前編:BCG Digital Venturesが語る、大企業が新規事業を成功させる方法

前編:BCG Digital Venturesが語る、大企業が新規事業を成功させる方法

BCGDVで、東京センターのエンジニアチームを統括している山家 匠(やんべ・たくみ)へのインタビュー記事、前編です。

元垣内:「まずは山家さんのご経歴とBCGデジタルベンチャーズ(以下BCGDV)についてご説明いただけますか。」

山家:「BCGDVで、東京センターのエンジニアチームを統括している山家 匠(やんべ・たくみ)です。BCGDVの東京拠点は2016年4月に立ち上がりましたが、私は同年に入社しましたので、初期の頃のメンバーでもあります。

現職につくまでの過去の経歴についても少し触れておきます。1社目は、証券会社のシステムをつくるシステムインテグレーターで、おもに基幹系システムの設計・開発やシステムアーキテクチャの設計をしていました。それから2008年後半、社員数がまだ80人程度だった上場前のGREEに転職。そこではSNSの基盤やプラットフォームに関する業務に従事していました。2011年にサンフランシスコに渡り、GREE Internationalの立ち上げに参画、帰国後はゲーム部門と基盤開発部を見てきました。

2014年にAppirioへ移り、Topcoderというソフトウェア開発のクラウドソーシングを行うビジネスを担当。その後、BCGDVへ転職、今に至ります。

BCGDVは、一言でいうと、新規事業を大企業と創造する組織です。ボストンコンサルティンググループ(以下BCG)という言葉上、どうしてもコンサルティングのイメージが強くなりますし、そこへさらにデジタルという言葉がつくので、BCGの戦略を実装する組織だと思われがちです。実際は、大企業と一緒に新規事業を立ち上げ、それを成長させるまでが私たちの仕事であり、BCGとは大きく異なります。

典型的なパターンの一つは、大企業と新規事業を一緒に立ち上げて、その新規事業を運営する会社も作ってしまうこと。運営会社を立ち上げたら、お金と人員をお互いに出し合い、独立した会社として運営していきます。」

元垣内:「ありがとうございます。これまでに大企業と組んで新しく立ち上げた事業はどのくらいあるのでしょうか。」

山家:「グローバルでの実績をお伝えしますね。ロサンゼルス、ニューヨーク、シアトル、ロンドン、ベルリン、シドニー、上海、東京、全拠点を合わせて今まで作ってきた新規事業は80後半ぐらいですね。」

元垣内:「ほとんどがグローバルリーディングカンパニーとのソリューション事業というイメージでしょうか。」

山家:「そうですね。BCGDVが得意とするところは新規事業の立ち上げですので、そこに大企業が持っているアセットを掛け合わせるイメージです。

アセットとひとくくりにしていますが、技術的なものだったり、ある国やあるエリアでビジネスを展開した経験だったり、企業によって本当に幅広いものです。それらを持ち寄っていただき、新規事業を作っていきます。ですので、スタートアップがゼロから事業を立ち上げるのとは少し基準が違うかもしれませんね。」

元垣内:「グローバルで、尚且つビジネス誌・FORTUNEに定常的に載るような大企業と新規事業の立ち上げができるのは、BCGならではですよね。」

山家:「たしかに、関係性も何もない状態からいきなり、『一緒にやりましょうよ』と声をかけるのは、なかなかハードルが高いことです。おっしゃる通り、BCGとしてのリレーションがあるからこそできる、というのはあるかもしれません。」

大企業ならではの新規事業を立ち上げる際の困難とは

元垣内:「大企業が新規事業を立ち上げる際に困難に思っていることはなんでしょうか。」

山家:「いくつかあると思いますが、一つは、デジタルの新規事業立ち上げの経験がなく、まずは何をどうすべきか、手順や手段がわからないことです。また、社内の制度や仕事の進め方が既存の事業向けになっているので、新規事業開発ではでミスマッチを起こしてしまうケースも考えられます。

実際に、BCGDVでプロジェクトを行うときには、今までの仕事の仕方や既存の考え方に縛られないように、ご担当者様に弊社のオフィスに来て常駐してもらうようにしているんです。それほど、既存の強い主力事業がある中で新規事業を起こすのは、非常に難しいということです。」

元垣内:「なるほど。大手企業には大手企業の、ベンチャーにはない課題があるのですね。」

山家:「立ち上げから運営までのスピード感は、スタートアップやベンチャー、そして大企業、それぞれで違いますが、新規事業の立ち上げはスピード感が大事です。

私たちならではの強みは、スタートアップやベンチャーを実際に経験してきた人、実際に自分で会社を運営していた人、大企業と一緒に仕事をしたことがある人が弊社内にバランスよく揃っていて、どちらのコンテクストも分かるところです。つまり、大企業のコンテクストを理解しつつも、スタートアップで成功するためにはこういう進め方で、こんなスピード感で進めていくべきだという、掛け合わせた時の全体感を把握できるメンバーがたくさんいる。それが一番の強みですね。」

