コロナの影響?進むオンライン診療
バスや電車などの交通機関を乗り継いでかかりつけの病院に向かい、長時間、待合室で過ごしたあと対面診察を受け処方箋を持って薬局へ。この一連の流れによって、何十人いや何百人がコロナとニアミスするかは想像に難くありません。
WHO(世界保健機関)によれば、新型コロナウイルスの感染力は1人あたり2~3人。インフルエンザより若干弱いという見解が発表されており、発熱やせきなどの症状が出ていない患者からの感染例は「極めて少ない」という研究結果も出ています。さらに、感染ルートは有症状者の咳やくしゃみを吸い込む「飛沫感染」と、ウイルスが付着したドアノブ・手すりなどに触れた手で目や鼻などを触る「接触感染」の2つがあり、ウィルス排出量のピークは感染から「3日間」ということも判明。
つまり、マスクを着用し、手洗い・うがいを徹底することに加え、感染者がいる可能性が高い場所、もしくは自らが「悪意なきインフルエンサー」になりかねない所へは、極力行かないことこそコロナを撲滅する唯一無二の方法と言えるでしょう。しかし、慢性疾患を持っている方は病院や薬局へ頻繁に通う必要があるため、どうしても感染リスクにさらされてしまいます。そうした緊急事態が契機となり、海外と比較して後れを取っていた「医療のオンライン化」が徐々に進みつつあるようです。
オンライン診療が進んでいる理由1「コロナ問題発生と花粉症ピークとの一致」
風邪やインフルエンザなど、ウイルスが呼吸器系(鼻・喉・気管など)に感染し炎症を起こす病気は、気温が低く空気が乾燥する1~2月に大流行することが多く、今回猛威を振るっている新型コロナもその例にもれません。一方、同時期に飛散のピークを迎える花粉が鼻の粘膜や目に付着し、アレルギー反応によって鼻水・鼻づまり、くしゃみや頭痛・倦怠感などを引き起こす花粉症で悩まされている方も多いはず。
この花粉症による症状と、新型コロナ感染者の多くが訴えている初期症状が酷似していることから、「またこの季節がやってきたか…」と通院したかかりつけの耳鼻科・呼吸器科で、コロナの院内感染が発生した可能性を否定できません。また、感染しない・感染させないために役立つマスクが全国的に不足していることも、花粉症ピークとコロナ拡大タイミングがバッティングした大きな原因であるとみられます。
そんな中、厚生労働省は今年2月28日付けで新型コロナウイルス感染への対応に関する「特例措置」として、柔軟なオンライン診療・服薬指導の運用を認める事務連絡を発表しました。特例措置の対象は慢性疾患を有する定期受診者で、具体的には診療計画が事前作成されていなくとも、利便性や有効性が感染リスクを上回ると医師が判断した場合、電話やIT機器による遠隔診療だけで、従来通りの治療薬を処方して差し支えないとしています。
疾患は限定されていませんが、環境省が発行している「花粉症環境保健マニュアル2019」によれば、2008年時点での国内花粉症有病率は約30%に達し年々増加傾向にあることから、今や花粉症は3人に1人が悩む国民病ともいえるでしょう。あくまで単純計算ですが、仮に3割の花粉症患者が病院を受診した場合、1000万人以上の方が各地の病院に集まることになるため、早急に慢性疾患のオンライン診療および治療薬宅配サービスを拡充すべきだと考える企業が登場しました。
- MICIN・・・オンライン診療アプリ「curon(クロン)」を運営しており、二次感染が不安な方に向けて慢性疾患のオンライン診療を受ける方法や、コロナウイルスのオンライン医療相談を受ける方法などについての情報を提供する特設ページを開設。
- インテグリティ・ヘルスケア・・・オンライン診療管理システム「YaDoc(ヤードック)」を手掛ける同社代表・園田愛氏は、「重症化しやすい高齢者や持病を持つ方を感染源から遠ざける施策は極めて有効」としつつ、次段階として「患者への周知」が必要という考えを示しています。
- メドレー・・・オンライン診療システム「CLINICS(クリニクス)」を運営する同社は、すでにオンライン診療を導入している医療機関を対象に、「新型コロナウイルスの感染防止において、オンライン診療は活用できると考えるか?」という緊急アンケートを実施。その結果93,7%の医師が「YES」と回答、うち9割がシステムの活用イメージとして、「ハイリスク患者への感染防止」を選択していました。
