世界一の渋滞都市!ジャカルタの交通事情
東南アジア南部に位置するインドネシアは、人口約2億5,000万人、20から30歳代の労働人口が多く、経済成長が続く活発な国。熱帯気候のため農業も盛んで、石油や石炭、天然ガスなどの鉱業資源にも恵まれています。インドネシアの首都・ジャカルタは人口約1,017万人、面積は約661㎢という巨大都市で、毎年右肩あがりになっている一人当たりのGDPは2016年で3605ドルです。
そんなジャカルタですが、以前本メディアで取り上げたタイ・バンコクと同様に交通渋滞が多いことでも有名です。2015年2月に英国のCastrol社が行った世界78都市と地域を対象に実施された渋滞度調査の結果で、最も渋滞している都市として1位になりました。インドネシアとしては、東ジャワ州のスラバヤ市も4位にランクインしています。
路線バスやタクシー、電車など交通手段はいくつかあるものの、インフラや道路は日本と比べるとまだまだ全体的に整っているとはいいがたく、東京都とジャカルタの面積はだいたい同じぐらいではあるのですが、車の所有台数ではジャカルタが2倍以上。増加し続ける人口とともに車の所有台数も増えていることが、渋滞の一因と言えそうです。
その他、バイクの所有台数も世界一であることや、Uターン場所の少なさ、バスや電車の時刻が不定期であることなども渋滞の原因だと考えられています。渋滞によるジャカルタの経済損失は年間で65兆ルピア(日本円で約5,200億円)にも及ぶとされているため、国をあげて渋滞対策を早急に進めているところです。
現在のジャカルタでは国内初の地下鉄区間を含む都市高速鉄道(MRT)を建設中で、この公共交通機関の完成による渋滞温和に大きな期待が寄せられています(開業は2年後の2019年を予定)。政府も公共機関の利用を促したり、2016年の夏から車両ナンバー規制を導入し偶数ナンバーと奇数ナンバーの車がそれぞれ道路を走れる曜日を制限したり、電子課金システムの導入なども検討されているようで、様々な方策で渋滞解消に努めています。
ジャカルタでは一般的なバイタクシー
インドネシアのジャカルタのスカルノ・ハッタ空港に到着すると、イミグレに向かう途中でまず目に止まったのは「Grab」の広告の数々。とにかく右も左も「Grab」であふれています。
空港からさらに中心街に向かう途中、緑色のヘルメットやジャケットを着込んだGrabやGO-JEKのバイクタクシーがあちらこちらから出現し、中心街は車の間をすり抜けるバイクタクシーでごった返していました。
インドネシアやタイでは、移動手段としてバス・電車・タクシーとともにバイタクシーが一般的。前述したように、ジャカルタは渋滞が世界一ひどいため、混雑や渋滞を少しでも避けるために利用されることが多いようです。
日本では見かけませんが、バイクの後ろにお客さんを乗せ、目的地まで送るという移動サービスです。バイクと免許さえ持っていれば特別な申請や許可は必要なく誰でも簡単に運転手になれるのだとか。料金は距離などによって変わるものの、一般的にはドライバーと交渉して決めることが多いといいます。日本のように公共交通機関が行き届いているわけではないため、アクセスが悪い場所や短・中距離の移動をする際に早く到着できるのがバイタクシーで移動するメリットでもあります。
ひどい渋滞でもバイクは車の間をすり抜けていくことができるため、結果として車のタクシーより早く目的地に到着できることが多く重宝されているようです。そういった状況下で近年急速な成長を遂げてきたのが、GrabやGO-JEKのバイタクシーサービスです。両者とも同国におけるスマホ普及とともに一気に拡大してきたのですが、インドネシアのスマホ普及率は2016年では6,000万人、2019年には約9,200万人に増加すると言われています。
GO-JEKとGrabはどう違う?
