三菱電機が新たに販売する高級車載スピーカー
三菱電機は、DIATONEシリーズに新しく加わる「DS-SA1000」という商品を2016年11月上旬に発売します。DS-SA1000は「高級車載スピーカー」として売り出されるため、大衆に受け入れられるような価格設定ではなく、発売後のフルセットは67万円以上となります。
車載スピーカーの中では高価な部類に入りますが、その価格に見合うだけの性能は十分満たしており、DIATONEブランドの70周年を祝うに相応しい商品として、一部のユーザーに注目されつつあります。特に話題なのが振動板の開発技術です。
DIATONEブランドで培った技術をフル活用したスピーカー
スピーカーの振動板に用いられる素材はダイヤモンド、ベリリウム、ボロンなどがありますが、どれも加工が難しく希少品のため、大量に生産できない難点があります。
DIATONEブランドはB4Cプレミアムボロンという素材を「新常圧セラミック製法」で加工し、トゥイーター振動板(高音用スピーカー用)として組み込むことに成功。この技術力の進化により、原音に限りなく近い高音領域を車内で再現できます。
また、中・低音域のスピーカーではNCV-Rという素材を採用。NCVはカーボンナノチューブと数種類の樹脂との配合により完成した素材であり、従来の常識を覆すほどの性能を発揮しています。響き渡る振動音は微細な音域も正確に拾い上げるため、最適な音響効果を車内で体感することが可能です。
このように、DIATONEブランドの技術力をフルに活用したスピーカーのため、音質にこだわる人にとっては購入をためらわない一品となりそうです。スピーカーの世界は奥が深く、高価なものだと一台で300~1,000万円ほどになるため、70万円前後の価格帯であれば「必ず買う!」という人も少なからず存在するはずです。
高級車載スピーカーを販売する三菱電機の狙いとは?
三菱電機がこうした高級車載スピーカーを販売する背景は、DIATONEブランドが70周年を迎えたという時期も関係しますが、他にも「ユーザーのカーライフを充実させたい」という意図が込められています。
車内で高クオリティな音響体験を味わうことで、ドライブを心から楽しむユーザーが増えてくれることを願っているようです。
近年では個人の趣味が多様化し、どの商品がヒットするのか分からない状態となっています。念入りなリサーチや市場の分析を行ったとしても、売り上げを伸ばす保証は何処にも存在しません。ただハッキリと誇れるのは、各メーカーが積み上げてきた技術力と良質な商品力です。
三菱電機は培った技術力を最大限に活用して、このDS-SA1000を誕生させました。その機能性が世のユーザーに認められれば、自然に売り上げは伸びると予測したのかもしれませんが、その背景にはこれまでとはまた違った車の楽しみ方・用途を考えているのではないでしょうか。
快適な車内空間におけるインフォテインメントの活用法
それがいわゆるインフォテインメントと呼ばれる分野です。
インフォテインメントは、インフォメーション(情報)とエンターテインメント(娯楽)を組み合わせた言葉です。車載インフォテインメントのような表現をされることもあります。
車載システムで真っ先に思い浮かぶのが「カーナビゲーションシステム」などのデバイス商品。近年のカーナビはただ道案内をするだけでなく、スマホのような役割を持つ機種も存在し、情報を引き出すツールとして活用されています。
この「スマホのような役割」や「情報を引き出すツール」などの内容が、インフォテインメントにとって重要な要素となります。
コンサートホール並みの音を再現する最新のカーナビ事情
最近のカーナビではハイレゾ音源対応の商品も増加している傾向にあります。「ハイレゾ」とは高解像度という意味が含まれ、音の情報量がCDなどと比較し6.5倍ほど再現することが可能です。
つまりCDでは聞こえない繊細な音や奥行きなどを、ハイレゾ音源では体感することができます。
音楽ファイルで主流な形式である「MP3」は、音源を圧縮した状態で保存するため、データ量は少ないというメリットがありますが、自然と音質は落ちてしまいます。一方でハイレゾ音源では忠実な原音の再現が可能ですが、およそ5分の楽曲でも150~200MBほどになり、一枚のアルバムで2GBを超えることも普通です。どちらにもメリット・デメリットがあるため、音質にこだわらず音楽を楽しみたい方はCDやMP3の音源を活用し、高級スピーカーで音楽を堪能したい方はハイレゾ音源を用いることが妥当となります。
以上の内容から、車内で究極の音響空間を実現するには、音楽再生デバイスであるカーナビをハイレゾ音源対応にし、DS-SA1000のような高性能スピーカーを搭載すれば達成可能となるはずです。出費は増しますが、趣味をトコトン突き詰めたい方には価値のある投資となるかもしれません。
クルマを走る映画館にする方法
ネットでは動画配信サイトが熾烈なシェア争いを繰り広げています。Hulu、Netflix、Amazonプライムビデオ、dTV、U-NEXTなどの定額サービスは、いずれも有名な映画やドラマを大量にストックし、毎月メニューを変えながら配信を行っています。
ネット配信なので、DVDやBlu-rayを再生する機器は必要ありません。お手持ちのスマホやタブレットなどで気軽に視聴することができるため、今後も更に視聴ユーザーを獲得するはずです。