いずれのサービスも対象は慢性疾患ですが、素人では判断できない花粉症患者のオンライン診療と治療薬宅配サービスが普及すれば、院内感染のリスクを大幅に軽減できることは火を見るより明らかです。奇しくも国民病である花粉症がきっかけとなり、新型コロナの大流行を封じ込める有効な施策として、オンライン診療に期待と注目が集まっています。
オンライン診療が進んでいる理由2「医療行為のIT化と規制緩和」
元来オンライン診療は、医療機関や医師不足が深刻な地方や公共交通機関の整備が行き届いていない地域でITツールを活用し、医師対患者の遠隔診療や医師対医師の情報交換を実施し、対面診療と同等の医療を提供することが目的です。オンライン診療は、IT技術の進歩と医療現場への普及により、受診者の状態を鮮明な映像と音源で医師がリアルタイムかつ正確に判断でき、併せて特定領域の専門医との連携も格段に円滑化されました。
その結果、離島やへき地の患者など限定的な実施が想定されていたオンライン診療は診療例が増加し、この傾向が今般の新型コロナウイルスの感染拡大でさらに強まると考えられます。また、医師法第20条で「対面診療の原則」が定められていることを鑑み、厚労省はこれまでオンライン診療について慎重に進める姿勢を貫いてきましたが、2018年の診療報酬改定では、オンライン診療料、オンライン医学管理料、遠隔モニタリング加算などを新設。
さらに、2020年の再改定ではオンライン診療に入る条件である事前の対面診療期間を、従来の6カ月以上から3カ月以上に短縮するなど、普及に向け一定範囲ではあるものの規制緩和が実施されました。加えて、新型コロナの院内感染による医療崩壊を防ぐべく、政府は受信歴がない患者でも初診からオンライン診療を認めると発表。今後はオンライン診療が受けられる医療機関のリストを作成して周知するほか、医療機関に支払う診療報酬の増額も検討しています。
新型コロナウイルス感染が終息するまでの時限的措置となる見通しですが、これらの規制緩和をきっかけにオンライン診療が有効だというエビデンスが集積されれば、普及スピードが加速度的に増していく可能性もあるでしょう。
進化する医療現場~医療×モビリティが描く未来とは~
現在は、新型コロナウイルスによる感染拡大の終息が最優先のため、医療サービスの充実より緊急対策としてオンライン医療の普及が期待されていますが、AI・ロボット・画像認識など自動運転のコア・テクノロジーは、近年医療分野でも多く活用されています。この項では、地方医療サービス充実に寄与するであろう具体的な「医療×モビリティ」の実例をご紹介します。モビリティの最新トレンド・MasSが医療現場に実装された場合、どのような進化を遂げるでしょうか。
フィリップス 医療×MasSを実現した「ヘルスケアモビリティ」の完成を発表
(株)フィリップス・ジャパンは2019年11月、地方自治体の高齢化・医療施設・従事者不足・医療費肥大化などの課題解決を目指し、長野県伊那市・MONETとの協業で開発を進めていた医療機器搭載車「ヘルスケアモビリティ」の完成を発表しました。文字通り「動く診察室」であるヘルスケアモビリティは、以下のような機能を有し、2019年12月~翌年3月まで実施された実証試験も終了しています。
- スケジュール予約機能・・・MONETの配車プラットフォームと連携しており、効率的なルートで患者の自宅などを訪問可能。(看護師のみ乗車、移動中アプリでの配車予約も可能。)
- 診察機能・・・心電図モニター・血糖値・血圧測定器・パルスオキシメーターや、AEDなどの診察や医療行為に必要な機器を搭載。
- オンライン診察機能・・・テレビ電話による患者への問診、看護師の補助による診察、医師から看護師へのリアルタイムで適切な指示などが可能。
- 情報共有クラウド・・・医療従事者間の情報共有を目的に、車両に設置されたパソコンで患者の電子カルテの閲覧・訪問記録の入力・管理を行うことができる。
