モビリティ業界の大変革期~EV・電池、自動運転の今~

モビリティ業界の大変革期~EV・電池、自動運転の今~

世界は今、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」の実現に向けて邁進しており、将来的には電気自動車(EV)の普及が不可欠だと言われています。
また、少子高齢化などの影響によるドライバー不足など、モビリティ業界が抱える慢性的な課題を解決すべく、「ドライバーレス」をゴールとした自動運転技術の開発も年々進んできました。

今回は、EV・自動運転車などの次世代型自動車がどれほど普及しているのか、次世代移動車の原動力にして中核である蓄電池の開発状況を整理するとともに、そこから見えてくる課題や未来展望について解説します。

現在の次世代型自動車の普及状況と今後

まずは、EVを始めとする次世代型自動車の普及がどれほど進んでいるのか、世界各国の状況と日本の現状を比較しながら見ていきましょう。

2020年に販売された新車中〇台に1台はEV!

新型コロナの感染拡大の影響で世界中の自動車業界が大打撃を受けている中、EVの売れ行きだけは堅調な伸びを見せており、国際エネルギー機関(IEA)が発表した報告書によると、2020年に登録されたEV台数は、世界全体で約300万台に達したそうです。これは、前年比41%増もの伸び率で、20年の中・米・日・欧州主要18ヶ国の新車販売台数(欧州は乗用車のみ)が約5,517万台(前年比11,5%減)ですから、同年販売された新車のうち「約18,4台に1台」はEVだったということになります。

しかし、日本国内でEVをどれだけ見かける機会があるでしょうか。実のところ、EVの普及状況には地域差があり、今や世界最大の「EV先進国」となっている中国の、EVを含む新エネルギー車の販売台数(2020年)は、136万7,000台とブッチギリの世界1位。さらに、環境問題に関心が深いノルウェーでは、20年度に販売された新車6割近くがEVとなっている半面、日本で現在唯一の市販EVである「日産リーフ」の20年度販売台数は、1万1,286台にすぎず、先進国の中でとしては最もEV普及が進んでいない国になっているのです。

巨大自動車メーカーを抱える米国や、独・仏・伊などの欧州各国も中国やノルウェーに追いつけ追い越せと、国を挙げて販売台数や普及率を伸ばしていますが、日本はやや、周回遅れになりつつあります。一方、自動運転に関してはどの国も地域も横並びで、システムが運転タスクを制御するもドライバーの同乗が必要なレベル3と、ドライバーレスを可能とするレベル4の間で、各メーカーのせめぎあいの状態が長く続いています。

EVは「蓄電池」、自動運転は「法改正」が普及のカギ

前述したように、EV普及において日本は世界からやや取り残されつつありますが、EVの中核を担う「ある技術」の開発競争に勝利すれば、状況を一気に逆転することも可能です。

EVが今以上に普及するためには、ガソリン車を凌ぐ航続可能距離の確保が必要ですが、現在販売されているEVの動力源である蓄電池は、ノートパソコンやスマホなどにも使われているのと同じ、リチウムイオン電池です。リチウムイオン電池には、電極としてリチウム含有金属酸化物・グラファイトなどの炭素材、電解質として有機電解液が用いられており、従来の鉛蓄電池に比べ得られる電圧が大きいほか、充放電を繰り返しても劣化しにくく、丈夫で長持ちなのがメリット。

しかし、容量を増やそうとすると巨大化し、それに応じてコストがかさむだけではなく、熱に弱く発火の危険性もあるため、EVの蓄電池として航続可能距離を伸ばすにはどうしても限界があります。そんな中開発が進んでいるのが全固体電池と呼ばれる蓄電池です。名前の通り電解質に液体を用いないため、温度変化に強く安全性が高い、生産性が高い(容量あたりの生産コストが安い)、設計自由度が高いといったメリットから、リチウムイオン電池に変わる動力源として各分野での実用化が模索されています。

まさしくEVのためにあるとさえ言えるこの全固体電池開発において、世界をリードしているのが日本です。車用バッテリーの最大手である「GSユアサ」は、2021年6月に大容量高出力に向いた「硫化物」系の全固体電池の開発に成功したと発表しました。 同社は現在、HV向けリチウムイオン電池を中心に生産していますが、23年度以降にEV向け全固体電池の開発を加速する方針を示しています。

