スマートドライブのデータがお客様のベネフィットを生み出す
北川:「スマートドライブとの取り組みの中で気づいたことや感じていることなどありますか。」
加藤:「現在、住友三井オートサービス(以下、SMAS)が提供するサービスの中で、スマートドライブ社の車載機をお取り扱いさせていただいております。今までの車載機と比べるとコストが安く導入も簡単なため、お客様にも取り入れていただきやすいですし、多くの人に使っていただければいただくほど、その分データも収集できるようになります。そうすれば、『たくさんの車をリースするよりも、リースとシェア、レンタカーを組み合わせた方がもっと安くなりますよ』と、お客様に対してよりベストな提案ができるようになるんです。
また、ドライバーの走行データによって可視化された運転の癖と改善ポイントを伝えることで、燃費を抑える方法や事故の防止法についても言及できますし、結果的に保険料も安くできるという、お客様にとってよりプラスになるサービスを提供できます。その根幹となるデータの部分をサポートいただいているわけですが、提案だけでなく、独自の保険商品を開発する際にもスマートドライブ社のデバイスとテクノロジーが生きてくるんですよね。」
北川:「ありがとうございます。何か改善の余地はありますか。」
加藤:「スマートドライブさんが提供しているサービスの最大の価値って、デバイスから取得したデータとそのデータをどのように活用するかだと思うんです。デバイスそのものではない。しかし、お客様に見えるのはデバイスです。お客様によっては、カメラが必要だとか取引関係があるからという理由で他社のデバイスを使わざるを得ないケースがあります。そういう場合に他社のデバイスでも同じデータを取得できて同じ活用ができるようにしていただけるとありがたいです」
北川:「私たち自身も、デバイスはマルチデバイス対応で、データ解析はワンプラットフォームを目指しています。
デバイスは弊社が提供しているものが簡易的で良いという企業様もいらっしゃいますので、さらに磨きをかけつつ、そのほかのデバイスでも同じようにデータが取得できるように考え方を広げていきたいなと。お客様の状況やご希望も各々に違いますので、デバイスひとつでは賄いきれない部分も出てきます。そのため、デバイスはone of themと考えて、プラットフォームの解析を強みとして全面に出していきたいと思っています。」
スマートドライブへの期待は社会へタックルする姿勢
北川:「まだまだ道半ばではありますが、御社からスマートドライブへ期待することやご要望、もっとこういうことをしてほしい、こうすべきではないか、というようなご意見があれば教えてください。」
加藤:「個人的に素晴らしいなと思っているのが、高齢者見守りサービスの『SmartDrive Families』です。日本の社会課題のひとつに人口減少や高齢化社会による交通弱者の増加がありますが、今後も目を背けることはできない大きな課題になっていくでしょう。私の80歳を越えた両親も地方で暮らしていますが、離れていると状況や状態がわかりませんし万が一何かあったら、という不安があります。そうした社会課題に対して声を上げ、タックルしていく姿勢は、スマートドライブさんの良心です。もっと前に出していって欲しいですね。」
北川:「ありがとうございます。」
スタートアップとのコラボレーションを仕組み化する
北川:「スタートアップと大企業とのコラボレーションみたいなものを仕組み化していくというような話を少し伺ったのですが、実際に何か進めているプロジェクトなどはありますか。」
加藤:「前半で、私どものプラットフォームを提供しながらスタートアップ企業にビジネスを作っていただき、私たちもそれを利用させていただくというコンセプトをお話ししました。社内では私たちがそういう流れを作るためのリードをとっていて、いま、住友商事全体にそれが広がろうとしているんですね。いくつか取り組んでいることはありますが、 スタートアップ企業に積極的に人を出しているのもその一つです。」
北川:「確かに、弊社にも来ていただいていますね。」