期間中に証明したヘルスケアモビリティの有効性を踏まえ、地元開業医や中核病院との連携を通じ事業のモデルケースを確立させていくとともに、オンライン診療の高度化及び提供エリアの多様化を進め、国内外への展開を視野に入れているようです。
横浜国立大学 ヘルスケアMaaSの拠点開設・運用開始
横浜国立大学は、2019年11月開催された「YNU研究イノベーション・シンポジウム2019」において、ヘルスケアとモビリティを融合した新たな産業「ヘルスケアMaaS」の創出を目指し、湘南アイパーク内に研究拠点を開設すると発表、すでに運用を始めています。
湘南アイパークは、武田薬品工業(株)が自社の湘南研究所を開放し、ライフサイエンスにおける最先端技術・知見を活用したアイデアを創出・実現し、“イノベーションの加速化”を目的に設立された学術研究施設です。同大学が進めているモビリティ研究と、湘南アイパークのイノベーションシステムを結びつけ、MaaSによって人と場所、ニーズとシーズ、課題と解決策などを一体化し、ヘルスケアの新たな価値を生み出すことを目指すとしています。
課題は、モビリティとプラットホーム双方の研究・開発が不可欠であること
前述した2例の他に、日立は患者宅へ医療機器を配送する「自動運転カート」の導入を提案したり、独・VW社は自動運転コンセプトカー「POV」の活用例としてヘルスケアを挙げたりするなど、各メーカーがこぞって医療×MasSに大きな可能性を見出しています。また、茨城県つくば市でもバス乗降時の顔認証による病院受付や、診療費会計処理サービスを可能とする医療MasSプラットホームの実証実験が行われるなど、産学官が一体となって医療MasSの仕組み作りに力を注いでいます。しかしオンライン診療が実用性と信頼性の高い医療サービスとして全国に普及するためには、さまざまなモビリティがITによってシームレスに連動し、効率よく便利に使えるプラットフォームを構築しなければなりません。
「スマートドライブ×医療」での取り組み
スマートドライブでは、高精度な車両管理システム「SmartDrive Fleet」を提供しています。導入いただいている業種は非常に幅広く、訪問診療や介護タクシーなど、医療関係の業界の事例も少なくはありません。安価かつ簡単に導入できることから、「まずは試してみようかな」「ITツールやサービスなどの新たな開発は難しいけど、まずはできることからはじめたい」というご担当者さまからも好評をいただいております。
訪問医療において効率化を実現
医療法人社団 杏月会 伊勢原駅前クリニックさまでは、患者さんの増加により、もともと運用に課題を抱えていた車両台数を増やすことに。台数が増えても管理者と訪問医療従事者との連携は必要不可欠であるため、さらに運用が煩雑になることを想定して導入を決意されました。
診療中は着電があっても対応が難しいため、同クリニックの医師や看護師は車での移動時間を電話連絡の“ベストタイム”としていました。そのため、位置情報の見える化が何よりも重要だったのです。導入後はリアルタイムでどこにいるか、また、移動中であるかが把握できるようになり、オペレーションが円滑になったと言います。また、緊急時の対応も今まで以上にスムーズに。診療の効率化は1日あたりの診療数が増やすことができるうえ、最適な人員体制にもつながるのです。
お客さまを安全かつ迅速にお迎えするために
保険業を展開する有限会社One Upさまは、契約者に介護老人保険施設が多く、高齢者の送り迎えや交通手段に困っている利用者が多いと知って、少しでもスムーズな移動を手助けできるよう、介護タクシー事業をスタートしました。3台からスタートしたものの、需要が増えて現在は約20台が稼働。お客さまへのスムーズな配車とともに、従業員の安全管理と稼働状況の把握を目的として導入されたと言います。導入後はドライバーへの的確な安全運転対策が可能となり配車効率が向上。さらには、お客さまの希望を聞いた柔軟なサービスの提供にもつながるなど、良い循環ができあがっているようです。
まとめ
医療×MasSの取り組みは始まったばかりであり、健康というもっとも重要な分野だからこそ慎重かつスピード感を持って取り組みを進めて行くべきかもしれません。まずはできることから着実に進化して行くことが、効率化への近道だと言えるのではないでしょうか。