CarPlayの始まりはWWDC2012の「Eyes Free」から
Appleが初めてCarPlayを発表したのは、WWDC2012。当時アメリカでは運転中のスマートフォン操作による事故が多発し、社会的な問題になっていました。
その問題に対応するべくAppleが発表したのが「Eyes Free」というコンセプトで、自動車に備え付けた専用のボタンによってSiriを呼び出すことを可能にする物です。
この時点では、自動車メーカー9社がパートナーとして発表されましたが、実際に「Eyes Free」を搭載した自動車はほんの数車種登場したのみでした。
その後、WWDC2013でAppleは「iOS in the Car」を発表し、パートナーも12社に増加。しかしiPhoneのiOS側(iOS7)のiOS in the Carへの対応が遅れ、実際にiOSが対応したのは2014年の3月に正式に発表された「CarPlay」に対応したiOS7.1まで待たなければなりませんでした。
CarPlay発表当初のパートナーはフェラーリ、メルセデス・ベンツ、ボルボの3社でしたが、世界初のCarPlay登載の車両がフェラーリFFだったというのが、いかにもAppleらしいやり方だと思います。
CarPlay採用車は、当初はハイエンドなモデル中心で、2015年後半発売の2016年モデルから増加し始め、2017年モデルでは、エントリーモデルを含む多くの車種が対応を表明しています。国内メーカーでは、2015年発売のスズキ・イグニスが、CarPlayに対応しています。
Appleに対抗? Googleが開発するAndroid Auto
Android Autoが発表されたのは2014年6月26日のGoogle I/O(Googleの開発者向けイベント)。そこから実際にAndroid Autoのアプリの配布が始まったのは2015年3月からで、Android5.0(Lollipop)以降に対応しています。
Android Autoは実質的には、AppleのCarPlayとは実質1年遅れての利用開始となりました。
Googleは2014年に自動車メーカー4社(Audi、GM、ホンダ、現代自動車)とともに、OAA(Open Automotive Alliance)を結成していたこともあり、Android Autoが初めて採用された車は、韓国メーカーのヒュンダイ(現代自動車)・ソナタです。
日本で提供が開始されたのは、更に1年経過した2016年7月13日から。採用メーカーは国内自動車メーカーでは、ホンダ、ニッサンで、国内の車載器メーカーではパナソニック、輸入メーカーではAudi、フォルクスワーゲン、マセラッティとなっています。
CarPlay や Android Autoで何ができるの?
CarPlayもAndroid Autoも、スマートフォンのアプリを自動車に備え付けられたインフォテイメント装置(ナビゲーションやオーディオ操作のためのモニターディスプレイ)を通じて、もしくは音声コントロールによって操作することが主目的となります。
CarPlayとAndroid Autoで利用可能な機能について簡単にご説明します。
音声認識機能
音声認識によるアプリの起動、メールやリマインダーの読み上げ、目的地の設定や音楽の再生コントロールは、CarPlayもAndroid Autoも同程度の性能を持っています。
音楽再生
音楽再生は、スマートフォンのローカルに保存されている音楽の再生のほか、アプリの対応によって、インターネットからのストリーミング再生にも対応しています。
CarPlayがローカルに保存されている全ての音楽をCarPlay上から検索できるのに対して、Android Autoは運転中の安全に配慮してか、プレイリストやキューリストからのみ再生可能という違いがあります。
電話機能
電話やボイスメール(留守番電話再生機能)は両者で利用可能です。
ナビゲーション
CarPlayはAppleのMapアプリによるナビゲーションが利用可能で、Android Autoは、Google Mapを利用したナビゲーションを利用することができます。
両者ともに日本国内で利用されているVICSを利用した渋滞情報を使ったルート設定には対応していません。ただし、Android AutoのGoogle MapはGoogle独自のユーザー情報を利用した渋滞情報を取得可能です。
アプリ
CarPlayもAndroid Autoも対応したアプリをダウンロードして実行が可能です。
このように、CarPlayとAndroid Autoの基本機能については、現状ではあまり差がないということがわかります。
CarPlayとAndroid Autoのハードウェア面の違い
CarPlayとAndroid Autoでは、基本的な機能に差が少ないというのは説明したとおりです。しかし、自動車との接続の考え方やハードウェアのアーキテクチャについては少なからず違いが見られます。
車両との接続方法
CarPlayもAndroid Autoも基本は車両のUSBとスマートフォンをケーブルで接続する方法が採用されています。
現在のところ、車両とスマートフォンをワイヤレスで接続できる車載器をもつメーカーはまだありませんが、iPhone自身はiOS8.3によってCarPlayで車両とiPhoneをワイヤレスで接続可能になっています。
Android AutoはUSBで接続する以外の方法は用意されていませんが、Android Auto側から車両のセンサー情報を取得できるようになっている点が、CarPlayと大きく異なります。
アーキテクチャ
Android Autoは、車両に接続されると全てのコントロールが車両側に移ります。また、ナビゲーションや、その他の機能は基本的にスマートフォンのハードウェアスペックに依存する設計になっています。そのため、スペックが貧弱なAndroidスマートフォンでAndroid Autoを使用した場合、処理が追いつかないことも考えられます。
それに対してCarPlayは処理の一部または全部を車載器が肩代わりしてくれるようで、CarPlayを利用しながらiPhoneのホームを呼び出して別の操作が可能です。
CarPlayとAndroid Autoのシェアは?
