用いた自動宅配・配送インフラの実現は、企業としての存続を左右する最重要課題。しかし、現在の日本の道路交通法では、公道における無人自律走行は原則認められていません。一方、海外でも基本的な道交法の事情は同様ですが、自動搬送ロボット(AGV・UGV)の開発が進んでいるとともに、一部地域では特区制度のようなものを用い、公道での実証実験を積極的に実施し始めています。

この国際的な流れを受け、経済産業省は自動走行ロボットの社会実装に向けたインフラ整備を具体的に検討するため、以下の4点に焦点を当てた「官民合同協議会」を発足と発表しました。

  • 安全性の確立と役割分担の整理
  • ユニバーサル性の確保(交通弱者への配慮)
  • マップ等のインフラの整備(協調領域の検討)
  • 事故等の法的責任分界の整理

2019年6月24日開催された準備会合に先立ち、経産省本館前に開発中である5種のAGVを集め、公開とデモンストレーションを実施しました。

あいにくの雨の中、公開された自動運転ロボットは「EffiBOT(三菱地所)」「Hakobot(HAKOBOT)」「CarriRo Deli(ZMP)」「Marble(三菱地所)」「楽天UGV(ジンドン製)」の計5台で、このうち三菱地所のEffiBotは人の後を追尾して荷物を運ぶ、「自動追従型」と呼ばれるロボットであり、最大300kg程度の荷物運搬が可能なため、女性や高齢者など腕力に自信のない人が扱う場合に効果が期待できます。言ってみれば、台車や大型キャリーカートの自動運転バージョンですので、技術的にも法的にも実装と普及が比較的スムーズに進むと考えられます。

一方、それ以外のロボットはGPSなどの情報をもとに、配送会社の地域拠点からユーザーの自宅まで荷物を運ぶ「自律走行型」。歩行者や障害物をセンサーが感知すると自動停止するなど、安全性も十分に配慮されています。また、これらの自動配送ロボットは、アプリに届いた暗証番号を入力するとボックスが開き、ユーザーが荷物を受け取れる仕組みになっているため、物流のラストワンマイルを担う存在になりえるものの、実用化に不可欠である公道での実証実験を行う必要があります。

今後は、関係省庁・運送事業者・サービサー・デベロッパー・自治体はもとより、立命館大学や慶應義塾大学など、官・民・産・学が参画している同協議会が先頭に立ち、さらなる具体的な活用方法の検討と、公道を含めた実証実験や法整備の加速が期待されています。

まるでSF映画!危機回避・人材不足解消に効果絶大「自動警備ロボット」

敵対勢力の本拠地に潜入した主人公が、徘徊する「自動警備ロボット」の目をかいくぐりいざラスボスと対決…!なんてストーリーは近未来が舞台のSF映画でよくある展開ですが、ロボット&自動運転技術の発展により、それが現実となる時代が間近に迫っています。任務遂行に危険を伴うことを理由に、物流業界以上に人材不足が深刻な警備業界にとって、遠隔操作可能な自動警備ロボットは様々な問題を一気に解決に導く救世主となりえる存在です。

基本的に、対象施設内を巡回すれば事足りる自律走行型警備ロボットについては、法整備が不要であるため近年国内でも新製品の開発・リリースや実用化が急速に進む分野と言えます。セコムは2019年5月、自律走行型巡回監視ロボット「セコムロボットX2」のサービス提供を6月から開始すると発表し、すでに第1号の契約先として成田国際空港で導入されています。

また、セコムと並ぶ国内警備会社大手の綜合警備保障(ALSOK)が、2019年3月に発表した警備員協働型警備ロボット「REBORG-Z」は

  • 多言語に対応した「施設案内機能」
  • 顔認証による「不審者検知機能」
  • 事件・事故を未然に防ぐ「異常音検知機能」
  • 赤外線カメラと熱センサーによる「火災感知&初期消火機能」

などを備えているため、施設に訪れたユーザーとのコミュニケーションが向上するほか、危険を伴う防犯・防災行動をロボットに任せられるため、省人化とセキュリティレベルのUPも期待できます。今後は空港だけではなく、ショッピングモールやレジャー施設など街のいたるところで自動警備ロボット機会が増えるかもしれませんね。

