【MaaS基礎知識】MaaSにおけるレベルを解説

【MaaS基礎知識】MaaSにおけるレベルを解説

「モノづくり」である第2次産業から「サービス」である第3次産業への転換は、すでにあらゆる業界共通の潮流ですが、長きにわたり経済の中心に位置していた自動車業界においても、この動きに追随することが必要となってきました。そのため、自動車メーカーもクルマを作り売っているだけでは生き残れないという現実を理解し、カーシェアリングへの参入やコネクテッドサービスを充実など、業界内外の流れに対応を始めています。

しかし、MaaSとは本来「クルマ=モビリティ」としない概念です。つまり、クルマとサービスを結び付けるだけの日本版MaaSは、他国と比較して、一歩も二歩も出遅れているのです。

MaaSレベルとは

MaaSは新しい概念でもあるため、その定義には多少バラツキが見られますが、提供するサービスの進行状況に応じてレベル0~4の「5段階」で分類されています。このレベル感は、トヨタをはじめとする国内メーカーがMaaSの中核を担うであろうと考えている「自動運転」の進捗レベル構成と酷似しています。

レベル説明該当するサービス
レベル0統合なし、つまり移動媒体がそれぞれ独自にサービス提供している、現在の交通システムのことタクシー、バス、電車、カーシェア、Uber
レベル1料金・ダイヤ・所要時間・予約状況などといった、移動に関する一定の情報が統合、アプリやWEBサイトなどによって利用者へ提供されている段階のことNAVITIME、Google、乗換案内
レベル2目的地までに利用する交通機関を、スマホアプリなどによって一括比較でき、予約・発券・決済をワンストップで可能になる段階滴滴出行(Didi、中国版のUber)、Smile einhuach mobil
レベル3事業者の連携が進み、どの交通機関を選択しても目的地までの料金が統一されたり、定額乗り放題サービスができたりするプラットフォームなどが、整備される段階Whim、UbiGO
レベル4事業者レベルを超え、地方自治体や国が都市計画・政策へMaaSの概念を組み込み、連動・協調して推進する最終段階

RPGゲームであれば、経験値を積むことで着実にレベルアップをしていきますが、MaaSの場合は「ボスキャラ」ともいえる多様な課題をすべてクリアしなければ、次の段階に進むことができません。

現状はほぼこの段階?~MaaSレベル0~

MaaSレベル0はすでに生活に浸透しているものである、「現在の国内交通システム」と考えて差し支えありません。自家用車やタクシーをはじめ、二輪車・バス・電車・船舶・航空機など、あらゆるモビリティサービスがありますが、個々に独立したサービスを提供しているので、利用数と同じだけユーザーは配車の手配や乗り継ぎに伴うダイヤの確認、チケット購入と決済を行っています。

また、米国では一般的となったUberなどのライドシェアが国内に普及したとしても、配車や決済方法が他のモビリティと分離している現状では、「MaaSレベル0」のままだと言えるでしょう。さらに、国内自動車メーカーが心血を注ぐ自動運転が、限定的ながら人を介さない高度自動化である「レベル4」へ到達したとしても、結局のところ以下のような状態のままではMaaSは全くレベルアップしないことになります。

  • 自動運転で最寄り駅へ
  • コインパーキングで代金を現金払いする
  • ICカードを利用して電車で移動
  • 目的地にタクシーを利用して到着

つまり、日本が現在のMaaSレベル0から脱却するには、シェアリングサービスや自動運転の導入を進める前に、まずは既存モビリティインフラの統合を急ぐ必要があると言えるでしょう。

現在進行形の段階~MaaSレベル1~

料金・所要時間・距離など、利用者に対して各モビリティサービスに関するさまざまな情報が一括提供されるようになるとレベル1へ到達します。

MaaS分野で後れを取っている日本ですが、このレベル1の段階まではシームレス化が進行しており、Googleマップや乗り換え案内、NAVITIMEのような情報統合アプリなどがその具体例です。

また、自動車メーカーが推し進めている、コネクティッドカーの開発と普及もその1つで、単なる移動手段に過ぎなかった車を「スマホ化」し、道路状況や移動経路などといった情報を、IoTを介し共有・サービス提供する、レベル1段階の取り組みです。

しかし、いまだ情報共有が進んでいるのは高速道路を管理するNEXCOと公共交通機関(JR・公営バス)、航空各社との間のみであり、私営バス・鉄道やタクシー・レンタカーなどはシームレスな情報共有がなされているとは言い難い状態です。移動手段の選択肢が多く、交通インフラが高水準で整備されている日本ですが、官民が入り交じっているため規模もマチマチである構造上の問題や激しい競合関係がネックとなっているようです。

ここからが本格的なMaaS~MaaSレベル2~

「予約・決済方法の統合」が条件のレベル2に到達するには、諸外国と比較し現金に対する信頼度が圧倒的に高い、日本特有の国民性への配慮やキャッシュレス化への変革が重要な要素になってきます。

予約方法の統合については、レベル1が一般化しつつある今、ほぼ課題はないものだと言えますが、約43兆円もの現金がタンス貯金として眠っているとまで言われる我が国において、クレジットカードや電子マネーによる決済のシームレス化が“当たり前”となることはややハードルが高いと言えるでしょう。事実、消費税増税での景気冷え込み緩和策として、キャッシュレス決済時に最大5%のポイント還元制度が施行される予定ですが、大手スーパーや高額商品を取り扱っている百貨店は対象外となったため、年配層を中心にキャッシュレス化の進行はやや行き止まり感があります。

