メルセデス・ベンツが手がけるカーシェアリングサービス「Croove」

メルセデス・ベンツが手がけるカーシェアリングサービス「Croove」

一昔前であれば一家に一台は車があって、車とは購入するもの、常に所有するものという印象が強かったでしょう。

ですが映画におけるHuluやNetflixのように、定額で車を利用する権利を取得するサブスクリプション型のサービスやUBERなどの配車サービスが普及することで、ひょっとしたら車との関係性も変わってくるかもしれません。


ここ1年ほどでも続々と立ち上がっている「カーシェアリングサービス」もその1つといえるでしょう。日本国内ではトヨタ以外に自動車メーカー自らが乗り出す事例がまだないですが、欧米では多くのメーカーが次々とサービスを立ち上げ、すでに激しい競争が始まっています。

ご存知メルセデス・ベンツも従来の「Car2Go」に加え、新サービス「Croove」を開始しました。

次々に立ち上がるカーシェアリングサービス

「個人が自動車を所有する時代の終焉」に向けて、欧米では自動車メーカー自らによるカーシェアリングサービスが盛んにリリースされています。

ちょっと検索しただけでも以下のカーシェアリングサービスが出てきました。

  • BMW:ReachNow(2016年4月8日)
  • GM:Maven(同1月21日)
  • フォード:FordPass(同1月11日)
  • トヨタ:名称未定(米Getaround社と提携)

大手自動車メーカー発のものだけでもこれだけあるわけです。

これらは基本的にはレンタカー会社なども使い、1台の車を効率的に配車して使いまわすサービスも含まれますが、中には個人の自動車で使っていない時間にシェアするC2Cのカーシェアリング(個人間のカーシェアリング)も含まれます。

その場合は他メーカーの車で登録しても構いませんが、サービスを主催しているメーカーの車であれば、ローンの支払いなどで有利になる場合もあり、主目的が自社ユーザーの囲い込みにあると考えられるでしょう。

個人個人が自動車を持ち、使わない時間は死んだように眠っている自動車に光を当て、既存の自動車を最大限活用するカーシェアリングは、販売台数の面から言えば自動車メーカーにとって望ましいものとはいえません。

しかし、現に自動車メーカー抜きでもカーシェアリングサービスが始まっている以上、貸し出すことで車両価格を回収しようとするユーザーへの売り込み、そして手数料収入で、最大限の果実を得ようというのは自然な流れといえます。

カーシェアリング目的であればEVや自動運転車で構わないというユーザーへの売り込みも可能になりますから、「自動車」という工業製品の質的転換時代に、カーシェアリングは大きな役割を果たすものと思われます。

メルセデス・ベンツが手がける「Croove」

Photo credit: croove 公式サイト

2016年11月にメルセデス・ベンツがドイツのミュンヘンで新しくスタートさせたサービス「Croove」もカーシェアリングサービスです。スマホの「Croove」アプリを介して、使っていない時間に愛車を貸し出したいユーザーと、その近くで借りたいユーザーとをペアリングする、典型的なC2C型のカーシェアとなっています。

メルセデス・ベンツによれば、同社ユーザーの平均運転時間は1日1時間。残りの23時間は車を使用していないことになるので、どうせなら貸し出すことで有効活用しようというわけです。

両者は合意の上で貸し出し予約を成立させ、車の鍵を手渡すシステムですが、これも将来的にはキーレスエントリーシステムを活用し、貸し手あるいはCrooveのセンターが発行したPINコード(暗証番号)を入力することで、借り手と貸し手が対面する手間も無くなることも考えられます。

車両を登録する条件は生産から15年以内の状態良好な車に限られますが、メルセデス・ベンツ車に限定されてはいません。借り手の条件は21歳以上の運転免許保持車というだけで、取り立てて難しい条件は無さそうです。

メルセデス・ベンツ「CASE戦略」の一貫

Photo credit: Automobile Italia

今回の「Croove」は単体でのサービス立ち上げ・発展を意図したものではなく、あくまでメルセデス・ベンツが今後展開するモビリティ戦略「CASE戦略」の一環と考えられます。

「CASE戦略」は、以下の4つからなります。

  • コネクティビティ(Connectivity):コネクテッドカー
  • 自律走行(Autonomous driving):自動運転車
  • シェアリング(Sharing):カーシェアリング
  • 電気駆動システム(Electric drive systems):EV(電気自動車)

つまり、メルセデス・ベンツが描く次世代車推進戦略というわけです。

いずれは自動運転機能を備えたEVのコネクテッドカーを、個人所有ではなく複数人のシェアで成り立つ社会への変化を促す上で、カーシェアリングサービスは現在でも実現可能な施策というわけですね。

以前からカーシェアサービス「Car2Go」を展開

なおメルセデス・ベンツにとって、これが最初のカーシェアリングサービスというわけではありません。既に北米やヨーロッパではサービスが始まっており、中国でも開始が発表された「Car2Go(カーツーゴー)」と呼ばれる、カーシェアリングサービスがあります。

厳密にはメルセデス・ベンツではなくその本社であるダイムラーが行っているサービスで、主にダイムラーグループのマイクロカー、MCC スマートのガソリンエンジン版およびEV版を、その地域の住民でシェアするというものです。

その方法も独特で、街のどこかに駐車してあるスマートにメンバーカードをかざせばロックが解除されます。利用料金は時間貸しで使っただけ + ガソリン代 or 充電代で(給油 or 充電用のカードが車内にある)、使用後はその場に乗り捨てて利用終了です。

極めてシンプルですが、「合法的に路上駐車していて問題無い場所」がどこにでもある街だからこそ成り立つサービスです。

日本では乗り捨て型は難しい?

ちなみに日本でも「Car2Go」のような、乗り捨て型カーシェアが試みられたことがあります。

2013年に日産自動車が「チョイモビ ヨコハマ」超小型モビリティ100台ほどを使った乗り捨て型カーシェアリングの社会実験を横浜で行ったのですが、人気スポットにばかり大量に乗り捨てられてしまいました。

そのため回収が大変で人手も必要になり、コストを考えると大々的な実用化にはまだハードルがある、という結果で終わったのです。

普段その街で生活する人だけでなく観光客向けに使ってしまったがゆえの失敗とも言えますが、日本向けの施策とするには、まちづくりから考える必要があるのかもしれません。

空港で旅行者が止めた車を活用するサービスも

出典 : Getaround

ダイムラーによるカーシェアリングサービスは他にも展開例があります。2016年7月に買収したアメリカの「FlightCar」です。

空港まで車で来た旅行客はそこから飛行機で旅に出ますが、旅から帰ってくるまで車は駐車場に放置されたまま。その車に目をつけて、逆にその空港へ降り立った旅行客へ使ってもらおうというユニークな切り口のサービスです。残念ながら買収に伴ってサービスは停止になりました。

トヨタも提携したばかりの、サンフランシスコのカーシェアリングスタートアップ「Getaround」ですが、同社とはダイムラーも提携しており、そこでメルセデス・ベンツ車とスマート車のカーシェアサポートを行っています。

いずれのサービスも日本ではなかなか思いが及ばないというか、「そんなやり方ができるのか!」と目からウロコの落ちるような話です。

日本では駐車場に置かれた車両を使った、タイムズカープラスなどの「カーシェア事業者によるシェア」が未だに主体で、個人間カーシェアなどはまだまだ一般的になっているとは言えませんが、DeNAのAnycaシェアのりなど新たなサービスも登場してきているので、今後が楽しみですね。

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