2019年6月18日以降の新車から電子ミラーが認可!
自動車のデザインに大きな影響を与えてきたサイドミラー。
日本では当初は運転中の視線移動が少ないという理由でフェンダーミラーが、その後ドアミラーを採用している海外メーカーから輸入障壁を指摘され、ドアミラーが認可されてきました。
筆者はまだフェンダーミラーが残っている時代に車の運転を始めた年代なので、フェンダーミラーもドアミラーも両方経験がありますが、慣れてしまえばどちらでも良い、と思ったのが正直なところです。
もちろん、それを可能にするため自動車メーカーやミラーメーカーが人間工学的にさまざまな苦労を重ねてきたことでしょうが、それでも長年車のフェンダー、あるいはドアにサイドミラーがあるというレイアウトには変わりが無かったのです。
しかし、それを根本的にひっくり返す出来事が起こりました。
従来のミラーの代わりに、カメラを装備した「電子ミラー」で置き換える事が、国土交通省によって2016年6月に認可されたのです。
新型車は2019年6月18日から、生産中の車がマイナーチェンジなどで置き換える継続生産車は2021年6月18日から、電子ミラーを採用したミラーレス車を販売できることになりました。
「鏡」を超えた能力を持つ電子ミラー
電子ミラーは基本的にボディ左右に装備されたカメラで撮影した映像を、車内のモニターに映し出します。
それ自体は特に目新しい技術ではなく、例えばリアビューカメラ(あるいはバックモニター)として駐車支援技術に使われており、今では軽自動車にすら搭載されている当たり前の技術です。
こうした細々とした「痒いところに手が届く」技術は日本が得意とするところでしたが、アメリカでも2018年からリアビューカメラの搭載が義務付けられることになりました。このリアビューカメラを一度でも使ったことがある人ならばイメージできるはずですが、シフトレバーをバックに入れた瞬間画面がナビなどから切り替わり、ハンドルの切れ角に応じて車がどこに進むのか表示されます。
しかも、どこまでバックするとぶつけてしまう等の追加情報も表示されるようになっており、単にバックミラーの視界を広げたものにとどまらないのです。これはカメラで撮影した映像を、ドライバーに見せるまでの間に追加情報を合成することができるからで、サイドミラーに代わって採用される電子ミラーでも同じことが可能に。
つまり、単純に鏡が無くなってスッキリした、という以上の、革命的な出来事なのです。
電子ミラーになって何が変わる?
リアビューカメラで既に実現していることは、サイドミラーを置き換えた電子ミラーでどのような応用が効くのでしょうか?
基本的にはバック時の支援装置であるリアビューカメラと同様の効果はもちろんありますが、それ以上に「走行時の支援」つまり「運転支援装置のセンサー」として大きな役割を果たすことになります。
従来型の鏡を使ったミラーとは異なり、カメラの設置位置の自由度が高いため、極端な話を言えば死角が激減します。
映像は車内のダッシュボードやHUD(ヘッドアップディスプレイ)、フロントガラスなどに映し出されますから、ドライバーにとっては視線の移動をほとんど行わずとも後方や隣接車線側方・後方の視界が得られることに。
後方を走行している車との距離や接近してくる速度などを把握してマーキング、ドライバーに追加情報として知らせることもできます。
視界が格段に拡大する事で情報量が増えることや、今までと見る場所が異なることから、最初は戸惑うかもしれません。
とはいえ、ほんの10分ほどで慣れますし、重要な情報は選別された形で表示されますから、むしろ本当に必要な情報を、今までより容易にわかりやすい形で取得できるものと考えた方がいいでしょう。
自動運転車のセンサーとしても重要
こうした「運転支援」に役立つのはもちろん、単なる「鏡」との大きな違いは自動運転時のセンサーとしても機能する点です。
レベル4自動運転(完全自動運転)でなくとも、レベル3あるいはレベル2自動運転(ドライバーの待機、あるいはハンドルを握っていることが必要)においても、車線変更時に隣の車線の後方車の様子がわかることは非常に役立ちます。
2~300mの感知距離を持つレーダーやレーザーセンサーに加えて、電子ミラーのカメラで撮影した映像を解析すれば、条件次第ではそれより遠くの後続車を探知することもできるでしょう。
たとえば、かなり遠距離からでも速度差の大きい車が接近している最中に車線変更を行うのは危険ですよね。後方の様子がわかれば途中で接近に気づいて回避するなど、運転の安全性はアップします。
自動運転で不可欠な全方位監視システムにとって、電子ミラーを装備したミラーレス車は無くてはならないものとなっていくでしょう。
参入するパナソニックの目指すもの
そんな注目度が高まってきている電子ミラー事業へ基幹部品の供給を決定したパナソニックですが、2016年11月14日の発表では平成29年度(2017年度)から販売開始することを表明しています。
しかし電子ミラー自体は従来からのミラー大手、村上開明堂や市光工業、東海理化などが参入しており、特に目新しいものではありません。
自動車部品大手のコンチネンタル・オートモーティブ(ドイツ)などは、映像解析技術を組み込んだ情報を映し出す電子ミラーの試作車を走らせ、車内でのモニターレイアウトをより容易にするため、有機ELディスプレイを採用しようとしています。
パナソニックが目指すのもコンチネンタルと同じ方向で、グループ内のオートモーティブ&インダストリアル社が次世代自動車用コクピットの開発を行っており、電子ミラーはあくまでその一貫です。
海外との提携で次世代コクピットや次世代モビリティへ
ひと昔前のパナソニックは、リコール(回収・無償修理)がつきものの自動車関連事業にはそれほど熱心ではありませんでした。
しかし数年前から「自動車関連事業こそ将来的な発展分野」と見込んで積極的に開発を進めるようになり、現在はオートモーティブ&インダストリアル社によってさまざまな開発が行われています。
その中で電子ミラー技術については2014年にスペインの自動車部品メーカー大手、フィコサ・インターナショナルと資本提携することで合意、2015年から実働しました。同時に自動車用HUDも開発、電子ミラーの情報がこのHUDやフロントガラスへの投影で表示される次世代自動車用コクピットを将来的な事業の柱にしようとしています。
同時に近距離用低速パーソナル・モビリティ(超小型車)の独自開発も行っており、カメラによる映像解析を行いながら完全自動運転を目指しているのです。
単純に電子ミラーだけならば、国内ミラー大手が並ぶ中で参入が難しいところ、パナソニックはより大きな視点から製品開発を行い、電子ミラーはそのために「必要不可欠な部品」として開発しているのが特徴的だと言えるでしょう。
電子ミラーをこれまでの「サイドミラー」という枠を超え、より大規模で統合された先進システムの一部として開発するというモデルは、国内ミラー大手よりも前述のコンチネンタル・オートモーティブと似たようなところがあります。
このシステムをパナソニックはどこに売り込もうとしているのか、そしてその世界的シェアを大きく占める事ができるのか、今後の続報にも期待したいところです。