米通信大手のベライゾン、向かうところ敵なし?
IoTプラットフォームであるThingSpaceを活用したスマートシティの構想を加速化しているベライゾンは、一体どんな会社なのでしょう。
ベライゾン・コミュニケーションズはアメリカはニューヨークに本社を構える大手通信事業者です。日本でいうと、NTTグループやKDDIグループ、ソフトバンクグループに匹敵します。グループの傘下にはベライゾン・ビジネスやベライゾン・ワイヤレスなどの関連会社があります。
1983年にベル・アトランティックとして設立され、1998年にGTE(General Telephone and Electronics)を528億ドルで買収、2000年6月よりベライゾン・コミュニケーションズに。世界最大級のグローバルネットワーク・セキュリティ・クラウドプロバイダーであり、携帯電話サービスでは全米1位を独走しています。
世界中に177,700名以上もの社員を抱え、2015年度には1,320憶ドルの連結売上を発表。Verizon(ベライゾン)という社名は、ラテン語で真実という意味のVeritas(ヴェリタス)と地平線を意味するHorizon(ホライゾン)を組み合わせた造語です。
そんなベライゾンは毎年多くの企業を買収し、「スマートシティ」の実現に向け一歩、大きく動き出しているようです。その事業拡大の速度の速さに、世界中から注目が集まっています。
止まらない、ベライゾンの買収劇
2015年9月末の加入者数は、約1億3755万人だったというベライゾン・ワイヤレスは、2013年にイギリスのボーダフォン・グループから1,300億ドルという巨額でベライゾン・ワイヤレスの45%株式を保有する株を買取り、子会社化しました。
さらには、2015年5月にインターネットサービスのAOLを約44億ドル(約5,280億円)
で買収。ネット広告分野で強いAOLは、独自の動画コンテンツ製作にも力を入れていました。通信会社が広告やメディアというコンテンツ事業に魅力を感じ、事業を拡大するための大きな買収劇、しかしこれはほんの序章にしか過ぎません。
これに続き、2016年10月には米ヤフーを50億ドル(約5,100億円)で買収するというニュースが話題をさらいました。米ヤフーの中核事業はインターネット事業と不動産。ベライゾンはAOLの買収後、傘化にあったハフィントンポストやテッククランチなどのメディアを獲得し、コンテンツ事業の成長を押し上げています。そこに補うよう、ヤフーのコンテンツ力を加え、他社を寄せ付けぬような勢力の拡大を遂げようとしていました。
ところが、2016年7月にはヤフーの中核事業の買収を互いに合意していたものの、米ヤフーが10億人超のユーザーにまつわるデータが盗まれたことが新たに判明したと発表。この大規模な情報漏洩が原因となり、ベライゾンは一旦買収価格を見直すとしました。
買収自体を撤回するという予想も各所で上がっていましたが、連日発生しているサイバー攻撃の公表に対し投資家もユーザー側も慣れつつあり、長い目で見ると大きな問題ではないとの理由で買収撤回は可能性として低いであろうと言われています。
2016年7月には通信会社という枠をさらに飛び越えて事業の多角化を狙い、GPSを利用した車両動態管理システムを提供するフリートマティクス(Fleetmatics)を24億(約2,460億円)ドルで、6月にもトラックを始めとする輸送車両の追跡・管理サービスの提供を行う米テロジスを買収。
ベライゾンは2012年に自動車向け通信や自動車向けセキュリティシステムなど自動車関連のハード・ソフトウェアを提供しているヒューズ・テレマティクスを6億1,200ドルで買収しています。フリートマティクスの買収後は、ベライゾンのテレマティクス事業部門であるベライゾン・テレマティクスに吸収し、同事業のさらなる強化を行う模様です。予想もできない速さと事業展開の広がりに誰もが息を飲んでいます。
しかし、これだけでは終わらないのがベライゾン。そう、もはやここが“始まり”だと言えるでしょう。
プラットフォームを基盤に進行する数々のプロジェクト
2015年10月、IoTのためのアプリケーションの開発・実行環境となる新たなIoTプラットフォームThingSpace(シングスペース)をリリースし、次世代IoT導入事例に向けた新しい専用ネットワークコアと接続オプションの提供を始めました。
このプラットフォームを基盤として医療・農業・都市開発における課題をテクノロジーで解決することを発表。ここからベライゾンのスマートシティ構想は土台を築いていくこととなります。
