V2NやV2Xとは何か?
日本では「車車間通信」あるいは「ITS」(高度道路交通システム)という用語が使われていますが、世界的には自動車の通信に関わる技術はV2という用語と共に語られることが多いです。
V2とは「Vehicle-to」のこと。つまり「車から○○に対して」という意味で、対象によって複数の組み合わせがあります。
V2N
Vehicle-to-cellular-Networkの略で、自動車に搭載された3GやLTEモデルを使った通信サービスのことです。
日本では「車載モデム」を搭載してインターネットサービスを受けるという発想があまりありませんが、海外ではナビゲーション用の地図にしろインターネットを利用したクラウドサービスから配信されることが多いように、V2Nサービスが多くなっています。
日本だと保険会社やカーリース会社などにインターネット回線で接続して、サービスを受けられる車載器やドライブレコーダーなどが一部あるくらいですし、カーナビに地図が入っていますからネットに接続する必要がありません。
スマートフォンのカーナビアプリが近いと言えば近いですが、車載機ではないのでちょっと違いますね。海外だと日本でカーナビの入っている部分に「Android Auto」や「Apple CarPlay」の車載端末が入っていたりするわけです。
V2V
Vehicle-to-Vehicleの略で、日本語でいう「車車間通信」のことです。こちらは日本の方が進んでいまして、2015年10月にマイナーチェンジを受けたトヨタ クラウンからオプションで搭載される「ITS Connect」がその機能を持っています。
トヨタから公開されている具体的な用途としては、以下のようになります。
- 先行車との通信により、先行車の加速・減速情報をリアルタイムで取得していち早く車を操作、車間距離や速度の変化を抑える「通信利用型レーダークルーズコントロール」
- 緊急走行中の緊急車両が近づくと、警報を鳴らしながらおおよその方向、距離、進行方向を表示する「緊急車両存在通知」
もちろん他の車とリアルタイムに「会話」することで、自車のセンサーだけでは得られないさまざまな情報の取得が期待できるでしょう。
ただV2Vは対応車両間での通信しかできませんから、V2Vに対応した車が増えるまではあまり役に立ちません。
V2I
Vehicle-to-roadside-Infrastructureの略で、「路車間通信」です。
道路に設置された対応機器と通信を行うことで、V2V同様に自車のセンサー類だけではわからない情報を入手できます。これもトヨタ クラウン初搭載の「ITS Connect」で対応しており、以下のような機能があります。
- ドライバーが右折時に、対向車や歩行者を見落として発進しようとする時に警告する「右折時注意喚起」
- 赤信号を無視しようとすると警告を鳴らす「赤信号注意喚起」
- 信号の待ち時間を表示する「信号待ち発進準備案内」
- 前方の信号で停止することが予測される時、ハイブリッドシステムインジケーター内のエコアクセルガイドをゲージゼロにして、無駄な加速をしないよう促す「信号情報利用型エコアクセルガイド」
最後の信号情報については、ホンダやアウディなども信号への距離と信号の変化情報を受け取り、停車を促すV2I装置を搭載しており、トヨタだけの機能ではありません。
こちもも道路側に対応装置がなければならず、日本で整備されているのは東京都や愛知県など、まだまだごく一部に限られます。
V2P
Vehicle-to-Pedestrianの略で、スマートフォンを持った歩行者と車の通信により、歩行者の安全確保を行います。
GPSなどを使った精度の高い位置情報の取得や、高齢者など弱者情報の取得、あるいは走行している自転車の速度や進行情報・位置情報なども対象になるでしょう。こちらは通信そのものというより、プライバシー問題をどう考えるかという問題も出てくることが予想されます。
V2X
これら各種の「車とモノとの通信」全てを総称しているのが、Vehicle-to-everything、「V2X」です。
V2X実現への課題
V2X対応機器はすでに実用化されており、実際に車への搭載も始まっています。
