都心部に集中する人口
東京都の人口密度は47都道府県でも群を抜いてトップの1㎢あたりおよそ6355人、2位の大阪は4631人と大きく数字に開きがあります。また、最下位の北海道がおよそ67人であるのと比較するとその差は歴然だと言えるでしょう。そして、2018年における都道府県間移動者数253万5601人で、転入者が転出者よりも多い県は8つありますが、もっとも多い東京圏は13万9,868人の転入超過で、前年に比べ1万4,338人も拡大しています。しかし、これはあくまでも東京に住んでいる人の人口を示したものであり、学校や買い物、仕事などを理由に平日昼間、東京へ流入する人口は含まれていません。日中の移動者数を踏まえると、東京の人口は15,920,405人となり、常住人口は 13,515,271 人、昼夜間人口比率は 117.8です。
これらの数字は、いかに、東京に人口が一極集中しているかを明確に表していますが、人口が集中しすぎていることで公共交通機関やスーパーなどでは三密が避けにくく、今回のような新型コロナウイルス感染症をはじめ、災害時のリスクが大きくなることが懸念されています。3月26日に小池都知事が「感染拡大の重要局面である」と唱え、外出自粛を呼びかけました。しかしその後、東京都では感染者が右肩上がりに増え続け、ついには100人を超過。さらに4月17日には感染者数が200人を超えるなど、連日100人〜200人を推移しています。東京都の発表によると、東京都の人口総数は2020年1月時点で13,951,636人、そのうち4月23日時点での累計感染者数は3,572人でした。
感染者数が急激に伸びているのも、この人口の一極集中が一因だと考えられるでしょう。
コロナ危機が訪れる以前の2019年9月、内閣官房国土強靭化推進室から戦略的政策課題「東京一極集中リスクとその対応」についてという資料が発表されており、災害時にどのようなリスクが想定されるかが明記されていました。
コロナの前に懸念されていた「東京一極集中における災害時のリスク」
資料の中では、東京一極集中における災害時のリスクを①人口や資産の集中によるリスク、②首都中枢機能への影響としてのリスク、③地域・地盤の脆弱性によるリスクの3つで分類し、起きてはならない最悪の事態との関係性を明記しています。中でも今回の新型コロナウイルス感染拡大によるリスクに該当するものとして、次の項目があげられます。
・人口集中地帯の被災により、救急・救助活動に大量の人員が必要となるため、人員・物資が不足するリスクがある。また、医師、看護師、医薬 品等が不足し、十分な診療ができない可能性がある。
【被害想定】 対応が難しくなる入院患者数:約1万3,000人
・東京証券取引所等における証券取引については、大規模な災害発生等の社会情勢、情報が錯そうする中での流動性や価格形成の公正性・信頼性、証券会社等が被災した場合の市場参加者に対する機会の平等の確保等の観点から、一時的な取引停止が想定される。
・インターネットや海外等を中心に、被災情報や証券市場等に対する風評が流布され、市場の不安心理が増幅するおそれがある。
・東京には大企業の本社等の拠点や海外の企業が集中しており、生産活動の低下や海外貿易の滞りが長期に渡った場合、調達先の海外への 切り替えや生産機能の国外移転など、我が国の国際競争力の不可逆的な低下を招く可能性がある。
・また、このような事象から日本経済・日本企業に対する信頼が低下した場合、日本市場からの撤退や海外からの資金調達コストの増大、株価 や金利・為替の変動等に波及する可能性がある
これらはほんの一部であり、もともと大規模地震や津波、台風などの自然災害を想定してあげられたものです。とはいえ、現在の都心部一極集中化によって、これら一部のリスクが現実になることが懸念されます。新型コロナウイルスの蔓延は2020年に入るまで想定されていなかった“災害”です。被害が広がる中、今後改めて一極集中によるリスクを考慮したアフターコロナ後のまちづくりが問われるのではないでしょうか。
アフターコロナ時代の重要なキーワード「開疎化」
