カーシェアとライドシェアの登場
自動車を個人所有せず、事業者を通してシェアするカーシェアリングは1980年代から欧州で始まり、その後米国にも広がりました。
米国では都市部の大学や地下鉄駅周辺などを「交通の基点」として、活動拠点や交通の要所から目的地までの移動手段として定着しています。シェアされる車両は、事業者が保有する場合と個人が保有する場合のいずれもありますが、貸し出す人と借りる人、双方の利用者を繋ぐ事業者がその手数料で利益を得る形です。
また、日本ではタクシー業界からの反発もあり現在は一部地域に限られていますが、個人がタクシーと同じように乗客を取り仲介事業者を通して運賃を受け取る「ライドシェア」または「配車サービス」といわれるサービスが、海外では急速に普及しています。UBERやLyftはその代表例ですが、そもそもは空いた時間に自分がもっている車を使用してタクシーサービスを行うということから「ライドシェア」という名前で呼ばれていますが、実際はそれを本業とするドライバーも多いため、シェアというよりは個人タクシーと呼んだ方がしっくりくる気がします。
そういった流れを受け、最近では自動車メーカー側でもカーシェアリング事業者との結びつきを深め、いかに多くのカーシェア事業者への販路を確保するかが課題になってきました。今後ますます個人や法人が車を「保有」しなくなっていったとしても、車自体を利用しなくなることは考えにくいわけです。ただ、新車販売台数を今後も右肩上がりで伸ばしていくことが業界全体として困難そうだという未来が見えている中で、各メーカーはこういった車をサービス化して提供している事業者に対して車を販売していくことで、結果として販売台数をなんとかキープしていこうと努めているようです。
たとえばトヨタはUBERに出資し配車や自動車リースの面で戦略提携を結んでいますが、この波は今後も広がっていくのではないでしょうか。
法人だけでなく、個人でも利用が増えるカーリース
車の利用方法として注目を集めるのはライドシェアやカーシェアだけではありません。カーリースもそのひとつです。
現在の米国では新車をリース購入したユーザーがリース期間終了とともに車を手放す、あるいは別な車のリースに切り替えることで、程度の良い高年式中古車が中古車市場に溢れることになりました。これにより新車で無くとも構わないユーザーにとっては新しい車を安く買えるチャンスが増大したため、新車の需要が過去にないくらい減少する可能性が出ています。
日経ビジネスでも紹介されていましたが、2016年における新車販売のリース比率は32%にも達しており、同時にリース落ち車両は2015年の250万台から2018年には400万台に達する見通しだそうです。そのためアメリカでの個人向け新車販売は、カーシェアリングとカーリースの増大というダブルパンチによって、大変な危機に見舞われています。
日本でも「残価設定型自動車ローン」が一般的に広く利用されるようになり似たような傾向が出てきているかと思います。こちらのローンの仕組みの詳細は、以前のエントリー「残価設定型自動車ローンとは? 元自動車営業が徹底解説!」も参考にしてみてください。
日本でも「公共交通の補完」として期待されるカーシェア
日本でも従来からレンタカーは広く普及していました。ただ車種も豊富で長時間の利用に適したレンタカーより、車種は限られてもより身近で短時間の利用に適したサービスがあれば、より使いやすくなります。
自家用車とレンタカーの中間にあって、所有していなくとも自家用車のような感覚で使えるのがカーシェアの特徴です。
少し古い資料ではありますが、国土交通白書2013を見ても2010年代に入ってからカーシェアが急速に普及していることがわかります。
※カーシェアに関しては、少し前の記事になってしまいますが「車を持つのはもう古い!? 簡単・手軽な「カーシェア」の時代」でもその仕組みと主要サービスをご紹介しています。
タイムズカープラスの実証実験
現在日本でもっとも盛んにカーシェアリング事業を行っている事業者のひとつが、全国でコインパーキングを展開しているパーク24株式会社です。
同社の展開している「タイムズカープラス」は、駐車場に止めてあるカーシェア用車両をユーザーが必要なだけ利用して返せるという意味で、実質的には同社の駐車場をステーションとしたレンタカー事業ともいえます。
ステーション数の多さから利便性はレンタカーより高いとはいえ、基本的には借りたところに返さなくてはいけません。
そこで同社では、国土交通省とも提携した超小型モビリティ実証実験「Times Car PLUS × Ha:mo」を実施しており、東京都内約100カ所に存在するステーション間であれば、そこに乗り捨てて近くの目的地に向かうことが可能です。
これは公共交通機関の延長、あるいはその間の接続(モーダルコネクト)を目的としたもので、最低限の投資で公共交通機関を延長する役割が期待されています。
ただし、ステーションの多くは1~4台程度のスペースしか無いため、出発地はともかく目的地のステーションに多くの乗り捨て需要があっても、それに応えられないのが課題です。
また、使用されているトヨタのコムス、i-ROADはいずれも1名乗車のみ可能なミニカー登録車両のため、例えば子供連れなど運転免許を持たない同伴者がいる場合は利用できません。必要なスペースの割に利用できる人数が限られるという問題もあるので、その解決のためには、2名乗車(または大人1名+子供2名)が可能な超小型モビリティ、または軽自動車の配備が求められます。
自動車メーカーに起こる変化
車の所有・利用方法に対する考え方が変わっていく中で、自動車メーカーが車づくりの主導権を握りながら生き残りをかける手段が「自らがカーシェアの胴元になること」です。
ひとつの例をあげると、トヨタが「ブロックチェーン技術」の研究開発に非常に力を入れていることでしょう。自動運転車の開発だけでなく、カーシェアやカーリース、そして自動車保険の領域において、ブロックチェーンが活用できるのではと見込まれています。
カーシェア事業者を介さず、あるいは傘下に置いて、個人間カーシェアやライドシェアの信頼性をメーカーが担保し、販売した車を多くのユーザーがシェアしていく仕組みを作れば、新車販売で減少する利益を補うこともできます。すべてを自社でやらず、その領域で活躍するスタートアップへ投資をしたり、提携もしくは子会社化も考えられるでしょう。
トヨタに限らずホンダ、フォルクスワーゲングループなど自らカーシェア事業に乗り出している事例もあり、自動車メーカーの今後の動きからは目が離せません。
終わりに
すでに欧州や米国で問題化し始めている現象は日本でも無縁ではなく、自動車は「保有」は「シェア(共用)」へと徐々にその進路を変えていっているように見えます。
その流れにに応じるように国内でもライドシェアやカーシェアサービスに参入する企業が増えていますが、これからますます自動運転技術が発達し一般道に出てくるという状況を考えると、「必要な時に必要な時間だけ」という利用方法(保有はしない)への時流はさらに強くなっていくように思われます。この先5-10年のタイムラインでは、世界中における車の使われ方や総数がこれまでになかったような変化を見せていく可能性もあるのではないでしょうか。