電気自動車の仕組みと特徴 – 「HV」「PHV」との比較
EVはエンジンの代わりに電動モーターを制御装置として採用し、動力源はガソリンなどの燃料ではなく、電気を蓄えたバッテリーで走行する仕組みとなっています。
トヨタの「プリウス」などのハイブリットカー(以下:HV)もEVの仲間だと思われがちですが、実は内部の構造が大きく違っているのです。EVは動力である電気をモーターへ送り込み、そのまま走り出しますが、HVはエンジンとモーターを組み合わせて動力を確保します。従ってHVは内燃機関が存在するため、環境問題で比較するならEVに劣ってしまいます。
そして、HVが更にEV寄りに進化した形態がプラグインハイブリッドカー(以下:PHV)です。こちらもエンジンが搭載されていますが、大容量のバッテリーにより直接充電が可能なため、EVに近い特性を持っています。HVは家庭などで充電することができませんが、PHVなら可能なため、こちらもEVに近い感覚で経済的なドライブを楽しむことができます。EVは「充電口」、HVは「給油口」、PHVは「充電口」「給油口」の両方が付いている構造になっています。
また、これらの三車種はすべて大容量バッテリーが搭載されているため、メンテナンス時には寿命などを考慮しなければなりません(年数が経過すると場合によっては交換が必要となります)。
混同されがちですが、従来のガソリン車に搭載されている「鉛蓄電池」とは根本的に構造が違います。EV用の大容量バッテリーは、走行時の動力源となる大量の電気を蓄えなくてはならないため、ガソリン車のバッテリーのようにエンジンを掛けるだけの電力量とは訳が違います。クルマの大本を支える最先端の技術が詰まっているため、高性能で安全性の高い大容量バッテリーがこれらの三車種に搭載されています。
環境に優しいEV
EVのもう一つの大きなメリットは「地球の環境に優しい」ということ。1997年に発売したHVである「プリウス」が空前のエコカーブームを巻き起こしたように、世界でも依然として環境問題に対する意識は強い傾向にあります。
EVは地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出しないのは先にも述べた通りです。ガソリン車の排出ガスには、酸性雨の原因となるNOx(窒素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)などの有害物質も含まれているため、これらを空気中に放出しないというメリットもあります。またガソリンを使用しないため結果として石油資源の減少に歯止めを掛ける効果があり、その点でもEVを普及させるメリットはあると、各自動車メーカーは技術力向上に努めています。
振動や騒音が少ない
他にも、EVは振動や騒音が少ないのも大きな利点です。
エンジンは内燃機関のため、内部で爆発を繰り返し、騒音や振動を生み出すという最大の欠点があります。消音機であるマフラーを取り外してバイクを走行させた方や、マフラーを装着しないF1のレース会場を訪れた方なら分かると思いますが、エンジンの爆発音というのは耳をつんざくような凄まじい音量です。エンジンが無くなるだけでどれだけ騒音が減るか、その効果は計り知れません。
EVはこの問題をクリアしているため、一般の方にとっては車内の静けさに驚きを隠し切れないはずです。その効果は「音がしないから近くを走っていても気が付かない」と言われるほどなので、もし世の中にEVが溢れたら騒音問題は一気に解決へと向かうかもしれません。
電気自動車の人気動向
2015年度による、世界でのEV売り上げランキングで1位を獲得したのは、アメリカのテスラ社が販売している「モデルS」の51,390台。2位は日産が販売している「リーフ」で43,870台。そして3位は三菱自動車が販売している「アウトランダーPHEV」で43,259台となっています。
ただし、アウトランダーPHEVは燃費の不正問題が発覚したため、今後の国内における主力EVはリーフになる可能性が高くなりそう。価格も補助金の制度などを利用すればセカンドカーとして活用できるため「最も身近なEV」としての地位を確立し続けるのではないでしょうか。
1位を獲得したモデルSも魅力的な商品ですが、価格が高いため一般の方には手を出しにくいのが難点です。とはいえその価格にあった機能をモデルSは備えています。たとえば自動運転機能(オートパイロット)が搭載されているため、この機能を体験する価値はあるでしょう。今後も富裕層向けのEVとして売り上げを伸ばし続けるかもしれません。
実際お得だったり使いやすかったりするの?
実際のところ、EVはまだ実用的とは言い難い段階にあります。先にも述べた売り上げに関しても、テスラ社と日産は上位に位置していますが、商業的には赤字傾向にあります。一体何が問題なのでしょうか?
EVの課題 : 充電時間の長さ
まず第一の問題として、充電時間の長さが影響している可能性があります。専用スタンドでの急速充電を行えば30分で80%の充電が可能だと言われていますが、家庭用の急速充電器(200V)であれば約8時間を要します。100Vでも充電は可能ですが、時間が掛かり過ぎるため200Vの充電設備は必須となり、その分お金が掛かります。
家庭用のコンセントからでも充電は可能ですが、1日以上の時間を要するため全く実用的ではありません。このように、一日でも充電を忘れてしまうと次の日に使えないということが十分起こり得るため、ユーザーが購入に二の足を踏む傾向にあります。急速充電スタンドの設置もまだまだ一般的な普及には至っていないため、ガソリンスタンドのようにすぐに見つけられる可能性が低いのも、購入に至らない要因の一つです。
EVの課題 : 車種のバリエーション
また、EVは車種が少なく好みのデザインが選べないのも課題の一つです。
EVの開発はまだまだ手探りの状態のため、爆発的なブームを起こしたHVとは対照的に、すぐに新しい製品を発売するというような状態ではありません。モビリティの面でも魅力に乏しく、特に走行時の加速ではガソリン車のような面白味がないため、車両価格の割に買いたいと思うようなメリットが少ないと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「充電は時間が掛かって面倒だし、好みのデザインも無いし、もう少し大きな車内で運転したい」という不満が出てしまうため、手軽なエコカーを選びたいと思う方は「HVでいいじゃないか」という結論に達するようです。実際、日産のリーフはトヨタのプリウスに売り上げの面でも大きな差を付けられています。
EVの未来
では、EVの未来は暗いものなのでしょうか?