加藤:「これはプラットフォーム&トランスフォーメーション戦略のひとつで、私どものプラットフォームをスタートアップの皆さんに活用していただくとともに、スタートアップのプラットフォームを活用して住友商事の人材の考え方や仕事の仕方を変えていくという制度です。もうひとつ、詳細はまだ煮詰めている最中ですが、昨年9月から入居したビルの中に未来ラボという場所を作ろうと準備をしています。スタートアップのみなさんにアクセラレーターのような場所としてご提供し、ここで一緒にお仕事する中で、共に学びながら新たなケミストリーが生まれればと思っています。」
北川:「弊社が今入居しているのもWeWorkというシェアオフィスなんですが、大企業にお勤めの方々も普通に利用されています。さまざまな方に話を聞くと、最近は朝の定時出社を義務付けず、いろんな場所に行っていろんな話をしてきなさい、というような会社が増えているようです。
オフィスのシェアリングやデータのシェアリングがメインになってくると、今後、総合商社の働き方も変わってくるのでしょうか。」
加藤:「今まさに、変えようとしていますし、私自身も環境によって働き方が変わることを感じています。
引っ越し前のビルでは窓側の一番広いところが役員の執務室だったんですが、引っ越し後は窓のない、従来の1/3程度の広さの部屋に変わりました。角部屋で窓に囲まれている一番いい空間は現在、共有のクリエイティブスペースになっていて、部署間を越えて社員同士が気軽に話し合えるような場所にしています。締め切った会議室より、オープンなスペースの方が会話も進みますし、それによって働き方だけでなく、仕事の進め方も変わるんじゃないかと感じていますね。」
北川:「そういう考えをお持ちの商社さんは、なかなかいらっしゃらないですよね。そこは住友商事さんが一歩先に出て変えていっている気がします。」
加藤:「こうした考えも、スタートアップ企業の方々とお付き合いする中で学んでいったことかもしれません。」
移動距離と移動手段への価値が変わる未来へ
加藤:「歴史を振り返ると移動距離と移動スピードは人類の進化や文明のバロメータでした。特に産業革命以後、この移動距離と移動スピードは飛躍的に伸び続けてきましたが、今、世の中で起きていることってなんなのかなと考えると、相反する回答が浮かぶのです。
自動運転車やMaaSが出て来れば人の移動距離や移動スピードはさらに伸びるという意見もありますが、もしかしたら逆のことが起きるかもしれないと思っているんです。
なぜ、これまで距離やスピードが伸びてきたのかといえば、移動しないと仕事が得られない、収入を得るためにはできるだけ早く遠くまで移動しなくてはならない、そういう理由で移動するヒトが多かったからです。さっきの働き方改革の話にも関連するかもしれませんが、今は移動しなくても欲しいモノはネットで買えるし、仕事も家でできるし、近い未来、必要なことはAIやVRがやってくれるようになるかもしれないし…移動が不要になりつつありますよね。文明が進んだ結果、歴史上で初めて移動距離やスピードが縮まることもありえますし、その方が幸せだという時代や社会になったのかもしれません。
今まで、そういう視点でヒトの幸せやサポートを考えていた人や企業ってほとんどいないんじゃないでしょうか。自動車に関わる人たちは、今まで販売台数を増やすか、移動距離や稼働効率を増やすか、どちらかを追求してきましたから。ですから、ヒトが移動せずに済むサービス、つまりモビリティサービスでなく、イモビリティサービスを提供して稼ぐというようなビジネスモデルが出来たら面白いと思いますし、北川さんならそれができる と思います。」
北川:「恐縮です。同じような話になるんですが、私が創業した直後に聞いて面白いなと思ったのが、距離とかスピードは早くなっても、紀元前からヒトの1日の移動時間はほとんど変わっていないということです。
昔だったら狩り、現代であれば通勤・通学に2時間半ほどの時間を費やしていたものを、そもそも移動しなくて良くするとか、1時間に縮めることができれば、別の何かに時間を使えるようになります。何千年も前から変わらなかったことを変える、それは人類史の中でも大きな転換期になるんじゃないかと、ワクワクしていますね。」
加藤:「移動に対する付加価値ではなく、移動しながら何かを生み出すことや、移動をしないが故に生み出された時間を価値にできるような、そんなビジネスができればいいですよね。」
北川:「そうしたサービスに向けて、スマートドライブが持っている技術と住友商事さんがお持ちのアセットとを組み合わせて何か実現できればいいなと思っています。少しでもお力添えできるよう、私たちも頑張ります。本日はありがとうございました。」