全国でもトップの運転代行業者数を誇る沖縄県。運転代行業は、飲酒運転根絶にも大きな役割を担う社会貢献度の高いビジネスですが、無許可や無保険などの問題を抱え、ユーザーが安全かつ安心に利用できるとは言い難い状態です。
山積する問題を解決し、運転代行業を利便性の高いインフラに変えたいという目標を掲げ、運転代行業界全体の課題解決するサービスを展開するAlpaca.Labの棚原さまに、起業のきっかけからサービスが誕生するまでお話いただきました。
インタビュイー
株式会社Alpaca.Lab 代表取締役 棚原 生磨(たなはら いくま)さま
長く愛される企業になるために〜Alpaca.Labはこうして誕生した
--まずは簡単に自己紹介をお願いします。
私自身はもともと沖縄生まれ。石川や埼玉など各地を転々として、5年前に沖縄に帰ってきました。大学では教育工学を先行し、人間の頭の中身などを研究する人工知能系の研究室に在籍。ここが現在の事業や私の出発点だった気がします。その後、学校教育市場のITコンサルを経験し、沖縄県の組織(公益財団法人沖縄科学技術振興センター)に所属しました。産学連事業の担当として30ほどのプロジェクトに関わる中で、一番面白く、なおかつ沖縄で起業したらスケールできると考えたプロジェクトを主体にして会社を立上げました。それがAlpaca.Lab(アルパカラボ)です。
--沖縄へ戻ってから起業をされたんですね。
沖縄に戻ってから沖縄県の外郭団体に勤めましたが、そこで「大学の先生が持っている技術を世の中に出したら面白く、様々な問題解決に資するはずだ」と思って起業しました。現在は、10名ほどが在籍し、公益財団法人全国運転代行協会と連携した事業を展開しています。
--まさに「スタートアップ」というイメージですね。
私自身は研究開発よりの考え方をするので、スタートアップの社長らしくありませんが…。今は代行業者に焦点をあて、社会的課題として捉えた時にどのような解決手段があるかを考えています。
直近ではXtechVentures様やすこやかHD様、琉球銀行様、沖縄振興開発金融公庫様などに出資いただき、運転代行業者の課題解決に取り組んでいます。
―次に会社についてお伺いします。Alpaca.Labという社名の由来は?
長く愛される会社でありたいこと、人間に有用な存在でありたいこと、この2つの共通項を探したら、アルパカに辿りつきました。それが由来です。
長く愛される会社とは何か。それって、「愛される=かわいい」ことなんじゃないか。可愛いは普遍的かつ世界の共通言語です。それはつまり、愛らしい姿で癒しを与えてくれる動物のことだと、考えを広げていきました。そこからさらに、人の役に立つ動物とは? と自分に疑問を投げかけ、もっとも人間に貢献してくれる動物について考えを巡らせました。そうだ、アルパカだ。アルパカは毛の単価が非常に高く、排泄物は燃料になるし、お肉はすべて食べることができる。また、リーマンショック前までは投資の対象にもなっていたうえ、最近ではコロナウイルスに対する抗体を持っているとも言われています。まさに、貢献度が高い動物なのです。
沖縄に代行サービスが多いワケ
―キャッチーな発想で面白いですね。事業内容について簡単にお教えください。
運転代行業向けに、AIを用いたマッチングプラットフォームサービスを提供しています。まずは沖縄から展開し、利用可能なエリアを全国に拡大していく予定です。
―私の妻の母親が鹿児島県の沖永良部出身で、同地へ訪れた際に代行を利用しました。
離島にも必ず1社は代行業がいるんですよね。
―飲食店の他にも、沖縄や鹿児島、南方の地域では自宅に人を招いてお酒を伴う食事をする機会が多いですよね。私も飲んだ帰りに代行を利用して帰宅しました。そういう利用は日常茶飯事だとか。ちなみに、沖縄には運転代行業者は何社ほどあるのでしょうか?
沖縄は全国最多で737業者いまして、他県に比べて沖縄が突出して多いです。
―他の県と比較して沖縄だけが突出しているのはなぜでしょうか?
