2023年、脱炭素とEVシフトの現在地

2023年、脱炭素とEVシフトの現在地

2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指す2020年10月の宣言から、およそ3年が経とうとしています。現時点において、日本はどこまで「脱炭素化」が進んでいるのでしょうか。
本記事では、国内における脱炭素化の現状、EVシフトへの課題や今後について解説します。

脱炭素化はどれくらい進んでいる?世界視点で見る日本の現在地

英国シンクタンクのエンバーによる調査では、日本で1kw時の電気を作る際(発電時)に排出される二酸化炭素(CO2)の量は、2022年の時で484gと世界の平均より高く、先進7ヵ国の中で最多であることがわかりました。世界平均は436g、もっとも少ない国はフランスで85g、次いで英国が257g、米国が368g。比較すると日本の数値が他国より高いことがはっきりとわかるでしょう。また、発電部門におけるCO2排出量では、およそ4億6,800万tと、世界5位の水準で前年比2.1%増となり、全世界的に遅れをとっていることが目立つ結果になっています。

2023年4月に開催されたG7気候・エネルギー環境総会合では、天然ガスを含む化石燃料の段階的廃止で合意したものの、議長国であるにもかかわらず、脱炭素に向けた対策においては1月に示した内容が22年度と同じだったため、提案が不十分だと指摘を受けた日本。22年度も、気候変動対策に対して後ろ向きな国として、日本は3年連続で「化石賞」という不名誉な賞に選ばれています。政府としても脱炭素化に前向きな姿勢をアピールすべく、気候変動や温暖化に対する解決策の一案としてグリーントランスフォーメーション(GX)を掲げ、CO2排出に課金するカーボンプライシングの導入を発表しましたが、2028年から実施予定と出だしが遅く、脱炭素化に積極的であるとは言えません。

そうした現状に加え、昨今で課題になっているのが世界的なエネルギー価格の高騰です。欧米などでは脱炭素とエネルギー高騰対策として太陽光発電やヒートポンプの普及が加速していますが、先述した英シンクタンクのエンバーによる調査では、日本は、変動性自然エネルギーの発電割合が主要国の中でも最も低くなっています。先進国であるにもかかわらず、全体的に脱炭素化への足取りが重く、脱炭素化の目標を達成するにはまだまだ道のりが長いようです。

脱炭素のカギを握るのは「EVシフト」 

温室効果ガスの排出を削減し、地球温暖化を食い止めるには、2050年までに自動車の脱炭素化が必須だと言われています。世界の自動車メーカーもEVの開発と普及に力を入れており、調査会社マークラインズの調査によると、2022年の世界販売台数は726万台と21年から7割ほど増えていることがわかっています(世界62カ国・地域で販売された新車の集計数)。ガソリン車を含む全体の販売台数がおよそ7,621万台のため、その1割をEVが占めていることになりますが、世界的にも徐々にEVシフトの動きが加速しつつあるようです。

そんな中、2022年9月に環境保護団体グリーンピースが公表した、世界の主要自動車メーカー10社における気候変動対策の調査では、日本の大手自動車メーカーであるトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車がワースト3を占めました。現時点においては、国内外で必要な対策が取れているメーカーはいないようですが、さらに日本においては、バッテリー式電気自動車への移行が遅れていると見られているようです。

そんな中、2023年4月、トヨタ自動車では新体制の方針説明会を開催し、2026年までにEVの世界販売台数を年間150万台へ増やすことを発表しました。2022年における世界EV販売代数ランキングで、同社はおよそ2万台と首位のテスラ126万8,000台と比較すると大きく差が開いていますが、それを一気に追い上げるような野心的な宣言に期待が寄せられ、本格的なEV時代が訪れようとしています。

消費者に視点を移すと、日本IBMが行った電気自動車(EV)に関する最新調査レポートで、「車を運転する消費者のおよそ50%が今後3年以内に自家用車としてEVを所有するつもりである」と回答していることからEVへの前向きな姿勢が受け取れますが、EVを普及させていくには、いくつもの課題を乗り越えなくてはならないようです。

EVシフトへの課題

充電設備の不足

EVを普及するにあたり、必ず必要になるのが充電設備です。日本国内にあるEVスタンドの検索サイト「GoGo EV」が発表した2023年3月時点でのEVスタンド設置台数は19,764基、うち急速充電が9,559基、200Vの普通充電が23,030基、100Vの普通充電が242基でした。急速充電は150kW超えで一般的なEVの場合30分前後で充電が完了しますが、普通充電は満充電に最大で24時間ほどかかります。