現段階では魅力が少ないクルマのように思えますが、全てが電気制御というメリットは今後の開発環境に必ず大きく影響します。
特に、パソコンやスマホなどの相性が良いため、これらのデバイスと連携した機能が更に搭載されるはずです。そして、エンジンのままでは制御が難しかった自動運転の技術でも、電気制御ならば内部の構造がシンプルなため、より進化する可能性を秘めています。
先にも述べた通り、テスラ社のモデルSは自動運転の技術をすでに搭載しているので、これに倣い各社も技術革新に努めるはずだと考えます。まだまだ目が離せないクルマの一つです。
主要な電気自動車を紹介
こちらでは各大手自動車メーカーが発売しているEVをそれぞれご紹介します。
日産 リーフ
「自宅で充電、給油は不要」を合言葉に、手軽にEVを楽しめる一台として今でも人気を維持しています。
搭載している24kWh駆動用バッテリーを夜間に満充電した場合、その価格は約300円となり非常に経済的です。200Vで充電できる環境を得られれば、家庭でも約8時間で充電が完了するため、わざわざ急速充電スタンドを探す必要がありません。満充電での航続距離は24kWhの駆動用バッテリーで228km、30kWhの駆動用バッテリーでは280kmとなっています。国内でEVを最初に購入するにはおすすめのクルマです。
テスラモーターズ モデルS
テスラ社のEVは、セダンである「モデルS」とSUVの「モデルX」が販売されています。
EVの開発に非常に力を入れており、その最先端の技術で常に業界の注目を集めている企業です。モデルSはテスラスパーチャージャーにより約1時間で充電が完了。搭載されているのは100kWhと大容量の駆動用バッテリーのため、何と600km以上の航続走行が可能です。加速性能も申し分なく、時速90kmまで2.5秒と快適なドライブを楽しむことができ、この点ではガソリン車に匹敵するモビリティを達成しています。
そして目玉となるのが自動運転機能(オートパイロット)が搭載されている点です。この機能により「自動運転技術」の未来を切り開いたため、テスラ社による業界への貢献は大きいものがあります。
三菱自動車 i-MiEV
三菱自動車もEVの分野に積極的に進出していました。「いました」と過去形になっているのは、先日に燃費不正問題が発覚したからです。
三菱は「i-MiEV」をはじめ「アウトランダーPHEV」などの魅力的な商品を販売していましたが、今回の不正によりネットでは不買運動が起こるほど問題が深刻化しており「三菱リコール隠し事件」の悪夢を想起させる出来事となってしまいました。最もEV開発に力を入れていた企業の1つだっただけに、今回の不正発覚は残念だと言わざるを得ません。現在(2016年9月20日)では、ホームページに不正のお詫びが掲載されている状況です。
AppleがEVに本格参入!?「Project Titan」とは
世の中におけるEVの技術領域は、携帯電話やタブレットといった家電デバイスに近いような感覚で開発が進められています。そして、いち早くこの分野に手を出したメーカーが、iPhoneなどの開発で知られるApple社です。
Apple社は「Project Titan」と呼ばれる極秘開発を続けていますが、この開発こそがEVではないかと噂されています。Project Titanは2014年に開始されたため、すでに2年が経過していますが、アメリカのEV開発最大手であるテスラ社やドイツの自動車産業界から優秀な人材を引き抜くなど、今でも水面下で活発なやり取りが行われているようです。
そして、特に注目すべきなのは、オーストラリアの自動車製造業者であるマグナ・シュタイア社との連携を図っている点です。この会社は自動車部品の開発や組み立てに注力しているため、自社ブランドのクルマを販売しないことで有名。自動車業界で特に大切なのは、個々の部品の精度と、その部品を組み合わせるための技術と知識です。この技術に強みを持つ企業と連携を図るということは、本格的に自動車産業へ乗り出す準備が整ったということになります。
Apple社はiPhoneやiPadなど斬新な製品を世に送り出してきましたが、近年はマンネリ化する傾向にあり、革新的なデバイスを求める声が日に日に高まっています。もしここで、巨大なデバイスである「EV」を発売することができれば、まさに世の産業が一変する大事件となるはずです。
EVの構造はもともとシンプルなため、多くの部品を必要としない利点があります。そのため、大手自動車メーカーが強みとしている技術の蓄積やノウハウに頼らないので、開発期間も短縮でき、どの企業でも自社ブランドのEVを発売できるチャンスがあります。
EVはこれからもっと進化する
今でもエコカーの代名詞といえば「プリウス」「アクア」「フィットハイブリッド」などのHVをイメージする方が多いかもしれません。
HVは確かにエコカーとしての存在価値を高めましたが、完成されているとは言い難い段階です。真のエコカーを目指すのであれば、燃焼を行わず全てを電気制御するEVに辿り着く必要があります。
国内でもそれほど普及しておらず、人気もそれほどではありませんが、技術の進化により新しいEVがこれから次々と開発されるはずです。今後も注目に値する技術であることは間違いありません。