日本では馴染みが無い世界最大手の地図メーカー、HERE
地図データの最大手メーカーとはどこでしょうか?
日本で言えば、カーナビ草創期、そしてそれ以前から電子地図データ供給の第一人者であり、現在も日本のGoogleマップデータを供給しているゼンリンでしょう。
しかし世界最大手はどこかと言えば、通信大手ノキアの子会社だったHEREです。
もともと欧米の自動車メーカー向け地図データを中心に事業を拡大してきたNAVTEQという地図会社でしたが、経路案内ソフトウェア企業とともにノキアに買収され、ロケーション(位置情報サービス)部門へ。
2012年11月にはノキアの携帯電話事業と分離した独自ブランドとして「HERE」が立ち上がると、高精度の3D地図データ作成企業などを買収して技術力を高めてきました。
日本でも実は2016年で事業展開20周年と歴史は古く、国内での知名度は低いものの、日本製品が海外で展開する時、それに用いられる地図データは主にHEREのデータです。
2014年にはアジア太平洋地域の統括拠点をシンガポールからユーザーの多い日本(横浜)に移して営業基盤を強化。さらに2015年8月には、メルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲングループによる企業連合に買収されたのです。
それはもちろん、現在の自動車のために地図データや位置情報データを提供するのみならず、車載情報機器プラットフォームや、クラウドデータの高い技術を買われたからでした。
そう、近い将来実用化される、自動運転車のためです。
既に自動運転用高精度地図データを提供中
ドイツ自動車企業連合による買収劇のさなか、HEREは自動運転実験用の高精度地図データを提供開始しました。
対象国は米国、フランス、ドイツ、日本の4ヶ国で、いずれも先進国の大市場です。
それも単なる詳細地図では無く、一部とはいえ公道の高精度3次元地図データなのですから、驚かざるを得ません。HEREの地図データ収集用車両は、よく知られるGoogleマップカーのような画像ではなく、レーザーレーダーを用いて3次元情報を収集しています。
道路は実際には「平面に引かれた線」ではなく「立体」であり、高低差もあれば凹凸、縁石、街路樹、電柱、周囲の建物などの周辺物まで含めて初めて「道路」たりえます。
自動運転車が直面している最大の課題がこれで、たとえカーナビゲーションの地図データを所有していても、実際にどこをどう走ればいいのかは、より高精度、かつ詳細な3次元情報が必要です。
もしそれが無ければ、自動運転車は今自分が正しい方向に向かっているのか、この先をどう進めばいいのか、全くわからず往生してしまうでしょう。その意味で、高速道路のように単調な道路でも無い限り、一般公道での自動運転技術を制しようと思えば、「地図を制する」ことが不可欠です。
それも既存地図データのみならず、リアルタイムで収集したデータを即座にクラウド化された地図データに起こし、配信する技術も必要でしょう。その技術を持っている最右翼がHEREです。
収集、配信するデータの範囲を拡大
そのHEREが2016年9月に発表した新たなサービスは、まさに地図データ界の巨人が動き出したと言うにふさわしい壮大なものです。
渋滞情報や路面のコンデション、天候、ワイパーやライトの必要性などは、今まで公共情報として限定的に提供されてきました。GPSのデータや、あるいは日本で言えばVICSのようなFM多重放送によるデータでしたが、HEREのサービスはより詳細、かつリアルタイムなものです。
情報源はHEREの車載プラットフォームを組み込んだ自動車メーカー各社。つまり、現状で言えばまずHEREを傘下に収めるメルセデス・ベンツ、BMW、そしてフォルクスワーゲングループ。
フォルクスワーゲングループからはまずアウディの名前が上がっていますが、いずれフォルクスワーゲン本体やポルシェ、ベントレー、シュコダ(チェコ)、セアト(スペイン)、ランボルギーニといった、グループ各社の面々が加わるでしょう。
HEREでは他のブランドからもデータ収集源を拡大していく意向です。
それはすなわち、ドイツの自動車メーカー連合を中心に、道路情報データ収集システムをグローバルスタンダードにしていこうという思惑が見えます。
収集されたデータは、2017年前半から自動車産業内外の顧客にサービスを提供していくとされていますが、当然HEREのプラットフォーム、あるいはそれに準拠したものに最適化された形で提供されるでしょう。
目指すは自動運転車用のプラットフォーム
これらのデータ収集用プラットフォームで収集できるデータは、何も渋滞情報だけに限りません。HEREのプラットフォームを搭載した自動車に優れたセンサーが搭載されていれば、映像からの画像解析、レーダーによる立体情報も収集できます。
新しい道路ができれば、あるいは道路に電柱や街路樹が一本増えても、それはたちどころにHEREのデータベースに組み込まれ、リアルタイムで解析、配信されるのです。
事前に地図を作るのではなく、そこを自動車が走った瞬間に収集から解析、配信が行われることで、目の前にカーペットを敷きながら走るがごとく、新しい道を走れるようになるでしょう。
先に高精度3次元地図データの提供を、米国、フランス、ドイツ、日本で開始したと書きました。当然、HEREの新しい次世代自動車データサービスも、この4ヶ国が含まれる、あるいはいずれ含まれると思われます。
日本での展開はどうなるか?
日本でデータを収集するのはドイツ車だけでしょうか?メルセデス・ベンツと提携している日産・ルノー連合(日本では日産と三菱)などはその筆頭かもしれません。
現状で日本最大手の地図メーカー、ゼンリン第2位の株主となっているトヨタグループと、提携メーカー(トヨタ、ダイハツ、マツダ、スバル、そしてスズキが今後加わるかも?)も、BMWと提携しています。トヨタとBMWの関係は現状では環境技術とスポーツカーに限定されていますが、より関係が深まる可能性も否定できないでしょう。
そうなるとうかうかできないのがゼンリンで、つい先日2016年9月には米国の車載プラットフォーム開発企業を買収しました。
狙いは同じようにプラットフォーム搭載車からのデータ収集と分析、配信ですが、HEREにやや立ち遅れている印象は否めません。
2016年5月に設立された「ダイナミックマップ基盤企画株式会社」に、ゼンリンも他のライバルと共に参加しています。これは内閣府の主導で、日本における自動運転車用の高精度地図構築を目的とした、事実上の国策会社です。
しかし、作られるデータはガラパゴス的な日本独自規格ではなく、結局HEREなど世界的メーカー準拠になるのでは、と言われています。
これからは、日本の自動車メーカー、地図メーカーともに、HERE準拠のデータ収集を可能にするプラットフォームを構築し、いかに日本向け情報を分析配信するか連携を図っていくか、という方向になるのかもしれませんね。