エコで持続可能な社会を目指すことを目的に、最近では世界中で環境に優しい電気自動車に注目が集まっています。国内では、トヨタや日産、三菱自動車など、名だたるメーカーが電気自動車を供給していますが、近年大規模な自然災害が増加している国内において活躍するある機能へ期待が寄せられています。それがV2Hです。
V2Hとは何か
V2Hとは、「Vehicle to Home」の略で、簡単に説明すると電気自動車(EV)で蓄えた電気を家庭で使用することができるシステムのことを言います。一般的な自動車は、家に設置されたコンセントから電気をもらうことはできますが、その逆は不可能です。V2Hとして電気の供給が可能なのは、エンジンを搭載したまま外部からの充電が可能なプラグイン・ハイブリッドカー(PHV)です。
日本国内では近年、豪雨による大規模災害が頻発しています。状況によっては、電気の復旧作業には数日間、それ以上かかることがありますが、V2Hを利用することで、クルマが発電機となり、自宅へ電気を供給することが可能になります。たとえば、トヨタのプリウスの場合、最大1,500wの最大出力で電力を供給できるのです。これは日数で表すと、満充電・ガソリンが満タン時に外部供給できる電力量はおよそ4日分、約40kWhです(一般家庭が日常的に使用する電力量は1日あたり10kWhとして計算)。災害情報の取得や連絡に役立つスマホをフル充電する場合は、スマホ一台をフル充電するにあたって必要な電力量を10W×1hとして4,000台分、言い換えると4,000回分の充電が可能になるということです。
V2Hを利用するには、V2Hに対応した電気自動車とEV用のパワーコンディショナーが必要です。このコンディショナーには太陽光発電システムの有無、発電した電力の使い道などによっていくつか種類がありますが、設置工事などの費用を含めると導入時に100万近くの費用がかかります。
V2Hのメリットとデメリット
V2Hには、次のようなメリットとデメリットがあります。
V2Hのメリット
豪雨や地震などによる停電時でも、通常通りに電気が利用できること
車種にもよりますが、プリウスの場合は通常の生活で使用する電気量で生活しても4日分の電気が使用できます。電気自動車のみでは蓄電の容量に上限に限界がありますが、太陽光発電が可能なパワーコンディショナーを使用していれば、昼間は太陽光によって電気を供給することも。ただし、V2Hのパワーコンディショナーや車種によって太陽光からの充電ができないものなどもあるため、使用時には確認が必要です。
電気代の節約ができる
電気自動車の電気代はガソリン車よりも安価で、ガソリン車が5円程度であるところ、電気自動車なら1.3円程度に抑えることができます。太陽光発電とあわせて効率的に使用すれば、電気代を大幅に削減することができるのです。また、クリーンエネルギー自動車の駆動用蓄電理または燃料電池を活用し、エネルギー供給源を分散化することで、災害による大規模停電のリスクを最小限にすること、災害対応力を向上させることを目的に、自治体ごとにV2H充放電設備補助金も設定されていますので、初期費用も抑えることができます。
大容量なのに充電時間が短い
家庭用の蓄電池の容量は4〜16kWhですが、V2H対応の電気自動車の容量は少ない車種でも12 kWh。多いものだと、日産のリーフやノートe-POWERで40 kWhほどあり、テスラはさらに100 kWhにもなります。200Vの家電製品も利用可能です。しかしその割に、家庭用コンセントと比較すると充電時間は半分程度と、非常に便利。
環境に優しい
近年は真夏日の日中は酷暑となり気温が40度近くに上がるため、クーラーが欠かせません。そうなると電気の需要が大幅に拡大するため、電力会社や火力発電所は稼働を増やして対応します。電力量が向上する時間帯にV2Hで電気自動車に蓄電した電気を使えば、ピーク時の電力削減にもつながり、環境へも負荷を減らすことができるのです。
V2Hのデメリット
蓄電池には寿命がある
メーカーや仕様によって異なりますが、パワーコンディショナーの寿命はおよそ10年〜15年程度と記されています。電気自動車から自宅へ送電すると、その分電気自動車の充放電回数が増加するため、バッテリーが早く劣化します。家庭用の蓄電池と比べ、圧倒的に耐久性が高いものの、その寿命は充放電の回数と使用容量に連動するので、頻繁に使用すればその分劣化が早まります。
設置場所を確保しなくてはならない
V2Hを使用するには自宅近辺に駐車場のスペースが必要です。また、自宅と電気自動車の間にパワーコンディショナーを設置しなくてはならないため、どちらも設置できるような広さを確保しなくてはなりません。
コンディショナーの導入費用が高い
補助金の活用によって多少は減額できますが、製品の購入と設置する際の工事費用をあわせて100〜200万円程度を見ておいた方がいいでしょう。
海外ではどんなシステムがあるのか
近年はサステナブルや環境に優しいことが重視され、国外でも多くの自動車メーカーがさまざまな新型EVを発表しています。海外の注目すべきV2Hの動向を調べてみました。
気になる、米テスラの動向は?