このようにGSユアサに限らず、国内外のメーカーによって全固体電池の開発競争が激化し、実用化される日も近づいている一方で、自動運転レベル4つまりドライバーレスを認める法改正の動きは前に進んでいません。最大のネックは安全性で、世界各地で盛んにレベル4の実証実験が繰り返されある程度の実績・成果は上がっていますが、2021年4月米国テキサス州で起きた、テスラ自動運転システム搭載車による死亡事故などの影響が大きいと言えるでしょう。

もちろん、自動運転車でなくとも事故は起きてしまうものですが、ドライバーレスの場合事故責任の所在がどこにあるのか、人的・物的損害の補償をどこがするのかなど、法律や損害補償面での着地点が全く見えてきません。蓄電池やAI・CPUなど、技術面での課題が克服されるのはそう遠くないでしょうが、法改正や保証体制の整備が進まない限りEVはともかく、レベル4相当の自動運転車が爆発的に普及することはないでしょう。

脱ガソリンを果たせばカーボンニュートラルは実現する?

地域差があるとはいえ各国の企業がこぞってEVを開発・販売し普及が進んできた理由は、それが地球環境を守るカーボンニュートラル実現への近道だと考えたからにほかなりません。各国が打ち出しているように、近い将来ガソリン車の新車販売が禁止され、世の中を走る車の多くがEVに置き換わった場合、車から排出されるCO²は飛躍的に減少するでしょう。

しかし、車からは排出されなくなりますが、EVが動力とする電気を発電する際、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料を燃やすため、発電所からは膨大な量のCO²が大気中にばらまかれます。つまり、ガソリン車からEVへの転換とともに、いまだ化石燃料に頼っている発電システムを、風力・水力・太陽光などの再生可能エネルギーへ転換しない限り、CO²排出は止まることがないのです。

ただ、世界が目指しているカーボンニュートラルとは、なにもCO2排出をゼロにしようというのではなく、排出圧や熱を再利用し新たなエネルギーを生み出すことによって、CO²の排出量と吸収量のバランスが優れた状態を築こうとする取り組みです。つまり、ガソリン車からEVへの移行は、カーボンニュートラル実現に向けた第一歩にすぎず、決してゴールではないのです。

国産車メーカーが再び覇権を握るためやるべきこと

カーボンニュートラル実現のため、EVの普及と同時進行で発電を始めとしたエネルギーへのシフトが必要だと述べましたが、その分野でも日本は世界標準から大きく立ち遅れています。

日本の化石燃料による火力発電の年間発電電力量の割合は約75%、自然エネルギーの割合は20%程度にすぎず、年々上昇傾向にあるものの4割を超える国が多い欧州と比べ、まだまだ低い水準にとどまっています。これは日本に化石燃料が乏しく、輸入に頼り続けてきたことも大きな原因と言えますが、持たざる国だからこそ知恵を振り絞り、世界の先頭に立って再生可能エネルギーへの転換を推し進めるべきでしょう。

また、トヨタプリウス始め、HV市場では世界を席巻した国内自動車メーカーですが、EV市場ではテスラやVW・ボルボを始めとする欧州メーカーに押され気味、持ち味であるコスパの良さでも、100万円台中盤のEVをリリースする中国メーカーの後塵を拝しています。しかし、キーテクノロジーとなり得る全固体電池の分野で世界をリードしているのは、紹介したGSユアサはじめ村田製作所やTDKなどといった日本企業ですし、自動運転の肝である通信技術の分野でも、優秀な国内サプライヤー・半導体メーカーが多く存在します。

従来の縦割り型から脱却し、彼らと密接に連携しながら開発を進めれば、EV・自動運転車市場でも国内企業が天下を獲れるかもしれません。

自動車業界の未来は

自動車は商品としても道具としても、世界経済にとって欠かすことのできない存在であり、EVや自動運転車に姿を変えたとしても、その地位は揺らぐどころかより一層高まっていくでしょう。しかし、次世代型自動車の普及に伴い、トヨタ・ルノー・BM・メルセデスなど、少数の巨大資本による旧来の寡占状態は終わりをつげ、多数の蓄電池や半導体メーカーが乱立し強い影響力を持つ、競争の激しい戦国時代へ突入するでしょう。

大量生産・大量消費を支えてきたトップダウン方式は古くなりつつあり、これまでのように「自動車本体メーカーの方針が絶対!」ではなく、協業や共創によってスピードのある開発と新たな価値の創出が実現できます。既存の自動車関連企業が生き残っていくには大変な時代になりますが、寡占市場が開放され競争が激しくなれば、市場原理によって次世代型自動車の質は向上しつつ、低価格になるため、ユーザーにとってはありがたい未来がやってくるかもしれません。