しかし、キャッシュレス化を経済全体ではなくMaaSに絞った場合、まったく打開策がないわけではありません。お手本とすべきは先進国フィンランドのヘルシンキで人気が急上昇している、ルートサーチとモバペイを組み合わせたMaaSアプリ「Whim」です。

同サービスには3つのプランが設けられており、最上級プランの「WhimUnlimited」であれば、指定区域内のバス・電車などの公共交通機関とタクシーがいつ・何度でも乗り放題です。さらに、レンタカーは無条件で乗り放題なため、国内業者の1日辺り料金相場が約7,000円であることを考えると、10日以上利用すれば約63,000円である月額利用料金の元がしっかり取れる計算になります。

WhimはQRコードを見せるだけで決済可能な利便性と、おトク感のあるインセンティブの高さを併せ持っていたため、爆発的にユーザー数を増やしてきました。前述したWhimUnlimitedはレベル2を飛び越え、すでにレベル3へ達しています。国内のMaaSレベル2や3へと引き上げるには、Whim以上にインセンティブを得られる料金設定をしなければ、5%のポイント還元にビクともしなかったユーザーを振り向かせることが困難であるかもしれません。

巨大資本提携で見えてきた?~MaaSレベル3~

2018年10月、トヨタとソフトバンクが大型提携し、自動運転を中心に据えたMaaSスタートアップ新会社「MONET Technologies」を設立しました。2019年3月からはホンダや日野自動車も資金提供しています。新会社は、オンデマンドモビリティサービス・データ解析サービス・自動運転事業を事業の3本柱とし、フィンランドで普及が進んでいるWhimと同様レベル、もしくはそれ以上のMaaSプラットフォーム誕生も近いと、国内外から注目が集まっています。

また、利用者の需要に合わせジャスト・イン・タイムの配車を行う地域連携型オンデマンド交通と、企業を対象にしたシャトルサービス提供を目指すとしており、実現すれば「サービス提供の統合」が条件のMaaSレベル3へアップすることになります。

しかし、モビリティ関連企業や政府・自治体の担当機関ならともかく、一般の方々にはMaaSが自分たちの生活にどんな利便性や経済効果をもたらしてくれるのか、あまり理解されていません。大手企業が進めている取り組みスピードに、未来の利用者となる人々の理解度が追いついていないように感じられ、このままだとどれほど優秀なMaaSプラットフォームが完成しても、利用に至るまでのハードルを取っ払う時間がかかる可能性も。

もちろん、ハード面での整備が進むこと自体は歓迎すべきことですが、併せてMaaSがもたらすメリットについても、関連企業は周知と啓もう活動を積極的に実施すべきでしょう。

グローバルな連携も不可欠に~MaaSレベル4~

MaaSは単純にモビリティの利便性を向上させるだけではなく、①都市部における交通渋滞②排気ガス規制などの環境問題③地方を中心とした交通弱者対策といった日本が抱える深刻な問題を解決に導くことが最終目的です。

レベル4は「政策の統合」が達成条件とされているため、国・自治体が都市計画や政策レベルで協調し、国を上げたプロジェクトとして推進しないことには決してたどり着けない領域です。MaaSの軸となり得る自動運転にしても、海外で広がりを見せているUberにしても、日本国内に普及させるには法改正が不可欠ですが、基幹産業である自動車業界が絡んでいるため、一気に議論が進むとは考えにくいでしょう。

また、国境を越えた業務提携も不可欠です。最近の例では、乗換案内サービスを手掛けるジョルダン(株)は2019年1月、英国で公共交通チケットサービスを提供しているMasabi社と日本における総代理店契約を締結しています。そこで、従来の経路検索・ダイヤや運行状況情報だけではなく、チケット購入・乗車をスマホだけで完結させる、「モバイルチケットサービス」の本格提供を今年中にも開始すると発表しました。

さらに、Whimを運営するスタートアップ、MaaS Globalのサンポ・ヒエタネンCEOは、2019年中の日本展開の可能性を口にしており、東京・名古屋・福岡などのほか、外国人居住者や観光客の多い横浜エリアにおいて、パートナーと熱心な交渉を進めているといいます。ただ一部では、国と自治体、そして民間巨大資本が連携を強めず、国産MaaSプラットフォームのリリースと普及が遅れた場合、日本のMaaS市場はWhimに席巻され、国内モビリティは人やモノを運ぶだけの「駒」になると危惧する声も挙がっているのです。

まとめ

「黒船」Whimの襲来は、MaaS参入を進める国内企業にとって脅威以外の何物でもないかもしれませんが、2019年10月と噂される日本上陸が実現すれば、一般ユーザーの利便性が向上し、政府が目指す交通問題の緩和に寄与することは確かです。そして、たとえ遅ればせながらでも日本特有の国民性に配慮した、優秀な国産MaaSプラットフォームを生み出すことができれば、世界初の本格MaaSアプリWhimが相手でも、逆転する可能性は大いにあるでしょう。

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