世界に「Uber」あれば、インドに「Ola」あり
ライドシェアサービス「Uber」は登録ドライバーの愛車をハイヤーとして配車するサービスで、スマートフォンやパソコンがあれば、サービス提供地域内ならどこにでも呼び出せます。
Uberは世界中でサービス網を拡充しようとしており、たとえば日本でもタクシー業界から猛烈な反発を受けつつ東京でサービスを展開、さらに今後は公共交通手段の乏しい過疎地にも広がる見込みです。そうしたサービスはUberのみの専売特許では無いので、発祥国アメリカでは「Lyft」が、そして東南アジアでは「Grab」が台頭していたりなど、海外各地で同種サービスが相互提携を行いつつ、Uberに対抗しています。
インドのご当地配車サービスとしては2010年創業の「Ola」がUber最大のライバルとして立ちはだかっており、支援の方も2014年にソフトバンクによる2.1億ドル(当時で約227億円)の出資を報じられるなど、有力なUber対抗馬と目されているのです。
インドにおけるOlaとUberの争い
インドでのOlaとUberの争いですが、現状はまだ決定的な差が生まれているとは言えない状況です。両サイトを見る範囲では、サービスを使用できる都市の数は現状Olaの方が多く、かつOlaがUberよりも利用されているというデータもあったりします。(このデータはインドで提供される特定の通話アプリを利用した両サービスの使用回数のため、あくまで参考程度です)
とはいえUberは各国で配車アプリを展開していますから、サービスの改善ノウハウやマーケティングノウハウ、豊富な資金などを活かして今後巻き返していくのではないでしょうか。
またサービスの質に関して実際に現地で利用した方の感想も、参考がてら紹介したいと思います。
(Olaに関して)システムダウンする事が多く、アクセス出来なくなる。その場合は、電話で問い合わせれば何とか呼んでくれるが、相対的にウーバーの方が使いやすく感じる。
(「インドのタクシー配車サービスがすごく便利。Uber、Ola」より)
この「Ola cab」、車両規制が始まってから、タクシーシェアを打ち出し始めたようで、単独でタクシーをつかまえにくくなったこと、ピックアップ場所を電話で聞いてくるドライバーが多いこと=ヒンドゥー語しか話せない人が多くて大変なこと、そして、手数料がかかることなど、デメリット多し。”
“オートリクシャーを予約できるのはOla cabの方だけ。ま、オートリクシャーもほとんど使うことがなく、路上で値段交渉とかしたくないときのみですが
(「便利なタクシーアプリ。」 より)
Olaの方が利用されているというデータを先ほど紹介しましたが、一方でUberの方が使いやすいという声もあるようです。
ただ日本では「トゥクトゥク」という呼び名で知られている現地の3輪タクシー「オートリキシャ」が使えることや、ヒンドゥー語を使った電話でのオーダーを図ってくることでもわかる通り、Olaは観光客より地元民向けサービスなのかもしれません。
張り合う両者は2輪サービスも同時に開始
Olaのみがオートリキシャを取り扱うことから、Uberは質の高いハイヤーでのサービスに特化するかと思いきや、2016年3月には両者そろって「オートバイタクシー」のサービスを開始しました。
実はインドでもっとも深刻なのは交通渋滞で、地元民にせよ観光客にせよ、目的地まで素早い移動を実現したければ、インド特有のオートバイタクシーの利用は欠かせません。「とにかく目的地まで早く着ければ、手段は問わない」という乗客に対して、両社とも同じサービスに行き着いたわけですが、同時に開始したというあたりが両者のライバル関係を表しています。
なお、オートバイタクシー版Uberとも言えるサービスはインドネシアの「Go-Jek」が既にタクシー事業だけでなく、日本でいうバイク便的なサービスを展開しています。(ちなみにこの渋滞事情であったりバイクも主戦場になっているというのは東南アジアも同様です)
OlaやUberについてもインド国内でこのような方向性に発展する可能性もあるのではないでしょうか。
Olaが、Uberに続き車内エンターテイメントを開始
しかし、インドのご当地交通とも言えるオートバイタクシーでUberに先行できなかったOlaとしては、通常の乗用車ハイヤー配車ではサービスの質で大きな差をつけることも現状はできておらず、差別化のポイントとしてはオートリキシャのみです。
オートリキシャは乗用車に快適性で劣り、オートバイタクシーには即時性で劣ることから、現地の気候風土に慣れた地元の人間以外の活用は、少々ハードルが高いでしょう。となれば、OlaがUberに対抗していくためには、乗用車ハイヤー配車の分野でサービスの質を改善するしかありません。
その1つのアプローチとして、慢性的な渋滞のために車内で過ごす時間が長い乗客の快適性を向上させること、乗客に無駄な時間を費やさせているという意識を持たせない視点が重要になります。
ちなみにこの分野でもUberは先行しており、車内エンターテイメントとして、2014年からは音楽ストリーミングサービス「Spotify」と提携。乗客が有料サービス「Spotify Premium」を契約していれば、車内のスピーカーから自分好みの音楽を流せるようになっています。
さらにデジタルラジオのPandoraとも2016年6月に提携しストリーミング再生機能を提供、同9月にはドライバーだけではなく、乗客もこの機能を利用できるようになると発表しました。
Uberを追撃するOlaとしては、何としてもUber以上の車内エンターテイメントを提供したいところで、それが2016年11月に発表された「Ola Play」です。
「Ola Play」で実現できる車内エンターテイメントとは?
