コンパクトシティとは
スマートシティと同じように、コンパクトシティも国や都市によってさまざまな定義があります。とくに、地方自治体の政策志向の一つとして最近着目されているのがコンパクトシティ構想の概念です。国土交通省が2014年に発表した国土整備計画の中では、人口減少や高齢化が進む中、とくに地方都市においては、地域の活力を維持するとともに、医療や福祉、商業などの生活機能を確保し、高齢者が安心して暮らせるよう、地域公共交通と連携して、コンパクトなまちづくりを進めることが重要」だと述べています。また、OEDCの報告書である「コンパクトシティ政策: 世界5都市のケーススタディと国別比較」においては、高密度で近接した開発形態、公共交通機関でつながった市街地、地域のサービスや職場までの移動の容易さといった特徴を有する都市構造がコンパクトシティであると定義されています。
都心部では人口の過密化による一極集中が問題になっていますが、地方部では持続可能な状態にするために、一定地域に人口を集中させることで行政サービスを効率よく提供する、集積の利益という概念をコンパクトシティ化によって実現しようとしているのです。
コンパクトシティが注目されている理由とは
急激な人口減少と高齢化
地方では、人口の減少や少子高齢化と合わせて空き家、耕作放棄地、限界集落に課題を抱えています。また、日本国内の人口減少は止まることを知らず、2010年は1億2800万人だった人口が2040年には1億700万人程度に減少するといわれていますが、地方部はさらに人口減少による過疎化が進んでしまうのです。
一定の範囲内で居住すれば、子育て、教育、医療、福祉など、どのサービスも効率的かつ安定して提供できます。
財政・経済など持続可能な都市経営(効率的なサービス提供)
人口減少が進んでいくと税収も減少していきますが、コンパクトシティ構想で財政や経済を効率的に活用することで、道路や上下水道の整備など、公共施設の維持管理が合理的に実施できたり、住宅・宅地の資産価値を維持したり、持続可能な都市経営を可能にします。
防災
台風や大地震など、一年のうちに大規模な自然災害が多発する日本。津波による増水、土砂崩れの被害からいち早く身を守るためにも、災害危険性の低い土地を重点的に活用し、集住ができれば、迅速かつ効率的な避難が可能に。
環境保全
地方部は都心部と比較して交通インフラが整っているとはいいがたく、移動手段に車を利用する人が少なくありません。中には一家に一台ではなく、一人一台という家庭も。移動を車中心から公共交通機関にシフトすることができれば、自動車から排出されるCO2を低減し、環境を保護することができるのです。
コンパクトシティは市町村内のもっとも主要な拠点一ヶ所にすべてを集約する「一極集中型」ではなく、旧町村の役場周辺など、生活拠点も含めた他局ネットワーク型のコンパクト化を目指したものです。そこに暮らす全ての人口集約をはかるものではありませんし、インセンティブなどを講じて時間をかけながら移住の集約化を推進しているのです。
コンパクトシティとスマートシティの違い
スマートシティは、コネクテッドカーなどのスマートモビリティや、次世代送電網であるスマートグリットなど、さまざまなモノのデータをインターネットを経由して1つのプラットフォームに集約し、そのデータや情報をベースに人々の生活やサービスの質を向上したり、改善したり、効率的に行ったりすることを目的とした構想です。
参考記事:スマートシティとは?~変化を続ける未来都市のあるべきカタチ~
スマートシティもコンパクトシティも、人口減少や環境問題、財政や経済の効率化、持続可能なエネルギー、交通の最適化がキーワードですが、その対象や構築する手法が異なります。都市総合研究で早稲田大学の森本章倫教授は、両者をわかりやすく次のように比較しています。
コンパクトシティ | スマートシティ | |
対象 | 空間 | 情報 |
視認性 | 可視 | 不可視 |
原理 | 縮退 | 拡張 |
手法 | 計画・マネジメント | 情報統合技術 |
主体 | 公的中心 | 民間中心 |
期間 | 長期 | 短期 |
コンパクトシティが実際の土地空間を起点として効率化を目指しているのに対し、スマートシティは主にテクノロジーを活用したデータ収集とそれを基盤としたサービスを提供し、生活の質向上と効率化を目指したものです。また、国土交通省では、コンパクト化とスマート化の違いを次のように示しています。
コンパクト化・・都市構造の空間的な集約化による効率化
スマート化・・ICT技術を活用した効率的な都市サービスの供給
コンパクト化もスマート化も手段は異なるが、持続可能性向上に向けた都市運営の効率化という点で、目的は一致している。
都市関連の施策は従来、長期的かつマクロな施策が中心でした。しかし近年は、短中期的かつミクロな施策にニーズが拡大し、迅速かつきめ細やかな施策と実装が求められています。そうした背景もあり、IoTやAIなどの先端技術を活用して都市の課題解決を効率的に図る、スマートシティの構築が急速に普及しているのかもしれません。
コンパクトシティとスマートシティは融合することで有効になる
人口の急激な減少により空き家や空き地が増え、多数の穴をランダムに持つスポンジのように都市の密度が低下することを、国土交通省は都市のスポンジ化と定義しています。都市のスポンジ化は、サービス産業の生産性を低下させ、行政サービスの非効率化、地域コミュニティの消失、治安に悪化など多くの問題を招く可能性があるため、早急な対策が求められています。スポンジ化は都市の中心部、郊外部、緑辺部など、あちこちで発生し、最近ではシャッターを閉めたままの商店街や空き地だらけの住宅街が全国で見られるようになりました。
こうした課題に対して、国土交通省はコンパクトシティ化を推進しようと空き地や空き家の利活用やコミュニティの形成などを支援していますが、人が集まらない、高齢者が多く対応が難しいなど、なかなか解決の道は遠いようです。
そこで、都市計画基本問題小委員会は、計画制度だけでなく、事業や運用改善、周辺施策との連携を含めて現実的かつ有効な解決策を得るには何をすべきかを検討し、2017年8月に「都市のスポンジ化」への対応に関する中間とりまとめを発表。そこで有効な解決策として示されたのが、コンパクト・プラス・ネットワークの取り組みでした。
コンパクト・プラス・ネットワークとは生活サービス機能と移住を集約・誘導し、人口を集積したコンパクトシティに、まちづくりと連携した公共交通ネットワークの再構築を掛け合わせた施策のこと。国土交通省の「コンパクトでスマートなまちづくり」の資料においても、それぞれ単独での推進には次のような課題があるとしており、持続可能な都市への移行には、コンパクト化とスマート化の 融合が必要だと述べられています。
コンパクト化・・公共インフラ・サービスコストの軽減等に必要だ が、居住移転に長期を要し、移行期間中の都市 サービス供給が課題(「スマート化」への期待)。
スマート化・・単独では、更なる都市の拡散を招く恐れもあり、 「コンパクト化」での歯止めが必要。
低密度に拡散した都市のコンパクト化を行い、IoTなどのテクノロジーとビッグデータの活用によって持続可能なまちづくりを行う、つまり、コンパクトシティとスマートシティは個々に構築するのではなく、双方の概念と利点を生かし、ゴールへの足並みを合わせたロードマップを作成することで利便性と価値を高めることができると言えるでしょう。