政府としては、2030年にEVスタンドを15万基に増やし、そのうち3万基を急速充電にする目標を掲げています。「クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金」における2022年度の補正予算・2023年度当初の予算として、300億円が計上されたことからも、政府としてはこれによって、充電設備を拡充し、維持していこうと考えていることがわかります。

しかし、出力が200kwを超える急速充電は、現在の法令では発電所から送られてくる高圧の電気を使用できる電圧へ変換する"変電設備”という扱いになるため、厳しい規制があり、設置が容易ではありません。設置台数を拡充するには、設置に関する規制を緩和すること、設置コストを下げることなど、さらにいくつか整備すべき課題があるのです。

電力の確保

EVの普及には充電設備が欠かせませんが、そこでさらに重要となるのが電力を確保することです。たとえば、国内EVで人気のリーフのバッテリーは、現在40kwhと60kWhの2種類。1kWhは、電力を1時間使った時に使用する電力量ですが、一般的な4人家族が1日に使う電力消費量が10kWhのため、およそ4〜6日分の使用料になります。

2020年12月、日本自動車工業会の豊田章男会長が記者会見で「国内のすべての自動車がEVになったと仮定すると、電力供給や充電のために、原子力発電所10基分、火力発電では20基分程度に相当する発電能力の強化が必要だ」という趣旨の考えを示しました。また、「国内における年間乗用車販売、そして保有台数がすべてEVになれば、電力ピーク時の発電能力を現状より10〜15%増強する必要がある」と補足しています。

最近では真冬や真夏に「電力需給が厳しい」「電力不足」といったニュースを目にする機会が増えました。クーラーや暖房で電気を多く使用する時期は、電力供給量が需要を上回り、地域によっては大規模停電が起きる可能性があります。電気自動車が普及すると、今より何倍もの電力が必要となるため、発電能力を強化しなくてはならないのです。

車体価格

国内で購入できるEVの新車価格は、普通車で中心価格400〜600万円前後が多く、普通車の中心価格100〜300万と比べるとやや割高です。実際に、デロイトトーマツが2022年に公表した「2022年 次世代自動車に関する消費者意識調査」においても、購入選択肢とならない一番の理由という質問で「諸費用を含む車両購入価格」が一位を占めていました。購入を検討しても良い場合、予算総額は200〜249、250〜299万が多かったことで、現在の平均価格では簡単に購入へ至らないことがわかります。

また、同調査で、充電インフラが十分でないこと、航続距離が心配であることが上位を占めていたことからも、コストだけでなく消費者の懸念事項が大枠、解決されない限り、急激な普及は難しいかもしれません。

EV社会に向けて今こそ動き出すとき

止まることを知らないEVシフトの波。脱炭素社会の実現に向けて今後もスピードが加速すると予想されますが、その一方で、EVシフトに伴いマイナスの影響を受ける企業も少なくはないようです。帝国データバンクが2023年3月30日に公表した調査では、EVシフトが「事業へプラスに影響する」と答えた企業は全体の2割程度で、マイナスに影響すると回答した企業の3割を下回りました

EVは内燃機関を持たないため、ガソリン車と比較すると自動車を構成する部品点数が大幅に少なくなります。現時点においても、パワー半導体や電子材料などを扱う産業用電気機器卸売の需要は伸び続けていますが、従来の部品・付属品メーカーへの影響はかなり大きいようです。国内におけるEV化を進めるには、先述した課題を解決するほか、ソフトウェアの開発が重要になってきます。これらの観点からも、自動車業界で生き残るには、事業の変革が求められていると言っても過言ではありません。

今後の動向を追いつつも、新たな製品・技術の開発、新たな事業の検討など、来るEV化時代に向けて、今こそ変革するタイミングではないでしょうか。「事業を見直したい」「新たな取り組みを検討したい」「脱炭素化やEVシフトへ向けたアイデアが欲しい」そうした企業様へ向けて、スマートドライブでは2023年9月26日火曜日、「Mobility transformation 2023 脱炭素社会の実現に向けたモビリティの未来」を開催することになりました。加速する『モビリティ×脱炭素』の今を考えることをテーマに、必ず事業へのヒントになる講演が満載。是非とも、ご参加ください!

EV化に関するMobility Data Platform活用を、事例も交えてご紹介します。

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