推測になるのですが、考えられる理由は3つです。1つは飲む文化があること。2つ目は電車やバスなどの公共交通が発達していないこと。3つ目が個人的には重要なファクターですが、代行を業として良いとするブルーカラー層、いわゆる低所得者が多いこと。代行業数TOP5の自治体を見るとこれらが理由ではないかと。
―運転免許さえあれば始めることができますしね。
そうですね、2万円程度ほど支払えば誰でも開業できる手軽さが人気の理由の一つです。沖縄は他県と比較して業者数の分裂が極端に進んでいる点が特徴的です。
―企業数のみで見ると、沖縄は市場規模もそれなりに大きいですし、経済もまわっています。そこで、沖縄は少し特殊な経済圏だし、そこで働いている方々はそれなりに幸せであるという見方もあるかと思いますが、ソーシャルインパクトとして捉えたときにどのような課題がありますか?
代行は沖縄の都市部以外で当たり前のように利用されているサービスです。ただ、利用者目線では多くの課題があり、その中でもよく言われているのが「料金設定が不明瞭で、支払額が適正なのかわからない」「本当に安心・安全なのか」ということ。また、代行業者を呼ぶ手段は基本的に電話ですが、繋がりにくい上に、呼べたとしても到着までに30分から2時間かかることもあります。
私たちはこれらの課題を解決するために、どこに問題の核心部があるのかを調査しました。そこでわかったのが「5分の4の課題」。実は5台の代行業者を呼んだ場合、そのうち4台が不適切な運用になっていたのです。
代行をもっと便利に、もっと安全に提供したい
―そもそも法令遵守されていない業者がいるということですね。
私たちが実施した全国的調査でも同じ傾向が出ました。
これは沖縄の事例ですが、12台中8台が表示義務違反、5台が無保険、さらに2台は無許可でした。しかも、代行協会は8割以上の業者が不適切な運用・運行を強いられているという結果を認識していたと言います。実害が出てからでは遅いので、この中でもっともリスクの大きい「無保険」をまずは解決すべきだと考えました。無保険だと、万が一交通事故が起きた場合に時にお客さんの責任になるという判決が2005年に出ています。つまり、利用者は何も知らないまま無保険の車に乗っているというのが現状になります。
不便なものをITの力で便利で効率の良いものに変えることはできますが、実は見えない不便も数多くありますので、それらもすべて汲み取りながら解決していかなくてはなりません。
無保険の問題については当然、不適切な運営をしている事業者に責任がありますが、その背景には、非効率な業務形態で利益が上げづらい、過度な価格競争が起きて事業者が儲からないという根本的な問題がある。そうした状況下で「正しく運営すべきだ」というのはなかなか酷なことですが、課題を解決して利用者にとって便利で安心なサービスを提供するには、事業者の運営体制を整えなくてはなりません。それが彼らの利益を上げることにもなります。ただ、利益を上げるには効率よく運営する必要がありますので、その部分を私たちはエアクルというサービスで解決しようとしています。
まずは代行業者に「適正な営業で利益を向上させられる」プラットフォームサービスを提供することで、しっかり利益を上げてもらう。それによって利用者は代行が利用しやすくなるし、無保険というペインも解決する。私たちはそのサイクルを築くことを目標としています。
―AIRCLE(エアクル)はどのようなサービスですか?
簡単に説明すると、DiDiやJAPAN TAXIといったタクシーアプリの運転代行版だと思っていただければわかりやすいでしょうか。飲食店や個人ユーザーから配車依頼を受け、エアクルが各代行業者の車の位置を特定しながらマッチングしていきます。ただ、タクシー配車アプリと違う点として、代行ドライバーのスキルセットと個人ユーザの車の特徴が一致する必要があります。
また、一方で私たちはマッチング以外にも、運転代行業者が適切に車両を運行するために必要な機能を搭載した、経営者向けの業務管理システムを開発しています。これは、日々の運行管理簿チェック、日報のつけ方やドライバーの管理、保険の管理などが抜け漏れなく行えるものです。将来的には会計や勤怠も自動化できる仕組みを搭載し、運転代行業版で会計ソフトfreeeのようなシステムに進化させようと考えています。これもまた、タクシー配車アプリとは違う点になると思われます。
>>>後編へ続く