インタビュイー:株式会社シード 代表取締役 吉川幸孝さま
「父を超える」を胸に、起業の道を選んだ大学時代
吉川様のご経歴と起業のきっかけについて教えてください。
愛知県一宮市で生まれ育ち、愛知県の大学に進学。大学では英語英米文化学科を専攻していたので、留学制度を利用してアメリカのオハイオ州に4カ月ほど滞在しました。飛び立つ前は、英語は得意と言えるほどではありませんでしたが、ノリと勢いでなんとかなるだろうと思っていたんです。しかし、実際に現地へ行くとそれがまったく通用せず、無力感を感じたまま帰国しました。その国の言語が話せないと主張も共感もできないし、誰とも会話ができません。当時は、これでは自分が存在する意味がないとネガティブに考えてしまいました。が、同時に「自分がここにいることを証明したい」と強く思ったんです。
もともと会社経営をしている父の背中を見て育ちましたので、幼い頃から私の中で父の存在は大きかったです。人からよく「あなたのお父さんは立派な方だ」という話を聞かされていたので、経営そのものが自分自身の証明、自分の存在意義になるんじゃないかと考えるようになっっていったんです。それからは経営のセミナーや書籍を読みあさり、大学三年生の時に勢いで起業しました。
当時はどのような事業をされていたのでしょうか?
初期の頃は大学生の街コンや人をたくさん集めて何かするなど、何でも屋をしていました。それに加え、コインパーキングの事業をしていた父から一カ所につきいくらという形で営業の仕事を一部任されました。その仕事をしながら駐車場ビジネスについて知識を身につけていきます。そして駐車場ビジネスに携わるうちに、この業界は課題も多いぶん、可能性も多いことに気づき、今の事業へとつながっていきました。
私が、子どもの頃から抱いていた目標は「父を越える」こと。これは大学生になっても変わりませんでした。なので、なるべく父の協力は仰がないようにしようと心に決めていたのです。とはいえ、会社として成り立たせるには、売り上げをあげなくてはならない。当初は父とは違う道を歩もうと思っていました。しかし、考えるにつれ駐車場ビジネスに関して経験や知識が豊富な父の力を借りて、同じ土俵で超えるほうが良いのではと考えるようになり、ならば売り上げを10倍にして「父を超えた」と納得しようと、目標を設定しました。
全国2,000カ所に設置されている「Smart Parking」とは
改めて、Smart Parkingのサービス概要をご解説いただけますでしょうか。
2016年の3月にスタートしたSmart Parkingは、空きスペースにIoT端末が搭載されたカラーコーンを置くだけでコインパーキング運営ができるサービスです。もっと簡易的に言うと、駐車場シェアリングサービス。そして、空いたスペースとそこを使いたいユーザーをマッチングするのがSmart Parkingのアプリケーションになります。
月極の駐車場、使われていない間の建設予定地、飲食店さんの定休日の駐車場、また、法人企業であれば営業車両が出払っている特定の時間帯など、空きスペースの柔軟な利活用ができます。
ユーザーはどのように駐車場を利用すればいいのでしょうか?
ユーザーはアプリを操作するだけです。カラーコーンはBluetoothの電波を発信し続け、距離を検知します。ユーザーがアプリを立ち上げたままコーンに近づくと現地認証ができ、入庫を検知。つまり、車を検知するのではなく、人によって出入りを管理するシステムです。そのため、ユーザーが遠くにいる場合は入庫も出庫もできないようになっています。
どのようなオーナー様が利用されていますか?