働き方改革を自動運転で推進!「自律走行型案内ロボット」

名古屋市の「Hatch Technology Nagoya」に参加するNECは、同市庁舎でオペレーターによる業務を一部代行し、来庁者を希望窓口まで案内する「自律走行型案内ロボット」の実証実験を、2019年10月から翌年1月にかけ実施すると発表しました。Hatch Technology Nagoyaは、ロボット・AI・IoTなどの先進技術を活用することにより、行政分野における働き方改革を推進し、労働時間短縮や人材不足の解決を図る取り組みで、同社ほか計4事業者と名古屋大学が参加しています。

今回、NECが提供したのは32型の大型ディスプレイと、自動運転用の各種センサーを搭載する自律走行型ロボットであり、タッチパネル操作を通じユーザーが目的とする所管課をAIが判別し、自律走行により当該課までスムーズに案内するというもの。同社は、官公庁への来庁者が急増する年末年始にあえて実証を行い、ロボット運用時のデータを大量に収集・分析することで、より確実でスピーディな案内を可能とする効率的な走行ルートの設計などを進め、全国へ普及させていく方針とのこと。

空気まできれいにする優れモノも登場「全自動AI掃除ロボット」

自動掃除ロボット言えば、一番はじめに頭に浮かぶのがルンバ。それ以外にもすでに多くのお掃除ロボットが家庭やオフィスで活躍していますが、ここで紹介するのは業務利用にも耐えうる大容量で吸引力が強い、ソフトバンクロボティクスが開発したAI清掃ロボット、「Whiz(ウィズ)」です。

Whizはカーペットなどの床の清掃を目的とする、自律走行可能な乾式バキューム型AI清掃ロボットであり、掃除機としてのスペックを見ても優秀。

  • 清掃能力・・・500m²/h
  • 継続稼働時間・・・約3時間(ノーマルモード) 約1,5時間(パワーモード)
  • 集塵容積・・・4,0L(紙パック式)
  • 安全機能・・・障害物検知(LiDARセンサー&3Dカメラ)、衝撃検知(センサー搭載バンパー)、異常検知(段差センサー/車輪浮き検知センサー/異常時ブレーキ機能)

なんといっても使用開始時の「清掃ルート設定」が非常に簡単なのが特徴です。清掃したいルートを手押しでティーチングすれば設定が完了します。2回目以降はスタートボタンを押すだけで記憶したルートを自律清掃してくれるほか、複数ルートを設定・使い分けることも可能なため、手軽に施設内をクリーンで快適な状態に保てるのです。

清掃業界は採用難や高年齢化により、厳しい人材不足問題に直面していますが、AI清掃ロボットWhizはそれを文字通り「一掃」し、清掃分野の未来を切り開く革新的ナビゲーションであると同社は胸を張って言います。事実、他社に先駆け10台のWhizを導入した大手ビルメンテナンス企業、グローブシップ(株)は、ソフトバンクロボティクスからの使用感・効果に対するヒアリング調査で、「作業範囲をきっちり決めて、人がやるべきところと分けることが必要だが、平米数が増えた場合Whiz2台で作業を組み立てれば、半分の時間で(作業完了)できるかもしれない。」と述べるなど、実作業者の負担軽減や作業効率の向上に寄与するとの見解を示しています。

無限の可能性を秘める自動運転

今回紹介したのは、いずれも陸上を自律走行するロボットにすぎませんが、ドローンを用いた空輸の実証実験も着々と進んでおり、すでに一部地域では実用化されている事例が存在します。現状は法規制によってドローンが完全自動空輸できる場所は限定されますが、規制緩和が進めば物流業界の人出不足を解消するのみならず、災害発生時の援助物資や医療品・輸血用血液の緊急輸送など、活躍するシーンは数多くあります。

また、事業用ロボットやドローンと自動運転技術は相性が良く、走行速度が遅いことや飛行範囲が広いことから、人を含めた様々なモビリティが複雑に関与する中で高速走行するクルマより、格段に法整備が進めやすいとも言えるでしょう。つまり、陸上では人の代わりを担う自動運転ロボットが忙しく働き、空を見上げれば郵便物や商品をユーザーへ届ける自律飛行ドローンが縦横無尽に飛び交う…、なんてSF映画のような時代が到来するのは、それほど遠い未来の話ではないのです。

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