ECの王・Amazonと配送問題
日本でもっとも、いや、世界でも認知度の高いECサイトAmazon。ニヒルな含み笑いを浮かべたロゴには余裕さえ垣間見える気がします。国内では2000年11月1日に日本語版のサイトがオープン。開設当初は書籍のみの取り扱いだったものの、現在では食品や家電、衣類など様々なものを取り扱っています。中にはグランドピアノや酸素カプセルといった高額商品も。
商品数もさることながら、一部の地域ではインターネット上で注文を受けた商品(対象商品であることが前提)を1時間以内に届けるというプライム・ナウというサービスも提供しています。多く顧客を囲い込み、より消費者の生活を便利にするためとはいえ、ここで負担が増えるのは配送業者。
荷物の増量に対しサービスの要求が高いことを理由に、2013年には佐川急便がAmazonとの取引から撤退。現在はヤマト運輸が配送を請け負っていますが、一日で一ルート当たり20~30個の荷物が増えたため、ドライバーへの負担は何倍にも膨れ上がっています。冒頭で述べたように、年末には追い打ちをかけるかのような荷物の量。この過酷な状況を知らず、当たり前のように翌日届くと思ってしまっている私たちは「なんで届かないんだ!」とイライラ。
当日の11時までに注文すればその日のうちに届く。それすらも常識を逸脱する早さだと思っていた数年前。
良くも悪くもAmazonの進化は今の私たちにとって「宅配」に対する常識を不可逆的に大きく変えてしまったのです。
そんなAmazonは米国内でも物流に対し動きを見せています。宅配を委託してきたユナイテッド・パーセル・サービスやフェデックスとの契約を解除し、配送ルートを最適化するために全米の40箇所に大規模な配送センターを整備し配送センター間の大規模貨物輸送の効率を高めるために、輸送機をレンタルすることで自前の航空会社の整備を開始。
2015年は一年間で115億ドル(約1兆1,500億円)もの費用を配送コストとして投入しましたが、宅配業務を自社で実施した場合、年間11億ドル(約1,100億円)のコスト削減が見込めると言います。
2013年、繁忙期であるクリスマスシーズンの配達の遅延が混乱したAmazon。それをきっかけに米国内での宅配業務を自社で実施することを検討しており、そのうち自社で全て完結できるよう、着々と仕組みを作り、土台を整えているのです。
Amazonが開発する、配送アプリとは
米Amazonは2017年の夏ごろに荷主と輸送トラックをマッチングさせる配車アプリのリリースを予定しています。このサービスは運転手と乗客のマッチングサービスUberやトラックドライバーを運送業者とマッチングさせる「コンボイ・ドライバー」のようなアプリになるとのこと。
そのため、今回リリースされるアプリは商品を販売する店舗とトラックドライバー向けのものとなり、一般ユーザへの提供はありません。
リアルタイムでドライバーへの支払い料金情報を表示させるほか、ピックアップからドロップオフの場所や指示、道筋、トラッキング、支払いのオプションも提供。決済や請求書発行などの面倒な事務処理もアプリ上で完了できる機能も搭載する予定です。このアプリの普及によって第三者の仲介がなくなり、15%ほどの中間業者の手数料を省くことができるようになります。
さらに、自社で取り扱う荷物のみに利用するだけでなく他社にもサービスを提供することで、Amazonは新たな収益源を見込んでいるそう。
類似するサービスとしては、2015年に商品の発送を個人のドライバーに委託する仕組み「Amazon Flex」をスタートさせ、ドライバーは自分の好きな時間を配達時間に充てることができる仕組みを作っています。ドライバーは1日あたり2時間・4時間・8時間の勤務を行うことが可能で、基本的にプライム・ナウ購入された商品を注文から1時間~2時間以内に届けることがメイン。
これには配達の質を保つためにドライバーに対し「中型セダン以上の4ドア車」を使うよう義務付けています。既存の顧客に対して迅速且つ丁寧なサービスを行うために、そして配達の効率化を目指してAmazonの配送にまつわるサービスはさらに進化をしていきます。
次々と打ち出されるAmazonの配達手段
