EV普及を加速するために。東京ガスが掲げた3つの挑戦と豊かな生活実現に向けた未来図(前編)

EV普及を加速するために。東京ガスが掲げた3つの挑戦と豊かな生活実現に向けた未来図(前編)

2015年12月、パリ協定の中で、温室効果ガス削減に関する国際的な取り決めが採択され、日本は2030年度の温室効果ガスを2013年の水準から26%削減することを目標に掲げ、動き始めています。
2020年11月、イギリス政府がガソリン車、ディーゼル車の新車販売を禁止とし、電気自動車(Electric Vehicle:以下、EV)の普及に向けた計画を明示、フランスでも2040年からガソリン車の新車販売を禁止すると発表。地球温暖化、気候変動化に向けて各国が大きな動きを見せる中、ついに日本政府も昨年末に「遅くとも2030年なかばまでに乗用車新車販売で電動車(EV、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車、燃料電池車といった動力源に電気を使用する自動車の総称)を100%実現する」と述べました。東京都も都内で新車販売される乗用車について、2030年までにガソリンエンジンだけの車を無くし、全てEVやハイブリッド車などの非ガソリン車にする新たな目標を発表しており、この潮流を受け、企業もEV普及に向けて動き出し始めています。

そうした今後のEV普及に向けて、動き始めたのが総合エネルギー企業である東京ガスさまです。本インタビューでは、前編でEVのソリューションに取り組む理由を、後編ではスマートドライブとの連携についてお話を伺いました。

東京ガス株式会社

  • 価値創造部 エネルギービジネスイノベーショングループマネージャー
    天羽伸二 :マネージャーとして分散型エネルギーに関する新規事業創出を統括
  • 価値創造部 エネルギービジネスイノベーショングループ
    多久俊平 :チームリーダーとしてEV・モビリティ事業を統括
  • 価値創造部 エネルギービジネスイノベーショングループ
    瀧本勲 :法人向けEVソリューションプロジェクトのリーダー
  • 価値創造部 エネルギービジネスイノベーショングループ
    中澤理 :法人向けEVソリューションプロジェクトのメンバー

東京ガスが次世代へ向けて取り組む3つの挑戦

東京ガスと言えば誰もが知る企業ですが、改めて事業内容についてご説明いただけますか。

天羽:社名にもございますガスの供給以外にも、電気をはじめとするエネルギーの供給から使用まで広くエネルギーに関わるサービスを提供しています。

2019年11月に、「Compass2030」という東京ガスグループの2030年に向けた経営ビジョンを表明しました。これは、社会的な背景として環境問題を意識した脱炭素化、そして技術面でのデジタル化、お客さまの価値がモノからコトへの変化、エネルギー自由化の進展を踏まえ、エネルギーシステムをリードしながら価値を創出するために挑戦し続けることを目指したものです。

今までエネルギー業界がある意味、地域独占の形でビジネスを展開していましたが、エネルギーの自由化により、異業種からの参入が増え、競争環境が激しさを増しています。そんな中で私たちが将来的にどのような姿を目指していくのか、Compass2030では次の3つの挑戦を打ち出しています。

CO2のネット・ゼロ

天然ガスの有効利用、再生可能エネルギーとの組み合わせ、脱炭素に資する技術の開発により、 当社グループならではの「CO2ネット・ゼロ」に挑戦していきます。

「価値共創」のエコシステム構築 

お客さま、地域社会、ビジネスパートナー、自治体等とともに、デジタルも活用しながら、 それぞれの商品・技術・サービスを最適に組み合わせ、価値を創出し続けていきます。

LNGバリューチェーンの変革

トレーディング、製造・発電、ネットワーク、カスタマーソリューションの各機能がそれぞれに、 多様な価値を創出し、競争力を高めていきます。

私たちが取り組んでいるEVは、「CO2のネット・ゼロ」と「価値共創のエコシステム構築」の2つに関わるものです。

世界で広がるEVへのシフトに着目

東京ガスにおけるEVのプロジェクトにはどのようなものがあるのでしょうか?

天羽:エネルギービジネスイノベーショングループの中にEV・モビリティ事業を検討するチームがあり、複数の取組みがございますが、その内の主要な1プロジェクトが法人向けのEVソリューションです。EVに関しては、法人向け、個人向けの2軸でプロジェクトを走らせていますが、前者は現在、お客さまのニーズを洗い出し、私たちのサービスをどのように落とし込むかを検証しているところです。

さまざまな種を蒔き、POCを実施されているうちの1つに、スマートドライブとの連携があるということですね。

東京ガスさまがガス以外のエネルギーを供給されているのは、テレビコマーシャルなどを通じて広く認知されていますが、今回、EVに関与されるのには、何かきっかけがあったのでしょうか?