現在に至るまで、経済の高度化や効率化を求めて東京という都市が形成されてきました。しかし、新型コロナだけでなく、今後、別のウイルス感染や大規模な自然災害が起こり得ることを考慮すると、一極集中ではなく、地方も都心と同じように人が暮らし、経済を発展させるための基盤づくりが必要だと考えられます。
これをわかりやすく表現する言葉として、「シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成」の著者である安宅和人さんは、“開疎化”という言葉を広めています。そして、今まで都心のように密閉され、ヒトや企業、情報が密になっていた状況とは真逆の考えとして、開放(open)×疎(sparse)の開疎化に向かうだろうと述べています。一極集中によって効率よく快適だとされていた空間から、非接触でヒトがあまり動かず、モノが物理的に動く社会へという概念を体現する開疎化。新型コロナウイルス蔓延の影響で、人々は改めて地方の価値と自分の生活を見直すようになるかもしれません。
開疎化は何をどう変える
・距離の概念が変わる
専門家から、当面の間は落ち着くことがないと言われている新型コロナウイルス。私たちは完全に0の状態になるまでコロナとともに生活を続けていかねばなりません。感染防止のために人と人との距離をとる「ソーシャルディスタンス」が呼びかけられていますが、この状態が続き、距離をとることが日常化することで今後、人と人との距離感や接し方は大きく変わっていくかもしれません。
外出・イベント自粛中の現在でも、オンラインライブやオンラインイベントが実施されているように、オンラインツールの性能が向上したことによって、たとえ距離が離れていても人と人がつながる環境が整えられてきました。今後はさらに高度なオンラインツールやプラットフォームが登場し、誰が、どこにいても気軽につながるのが当たり前となり、仕事でもオンラインでの商談、打ち合わせが一般的になる−−−そうなれば、「都心でなければビジネスができない」「東京で働きたい」という考えから一変、「家賃の安い地方で暮らし、東京で働いていた以上に稼ぐ」という人も増え、土地への集中が解放へと向かうかもしれません。
・オンラインサービスの拡充と充実で都心も地方も生活が変わらなくなる
最近では、オンラインスーパーの利用者も増え、買い物と決済が完了した商品を自宅まで届けてくれるサービスも増加しました。これを利用すれば、地方に住んでいても買い物に困る心配はありません。また、ゲームやスポーツなど、誰でも簡単にオンラインで参加できるようになれば、人を集める目的で地方に多額の資金をかけ、地方に多額の娯楽施設を建設する必要も無くなるのではないでしょうか。
・オフィスのあり方や働き方が変わる
すでにテレワークを実施している人もいますが、テレワークによって業務が通常通り進行できることが証明できれば、オフィスで仕事をすべきだという概念が180度変わり、必要最低限のみ出社というスタイルが生まれるかもしれません。オンライン会議システムや、メンバーとの連携を円滑にするオフィスツール、コミュニケーションツールなどが普及することで、将来的にはオフィスを持たない会社が次々と誕生する可能性も考えられるでしょう。
アフターコロナ、withコロナ、そして未来のまち
開疎化に向けてまちづくりを行うには、リスクへの対応をどうすべきか、社会のコアシステムをどのように刷新すべきか、インフラ機能、お金、ルールづくりをどのように検討していくべきかなど、安宅さんは5つの課題領域を掲げています。さまざまな要因が重なり合うため、早々に解決することは難しいかもしれません。データを活用してこれらの現状を把握し、評価し、仕掛けてさらに評価し、ブラッシュアップしていく…そうすることで、開疎化されたまちづくりが実現できるのではないかと考えています。
人の分散はリスクを分散することにもなります。今回のコロナ危機を起点に、人々の価値が変容し、すべてのものが都市だけ集中するのではなく、さまざまな地域へ分散し、真の開疎化が進んでいくのではないでしょうか。