まず、GO-JEK(ゴジェック)ですが、2015年からバイタクシー配車アプリの提供を開始しており、インドネシア版Uberと言われています。利用者はアプリから自分の近くにいるバイクを選んで呼び、目的地まで移動するというサービス(GO-RIDE)で、これに関しては他の配車サービスと同じです。ただ、現在は配車サービスだけでなく、GO-CAR、GO-FOOD、GO-MART、GO-MASSAGE、GO-CLEAN、GO-GLAMと、移動だけでなく広く生活に関わるサービスを提供しているのが特徴的です。
そして、東南アジアでもっとも普及されていると言われているのが Grab(グラブ)です。
同じく配車アプリとして2012年にマレーシアからサービスが開始し、その後はタイ、インドネシア、フィリピン、シンガポール、ベトナムと利用者を拡大してきました。急成長の中でも、身元確認がしっかり取れた運転手のみと契約し、ユーザーの安全性にもしっかり配慮ービスとして認識されているようです。使い方も簡単で、アプリを開いて行き先と目的地を入力し、金額を確認した上で配車依頼。GrabはGrabtaxi、GrabBike 、GrabCar、GrabHitchといった車両による移動手段に特化したサービスで、東南アジアを中心に幅広い地域に展開を進めています。
このように、GrabとGO-JEKは両社とも同様の配車サービスを提供してはいるものの、それをメインとして他地域展開を進めるGrabと、インドネシア国内において生活の広い領域をとっていこうとしているGO-JEKで、会社としての戦略には少なからず違いがありそうです。
GO-JEKは地理的対象をインドネシアに絞りながらその分サービスを充実化させ、GO-JEK経済圏で生活が全て完結する世界を作ろうとしているようです。2017年2月からライフスタイル部門GO-LIFEのサービスを旧アプリGO-JEKから独立させ、新たなアプリとしてリリースしています。GO-LIFEは配車と宅配のサービスに加えて、ホームスパとマッサージの予約やハウスクリーニング、車両メンテナンス、ヘア・ビューティサロン、それぞれの予約が行えるサービスを統合し、一つのアプリとして提供していました。
直近のGO-JEKの動向からは、サービスを支える輸送及びロジスティクスの基盤と、その上のサービスレイヤーを分けて、柔軟なサービス展開を可能にするしくみを整えているように見えます。GO-LIFEによって、ますます機動的に多種多様なサービスが提供されるようになることが予想されます。
一方、東南アジア7カ国36都市で展開するGrabは、現在5,000万ダウンロードを越え、ドライバーの登録数は110万人を獲得し、驚異の成長力を見せています。2017年7月にはソフトバンクとDidiから、合わせて20億ドルもの資金を調達しました。配車サービスを基盤にしつつもさらにビジネスレベルを押し上げるべく、モバイル決済プラットフォームの開発にも力を入れて取り組んでいるようです。現在では現金での支払いに合わせてクレジットカード決済も行えるようになっており、今後はインドネシアでのフィンテックサービスを大きく牽引していく存在になるかもしれません。GO-JEKも決済サービスを開始していますが、Grabはオフライン決済のスタートアップkudoを1億ドルほどかけて買収するなど、かなり力を注いでいるよう。
このようにGrabやGO-JEKの台頭により移動や生活にまつわるサービスの利便性が上がっている一方で、様々な課題も顕在化してきているようです。
普及によって生じる問題
ジャカルタの街中では至るところに両社のドライバー募集の広告が見られます。さらに、両社はドライバーへのインセンティブ付きの各種キャンペーン開催の告知を行うなどして、ドライバーの獲得をさらに過熱化させていました。
GrabもGO-JEKもメインカラーは緑色。そのため、見渡せば見渡すほど緑色のジャケットやヘルメットを装着したバイクが走っていることがわかり、街中を走る一見流しに見えるタクシーも両社のアプリにてすでに予約された車だったりします。
このように、一大ブームになっているためか、車やバイクを持っていないサラリーマンが会社を辞めて中古車を購入し、個人事業主としてドライバーになるというケースが急速に増えています。また、車やバイクを供給する側も売れ残っている車種をさらに割引いて売り切るなどして、どんどん車やバイクが市中に流れ出ていくサイクルになってしまっています。
街中では時折、道路脇で固まりになっているドライバーの集団を見かけました。2〜3年前までは自発的にお客さんを取らずとも、アプリですぐにユーザー(乗客)が獲得できていたようですが、現在はドライバーが供給過多の状態になっているため、ショッピングモールなど乗車ニーズのある地点で利用者の奪い合いが起こっているようです。
特にバイクは車よりも購入のハードルが低いということもあり、爆発的にその数も増えたようなのですが、その分供給過多になるスピードも早く、かつ渋滞も加速させてしまった感もあります。
働きたい時に働き、自由にお金を稼ぐことを夢見てドライバーになった多くの人たちが、このような熾烈な顧客獲得争いに晒され、サラリーマン時代の収入を稼ぐことすら困難になる中、バイクや車もローンの支払いすら滞ってしまって差し押さえられたり、ドライバーすらもできない状態になってしまって借金だけ残るなど、社会問題とも呼べるレベルの状況も垣間見えました。
バイクや車の中古車市場では、そのような事情を抱えた車両が多く流れてきますが、まだまだ続く大ブームの中、増え続けるドライバー人口とともに、新車ではローンの審査が通らないような層のドライバーに、そのようなワケあり車両もひっきり無しに売れていきます。ドライバーの信用力に応じて様々なグレードの車両へのニーズがあるため、中古車市場ではほぼ新車に近い車両から、10〜20年前に製造されたような車両まで値段がついていました。
インドネシアは今後さらに成長を続けていく
インドネシアの総人口の8割、2億人ほどの人々が、現在も貧困ラインと言われている月収33万8,000ルピア(日本円で約2,870円)ほどで生活し、残り2割の比較的裕福な層の人たちとの収入格差がどんどん拡大しています。Grab、GO-JEKで個人事業主になり一攫千金をと夢見たドライバーたち。そこに雇用が生まれ、チャンスを掴んだ一握りのアーリーアダプターが存在する一方、上述のような過当競争の中でただ疲弊していく層もあるというリアルがそこにありました。
ただ、超高齢化・出生率低下がますます深刻化してる日本に比べ、インドネシアの中央年齢は28.4歳。スマホやインターネットの急速な普及でも見てとれるように、国としての経済成長のポテンシャルや、それを支える若い労働力は十分に保有している国でもあります。交通問題だけでなく国の成長途上におけるカオス的な状況は今後も続くとは思われますが、まだまだ経済は右肩上がりに成長し続け、その魅力的な市場に様々なプレイヤーが今後も飛び込んでくることでしょう。
引き続きインドネシアからも目が離せませんね!