2015年にUberと同様の車内フリーWi-FiをリリースしていたOlaにとって、この車内エンターテイメントサービス「Ola Play」に行き着くのは必然だったのでしょう。
同サービスはドライバー用と乗客用の2つのタッチパネル式デバイスで構成されており、助手席背もたれへ後ろ向きにセットされたタブレットが、乗客へさまざまなエンターテイメントを提供します。タブレットには乗客自身のスマートフォン端末なども同期させることが可能なようで、旅先の情報や、それらを自由に検索できるインターネットブラウザが含まれます。
加えて、Apple Musicや Sony LIV、Audio Compass、Fyndなど提携サービスを利用可能。これによりOlaを利用する乗客に、渋滞の中でも退屈しない、リラックスできる車内空間を提供しようと目論んでいます。
最初はバンガロールやムンバイ、デリーなどで提供されている高級版Ola「Ola Prime」のユーザーにのみ提供されますが、2017年3月にはインド中で5万台以上が走るOla車で同サービスが利用できるようになる見込みです。
車内エンターテイメントの将来性
この種のデバイスについて、ハード面では単純なタブレットと変わりが無いので、特筆すべきところは今のところはありません。
やはり注目すべきはコンテンツの方で、Olaは既にファッション系EC企業のMyntraなど複数のブランドと提携業務を進めています。「ショッピング」や「予約手続き」などが車内で利用できることで、目的地に到着次第すぐに品物を受け取ったり、予想到着時間を見ながらレストランなどの予約をしたり、より効率的に時間を使えるようになるのではないでしょうか。
車内エンターメイメント(インフォテインメント)と言うと「音楽」や「動画」などを想像されるかもしれませんが、買い物や予約など実用的な機能を取り入れることで、より有意義な時間を乗客に提供できると考えているのかもしれないですね。
Uberも同種のサービスを始めるでしょうが、そこでOlaは地元企業との手広い提携という「地の利」が活かせるかもしれません。
車内滞在時間活用策は、新たな投資調達への布石?
Olaの共同ファウンダー(創設者)兼CEOのBhavish Aggarwalは、TechCrunchでのインタビューでこう語っています。
私たちの顧客は、毎日合計で6000万分もの時間をOlaカーの中で過ごしているため、彼らにとっての快適さや便利さ、生産性にOla Playが与える影響は甚大です。このサービスによって、ライドシェアを交通手段の第1候補と考える人の数が、さらに何百万人も増えることでしょう
(TechCrunch Japan「Olaが車内エンターテイメントプラットフォームのOla Playをローンチ」より)
Olaは近々6億ドル規模の資金調達を図るとも言われており「Ola Play」はその調達をスム-ズに促すための、最高のアピールだというのが同記事では伝えられています。
ライドシェアサービスにコネクテッドカーの機能をフル活用して、車内時間を快適にするという発想は、「とにかく目的地に早く着くのが最大の目的」である日本のタクシーの一般的な使われ方や交通事情とマッチするかどうかは今のところ不明ですが、一部車内快適性やサービスで個別化を図る中小規模や個人タクシーでは近しいことが展開されており、今後もし「白タク」が合法化することなどがあれば、潮目は一気に変わっていく可能性もあるでしょう。