元垣内:「今まで80以上のプロダクトやサービスを立ち上げられたという実績がそれを証明していますよね。グローバルでさまざまな成果やノウハウが蓄積されていると思いますが、グループ内で成果の共有はされているのでしょうか。」

山家:「守秘義務もありますので、個別プロジェクトの詳細については知ることができませんが、成功事例から得たフィードバックやそこで適用したメソドロジー(能力を伝授するために体系づけた方法論)を反映して、今後のプロジェクトの進め方を改善していくことはあります。」

元垣内:「それは、BCGならではのメソドロジーでしょうか。」

山家:「BCGDV独自のメソドロジーとして集積しています。BCGは戦略コンサルティングが専門ですのでカバーする範囲が非常に広いのですが、私たちは新規事業に特化しているので、視点や進め方が異なります。」

MaaSの取り組み事例

元垣内:「ここからは事例の中でもMaaSに関するものをいくつかお伺いできればと思います。」

山家:「事例を2つ、紹介させてください。まずは、Boschと組んだプロジェクトで、『COUP』という電動スクーターのシェアリングサービスです。ベルリンから始まり、今はパリとマドリードまで広がっています。BoschはB to B向けに自動車部品や電動工具を提供しているメーカーですが、カスタマーと直接コンタクトできるサービスを提供したい、そしてシェアリングという新しいビジネスにも参入したいという希望があり、このプロジェクトが始動しました。

Boschが持っていたアイデアをもとに、BCGDVが実際のビジネスコンセプトを作り、検証を重ねたうえでリリースしました。」

元垣内:「最近でこそ、MaaSやシェアリングという言葉が浸透してきましたが、『COUP』のローンチは3、4年前ほど前のことですよね。」

山家:「取り組み始めたのは2015年ごろで、サービスが始まったのは2016年8月からです。当時としては先進的なサービスという印象でしたね。」

山家:「スクーターの用意はBoschがパートナーシップを組んでいる台湾のGogoro(ゴゴロ)と進め、私たちはサービスのアプリや電動スクーターからデータを取得してサービスに反映させるところ(例:スクーターの現在地把握など)を開発しました。」

元垣内:「ゴゴロって、バッテリーも取り外せるバイクですよね。」

山家:「それが重要なポイントです。サービスとして長く続けていくためには、バッテリーの交換は避けられません。」

元垣内:「ユーザー側はバイクの現在地やバッテリー残量がわかることで、使いたい時に行きたいところまで行けるかどうかの情報が可視化される。オペレーション側もバイクの稼働状況などがわかることでサービス全体の効率化を考えることができる。どちらにとっても使い勝手が良く、利便性の高いサービスですね。」

山家:「もう一つが、Shellと組んで立ち上げた『FarePilot』というプロフェッショナルドライバー向けのサービスです。これはUberやLyft、一般のタクシードライバーにとってホットスポット、つまりお客さんが拾いやすいスポットが分かるアプリ。どのドライバーも、ただフラフラしているだけだとガソリンを消費するだけですので、無駄なくお客さんが近くにいるところへ行けた方が有利ですよね。このアプリは、時系列のデータとライブデータを分析して、ホットスポットをドライバーに教えたり、近くで行われているイベント終了時刻を知らせたりすることができるのです。モニターは非常にシンプルなデザインで直感的に使えるようにしました。」

元垣内:「このサービスに対するShellの狙いはなんだったのでしょうか。」

山家:「プロフェッショナルドライバーへの直接的なアクセスと、lower carbon technologyというコンテキストでサービスを展開することです。後者について簡単に説明すると、移動距離が少ないほうが二酸化炭素の排出量が減るという発想からです。」

元垣内:「なるほど。同じ距離を走るのであれば、お客さんを効率的に乗せて生産性を上げましょうということですね。こちらのサービスはローンチまでにどれほど時間がかかりましたか。」

山家:「私たちは基本的にサービスのローンチまでは、年単位でなく、3カ月〜6カ月ぐらいのスピード感でリリースすることを心がけています。一般的な業務系システムの開発だと1年や2年はかかるかもしれませんが、私たちの提供するサービスの場合、そんなに時間をかけるよりもユーザーに早くあてたほうが良いのです。」

元垣内:「スマートドライブのように完全なるスタートアップでさえも、3カ月や半年でリリースというのはかなり刺激的なスピード感です。」

山家:「ただ、この期間内でリリースするのは完全版ではなく、機能を絞った状態のもの。そこから徐々に改善を重ね、理想形に近づけていくようにしています。」

グローバルな大企業が取り組む新規事業の取り組みをしっかりとサポートするBCGDV、後編ではさらに踏み込んで「データの活用」にフォーカスして紹介していきます。

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