多いのは不動産管理会社様ですね。月極駐車場で10台中2台分のスペースが空いていたら、契約が決まるまでそこを活用いただくとか。または、少し前まで車を所有していたけど、高齢に伴い車を手放し、必要時はカーシェアを利用するといった個人の場合、契約していた駐車場をSmart Parkingで貸し出すことも可能です。
現在では北は北海道、南は沖縄まで全国で展開しており、設置カ所は2,000を突破しました。
もっと柔軟に、効率よく空きスペースを活用したい
このサービスを思いついたきっかけを教えてください。
父の仕事を手伝っている時、営業先の1つに不動産管理会社様がいました。私はコインパーキング事業を拡大すべく、不動産会社様が管理している駐車場10台分のスペースを一括で貸していただけませんかと尋ねました。しかし、もらえた回答は「10台中8台はお客様と契約しているので、2台だけでなんとかしてしてくれないか」というもの。
コインパーキングは全台分を借りなければ採算が取れないので、このようなケースはお見送りせざるを得ないんです。そうしたお断りが何件か続いた時に、「逆に考えてみよう。少しのスペースでも、空いているところを活用できればそれが大きな価値になるのではないか」と考えました。コインパーキングはニーズがある。だから拡大しようと営業している。空いているなら使いたいというニーズは必ずあるはずだ。そしてそれを解決するサービスを作ろうと思って着手しました。
駐車場にカラーコーンを設置する仕組みにした理由を教えてください。
カラーコーンである理由は、安価で簡単に動かせるから。設置台数が限られているぶん、コインパーキングよりも柔軟性が高くなければなりません。コインパーキングは、看板や精算機、フラップなどを設置するために設備投資をしなくてはなりませんし、数年に渡る契約が求められます。それはオーナー側からすると柔軟とは言い難いですよね。それに1、2台分だけのために精算機とフラップ板を取り付けるのはコストに見合わない。柔軟かつ安価なコストを重視した結果、IoT端末とカラーコーンに行き着きました。
今後はどのように展開されていく予定ですか?
現在、もっとも力をいれて取り組んでいるのが、コインパーキングのキャッシュレス化です。昨年の12月にリリースした「Smart Parking HUB」は、アプリから利用料金をキャッシュレス決済できるサービスです。通常の精算機は現金のみの対応がほとんど。雨が降っていても濡れた状態で清算しなくてはなりませんし、一万円札に対応していない精算機では両替が必要で、私自身、従来の清算方法にすごく不便を感じていました。こうした課題をもっとスマートに解決しようと開発したものです。
たとえば、とあるコインパーキングの1番の駐車場に入庫したとします。用事を済ませて戻ってきたら、Smart Parkingのアプリを立ち上げて1番を選択し、料金を確認します。登録しているクレジットカードで簡単に支払い、フラップ板が降りて出庫完了。この仕組みを作るために、精算機メーカー様とタッグを組みました。現在は2社と提携していますが、今後さらに拡大を続けたいですね。
本サービスは現在、東京や名古屋で成長しています。キャッシュレス還元をはじめ、時代の流れが現金からキャッシュレスへと変わりつつありますのでさらなる成長を期待しています。そもそも、現金は運営会社様にとってもメリットが多いんですよ。 無人ですが、警備やメンテナンスにコストがかかりますし、東京都内は頻繁に利用されるので1週間のうち8回ほど集金が必要になる。無人のはずが、結局は人の手を介さなくてはならないのです。キャッシュレスにすることで、そういった全体コストを低下できればと考えています。
現金ですと、集金や両替(札詰まり、釣銭切れ等)の固定費が発生します。例えば、東京都内は頻繫に利用されるので、1ヶ月のうち8回ほど集金が必要になるところもある。キャッシュレス決済の割合が50%になれば、集金も半分で済む。 また、現金があると盗難などのリスクも存在します。キャッシュレスにすることでそういった全体的なコストを低下していけれると考えています。
遊休資産をいかに活用すべきか
スマートドライブどのようなコラボレーションが可能でしょうか?
SmartDrive Fleetのサービスを使うと車の稼働状況が明確になりますよね。これって、駐車場視点で見ると「稼働率が高い=駐車場が空いた状態」がわかるので、SmartDriveが法人車両の稼働率を引き上げ、空いた駐車場をSmart Parkingで活用することも考えられますね。
所有する車両台数が20〜30台くらい、車の稼働率が日中40%という企業の場合、稼働時間中に駐車場を貸し出すことができますから、駐車場で収益をあげることができます。駐車場を借りるのもコストがかかるので、こうした遊休資産をいかに活用するかで企業の収益も大きく変わってくるはずです。まだ細かい点を詰めきれていませんが、実際にスマートドライブ名古屋支社の担当者と話を進めている最中ですので、この取り組みを早く実現できればと思っています。
都内は貸し出されていない駐車場が多くあります。そのスペースをうまく利活用できれば、都内の駐車料金を下げることができるかもしれません。大型配送トラックの路上駐車が問題になっていますが、細かく見ていくとさまざま場所に駐車スペースはたくさんあります。埋れた資産をうまく活用できるようにして、交通をもっと滑らかにしていきたいですね。