そしてこのプラットフォームを利用し新たなスマートプロジェクトを進行中、その一部を紹介しましょう。
フランスのITKと提携し農業テクノロジーを進める
農業向けにカスタマイズされたデータ保護およびデータ分析をベライゾンの農業テクロノジー(AgTech)プラットフォームを活用することで、農場主やワイン畑所有者、農業生産者に対して栽培計画から収穫、サステナビリティに至るまで必要なインテリジェンスを提供。
インテリジェントビデオソリューションの導入による公共の安全性の強化
ワシントンD.Cにあるジョージタウン大学は、ベライゾンのインテリジェントビデオソリューションを導入して、学生や教職員、構内施設の安全を強化。また、カリフォルニア州のナパ・カウンティー空港でもベライゾンの技術を活用して保安レベルを高め、地域全体の安全性確保し、全米最大のイベントである第50回スーパーボウルに訪れたファンや企業パートナーに悪影響を与えかねない潜在的な脅威を、地元の捜査当局が素早く検知し、その危険性を事前に評価できるようにしました。
インテリジェントビデオソリューションの導入による公共の安全性の強化
医療業界のイノベーションを推進するために設計されたThingSpaceの新たなアプリケーションIntelligent Track & Trace。このアプリはリアルタイムに近い形でサプライチェーンを管理できるプラットフォームです。
米国および欧州の一部の国の製薬会社や医療関連企業が、高額資産を中心とした自社製品の出荷状況の確認や追跡、監視を行うことを支援し、グローバル製薬企業にこのソリューションが導入されています。
まさしく地平線や通信という枠組を越えた取り組みがなされているのです。おそらくこれはほんの一部であり、水面下ではさらなるスマートプロジェクトが、私たちの想像出来ない形で進んでいるかもしれません。
ベライゾンが構想する「スマートシティ」計画
そこでさらにベライゾンは2016年には、アメリカのカリフォルニア州サニーベールに本拠を置くSensity Systemsの買収契約を締結しました。スマートコミュニティ向けIoTソリューションの代表的なプロバイダーで、強力なパートナー・エコシステムを持つ同社の買収を皮切りに、スマートシティ事業への本気の投資が始まったのです。
自身のプラットフォームとIT技術を用いて、地域の経済振興や市民の関与・活躍の推進、サスティナビリティの実現を目指すーーーこれがベライゾンが考えるスマートシティ構想。
ベライゾンは先ほど述べたプロジェクトを始めとし、駐車場、照明、交通管理、セキュリティを始め、数々のコネクテッド・インテリジェントソリューションを開発して地域コミュニティの住みやすさや地方の障害からの回復力を向上させ、公共の安全を高めています。
Sensity Systemsは、エネルギー効率の優れたLED照明を使用したスマートシティ向けIoTシステムのプラットフォームを提供。このプラットフォームはエコシステムパートナーを通じて、すでに世界42カ所のスマートシティに設置され、施設や照明設備を所有する自治体はエネルギーの効率化やコストの削減と連動して、公共の安全や駐車場管理、資産管理や情報分析といった事業目標の向上を実現しています。
スイスのタルウィルに拠点を構えるu-blox AG。同社も2016年10月24日に多数のデバイスのIoT接続を目的に設計された、ベライゾン社の新しいカテゴリーM1(Cat M1)LTEネットワークをサポートするモジュールの発売計画を発表しました。
よりセキュアなこの技術は、ベライゾンが着手しているスマートホーム、セキュリティ・システム、工業用監視制御、資産追跡、テレマティクス、コネクテッド医療、スマートメーター、スマートシティ、ウェアラブルなど、多くの分野のアプリケーションをカバー。ますます「構想」が「実現」へと向かっているのです。
2017年もさらに前に進む、ベライゾン
ベライゾンはこのほかにも、4G通信の50倍の速度にもなるという第5世代技術である5Gの開発を行っています。ムービー動画のダウンロードに4Gでは6分かかっていたところ、5Gであればたった15秒で完了。今年度、2017年には本格的な商用展開を目指しており、私たちが利用できるようになるのもすぐのことでしょう。
通信技術だけではなく、車から農業、さらには街全体まで手を広げているベライゾン。事業の拡大とテクノロジーを駆使して、私たちにより良い暮らしと利便性、そして安全性を約束してくれるのではないでしょうか。