多久:私たちは総合エネルギー企業として、ガスや電気を含むエネルギーを家庭用から業務用、工業用まで幅広く供給し、多くの方々にご利用いただいておりますが、一部を除いて自動車にはエネルギーを供給できていませんでした。しかし今後、ガソリン車からEVにシフトしていくとなると、私たちもより幅広いお客さまにエネルギーを供給できるようになります。それが最初に着目した点でした。

ただ、EVを普及拡大させていくためには、EV本体価格の低減、充電環境の整備、充電マネジメントなど、課題が色々とあることがわかってきました。そこで、エネルギーインフラ事業者としての立場でそれらを解決できるサービスを提供しようと立ち上がったのが現在のチームです。

EVが本格的に普及していけば、車へのエネルギーの供給が可能になります。しかし、その一歩手前、EVの普及には多くの課題があることを理解されたため、まずは課題解決に目を向けられたと。

多久: 当社としては、EVシフトのトレンドを好機として捉え、環境に良いエネルギーを提供できる領域を広げていくとともに、EVの普及拡大に資するサービスを提供していきたいと考えています。

大勢多数の方が東京ガスさまに「エネルギーの供給元」というイメージを持っています。生活者により近いところで課題解決をしたいとお考えになった理由は?

天羽:“ガスの供給元”であることに相違はありませんが、お客さまにガスを「どう使っていただくか」というのも私たちの事業範囲です。現在もガスを使用するためのコンロや給湯器などの機器販売や安全点検を担っております。つまり、お客さまがどのようにガスを使用されるのか、エネルギーを使用されるのか、エネルギーの供給だけでなく適切で効率的な活用までを支援するのが私たちの使命ですから、今後、EVへエネルギーを供給していく際も、供給から活用に至るまでをサポートしたいのです。

ただ、EVは新たな挑戦であるため、現段階では具体的にどこまでやれるかは明示できません。しかし、スマートドライブさんや様々な企業と連携しながら、エネルギーの活用を支援できる最適なサービスを考え、落とし込んでいければと。

天羽さまのお話を伺って、改めて日常の中で幅広いサポートを受けていたのだなと認識しました。

多久:電力の全面自由化によって電気を販売する事業者が急増し、競争が激しくなっておりますが、お客さまから選ばれ続けるために、単純に電気を供給するだけなく、お客さまの課題を解決していくソリューションと組み合わせたサービスをご提供していくことが必要です。

「EVシフトを加速するには何ができるのか」

法人向けのEVソリューションについて教えてください。

瀧本:業務用の車両は日本全国で二千万台ほどありますが、運輸部分でのCO2削減が求められているものの、業務用として使用できる電動車両のラインナップは、現在はそれほど多くありません。しかし、業務用仕様のEVが開発された時に、EVシフトを加速させるために何ができるのか、何が必要か、私たちは来たる未来に目を向けて事業を開発しようと動いています。

まずは、お客さまがEV導入にどのようなハードルを感じているのかを洗い出し、それらを解決できるソリューションを私たちが提供することで、お客さまのEV導入をサポートし、業界全体での車両のEVシフトを加速できればと考えております。

たとえば、私が千葉に拠点を構える建設会社の社長だとしましょう。その会社では複数の社用車を有しており、EV化について御社に相談するとします。この場合、どのようにご支援いただけるでしょうか?

瀧本:はじめにお客さまが直面する課題としては、「EV化することによる業務への影響」や「EV化のコスト面・環境面での効果」が分からないことだと考えております。そこで、車両の稼働率や使用方法を可視化して、EV化すればどの程度のメリットが出るのかを定量的にお客さまへ示します。そこで、メリットを示すことができれば、次は充電設備の整備をどうするかという話になりますので、例えば、初期費用なしに充電設備を導入出来るサービスの提案を考えております。そして、EV導入台数が増え、電力の負荷が大きくなるタイミングで、最適な充電タイミングのご提案など電力マネジメントのサービスをご利用できるようにしたいと考えています。

そうすると、この建設会社の社長は、ガソリンに支払っていた支出を抑えることができるようなる?

瀧本:適切な充電設備の導入や、充電タイミングの制御による基本料金削減により、支出を抑えるご提案をしていきたいと考えています。ガソリン車に比べ、EVの方が燃料費は安価なので、走れば走るほどEVのランニングコストが安くなるのは間違いありませんから。

長期的に見てコスト削減と環境負荷軽減が実現できる、まさに一石二鳥と言えそうですね。

瀧本:そうですね。更に防災価値を重視されるお客さまには、レジリエンスの面からも価値を提供できればと考えています。

法人でEVを使用する場合、助成金などの支援を得ることができるのでしょうか?

瀧本:現在でもすでにエコカーの補助金制度がありますし、今後、各省庁や都道府県独自の新たな補助金制度が創設されますので、これらを活用いただければ、EVを取得する金額を抑えることができます。また、充電設備についても補助金の交付がありますので、お客さまがEVを利用しやすい環境が着実に整いつつあります。EV化は意外と目の前までやってきているのです。