クルマを「走る映画館」にするためには、巨大な画面サイズのデバイスが必要となります。とはいえ、少なくとも現状では車内に40インチを超えるディスプレイを配置するのは困難なため、9~12インチほどのタブレット製品を使用し、手に取って映画を鑑賞することが適切な環境となります。
一部の動画配信サイトではBlu-ray音質を提供しているところもあるため、クルマに搭載するスピーカーが高性能であれば、ド迫力の音響空間で映画の鑑賞が可能となるはずです。
現在はドライバーが画面を見ながら運転することは禁止されていますが、将来自動運転技術が進化すれば、家族全員で映画を見ながら旅行を楽しむこともできるはずです。
また「HUD(ヘッドアップディスプレイ)」という、ガラスに映像を投影する商品開発も進められているため、将来的にはクルマのフロントガラス全体に映画を映してドライブする日がやって来るかもしれません。
VR製品とクルマ業界はとても相性が良いことで有名
SONYの「PlayStation VR」が2016年10月に発売しましたが、ゲーム業界ばかりに注目が集まっているため、クルマ業界とは無縁のように思えます。しかしVR製品の技術は、今後の自動車メーカーを占う存在として重要な役割を果たすかもしれません。
VRとはその名の通り「バーチャルリアリティ」の略称で、仮想空間を視界上に再現して3Dゲームを360度方向で楽しむことができるデバイスのことです。
近年の3Dゲームはグラフィック性能の進化に伴い、現実に近い景観を画面上で再現しています。人間の動きや表情などはまだ不自然な部分もありますが、無機質な金属物や建物などは実写と見間違うほどの表現力に達しています。
そしてクルマも無機質な物体であるため、CG(コンピューターグラフィック)で再現することは最も得意とされています。実際にドイツの自動車メーカーであるアウディでは、VR製品による試乗会を開催。
デモではクルマの外観デザインを眺めてみたり、内装の状態を確認することも可能なため、その場に商品が無くてもある程度の予備知識を得ることができます。まだ始まったばかりの製品アピールのため、視聴したユーザーも半信半疑といった様子ですが、技術が進化すれば将来は自宅で商品を確認することも可能かもしれません。
またVR製品に代表されるHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の技術は、頭に装着するという利点から様々なシーンで活用することができます。検索サイトで有名なGoogleでは、以前「Google Glass」というウェアラブルコンピューターの開発が進められていました。
この製品は眼鏡に画像を映し出す技術により、スマホのように手に持たずに、歩きながらネットの情報を引き出すデバイスとして世間を騒がせます。
残念ながら様々な規制によりGoogle Glassの販売は見送られましたが、こちらの製品はナビゲーション機能に優れていたため、クルマのシステムと親和性がとても高いと期待されていました。
現在でも頭に装着するタイプのデバイスは、クルマと最も相性の良い製品として認識されており、VR製品もその一つに挙げられています。自動運転技術の発達により、外部からクルマの操作が可能となれば、VR製品を使って家の中からドライブを楽しむことも将来はできるかもしれません。
未来のインフォテインメントはどう進化する?
現在のインフォテインメントは、既存のテクノロジーをそのままクルマの中で応用しているに過ぎません。
既存のテクノロジーとはナビゲーション、音声通信、インターネット、音楽、動画、メール、SNSなどを指し、自宅のパソコンを開けばどれも利用できるものばかり。今後はクルマ独自のデバイスなり商品が登場することに期待が掛かっています。
世界のIT企業では「クルマは走るコンピューター」という認識を強め、オリジナル製品の開発に力を注いでいます。中にはクルマそのものを開発するメーカーまで存在し、自動車業界もここ数年でどのように変化するか予測できない状態です。
この変革の時代の中で「インフォテインメント」の分野はより存在感を増しつつあり、魅力的な商品を生み出すチャンスとして技術者の注目を集めています。
今後もIT、家電、音楽、映像、ゲームなどの様々な業界が交わりながら、クルマの開発が進められると考えられます。今までは一つ一つの業界の間に見えない壁のようなものが存在していましたが、インターネットがグローバル化を推し進めたように、その壁も薄らぐ傾向にあります。
見方を変えれば壁など築いている場合ではなく、どの業界も力を合わせて世界の市場に立ち向かわなければ、更なる成長は見込めないかもしれません。
インフォテインメントは情報と娯楽が融合した言葉ですが、この二つの言葉が未来の市場を支える最大のキーワードとなるはずです。
すでに変革は始まっていますが、各メーカーが既存のテクノロジーを更に進化させるか、それとも新しい商品を生み出すかの選択に迫られています。その中で情報と娯楽の強みを活かす製品を開発することは、今後更に重要となってくるかもしれません。
冒頭で紹介した三菱電機の車載スピーカーのように「クルマ離れ」に待った掛け、ドライブの新しい楽しみ方を模索する企業がこれから増えると考えられます。
いずれにせよ、ここ数年で自動車業界は最も大きな変革期を迎えるはずです。その変化の中で何が強みとなるのか冷静に見極められる企業が、世間を「アッ」と驚かせる商品を開発するのかもしれません。