世界が注目する中東・北アフリカ地域MENAの経済成長とサービス

世界が注目する中東・北アフリカ地域MENAの経済成長とサービス

今、世界でもスタートアップ市場で注目を浴びている都市があります。それが中東・北アフリカ地域、通称MENAと呼ばれる地域です。

スタートアップとこの地域がすんなりと結びつかない方もいるかもしれません。そこで今回はネットの普及事情から最新の動向についてご紹介していきましょう。

スタートアップの活況にある「MENA」

聞きなれない言葉かもしれませんが、MENAとは、ポストBRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)として注目が集まっているMiddle East(中東)とNorth Africa(北アフリカ地域)を合わせた地域のことを言います。MENAに厳密な定義はありませんが、GSMAが対象としている25市場は、アルジェリア、バーレーン、コモロ、ジブチ、エジプト、イラン、イラク、イスラエル、ヨルダン、クウェート、レバノン、リビア、モーリタニア、モロッコ、オマーン、パレスチナ、カタール、サウジアラビア、ソマリア、スーダン、シリア、チュニジア、トルコ、UAE、イエメンです。

※GSMAとは世界中のモバイル通信事業者を代表する団体のことで、モバイル事業約800社を結集しています。そのうち300社以上は携帯電話機および端末メーカー、ソフトウエア企業、機器プロバイダ、インターネット企業など、広範囲なモバイルエコシステムを構成する企業であり、関連業界セクターの組織も参加しています。

最近のニュースでは、米国時間の2017年3月28日、Amazonはアラブ諸国で最大規模のEC事業を展開しているSouqを6億5,000万ドルほどに達する金額で買収したことが話題になりました。Amazonにとっては2014年以降の最大の買収額であり、この金額感からもMENA地域において、今後さらなる経済発展への期待値が高まっていることが予想できます。

Souqはアラビア語で「市場」を意味し、電子機器から衣料品、日用品など幅広く取り扱って販売しています。同社はアラブ首長国連邦、エジプト、サウジアラビア、クエートで事業を展開し、2016年2月には2億7,500万ドルもの金額を資金調達しました。

調査会社のEuromonitorによれば、2016年のMENA地域におけるEC市場の売上は82億ドルですが、2021年には230%以上の増加が見込まれており、270億ドルに達すると言われています。

MENA地域の中でも、スタートアップの中心になっている都市は、レバノン、エジプト、ヨルダン、トルコ、U.A.E.。いずれも大都市であり、インターネットなどの普及率も高い地域です。これらの国にはアクセラレータが拠点を置き、資金も集まりつつあります。カイロ、レバノン、ドバイでは、テック系のカンファレンスも頻繁に開催されています。

スタートアップ活況の理由の中には、この地域におけるインターネットとモバイルの急速な普及拡大があるようです。

高まるネット需要とモバイルの普及

世界中のモバイル通信事業者を代表する団体GSMAが発表した、ドバイで開催されたGSMAモバイル360シリーズ中東大会での新報告書によると、MENAの地域におけるユニークモバイル加入者数は現在の3億3,900万人から2020年までには3億8,500万人に、スマートフォンの接続件数も過去3年に倍以上増加して2016年には2億6,300万件に達していますが、2020年には4億6700万件に増加する見込みだと伝えています。

MENA地域の人口は世界的に見ると若く、スマートフォンやブロードバンドの普及率も高くなっています。同地域のモバイル業界は2015年に、エコシステムでの直接雇用や、モバイル分野の経済活動によって生まれた間接的雇用を通じて、100万人以上の雇用を生み出し、地域経済を支えました。さらには普通税の形で公的財政にも150億ドルもの貢献をしています。

モバイルインターネットの普及率が急速に増し、2016年半ば時点ではMENA地域の人口の36パーセントに当たるおよそ2億人がモバイル経由でインターネットを利用しており、2020年までにはさらに、8700万人ほど増える見通しです。しかし、アフリカ・アラブ諸国の一部の途上国では、人口の3分の2以上がモバイルインターネットの利用をしていません。

また、正式な身分証明書を持たない人々が1億2000万人を超えるこの地域において、モバイルは住民登録をしていない人々の課題対処にも貢献し、地方では出生登録が行えるよう対応されています。

また、モバイルやインターネットの普及拡大は金融サービスへのアクセス改善や、災害や人道危機への効果的な対応にも役立っており、現在では10市場で20件のモバイルマネーサービスが運用中であり、正式な金融サービスを利用できない同地域の60%の人々のために、便利で効率的な支払い対応や国際送金を実現していたりもします。