しかし、車載インターネット端末に過ぎないV2N機器を除けば、いずれもV2X機器の活用にはほど遠い状況です。これらのサービスを有効活用するためには、乗り越えなければいけない課題があります。
対応車両の増加
V2X実現のためには、まずもってV2X対応機器を搭載した車両が無いことには、車車間通信も、路車間通信もできません。自分の車だけに対応機器を積んでいてもをする相手がいませんから、V2V(車車間通信)は全く機能できないのです。
まずは「ITS Connect」などV2X対応機器搭載車を増加させる必要があります。
ただし、世界初採用となったクラウンの例でもわかるように、オプション設定、つまり追加料金がかかります。ユーザーにとっては役に立つかどうかわからない物のためにコスト増を受け入れるかどうかという話になりますから、高級車以外では標準装備に踏み切るのも難しいでしょう。
海外なら「Android Auto」や「Apple CarPlay」、日本ではカーナビなどの純正車載端末に組み込むことが望ましいと思われますが、車自体のエンジンなどを制御するコンピューターにも関わる問題です。そのため車のコントロールをGoogleやAppleに委ねたくない自動車メーカーの反発もあり、一筋縄ではいきません。
道路側へ対応機器の設置
今度はインフラ側の話になりますが、道路側の信号や監視カメラ、各種センサーと自動車の間でV2I(路車間通信)のできる機器を設置する必要があります。
都市部などに多い、見通しが悪く交通量の多い交差点から整備していくとしても、その量は膨大なものになりますから、かなりの時間がかかるでしょう。日本のように通信用光ケーブルが各地に引かれているところであればまだしも、そうでもない国や地域ではインフラ間を繋ぐネットワーク構築も大変です。
そのビジネスモデルを構築してインフラ整備を進めていかないことには、V2Xサービスが役立つ機能になりえませんし、運転支援システムや自動運転車に必要な情報収集にも難が出ます。
コストの増加は抑えつつも、何とか「点」ではなく「網」あるいは「面」となるよう、整備していかなくてはいけません。
5Gネットワーク
大量の自動車とモノの間で、大量の情報を飛び交わせることになりますから、既存の3GやLTE通信よりもっと高速の5G通信が必要となります。
そのため米インテルなど5G通信に高い技術を持つメーカーが自動車メーカーと協力、「DSRC/ITS-G5」と呼ばれる自動車用通信規格を作り、そのインフラ整備を推進しています。また、5G車載機器の普及を推進するため、通信・自動車業界各社によるグローバル団体「5GAA(5Gオートモーティブ・アソシエーション)」が2016年9月に設立されました。
今後より高度なセンサーを備えた運転支援システム搭載車や自動運転車が増えると、通信で送られる情報がさらに膨大となります。5G通信は単なるモバイル通信規格というだけでなく、将来の自動車のためにもなくてはならない通信インフラなのです
日本ではコネクテッドカー普及の遅れが壁に?
ここまで紹介してきたように、「ITS Connect」でV2X技術そのものは先行している日本ですが、今後の普及という面では他国以上の課題があります。
その1つがコネクテッドカー普及の遅れです。
他国ではコネクテッドカー用機器が収まっているところに日本ではカーナビが収まっており、車そのものをインターネット端末とするV2N技術が普及していません。日本以外の世界各国では、このV2N用車載機を5G対応とすることで比較的安価に、かつ急速にV2X対応が可能になるとみられます。
しかし日本ではカーナビの必要性は重要視されているものの、V2N端末として使えるものは少なく、これといった製品も見当たりません。これを改めてインターネット対応していかなければいけませんし、V2X対応のために5G回線へ接続料を払ってもらう必要も出るでしょう。
そう考えると、コネクテッドカー同様、V2Xも日本では普及が遅れるのかもしれず、そうなると自動運転車の普及にも影響が出る可能性もあります。
その現状を変えるためには、まず「車がインターネットに繋がっていると便利」という状況を作り出さなければならず、それは日本の自動車文化を変えることに他なりませんから、大きなチャレンジとなりそうです。