現状では、CarPlayとAndroid Autoに明確な差は見られません。
それは多くの自動車メーカーが、CarPlayとAndroid Autoの両方に対応していることからも明らかです。現状はどちらかを選ぶというより、ユーザーのためにどちらも利用できるようにしておく戦略をとるメーカーが多いということでしょう。
例えば、フォルクスワーゲン、アウディ、メルセデス・ベンツは両者に対応しています。ただし、ポルシェはCarPlayのみ対応となり、フォルクスワーゲン、アウディと同一グループでありながら、別の選択をするメーカーもあるようです。
トヨタはCarPlayとAndroid Autoのどちらにも対応せず、全く違った「UIEngine Link」という独自システムを採用すると表明しています。
その他、アメリカ最大の家電ショーであるCES2016(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)では後付けオーディオやカーナビメーカーである、Pioneer、KENWOOD、JVCがCarPlayとAndroid Autoの両者に対応することを表明し、パナソニックはハイエンドからミッドレンジにかけての後付カーナビでAndroid Autoの対応を表明しています。
CarPlayとAndroid Autoは、カーインフォテイメントの中心となるか
さまざまなメーカーがCarPlayとAndroid Autoに対応していますが、スマートフォンとの連携は自動車のインフォテイメント機器に置き換わる物となっていくのでしょうか。
残念ながら現在の状況を見る限り、今すぐに両者が自動車のインフォテイメント車載器に切り替わることはなさそうです。
というのも、CarPlayとAndroid Autoは自動車メーカーの作るインフォテイメントシステムと比較すると、まだまだ機能は簡素で劣る面が多い点や、自動車メーカーが工夫を凝らして設計したダイヤル型コントローラーやタッチパネルといったインターフェイス機器を利用できない制約があるのです。
反面、ルノー・トゥインゴのようにあえてインフォテイメントシステムを持たず、かわりにスマートフォンフォルダを設置することによって、ユーザーのスマートフォンをナビゲーションやオーディオインターフェイスの代わりとする設計になっている事例もあります。
このようなローエンドな車種にとっては、スマートフォン自体が車両のインフォテイメントシステムの代わりとして十分機能する場面もあるはずです。
CarPlayとAndroid Autoの先にあるもの
CarPlayやAndroid Autoが自動車の車載器の中心になるという時代は、もう少し先の時代のことかもしれません。しかし、両者の戦いは今後も続くものと思われます。
それは、AppleもGoogleもその先にある自動運転を見据えているからです。CarPlayやAndroid Autoをファーストステップとして、自動運転の技術を含めて自動車の車載器のOSを自社の物にリプレイスしていくことを狙うという大きな野望があります。
そのため、両者は今後も積極的に人材や資金を投入し、さらなる技術革新に励むのではないでしょうか。
CarPlayとAndroid Autoの対決が数年先にはどうなっているのか。そして今後の自動車業界が、この2社を始めとしたIT企業の参入によってどのような変化を遂げるのか、今から楽しみです。