テスラは2016年6月に太陽光発電のインフラ事業を手掛ける米ソーラーシティの買収し、持続可能な社会の実現に向け、総合エネルギー企業化を目指してきました。テスラのモデル3とYには双方向の充電が可能なV2H機能が搭載されていますが、電池の劣化に懸念を示しており、大々的には発表されていません。
日本国内では、2020年春ごろより上陸した、テスラの家庭用蓄電池のパワーウォールが注目を集めています。スタイリッシュなデザインで13.5kWhという大容量に、99万円プラス工事費用の低価格が最大のウリ。スマホとも連携し、ソフトウェアの更新で自動に機能がアップデートし続けるのだとか。V2Hとは異なりますが、同社の環境に優しい、持続可能なエネルギー開発への率先的な取り組みは、環境への意識を高めるきっかけを私たちに与えてくれそうです。
双方向充電器がエディソン賞を受賞
ヨーロッパ地域で電気自動車充電機器をリードするWallbox。同社が提供するV2H双方向充電器「クエーサー」が、2020年エディソン賞のエネルギーと持続可能性部門を受賞しました。同社のCEOであるEnric Asuncion氏は、「Wallboxは化石燃料ではなく再生可能エネルギーに社会が頼れる未来を見据えています。私たちはより多くの人が電気自動車を使えるよう、充電をできる限りシンプルにするよう尽力しています」と語っています。
クエーサーは住宅用双方向で充電可能なV2H機器で、電気自動車の充電だけでなく、電気を電力網に戻したり、自宅で使ったりすることができます。iOSやAndroid、エネルギー管理プラットフォームと連動して動く設計になっており、利用者が充電器を簡単にコントロールできるのがポイント。また、クエーサーは顔認証システムとジェスチャー操作システムを搭載し、友人や近所の人たちの間でアカウントをシェアできるようにしている、次世代のイノベーション機器なのです。
まとめ
経産省が次年度(令和3年度)の蟻酸要求の重点案を9月末に公表しました。その中の1つに、脱炭素化に向けたエネルギー転換があげられ、太陽光発電システムをはじめとする再生可能エネルギーの導入を通じた主力電源化、電気自動車の普及など、脱炭素化、水素社会、CCUS・カーボンリサイクルの推進など、「ビヨンド・ゼロ」を目指して環境技術の開発・実証に取り組むことが盛り込まれています。そのため蓄電池システムやV2Hなどエネルギー関連の補助金制度は引き続き実勢されると予想されています。
V2Hは、環境や今後の自然災害を考慮すると非常に便利で役立つ機能です。しかし、本格的に活用するには数十万円ほどするコンディショナーと設置工事費用、そしてV2H対応車という費用面と設置場所、2つの課題をクリアしなければ利活用ができないものです。持続可能な社会を実現するために非常に素晴らしい機能ですが、日本国内で浸透するにはもう少し、時間がかかるのではないでしょうか。