4Gネットワークの導入も加速を見せ、現在までに17カ国でLTEネットワーク運用を開始。先進市場で新しいデジタルサービスの基盤として確立することにも貢献しており、多くの起業家はモバイルエコシステムを利用して、各国の関心事や文化に合った新しいモバイルベースのソリューションを導入しています。

エジプト、カタール、トルコ、UAEなど、同地域の多数の国々がモノのインターネット、スマートシティ、デジタルアイデンティティなどの高度なサービスを開始し、ヨルダンやUAEなどの国々は新興企業やデジタル革新にとって理想的な環境があるとして注目されるようになっています。

2強にあるライドシェアサービス

エジプトのカイロは都市として発展している一方で、人口や自動車台数の急増に伴う交通量の増加に対して道路など交通インフラの整備が追いついておらず、渋滞が慢性化しています。また、バスや鉄道など公共交通の輸送能力は限界に達しており、用地不足による道路網の拡大も困難な状況でもあるとも言います。これは、地下鉄の整備が課題となっているものの、地下には水道管網や電線網が複雑に埋設されていること、さらにカイロの地下は古代・中世の遺跡の宝庫であるため、開発と保全の両立をさせる難しい工法が求められているためです。

出典 : careem

そんな状況下で2014年11月に配車アプリのUberが進出。地元のタクシーだと料金体系が不透明なことが多かったものを、明確な料金体系やドライバー評価などの信頼性、数分でタクシーを呼べるという利点から、リリースから1年で100万件もの予約を獲得(エジプトのタクシーは60円〜100円/kmほど。変動あり)。Uberの地域担当者によると、エジプトのカイロはこの地域の中で最も急速に成長しており、毎月カイロだけでも3,000人のドライバーを追加しているのだとか。女性による運転が禁止されているサウジアラビアでは、Uberを利用する乗客の約8割が女性です。

MENA地域のスタートアップ企業で、2012年にドバイで創業スタートした配車アプリのCareemも、トルコやパキスタン、北アフリカを中心とした13カ国80都市でサービスを展開しており、「中東のUber」として注目されているアプリのサービスです。Facebookアカウントでのログインが有効で、登録もカンタン。5分ほどで配車でき、車の種類はエコノミーとビジネスなど選べます。

2015年11月には6,000万ドル(約72億円)を調達し、現在では1,200万人ものユーザーを抱え、同年、エジプトでは330倍の成長し、UAE、サウジアラビアではUberを上回る成長を遂げているようです。2017年8月には、中国の配車サービスDidiが同社への出資を発表しました。

自動車販売数をぐんぐん伸ばすMENA地域

世界の2016年度の自動車販売数ランキングを見ると、13位のイランは144万8,500台、自動車ブームの続くサウジアラビアは21位で65万5,500台と上位にランクインしています。

アフリカ南西部に位置するモロッコでは、2016年の国内の新車販売台数が過去最高を記録し、モロッコ自動車輸入者協会(AIVAM)によれば、乗用車が14万2,872台、商用車が2万238台、総販売台数は16万3,110台でした。

機械・自動車部品製造会社であるジェイテクトは、自動車産業が発展してきている北アフリカ及び中東のマーケット向けに製品を販売すべく、北西アフリカのモロッコで初となる電動パワーステアリングの生産拠点、JTEKT AUTOMOTIVE MOROCCO S.A.S.(JAMO)を2017年9月に設立すると発表しました。

こうして、政治的不安定やセキュリティ上の課題が複雑ではありつつも、MENAの地域は大きな成長の可能性と、重要な自然・人的資源をもっています。中東の経済は、依然として石油やガス産業がその多くを占めていますが、成長の継続に重要となる不動産業、建設業、鉱業、旅客運送・物流などの新しいビジネスチャンスへと急速に多様化を見せようとしています。

この普及率からは商用テレマティックスの市場可能性は疑うべくもなく、南アフリカのMiX Telematicsやトルコの車両追跡・運行管理システムおよびテレマティクス分野のリーディングカンンパニーArventoなどは市場に積極的に注力し、多くの低コストの追跡タイプの地元のプロバイダに対抗しようとしています。

MENA地域は交通のインフラを含め、まだまだこれから手を加えて行く必要があります。逆をいえば、そこにビジネスチャンスが多く眠っていると言えるでしょう。日本や欧米で当たり前のように利用されているECサイトやライドシェアなどの様々なサービスたちは、MENAの各地域とそこの文化や人にローカライズすることで、より成長力を増して行くのではないでしょうか。

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