2016年、Amazonは新たなる宅配手段で次々と攻めていきます。8月5日、自社ブランドの貨物航空機「Amazon One」を利用し、輸送業務を開始。米Atlas Air Worldwide Holdings(アトラスエア・ワールドワイド・ホールディングス)と米Air Transport Services Group(エア・トランス ポート・サービス・グループ)から合計40機のBoeing 767-300をリースすることで提携しています。
契約内容については10年間の米ボーイング製の貨物機機体リースと、7年間の運営受託を組み合わせたもので、乗組員、維持管理、保険などの運営に必要なサービスを7年にわたりアトラスが提供。その7年の間にAmazonがノウハウを吸収し、自社での物流に移行していく可能性が高いとみられています。
そして12月7日には、ドローンを使った商品の配達実験を開始しました。すでにDHLが配送ドローンでの実地実験に成功していますが、Amazonは準備に3年ほど費やし、ついにその頭角を現そうとしています。
動画では、顧客が自宅でタブレット端末をタップして商品を注文。その後Amazonの配送センターでドローンに商品が格納され、台車に乗ったドローンが専用の離陸スペースに移動し、そこから勢いよく飛び立ちます。ドローンはGPS(衛星利用測位システム)を使って飛行し、顧客宅の庭にある目印地点に着陸、と、ここまでに要した時間は13分ほど。同機体を利用し、今後はロンドンから100㎞ほど離れたドローン実験施設があるケンブリッジの近くに住む2世帯も対象に加え実験を行い、規模を拡大していく予定です。
米国では商用としてドローンを運用するには多くの規制をクリアしなくてはなりません。
飛行高度は地表から400フィート(122m)以下、400フィート以上の高さがある構造物の付近は飛行禁止となり、ドローンはこのような構造物の400フィート以内に近づくことができません。
またドローン飛行に直接関係のない人の上を飛ぶことも禁止とされ、速度は100マイル(約160㎞)以下にしなくてはならず、飛行時間帯も日の出30分前から日の入り後30分と細かく制限されています。
やっと目前まで来たドローンでの配達。
それどころか、Amazonは商品を飛行船に積み込み、空中からドローンで数分以内に注文者へ届ける「飛行船」とこのドローンを組み合わせた「最速配達」を構想していると言います。
空を大々的に利用してコストを大幅カット
なるべく低コストで、より迅速に多くの荷物を届けるにはどうすればいいか—。常に頭を捻っている同社が行き着いた先は1930年代に米国で小型戦闘機を飛行船に積み込んで燃料を節約するという、「飛行空母」をベースとしたアイデア。
すでにアメリカ特許商標庁(USPTO)に、この新たな配送システムの特許を出願、取得済みだと言います。
具体的には「配達用の無人航空機を利用した空中保管センター」として2014年12月に申請されていたもので、アメリカの特許第9305280号として2016年4月にすでに発行されています。イメージは空飛ぶ倉庫。Amazonが申請した書類によれば、飛行船は高度13.7㎞付近を飛行する計画なのだとか。旅客機の巡航高度10㎞なので、一定の十分な距離が保たれます。
Amazonはこの配送システムの一例として、スポーツのイベントを挙げています。しかし、ドローン自体は高度が決まっており、人口が密集した中でどのように配送が行われるのか、安全性やドローンが到着するスペースの確保など、まだまだ先行きは不透明。
2017年は配送だけでなく、空の歴史も大きく変わるかもしれません。
Amazonはラストワンマイルをも解決できるのか
配送業者にとって、最後の配送拠点から顧客宅までの「ラストワンマイル」が目の前の一番大きな課題。荷物の受け取りには当たり前のように再配達が可能になっているため、利用者にとって非常に利便性は高くありますが、負担は全て配送業者が被っています。人手不足も重なり、これ以上荷物が増えると配送業者もパンクしてしまうかもしれません。
Amazonの物流業界参入は、効率化と共に新しい物流の未来を切り開く道しるべとなるのではないでしょうか。ありとあらゆる可能性に対し突き進み、実現しようとしているAmazon。物流業界の変化をさらに押し進め、その構造自体も大きく変えてしまうことになるかもしれませんね。